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契約者達とキキラの言葉

 「さあ、話を聞かせて貰うわよ、と言いたい所なんだけど・・・・・・村人に偽装していた物体が此方に近づいて来ているわね」

 そう言った私がキキラを睨みながらチラリと村の方を見ると、フレイが素早くそっちに向き直って声を出した。

 「カリーナ、それにタマミズキも聞きたい事がある様ですし、私が行きますわ」

 「ルルファ、村はフレイに任せるけど、それで良いわね?」

 私が一応ルルファに尋ねると、頭の中に肯定の返事が返ってきた。

 「其れじゃフレイ、お願いするわ」

 「ええ、カリーナは腕の事もあるのですから、無理をしないでくださいね。タマミズキ、後をお願いします」

 「・・・・・・・・・そう、分かったわ。私の為にごめんなさい」

 フレイはタマミズキとすれ違い様に、何かを耳元で告げてから飛んで行った。そして何かを聞いたタマミズキの雰囲気が一変し、私を意味深な目でジッと見つめてきた。

 「タマ・・・」

 「カリーナ、時間は有限ですわ。すぐに聞きたい事を聞きましょう」

 見つめる理由を聞こうとした私の声に被せて、タマミズキが鋭い声を出した。その態度には、明らかに私の言葉を遮る意図が見えた。それに眉を顰めた私が、どう反応するべきか迷って固まった一瞬の間に、タマミズキはキキラに質問を始めてしまった。

 「さあ、天狐について知っている事を洗い浚い話して貰うわよ。天狐の血をどうやって手に入れたの?」

 「あはは、買ったに決まってるだろ。天狐の王族なのに何も知らないのかい、あはははははは、此奴はいい」

 耳障りな嘲笑う声にタマミズキの顔が強張り、私もまさかと思いながら続く言葉に耳を傾けた。

 「その様子だと十年以上前と五年前、そして最近、天狐の血や毛や肉片なんかが、闇オークションにかけられたのも知らないんでしょう」

 「・・・何ですって、まさか私達天狐を売っていると言うの?クッ、其れは契約石の事では無いのね」

 「へえ、契約石の事は知っているんだ。まあ、あれは商連合国の事だし、普通のオークションで堂々とやっていたから当然かしらね。でも今私が言ったのは蒼王国内の事よ。さっき私も使った毒素で弱らせた後に、特殊な武器を使って襲い掛かるらしいわよ。・・・じゃないと私のこの肉体の事が説明できないでしょう」

 前後のつながりが悪い最後の言葉に、私とタマミズキは何かを隠していると思い、チラリと視線を合わせて頷き合った。そして私が前に出て代わりに話して、タマミズキが後ろで様子を窺う事にした。

 「・・・・・・如何言う事なの?・・・・何故貴女の肉体が関係するの?その姿を見れば天狐の血を取り込んでいるのは想像出来るけど、其れだけなら商連合国で買ったと言う説明でも良いわよね。でも今の口調はそう言う事では無いのでしょう?」

 「あはは、勿論。私のこの肉体は天狐の血肉を融合させた結果らしいわ。此れをやった奴らは、そうしたら天狐の魔法能力を得られるかも?と思ったらしいわ」

 またしても微妙に違う返答をするキキラに、私は不信感が増し、此方を煙に巻く心算かと思った。だから私は、冷静さを失わせて失言を誘おうと、一度挑発して見る事にした。

 「ふーん、でもさっきのあんたの魔法の力をみると、その計画は失敗に終わったわけね。つまりあんたは出来そこな・・・」

 「黙れ、私は失敗作などでは無い。私は、私は・・・・チィ・・・」

 其処まで言ったキキラは、タマミズキが反応をそっと観察している事に気づいて、舌打ちして黙り込んだ。そして暫くしてから逆に挑発する様に、口元を歪めて笑いながら話し始めた。

 「あはは、お前らに良い事を教えてやる。お前らが倒した毒素を出すあれは、天狐の肉片を培養して作られた物なのよ。元々天狐は肉体を変化させるでしょう。だからあれも血を取り込んで変化するのよ」

