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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
2. Fate to disappear
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Lingering sound




 曖昧な感情に痛む胸を抑えこんで、母禮はエレベーターに掛け込む。今度こそ24階に着いては真っ先に土方の元を尋ね、インターフォンを押せば土方はすぐに出てきた。



「よう、生きてたか」



 実際土方も母禮が連れ去られたと報告された時に一瞬焦ったが、斎藤や比企の様に母禮が重傷を負って帰ってくる事はないだろうとは思ってはいた。


 決してそれは信頼などではないが、それでも尚土方は母禮をこう思っているからこそ、そこまでこの事態を危惧しなかった。その土方の胸中を母禮が代弁した。



「ああ、無論。おれは早々死ぬような安い女ではないからな」


「よく言うぜ……まぁ、入れ」


「? 報告だけしにきたのだがいいのか?今は特に忙しいだろう?」



 報告を済ませるつもりだった母禮は、その言葉に目を丸くする。


 確かに東京タワーでの出来事を考えれば、新撰組の損害は相当なもの。だがまた向こうが何かを仕掛けるまで、そう猶予がある訳でもない事は母禮は分かっている。


 だが土方はぶっきらぼうに、こう返した。



「忙しい時こそ女がいねぇと、ダメな性格(タチ)なんでな」



 誰でも見抜けるような安い嘘に母禮はくすくすと笑っては中へ入る。


 相変わらず広い部屋なのだが、幾つものテーブルと棚が面積を占めた上に空気は白く淀み、灰皿には大量の煙草の吸殻が押し潰されている。



「ほらよ」


「すまない」



 差し出されたコーヒーの入ったマグカップを受け取っては、テーブルの向かい側に土方が腰掛けては静かに煙草に火を付ける。



「まぁ、無事で何よりだ。……で、どうだったよ?アイツは」


「高杉灯影の事か?」



 そう、忘れかけていたが高杉が新撰組の隊長であったのは事実。だが高杉の口から、残された彼らに対する事など聞かれなかった。


 無論土方はそれに不満などないし、何となく彼の真意をぼんやりと理解もしている。しかし本音を言えば、やはり気になるのに変わりはない。


 しかし母禮と高杉は初対面。土方が2人の関係性を知る事もなければ、興味もないから勝手に話を進めて行く。



「ああ、俺とアイツぁ親友だったからな。今は敵同士になっちまったが、これも仕方がねぇと俺は思ってる」


「新選組を脱退した理由は気にならないのか?」



 その些細な質問に対し、土方は一瞬だけ母禮を見遣るとどこか誇らしげに笑っては呟く。



「気にならねぇよ。何、あの野郎の事だ。どうせ結局はたった1人の人間を救いたくて、国に喧嘩売ってんだろ。相手すんのは最悪だがな」



 やはり土方には分かってはいた。何より彼が親友と口に出すぐらいだからこそ、その関係値も相当だが、それ以上に信頼が勝る。


 だが、土方は少し憂いを覗かせながら、こうも答えた。



「頭も権力も部下を従える能力も、全部アイツの方が上だ。俺1人でなんか追い越せやしねぇよ。でも、アイツ1人に対して俺らだけなら負ける気がしねぇ」



 これもまた事実。確かに高杉が脱退してから、土方が実質上隊長となったが、実は高杉の残した功績に比べれば、土方が残した功績は少ない。


 仲間を守りながらも、民を守り、更には新撰組という組織の地位を格上げしたのは他でもない高杉だ。だが土方はそれを溢さないよう、高杉の残したものを穢さない様に努めただけなのだ。


 だがそれは決して楽な事ではない。土方だけで成せる事ではないし、現に幹部だけでなく隊員も含め、今こうして新撰組がある。


 故に自分達ならば、あの狂った英雄に負ける気はしない――その確かな決意が、とても心強く聞こえる。



「土方さん……」


「殴り込みは3日後だ。これ以上は待たせるワケにもいかねぇし、これ以上待ってたら今度こそ終わりだ。だからテメェも覚悟しな」



 土方の決意に感動する母禮だが、そんな感傷に浸る余裕はないと土方は言う。そして今日高杉と話した内容を知らない土方が、こう確信を突いた。



「今の平和を築いてる自分の世界を選ぶか、アイツの作り出す新しい世界を選ぶか……全てテメェ次第だ。どうする?」


「おれは……」



 母禮は少し答えを躊躇った。


 『大鳥』の人間としては民の平和とこの国の繁栄を選ばなければならない。


 例え『大鳥』の名を捨てても、母禮は自分の今手にしている仲間との時間を捨てたくもないし、守りたいと願う。これが今の『大鳥母禮』のいる世界。


 だが、亡き母は母禮の幸せを願い、殺される十数年前に全ての意思を高杉に託しているのだ。なら高杉の傍で、その願いを見届ける事も出来るのだ。


 そうして見届けるのは、高杉灯影が願った“新しい世界”に他ならない。だが、それでも、母禮が苦難の思いで願ったのは、こんな世界だ。



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