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久澄村エルフ奇譚   作者: 小町 翔平
14/39

ある男、踏み入りて。

噂、つまり、ほぼでたらめ。

そんな話が広がるのって、けっこう怖くないですか?

ましてや信じる人がいるのだから。


では、どうぞ。

                   *


 男が最初に耳にしたときは、


「しろへび様の使いの子どもに、みんなお菓子とか駄賃程度のお金とか、持っていってっペ。でもそれよりも野菜とか米とか、なんか別のもののほうがいいんでねえべか。もっと高価なものにしたほうがいいんでねえべか」

「確かに、しろへび様の話を聞いて、菓子や駄賃じゃ、ご利益なさそうな気もすんなあ」

「久澄村神社にはみんなこぞってお供え物するのに、使いの子どもにはそれだけじゃあなあ」

「おら今度行くときには、猪肉でも、持っていってみっかなあ」

「おお、奮発するなあ。でも、足、さすらせてもらって、手を合わせたら、万病が治るなんていうばあ様もいるくらいだからなあ」

「ばあ様が言うことだから大袈裟だって思うか、ばあ様が言うんだから信ぴょう性があるって思うか」

「おら噂で、使いの子どもの足さすった手を目に当てたら、ろくすっぽ見えなかった目が見えるようになったって話、聞いたこと、あるだ」

「おらもある。使いの子どもに膝さすってもらったら、杖いらなくなったってじい様もいたらしいぞ」

「本当げ」

「噂だけどな」

「おら、猪肉は無理でも、別の高価なもの、持ってってみっかなあ」

「そうしたほうがいいんでねえが。おらも、猪肉は言い過ぎでも、なんか高価なもの、持っていってみるわ」


 といったものだった。それが次には、


「しろへび様の使いの子どもには、お菓子とお駄賃のほかに、肉だの野菜だの、持って行ったほうが、ご利益があるらしいぞ」


 に変わっていた。

 あっという間に話が膨らんでいた。

 だから男は、また次の機会に


「知ってっか? 聞いた話なんだけど、しろへび様の使いの子どものおっ父が、お菓子や駄賃は子どもがよろこぶけど、肉とか野菜のほうがいいなあって言ってたらしいだ」


 と酒を飲みながら、芝居じみないように、言った。

 この話にどう尾ひれがつくか。

 男は無性に可笑しくなった。

 そっと店を出て、人気のないほうへと歩いていった。


 真田の家に人が集まって、金だとか何だとか貢ぎ物をもらいやがって。

 なんだよ、あいつらばっかり。

 面白くねえ。

 けど。面白くなりそうだ。


 男は笑いをかみ殺した。


「でも、それで心が満たされるわけではないでしょう?」


 隣にいる泣き黒子の男が言った。

 この男はなんて人の心を見透かすような物言いを、目を、するんだ。

 男は思った。

 でも、もう怖じ気がつくことはなかった。

 泣き黒子の男の言った通りにすると、いいことがある。

 それはもう証明されている。

 事情聴取に来た警察たちは男を疑っているようだったが、泣き黒子の男の助言に従うともう来なくなったのだ。


 泣き黒子の男は子どもの草履を縦に並べたくらいの長さの木製の棒を懐から出した。

 男はそれを受け取った。

 金を払おうとすると、代わりに血をくれと言われて怪訝に思ったが、少量だけだと、知り合いの医者が実験に使うのだと言われて、それならばと少量だけ注射器で血を抜き取らせてやった。

 血を小さなガラスの瓶に入れて、泣き黒子の男は一瞬だけ、目を細めてにやりとした。

 だが、柄に彫られた文様の美しさと、先端部分の目玉の像の精巧さに感心していて、男はそれに気づかなかった。

 酔った頭でうんちくを聞いて、よくわかったようなつもりになって、男は嬉しそうに懐に仕舞った。 餌を求めて下りてきた一匹の狸が、一目散に山の中に逃げ帰っていった。


血を採るシーンがありますが、物語には

直接の関係はありません。なんの伏線でもないです。

思わせぶりで誤解なさった方、すみません。

今日はもう一話、投稿します。


では、また。

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