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よあけまえのキミへ  作者: 三咲ゆま
二章 陸援隊編
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第九十四話 その後の私たち(二章完結)

 朝が来た。心地よくさえずる鳥の声に起こされて、私は目を覚ました。

 布団の中には私一人。

 昨夜は先輩と抱き合って寝たんだけどな。先に起きちゃったのか……。

 布団の中で恋仲らしい言葉を交わしたかったと、少し残念に思いながら体を起こす。


「ふう……」


 自分の布団と、ついでに先輩の布団もたたんで部屋の隅に置く。

 そろそろ朝餉の時間かな。顔を洗いに行こうっと。


 障子を開けて廊下に出ると、奥の部屋からばたばたと潮くんが走ってきた。


「みこ姉ちゃん、おはよー!!」


「潮くん、おはよう! あちこち怪我してない? 大丈夫?」


「うん、平気。これから顔洗いにいこうと思って」


「そうなの? 私もだから、一緒に行こうか」


「うん!」


 二人肩を並べて、屋敷の外に出る。朝の空気はひんやりとしていて、爽やかに目を覚ましてくれる。

 井戸水で顔を洗うと、シャッキリと頭の中が整った。うん、今日も一日頑張れそう!


 隣で静かに顔を洗う潮くんは、心なしかいつもより落ち着いている。

 昨夜の事もあって、やはりまだ気持ちの整理がつかないのかな。


「潮くん、りくのことだけど……」


「うん、それなら大丈夫。敵対した時点でこうなる事は覚悟してたから」


「そうなんだ……でも辛いよね。悲しくなったらいつでも言って。私でよかったら話聞くから」


 喋りながら、ぎゅっと小さな体を抱きしめる。

 りくの最期を思えば、なんだか私の方が泣きそうになって、ぐすりと鼻をすする。


「矢生の最期の言葉が意外でさ、なんかちょっと、りく姉ちゃんが報われた気がしたんだ。だから、思ったよりきつくないよ」


「そっか……そうだね。それは私も思った」


 矢生とりくの関係がどんなものだったのかは、未だに分からない部分だ。

 だけれど、二人の最期は心中という思わぬ形で幕を閉じた。互いに思い合う部分が少なからずあったと、思わせられる結末だった。


「だからさ、前を向いて進んでいこうと思う! 中岡さんがさ、奉公先を探してくれるって!」


「そうなの? 潮くん、働くんだ!」


「うん。これからはまっとうに生きてみようかなって。ぼくこう見えて頭いいから、なんでもできちゃうって!」


 にっと笑ってみせる潮くんは、どうやらいろいろ吹っ切れたようで、清々しい顔をしている。

 まだ小さいのに偉いな。私も見習わなきゃ。



 二人して屋敷に戻ると、田中先輩が出迎えてくれた。


「二人とも顔洗ったか! メシにすんぞぉ!」


 そうして案内されたのは、大橋さんのお部屋だった。

 部屋の中には、既に大橋さんと中岡隊長が座っている。


「天野、潮くん、おはよう」


「二人とも、おはようございます」


 隊長と大橋さんは、にこやかに迎えてくれる。

 二人の前にはおなじみの陸援隊弁当と、隊長の手作りらしい煮物と焼き魚、大橋さんが用意したお菓子が並べてある。

 呼ばれるがままに大橋さんの隣に座れば、葉月ちゃんも間近に丸くなっていた。かわいいなぁ。


「ぼく、みこ姉ちゃんのとなりー!」


 と、潮君が私にくっつこうとしたところを、田中先輩が背後からひっぺがす。


「おおっと、悪ぃながきんちょ。コイツの隣はオレ様の特等席だ」


 そう言って、先輩は私の隣にどっしりと腰をおろす。


「やだー! やだよー!! 男に挟まれるのはいやだー!!」


「潮くん、いいじゃないか。ほら、今朝の鮭はよく焼けたぞ。食え」


 ぐずる潮くんのごはんの上に、隊長が鮭の切り身を乗せてあげると、潮くんはしぶしぶそれを頬張った。


「あ、めちゃくちゃおいしい!」


「だろ? ほら、煮物も食え」


「わーい! 中岡さん、料理上手ー! 日本一ー!!」


 煮物と鮭をおかずにばくばくとごはんをかきこみながら、潮君は隊長を褒めちぎる。コロコロと表情が変わる子だなぁ。

 皆はそんな様子を和やかに見守りながら、それぞれ弁当箱の蓋を開ける。


