Cross-purposes
「気になりますか?我が頭領は?」
部屋を出て、裏通路からスカイツリーの1階へ向かうエレベーターの中で、ふと根城は母禮に問い掛けた。
高杉灯影という男はどうだったかと。
果たして彼は希望か、それとも狂者か、それとも敬禮と同じく報復を成す者か。
どれも近い様でいて遠い――母禮はそう感じた。だから今彼がどうかと人間性と問い掛けられても、今の母禮には曖昧な返事しか返せないと言うのが現状だ。
何せ高杉灯影という男は、母禮の母である杏子の願いを叶える為だけに、今までを生きてきたのだ。それをどう簡単に実の娘が否定出来ると言うのか。
そして何より報復というのには、似つかわしくない。
本当に誰かを恨んで復讐を成すだけならば、人を惹きつける事などないだろう。
『生命の樹』に所属する人間から、否、もしかしたら新撰組の隊員からも高杉灯影は希望だと讃えられているのかもしれない。
なら彼はあくまで英雄である。
民の為、仲間の為、そして愛した女とその娘の為――それら全ての存在を守るべく正義に狂った英雄
だからこそ、今の母禮に根城の問い掛けに答える事なく、小さく首を横に振った後にこう胸中で呟いた。
(最早、もう1度面と向かって対峙しなければならない……か)
「? 何か?」
「いいや、なんでもない」
胸の内で呟いたはずだが、思わず口に出してしまっていたらしく、根城は一瞬母禮を見遣る。だが否定すれば、それ以降、根城から何かを聞かれる事などなかった。
ただ胸の内の燻りだけを抱え、母禮はスカイツリーを後にした。
◆
「それでは、私はここで失礼致します」
スカイツリーから東武スカイツリーラインに乗り、北千住から暫く地下を通り、都営新宿線付近に出た後、根城は母禮へと頭を下げる。
彼女の纏う気こそ凶獣のそれだが、結局彼女は高杉の命令通り、新撰組の本部とは目と鼻の先まで無事母禮を送り届けた。
そう言った面では、彼女も大量虐殺を起こしたと言えど、まだ理性はあるのだろうと母禮は勝手に納得しては礼を述べる。
「送ってくれてありがとう」
「礼など不要です、これも命令ですので。それでは」
そう言うと長身はそのまま暗闇に溶けていくのだが、いつまでもこう彼女を見送ってなどいられない。
「早く帰らないとね」
あの時、斎藤の警告に反応出来ず怪我を負った上に、連れ去られたのは確かなのだ。恐らく斎藤や比企、アマンテスは心配しているに違いない。
だから足早にマンションに向かい、まずは土方に帰ってきたと報告しようとエレベーターに乗ると24階のボタンを押すが、何故かエレベーターは16階で止まった。
16階でエレベーターが止まった先。ドアを挟んでそこにいたのは斎藤、比企だけでなく南條とアマンテスがいた。
「大鳥さん!?大丈夫だったの!?」
時刻ももう夜遅くながら声を上げる比企に「あ、ああ……」と返事をすれば、南條は「よかった、よかった」と明快な調子で口を挟む。
「向こうの情報も得られた上に、大鳥チャンも無事に戻ってきたし、くわばらくわばら……ねぇ、今度メイドをやってみる気はない?」
「は?」
軽々と暢気な事を口走る南條に斎藤が、一発南條の鳩尾に肘鉄を食らわす。
確かに南條と母禮は初対面な訳だし、一応その存在を話したとは言え、こんな事を言われれば不審者極まりない。だがその横で南條は「痛いじゃないか!」とべそをかく。
「僕は彼女と初見だよ!?折角挨拶しようと思ったのに!」
「……大鳥、こいつが例の情報課の南條都筑だ。それにしても無事に戻ってきてくれてよかった」
あまりにも不謹慎すぎる挨拶とやらを斎藤は見事スルーし、比企もまた苦笑してそれを見送る。
この数時間で色々あったものの、こうして顔見知りの仲間の顔を見ると、安心感が湧く。だからこそ母禮は笑みを浮かべてはこう返す。
「ただいま、斎藤さん」
「それより母禮、奴らに何もされなかったか?」
「へ?」
流石のアマンテスも、母禮の身に起こった事態を聞けば深刻だとは思う。それに射抜かれた箇所は軽く焼けた為、一応手当ては施されている。
故にその手当ての後を見れば、当然心配性な比企などはもう何もなかったのかが気になって仕方がない。だが母禮は違った。
この時アマンテスの言葉で浮かんだのは、高杉にキスをされたあの時の情景。
怪我は負った、だがそれは大した事はなかったし、何よりその後の出来事の方が母禮にとっては大事だったのだ。
思わず赤くなった頬を抑えると、全員は口を開き、示し合わせた様に言葉を重ねた。
「「「「何かあったようだな(ね)……」」」」
決してそれを母禮が口にする事はないのだが、それこそ詮索されたらどうしようもない。だから上ずった声ながらも、こう必死に返した。
「な、何でもないっ!それよりこんな時間だ。おれも早く土方さんに報告して寝たい」
この後、母禮の身に起こった事に対し、詮索する者はどこにもいなかった。ただ比企やアマンテス、南條はただ母禮を優しく見遣り、比企がこう返す。
「そっか、それじゃお休み」
「ああ、おやすみ」
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