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Will I change the Fate?  作者: 織坂一
2. Fate to disappear
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memory-3




 しかし、あの3箇所が霊脈である事は、高杉と影踏含む一部の幹部と構成員しか知らない。今朝この事態を突きつけられるまで、アマンテスでさえ読めなかった。


 なら母禮などに理解は不可能。だから眉を顰めて母禮は復唱する。



「霊脈、だと?」


「知らねーか?京都での大量虐殺の意味を。あれは東京……つまりこのスカイツリーを中心として、莫大な破壊術式を発動させる為にやった事だ」


「……つまり、それ以外に国を救う方法はないと?」



 莫大な破壊術式――これが高杉が考えたこの世の救済方法。


 これで邪魔なものをあらかた壊した後に、また国を一から立て直す。


 酷く単純で明快な図式だが、それは決して讃えられるものではない。何せまた一から全てを生み出すなど、人類の文明は古代まで退化する。


 何より母禮は、その暴力で片付けられる方法が気に食わなかった。だから自然と重く、ささくれ立った様な声音で高杉へと聞くが、その返答は呆気なく返された。



「ねーよ、言ったろ?これが俺様の全てだ。で?呆れたか?馬鹿馬鹿しいと思うか?」


「……」



 本来の母禮なら、馬鹿馬鹿しいと断言するが、今までの話を聞いてしまえばそうは言えない。何せこれを否定すれば、高杉灯影という存在そのものを否定する様なもの。


 亡き母の意思を継ぎ、苦渋を噛みしめ、温かかった日常と仲間との決別。そして愛した女が殺された事実――それらの彼が負ってきた傷と人生を簡単に断罪する訳にはいかない。


 その重さと困惑に押し黙る母禮に対し、高杉はただ溜息だけを返す。



「答えられねー……ってか?まぁ確かにこんだけ話せばどうすりゃいいのか分からなくもなるな。まぁ安心しな、答えは今度で構わねー」


「え?」



 ()()と言う言葉に、思わず母禮は呆気に取られた様子で、高杉を見つめる。すると高杉は余裕綽綽と言った態度のままでこう続けた。



「今日の所はお前と話せてすっきりしたし、傾国の女を持ってない以上意味もない。だから今回は向こうにちゃんと送り返してやる。だが……」



 母禮が全てを知る前の、余裕かつ何処か傲慢さが拭えない態度のままだが、言葉を区切ったその後、まるで宣戦布告をするかの様に強く言い放つ。



「次会うときは勿論敵同士。俺様のやり方が気に食わないなら、剣を向けるも良し。逆に賛同するなら新撰組を脱退しても構わねー。元実権を握ってた俺様が許すさ」



 真剣とは言え、まるで勝者の立場で向けられた言葉に、思わず母禮は怯む。


 しかし高杉はそれを見て「しまった」と言った様子で、一瞬目を丸くするも、すぐに微笑って終いだと言わんばかりに場を締めくくる。



「根城、こいつを送ってやれ。但し絶対に傷つけるなよ?命令に反したら即座にお前を殺す」


「了解しました」



 高杉の言葉と共に、窓の傍にあった大きなカーテンから、いつの間にか若く背の高い美女が現われる。


 いつからいたのかなど分からない。だが様々な感情に流されていたとは言え、他人の気配に気付かない程、母禮も間抜けではない。


 故にこの美女が示しているのは、明らかに武人の力量ならば母禮の上を行くという事。


 それだけでなく、姿を見せたと同時に彼女の全身から発せられる気はまるで、狼の様なもの。だから今度は恐怖で怯むも、根城に視線が釘づけな時だった。



「沈姫」



 そう名前を呼ばれ、振り返るとそのまま高杉に唇を奪われる。一体いつ顎に手をかけられていたのかさえ分からなかったが、解放されると同時に反射的にその頬を思い切り叩いた。



「ッてー……なんだお前、好きな男でもいんのか?ま、歳に見合った青い春ってやつか」



 反射的とは言え、恐らく今の張り手は遊佐の時以上のものだろう。好意を抱く男性がいるのかと問われれば、母禮は一気に顔を赤くする。


 何より、この時母禮の脳裏でちらついた存在は、斎藤(かれ)であったから。


 しかし母禮の張り手も態度にも高杉は気を悪くした訳ではなく、ただ相変わらず余裕な態度と好意は崩さずにひらひらと手を振る。



「んじゃ、またな」


「では大鳥氏、こちらへどうぞ」



 終始高杉のペースで送られた一時のお茶会だが、根城に案内され母禮は高杉の部屋を後にする。


 高杉自身も言ってはいたが、別段母禮を人質に取ろうとした訳ではないし、必要不可欠であろう傾国の女を持っていないからと、易々に逃した。


 何より、根城に「送れ」と命じた時に高杉は、命令に反すれば根城を殺すと言った。


 如何なる手段で処刑するかはともかく、あの時高杉は明らかに怜悧な声音で根城へと命じた。


 つまり彼女が如何に優秀な手駒であったとしても、母禮の価値の方が高杉にとっては大事だと言う事に他ならない。


 そしてそれは何よりも今は亡き愛した女性との誓いを守るという確固とした決意だけが見えるだけだった。


 渋めのアールグレイの匂いがやけに鼻孔から離れない。


 もうあの匂いを嗅いだのは10年も前だが、杏子(はは)もあれを好んでいたと思い出せば、母禮に出すのも、彼はきっと前から決めていたんだろう――母禮は高杉の自室を後にしたとき何となく、そう思った。



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