「ほれミコ、ちゃんと肉食えよ。いざって時に馬力が出るからよぉ」


「はいっ! たくさん食べますね!」


 先輩が用意してくれたおかずを弁当箱にどっさりと盛る。ここに来て初めて牛のお肉を食べたけれど、結構おいしいのだ。


「ん……そういえば、田中くんは天野さんのことを下の名で呼ぶようになったのですね」


 何気なく大橋さんが呟くと、潮くんや隊長の目の色が変わった。


「大橋くん、隊士から聞いていないのか? その二人、昨夜いろいろあったようだぞ」


「みこ姉ちゃんが、ケン兄に告白したんだって」


 二人とも、なんで知ってるの!!?

 私はうろたえて俯くことしかできないし、隣の先輩はゴホゴホとむせ返っている。


「なるほど、そのようなことが……。しかし、お二人が思いあっていることは隊士全員が知るところだったはず」


「そうだな。どこからどう見てもそうとしか見えなかったからな。いい頃合いじゃないか。おめでとう」


 ぱちぱちと隊長が拍手を送ると、つられて両隣の大橋さんと潮くんも拍手をくれる。

 うう、なんなんだろうこの状況。恥ずかしいなぁ……。


「なんつうかまぁ、そういうことっす。こいつのことは大切にするんすけど、その……当分神楽木さんには黙っといてもらえませんか?」


 かしこまった様子で正座し、先輩がそう言葉を搾り出すと、皆がそうすべきだろうと頷いた。


「それはそうだな。神楽木殿へはもう少し時間を置いた方がいいだろう。俺たちから口外することはないから安心してくれ」


「そうしてくれると助かるっす。今報告に行ったらブン殴られそうでなァ……オレ、もっと立派になれるよう頑張るんで今後ともよろしくお願いします」


 先輩は、背筋を正して中岡隊長に向かって頭を下げた。

 初めて見たかもしれない。この二人が上司と部下として接する姿を。


「うむ。互いに励もうじゃないか。――それとな、天野の今後の事なんだが」


 隊長はふとこちらに視線を向け、話をはじめる。何事だろう?


「矢生一派を討ったはいいが、残党についてはまだ確認がとれていないし、関係者が今後動く可能性もある。そういうわけで、お前のことは今しばらく陸援隊で預かることになった。昨夜、神楽木殿と話し合って決めたことだ」


「はいっ! 分かりました。引き続きお世話になります!」


 よかった。せっかく先輩と恋仲になれたんだし、もう少し陸援隊にいたいなと思っていたところだ。

 隊のために私にできることは少ないけれど、今後もできることを頑張っていこう!



 皆でわいわいと朝餉を食べ終わったあとは、田中先輩とゆっくり紅葉見物に行くことになった。

 これまで忙しく過ごしてきたからと、中岡隊長が休暇をくれたのだ。

 朝の訓練を終えて、身だしなみを整えた先輩と共に、ゆっくりと秋の道を歩く。


「こんなにゆっくりできんのは、久しぶりだなァ」


「そうですよね。先輩とこうして一緒にいられるだけで、すごく嬉しいです」


「オレもだ。今日はおめぇのこと、独り占めできるな」


 隣を歩く先輩は、ぐっと体を寄せてきて、手をつなぐ。

 大きな手に包まれて、きゅんと胸の奥が切なくなる。


「せんぱい、大好きです」


「オレも、大好きだ。今日も一日、たくさん笑わせてやるからな!」


「はいっ!!」


 そよそよと、心地のいい秋風が吹き抜けていく。

 灼けるような胸の奥が、紅葉のように色づいていく。

 じわじわと、彼の色に染まっていく、私の初恋。

 何があろうと、どこまでも先輩についていく。

 そんな覚悟と決意を持って、私は長い長い道のりを歩いていく。


 これは私と先輩の、夜明け前のほんのひとときの物語。

 いつか見渡す景色に光が差して、朝日の中で笑いあえたら。

 もう一度あなたに、この気持ちを伝えよう。

 出口のない闇に光をくれた、よあけまえのキミへ。

完結までお読みくださりありがとうございます!

拙い文章ですが、精一杯書きました。

続きの構想があったので未完結の状態にしておりましたが、ここで一旦完結とさせていただきます。

また何らかの形でこの物語を動かしていきたいと思いますので、その時はよろしくお願いいたします!

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