 その言葉を聞いた瞬間に、私は寒気を感じてタマミズキの様子をそっと窺った。其処には仮面を被った様な無表情のタマミズキがいた。しかし私がタマミズキの感情を読み間違える事は無いだろう。その視線からは抑え込もうとして失敗した沢山の強い思いが溢れていた。

 「駄目よ、タマミズキ。今は我慢して。私はこの人の事を聞かないといけないのよ」

 私は動こうとしたタマミズキの機先を制するように、小太刀を目の前に突き出した。小太刀を見たタマミズキは視線が揺らぎ、苦悩しながらも何とか踏み止まってくれた。

 「さあ、話して貰うわよ。何故この村に来てこんな事をしたの?小太刀を作って何がしたかったの?そしてこの人は元に戻せないの?」

 「あはは、何故?偶々都合が良かったからに決まっているでしょう。小太刀を作ったのも唯の偶然よ。それに貴女馬鹿なの?成功した事にさえ気づいていなかった私が、元に戻す方法なんて知る訳無いでしょう。なによりあれを見て戻せると思う方がおかしいわよ。あはははははは」

 「クッ、耳障りな声で笑うんじゃないわよ。私だってそんな事は想像ついていたわよ。でも・・・クッ、それでもあえて聞いたのよ」

 私が怒りに震えて大声で怒鳴りつけると、頭の中にルルファの落ち着いた声が響いた。

 「冷静になってください。私はカリーナのその気持ちだけで十分です。自分でもその事はとっくに諦めていましたから・・・」

 その此方を気遣う痛々しい声が心に沁みた私は、心の中の何かがスッと勢いを無くした様に感じた。

 「ふう、元に戻す方法は自分で考えるからもういいわ。でもね、他の部分の嘘を見逃す心算は無いわ。此処はクリーミア王女の副将だったジェスター将軍の領地よ。そんな所でクリーミア王女が持つ真紅の剣と同じような武器が作られていて、偶々な訳が無いでしょう。大人しく話さないのなら・・・・・」

 冷たく睨んだ私が小瓶を手に持って見せ付けたのだが、キキラは意外な事に其れを無視して、スッと目を細めて此方を見つめた。そして何かをジッと考えてから口を開いた。

 「ねえ、貴女にとって一番大事な物はなんなの?」

 「ふざけないで、何故お前なんかに答えなければならないの。お前は大人しく・・・」

 一番大事と聞いてお兄ちゃんを思い浮かべた私は、キキラに話す事に激しい拒絶感を感じて、殺気混じりの視線で睨み付けた。しかしキキラはピクリとも表情を変えずに、淡々とした声を出した。

 「答えたら、私も答えるわ」

 「・・・・・・・・お兄ちゃんよ」

 「そう、ならよく想像して。そのお兄ちゃんが他の女を大事にして、貴女を捨てたら如何するの?」

 「ナッ、ふざけないで。そんな事になったら、こ・・・・・・」

 冷静になったばかりの私は一瞬で激昂し、感情のままに言葉を口にして、その途中でハッと言葉を止めた。今なんとか途中で止められたのは、先程のルルファとのやり取りのおかげで、もし最後まで言葉を口にしてしまっていたら、私の中の大切な部分が壊れていた事は確実だった。そして私はゾーーッとする悪寒を感じながら、口にしそうになったあり得ない自らの思いを振り払うように、早口で素っ気なく答えた。

 「お兄ちゃんがそんな事をする訳無いわ。だから意味の無い質問よ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 無言でジッと私を見つめたキキラは、何かに納得したように頷くと、今度はタマミズキに質問した。

 「貴女の名前はタマ・ミズキなのね。昔話に似た名前の天狐が出て来るのだけど、その名の由来を教えて貰え無いかしら?」

 タマミズキの名を区切って後半の部分を強調して話すキキラに、タマミズキは雰囲気を変えて焦らす様にゆっくりと思案に耽っていた。そしてそんなタマミズキの態度に、キキラは痺れを切らして誘う様な声を出した。

