寛治、責任の重さに悩んで。
おはようございます。今日も行きます。小町翔平です。
こないだは大雨で、今日は猛暑になるみたいで、
天候の変化に体調を崩さないように、
お互い気をつけたいですね。
では、どうぞ。
「反対派は非難して、賛成派は拍手。そして沈黙。あたしたちは怒りを面に出さない分、簡単には和解もできないの。それぞれ思うところがあるだろうから、時間を持とう。我々が我々を誇らしく思えるにはいったいどんな選択をすべきか、よく考えよう。そう族長が言って、あたしはまた軟禁。で、時間が過ぎて、再びの話し合いの場で、反対派は簡単には折れなかったらしいけど、族長の決断で、あたしはカンジと逢えたの」
言葉より先に、ため息が出た。
本よりもっと劇的だ。
「じゃあ、春に逢えなかったのも」
「反対派と賛成派が話し合ってたからよ」
「待ってけろ。じゃあ今、逢えてるのは、結論が出たってことげ?」
「ううん。結論を出す最終段階。カンジの答えによって、扉を閉ざすか、開くか、決めるの」
「そったな重要なこと、おらに言ってもいいのげ」
「大丈夫。みんな精霊を通して、聞いてるから。そして結論を出すから」
それからりっちゃんはおらの知らない言葉でなんとかとつぶやいた。
今までおらには一度も見せたことのない真剣な眼差しで誰かと、おそらくエルフの反対派の人たちと話をしているのだろう。
おらはただ見ているしかなかった。
まずいこと言ってねえべなと、心配をした。
心臓が口から出るかと思っただ。
こんなときに人間というのは時間の感覚が狂う。
だからとても長く感じられた短い時間だったのか、とても長く感じたとおりに長い時間だったのかは、判断がつかない。
おらの知らない言葉で話し続けたりっちゃんの口角が、少し、上がった。
深呼吸をしたりっちゃんは、おらの手を掴んで言っただ。
「あたしたちエルフが人間とかかわりを持つのは、時期尚早。でも、あたしがカンジと逢うのは、逢って新しい交友関係を築くのは良しとする、だって」
「本当げ」
「うん。族長様がそう言ったの。反対派の人たちも態度を軟化させて、人間すべてを許すことはまだできないが、カンジのような人間となら、また若い世代のエルフであるリーファであるなら、リーファってあたしね、新しい絆を結べるんじゃなないかって。でもカンジが、また現代の人間たちもがエルフを傷つけるのなら、信頼を裏切るのなら、そのときこそ我々エルフは、怒りの鉄槌を下すって」
「待ってけろ。おらそんな立派な人間でねえし、人間全体の代表みたいな立場になんて、とてもじゃねえけど立てねえだよ」
「大丈夫よ。難しく考えないで、カンジは今まで通り、カンジらしくしてればいいの」
そうは言われても、と責任の重さにおらが悩んでいると、
「誰か来るわ」
とつぶやいてりっちゃんは身を隠した。
あたりを見回しても、誰もなんにも見当たらなかったが、しばらくして、歩いてくる大人をひとり、目視した。
その人は真っ直ぐおらに向かって歩いてきた。
だいちゃんのおっ父だった。
なあんだ。
おらは思った。
薪を集めに来たのだと、だいちゃんのおっ父は言った。
「おらは木登りの練習をしてただ」
偉いねえ、努力家だ。
そうやって努力した人を、しろへび様はちゃんと見てくださっているから、これからも努力を続けるんだよ。
そう、ところで寛治君、
「今、誰かと話していなかったかい?」
とだいちゃんのおっ父は笑った。
「え、いんやあ、ひとりだ」
おらは取り繕った。
「そうかい。木登りの練習をしながら、独り言を言っていたのかい?」
「うんだ」
余計なことを言ってぼろを出さないように、ただ肯いただ。
でも、だいちゃんのおっ父は、追及してきた。
「こないだも御神木の前で手を合わせながら、独り言、言ってなかったかい?」
「うん、言った。しろへび様のお声を聴きたいだって、ぶつぶつ言っただ。聞かれてただか? 恥ずかしいだな」
おらの笑いは多少ひきつってはいたのかもしれないが、精一杯の誤魔化しだった。
「鈴は寛治君のしろへび様の話が好きだから、またしろへび様に逢えたら、話してやってくれるかい?」
「もちろんだ」
おらがそう言うと、だいちゃんのおっ父は、昼になる前には家に帰りたいから、薪拾いをしに行くよ、木登り、頑張ってな、と手を振って森の深くに入っていった。
おらは背中を見送った。
背中が小さくなってから、おらはりっちゃんに小声で話しかけた。
でも返事はなかった。
しばらく立っていても、暇つぶしに木登りの練習をしても、りっちゃんは姿を消したままだった。
あきらめておらは帰ることにした。
帰りしな、御神木に手を合わせた。
この木の向こうにはりっちゃんたちの世界があって、人間を嫌っている人たちも、おらを見て態度を軟化させてくれたとりっちゃんは言った。
何に対してかはよくわからなかったが、おらは心の中で、ありがとうって言っただ。
かくれんぼの子どもらは、まだかくれんぼを続けていた。
鬼が何回変わったのかまでは知らないが、心から楽しんでいる子どもらを見るのは、なんだか気持ちのいいものではあった。
次に会う約束はできはしなかったけど、きっと近いうちにまた逢えると、なんならまた明日にでも逢えると、おらは信じて疑わなかっただ。
あ、髪飾り、渡すの忘れた。
帰り道で気がついて、おらは空を見上げた。
春にしては暖かすぎる太陽が、燦々と照っていた。
寛治の純粋さが、エルフを動かしました。
これからどうなるのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
もしもしていただけるのなら、期待に応えられるように頑張ります。
よろしくです。では、また。