 「もし、私の考えている事が正しいのなら、貴女は聞かないと一生後悔する面白い話が聞けるわよ。それにそこの問題についても話せる事があるわ」

 私を一瞥してニヤニヤと笑うキキラに、タマミズキは何を思ったのか、淡々とした口調で話し始めた。

 「私の名前はタマミズキよ。だけどタマの部分は王族を示し、全ての王族の名につけられているわ。だから王族としてではなく私的に行動する時は、その部分は名乗らない事もあるわ。ふふふ、貴女の思っている通り、悪狐として活動する時なんかもそうよ」

 「あはははははは、そうかそうかそうか。なら私の運命が此処で潰えても目的は達成できる。あははははははははは」

 いきなり狂った様に笑い続ける姿に、私もタマミズキも戦慄する事になった。何故なら私の耳に突き刺さる声には、長い年月をかけて降り積もった闇が窺え、此方を見る視線は全身にネットリと絡みつき、決して逃がさないと告げられている様だった。そして其のまま時が経ち、ようやく笑いを収めたキキラは、つき物が落ちた様にサッパリとした顔で話し始めた。

 「まずはその小太刀について教えてあげる。その小太刀は蒼王国にある神が宿りし武器、神器を新たに作ろうとして出来た物よ」

 「神器?其れはまさか・・・・・」

 「そうよ、もう貴女は見ているわ。さっき口にした真紅の剣が、蒼王国にある二つの剣の神器の内の一つよ。他にも槍と弓の神器があって、全てで四つあるとされているわ」

 そう言いながらもキキラは、私の手の中にある小太刀をチラリと見て薄らと笑っていた。此れが五本目に当たると言いたいのだろう。

 「待ちなさい。確かに意思を持っていると聞いて、疑念は抱いていたわ。でも私は真紅の剣を直接目にしているわ。だからあれが本当に神器ならすぐにそうだと気づいたはずよ。神器は特殊な力を発しているし、何より真紅の剣の神器は存在しないはずよ」

 「あはは、流石は神器を造った天狐、良く知っているわねと言いたい所だけど、あれは蒼剣の神器を研究している間に偶然出来た人造神器なのよ。だから天狐が回収し損ねた他の三つとは違うわ。そしてそれが出来た事を知ったから、私もこうやって今此処で作ろうとしているのよ」

 「人造神器・・・・・・」

 タマミズキが険しい顔で黙り込む中、私は天狐が作ったと聞いて眉を顰めていた。あの研究部屋を見てしまった私は、あんな風に作られる神器を受け入れる心算はなかった。タマミズキがあんな事をするとは思えないが、私は念の為に意を決して重たい声音で問い掛けた。

 「ねえ、タマミズキ。天狐は人を犠牲にして神器を造った事があるの?」

 「・・・・何ですって?人を犠牲にするとは如何言う事ですか?」

 怪訝そうな顔で首を傾げる姿は、何を言われているのか全く意味が分からないといった風情だった。私はその様子にホッとしながら、研究部屋で見た事を話して聞かせた。するとタマミズキは小太刀をジッと見つめてから、キキラを一瞥して睨み付けた。そして私と向かい合って、激怒した表情で吐き捨てるように告げた。

 「ふざけないで、いくらカリーナでも怒りますわよ。天狐は絶対に魂を犠牲にする物を作りません。天狐にとって魂への干渉は最大の禁忌なのよ。まさかこの人と言っていたのがそんな意味だとは・・・・」

 あまりの剣幕に動揺した私は「私が悪かったわ、落ち着いて」と言って宥めたのだが、タマミズキは顔を真っ赤にしたまま話を続けた。

 「いいですか、そんな物は断じて神器ではありません。神器とは大神樹の枝を核にして作られた器を、長い時をかけて使い続けて自然に意思が生まれた物の事を言うのです。カリーナに分かりやすく言うと、九十九神の事です」

 「へえ、大神樹を核としているの。初めて知ったわ。ずっと神器を解析しても、天狐の魔法で隠蔽された核については、何も分かっていなかったのよ」

 ニヤリと笑って感心した様に頷くキキラに、ハッとしたタマミズキは口を手で覆って黙り込んだ。その様子を見て私は前の時の反応を思い出し、口にしてはいけない事を喋らせてしまった事に気づき、不味いと思って眉を顰めた。そして素早く今の状況を考えた私は、最後にキキラの口を封じれば問題無いだろうと冷たく結論した。しかしキキラは、まるで私の内心を見た様にニヤリと笑うと、突然辺りに響き渡る大声で叫んだ。

 「天狐の王族が口を滑らせたわ。神器の核は大神樹の枝よ。伝えて目的を達しなさい」

 「ちょ、なにを・・・・・」

 私が声を上げた時には、遠くで複数の何者かの気配が生まれて、すぐに全力で遠ざかって行った。事態に気付いたタマミズキが、気配のした方に雷球の魔法を数百発叩き込んだのだが、残念ながら一人・・・いや二人の気配が其のまま移動していた。

 「チィ、逃がさないわよ」

 「私に融合させられたクズハの血肉の話をするから止まりなさい」

 追おうとしていたタマミズキが、クズハと言う名を耳にした瞬間に、体をビクつかせて凍り付いた様に動かなくなった。私は代わりに追うべきか少し迷ったけど、タマミズキがあまりにも酷い顔色をし、今にも儚く消えて行きそうな雰囲気を発しているのを目にして、後の危険に目を瞑ってでもこの場で支える事に決めた。

 「タマミズキ、気を確り持って。貴女、今にも倒れそうよ」

 「え・・え・・・分かって・・いるわ」

 掠れる声とは言え、タマミズキが私の声に反応してくれた事に内心で安堵していると、周囲を窺っていたキキラが笑い声をあげた。

 「あはははは、核の情報を耳にすればいなくなるとは思っていたけど、ほんとに監視の目が居なくなったわ」

 「監視ですって?」

 「ええ、そうよ。さっきの気配の奴らは村の異常を知られない様にする事と、私が余計な事を話したり、裏切ったりしないか、監視をしていたのよ」

 「・・・・貴女を助けたりはしないのね」

 「する訳無いわよ。奴らは不味くなったら私を殺して隠蔽するのが最優先だもの」

 「・・・・・如何やら貴女の後ろにいる奴らは、仲間とは言えない関係の様ね。ならなんで情報を与えたの?邪魔なら私達に伝えて、処分させても良かったでしょう」

 「あはは、分からないかい?さっきの様子と核の隠蔽を考えれば、核の情報を奴らに与えたら不味いと言うのは分かるわ。だから此れで天狐は一族をあげて本気で対応する筈よ。そうでしょう?」

 「・・・・・・・・・そうね。貴女の言う通り、私の大失態で妹に迷惑を掛ける事になるわ。でも今はそんな事は如何でもいいわ。クズハの事を洗い浚い話して貰うわよ。やはり先程、買ったと言ったのは嘘だったのね」

 「あはは、嘘では無いわ。天狐の血などが売っているのは本当よ。そして買った事があるのも本当。ただ私に融合しているものは違うと言うだけよ。あはは、そう怒らないの。だって仕方ないでしょう。クズハの名を監視の前で話したら、すぐに殺されてしまうもの。だからさっき私の肉体の事を話した時に、違和感を感じる様に話したのよ」

 暗い暗い闇を思わせる瞳をキキラに向けたタマミズキは、握り締めた両手から血を流して睨み付けていた。そしてその一触即発のひりつく様な雰囲気の中、私はクズハと言う人物を全く知らないので口を挟めず、固唾を呑んで見守る事になった。

 「完全人化をした天狐クズハが二百五十二年前に殺された理由は、私の様な存在を造る為なのよ。当時、天狐の血肉を人間に融合させる事は不可能だった。でも完全人化した元天狐なら可能だったのよ」

 「待ちなさい。ならあいつらはクズハが天狐だと知っていたと言うの?あり得ないわ。だって完全人化は天狐としての力を失い、戻る事が出来ない代わりに・・・・」

 「言いたい事は分かるわ。でも私の存在が何よりの証拠よ。私が完全人化の事を知っているのも、体をこんな風にした奴らが口にしたからよ。あの時、誰かは分からないけど、見破った奴が後ろに居たのよ。実際、貴女が回収した死体は左肩から左脇腹までを斬られていて、左腕ごと無かったでしょう?」

 ギリッと歯を食い縛るタマミズキに、キキラは疲れた表情で淡く微笑んだ。

 「ねえ、私は何歳に見えるかしら?」

 「・・・二十七前後かしらね」

 「あはは、だったらいいんだけど、正解は二百六十五歳よ」

 「エッ、嘘でしょう」

 「あはは、嘘だったら良いんだけど、残念ながら本当よ。あはははははは」

 驚いて口を挟んだ私の声に答えたキキラは、痛々しい程に乾いた笑いを響かせていた。此れにはルルファですらも戦慄しているのが伝わってきた。

 「・・・・・・・・そう・・・そう言う事なのね。体は変化させて若さを保っていても、貴女の精神は限界点を超えているのでしょう。違うかしら?」

 「察しがいいわね。そうよ、二百年を超えた位から、段々感情などに異常をきたしているわ。だからもう時間が無いのよ」

 「・・・・・・そう・・・つまり貴女の目的は、時間が無い自分の代わりに、私に復讐させる心算なのね」

 「あはは、その通り、正解よ。核の事も知られた以上、貴女は奴らと敵対するしかないでしょう。ましてそれがクズハの死にも関わっているとなれば、私の思惑通りでも、貴女は止まらないはずよ。違う?」

 「そうね。クズハを殺した奴らを生かして置く私では無いわ」

 「あはは、ヤッパリそうなのね。流石は音に聞こえたミズキ姫ね。なら良い事を教えてあげるわ。私が二百六十五歳だと言うから分かるでしょうけど、他の奴らも融合して長生きしているわよ。しかも私の実験結果を下地に最終確認が終わったらしく、今では完全人化していない天狐でも、安全に融合して延命できる様になったらしいわ。ゴホ、蒼王国の裏では有名な話よ。だから闇オークションで天狐は人気なのよ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 無言で俯いて体を震わせるタマミズキに、私はかける言葉を持たなかった。しかしキキラは容赦なく更なる言葉を突き付けていた。

 「奴らの一人は天狐が造った神器の完全適合体だそうよ」

 その言葉を聞いた瞬間に俯いていたタマミズキは、血相を変えてガバッと顔をあげた。その目は驚愕に見開かれていて、私には薄らと額に冷や汗を掻いている様に見えていた。

 「・・・・完全適合体ですって、ありえない。クッ、そいつの人格は今、如何なっているの?天狐でも神器を使う時は八割が限界なのよ。それにあれは魂も・・・・・」

 「あはははは、完全適合体になって何百年も生きているから、自分を神と合一した神人だと思っているわよ。ほんと笑わせてくれるわよね。私をこんな体にする様な奴は、魔人の方がピッタリよ。あはははは、ゴホゴホ、抑々天狐が神器なんかを造るからこんな事になったのよ。本当はあんたらに嘆き悲しむ権利なんか・・・」

 「貴女は人の事を言えないでしょう」

 私が小太刀の切っ先を突き付けて睨むと、キキラは視線を受け止めながら淡々とした声で告げた。

 「詫びる心算は無いわ。私は己が目的の為に、ここ以外でも沢山の人を犠牲にしたけど、欠片ほども後悔していないわ。だって私の生きた人生では、弱者は食い物にされるのが普通だっだもの。私がこんな体にされたのも、小太刀になった名も覚えていない女がそうなったのも、弱いからそんな目に遭ったのよ」

 「ナッ、ふざけないで。そんな言葉が通用・・・・・」

 「するわよ。私は蒼王国で二百六十五年生きてきたけど、王も貴族もずっと変わらず、税といって搾取するだけの存在よ。それに教会も神の祝福や慈悲をと言っているけど、なら何故御布施と言う言葉があるのかしら?あはははは、どちらも言い方が変わるだけで、本質は変わらないわ。貴女、何も知らなそうだから教えてあげるわ。百五十年ぐらい前に貧民街で疫病が流行った時なんかは酷かったわよ。当時の王子も疫病にかかって、王は民から搾取した莫大なお金を使って、薬を買い占めて治療したの。其の所為で貧民街の者達どころか普通の平民まで薬が手に入らなくて大勢死んだわ。ゴホゴホ、でも本当におかしいのは此処からよ。なんと王子は其れでも死んでしまったの。そしたら王はなんと、王子を殺した原因は薄汚い貧民街が有るからだと言って、疫病にかかった者も、そうで無い者も関係なく全てを焼き払ったわ」

 絶句する私に向かって、キキラは無知を嘲笑う様に口元を歪めていた。するとそんな私を見かねたのか、タマミズキがキキラにつまらない物を見る様な視線を向けて、口を挟んで来た。

 「で?だから何なの?私は関係ない過去の話なんてどうでもいいわ。まして貴女がカリーナの力とあり様に、嫉妬しているのなんて、更にどうでもいいわ」

 「ナッ、誰が嫉妬・・・」

 「如何でも良いと言ったでしょう。其れよりわざとなんでしょうけど、奴らと言うのが具体的に何所にいるのかと、完全適合体の名を教えて貰うわよ」

 問答無用と言った感じで、冷たく切って捨てるタマミズキに、キキラは忌々しそうに顔を顰めていた。

 「そんな態度で私が教えると思うのかい?それにそっちの女の問題は聞かなくて良いのかい」

 「別に良いわよ。人造とはいえ、神器は神器。そうだと分かれば対処法はいくらでもあるわ。それにカリーナの事だから研究資料を持ち出しているはずよ。其れを天狐が総出で解析すれば、なおさら問題無いわ」

 タマミズキがそう言い放った時、突然一際大きい轟音と共に暴風が吹き荒れた。私が慌てて障壁を張りながら音源を見ると、村が巨大な真紅の火炎球に丸ごと呑みこまれているのが分かった。

 「うわ、何があったのか知らないけど、派手にやったわね。辺りが真っ昼間みたいに明るくなっているわよ。此れじゃ、近くの他の村々に気付かれるのも時間の問題ね」

 「そうね。驚いて館に放火した何処かの誰かさんと違って、フレイは冷静だから余程の事があったんでしょうね」

 「ウッ、言葉に棘があるわよ、タマミズキ」

 「さっき、何処かの誰かさんが、私に喧嘩を売ってきたものですからね。うふふふ」

 「・・・・・もう、聞きたい事を聞いて早く撤収するわよ。すでに何人か逃がしてしまったとは言え、此れは隠密行動なんだから」

 タマミズキは肩を竦めると、キキラに今一度問いかけた。するとキキラは眉をピクリと動かすと、口を手で覆って軽く咳をしてから答えた。

 「奴らは蒼教会の信者と言う立場で繋がっているわ。そして其れを隠れ蓑に、蒼王国の中枢にも干渉しているし、既に貴族も二割近くが・・・ゴホ・・ゴホ・・・」

 言葉の途中で咳き込んだキキラの口から血が溢れ出た。いきなりの事に驚く私の前で、タマミズキがキキラに素早く駆け寄り、倒れ込みそうなその肩を掴んだ。

 「今治療するわ。全て喋る前に死ぬんじゃないわよ」

 「ゴホ・・・・無駄な事・・・ゴホ・・・するんじゃない・・・。此れは神器を使った呪殺よ。・・そう言えば・・・天狐なら・・分かるで・・・ゴホゴホ・・・」

 「・・チィ、先程からの咳はそう言う事・・・・・クッ、なら貴女は呪詛返しをする為に神器を造ろうとしたのね」

 「・・・あは・は・・・完成した・・所で・・・ゴホゴホ・・・精神は如何にもならない・・・けどね。ゴホゴホ・・其れでも・・・一矢・・報いた・・かった」

 「・・・クッ、呪殺なら発動した以上、もう私には助けられないわ。そして完全適合体の名は言えないのね」

 吐血しながら頷くキキラに、タマミズキは強い意思の籠った力強い視線で尋ねた。

 「即死しない範囲で手掛かりになりそうな事を話しなさい。私は悪狐だから顔も知らない貴女が犠牲にした者達も、過去の悲劇も如何でも良い。ただクズハの仇は必ず討つわ。さあ言いなさい」

 「ゴホ・・・そうだね。なら・まず・・・其処に居・る・・間抜け面・の・・お嬢ちゃんの事を話そう。ゴホゴホ、お嬢ちゃんも・・呪に冒されているわ。完全には・・ゴホ・・かかっ・て・・いないみたいだけど・・・・一月以内に・・どうにかしないと・・・手遅れに・・・・なるわよ。特に・・真紅の・剣は・・犠牲者の・・・呪念・・が強い・・らしい・・わ。私の・・資料に・書いて・・・・ゴホゴホ」

 驚く私が口を挟もうとしたのを、タマミズキは視線で止め、咳き込むキキラに頷いて先を促した。

 「ゴホゴホ・・・・奴らは・・クズハの・・・血肉から・・・複製・・ゴホゴホ・・・・仇を討つのなら・・ゴホ・・・蒼主教・・の・・周りを・・・があああああああああああ・・・」

 絶叫をあげたキキラの体はビクビクと震えた後、心臓と其の周辺を風船の様に膨らませて破裂した。周囲に飛び散る血肉が、肩を掴んだまま動かなかったタマミズキを赤く染めた。

 「二百五十年・・・精神が人として保ったら・・・・向こうで・・詫びてやる・・・・・」

 即死しなかったのが信じられない状態のキキラは、その言葉を最後にグチャッと体の原形を崩して地に沈んだ。それを見ていた私が思うに、キキラの最後の言葉は自分でも何を言っているかは分からない状態だったはずだ。ルルファもキキラの此の最後には思う事がある様で、自身にかけられた言葉の意味を噛み締めて無言になってしまっていた。

 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 自然と沈黙が辺りに広がり、タマミズキがキキラの肩を掴んでいた手を降ろして、空に輝く月を見上げた。そしてジッと動かないタマミズキを見て、私は冒し難いものを感じて声を掛ける事が出来なかった。私が神妙にそのままジッと佇んでいると、フレイが飛んで帰ってきた。

 「カリーナ、無事ですか?此方は天狐に匹敵する個体が居て、負傷してしまいましたわ」

 「エッ、大丈夫なの?フレイ」

 「治療はして傷は塞がりましたから、もう大丈夫ですわ。でもあの朱色の目の個体は明らかに異常でしたから、コジャスの背に乗って帰る時に話しますわ」

 フレイの言葉に血濡れのタマミズキが、耳をピクッとさせてガバッと振り返った。

 「複製・・・・まさか・・・・・」

 小さな小さな呟き声だったが、私はその声に嫌な汗を掻く事になった。そして目をギラつかせ、尻尾の毛を逆立てたタマミズキは、ゾクゾクする低い声で詰問してきた。

 「・・・まさかとは思うけど、その個体の髪はエメラルドだったりしないわよね?」

 「・・・・・・・・何故其れを・・・・・・」

 「クズハ・・・・・おのれ・・・・・・」

 俯いてから苦渋の籠った声で名を呟き、両手を血が出るまで握りしめて怨嗟の声を上げるタマミズキの言動に、私は容易に事態を察する事が出来た。何所のどいつだか知らないが、クズハのクローンの様なものを造ったのだ。

 「タマミズキ、貴女の気持ちが分かる何てとても言えないけど、私も後で関わった者として協力するから、今は兎に角撤収するわよ。そしてコジャスの上でフレイから詳しい話を聞きましょう」

 「ええ・・・分かったわ」

 そのタマミズキの声は多少は沈んでいるものの、想像していたものより確りした声音で、私は内心でホッと安堵した。そして私は皆の見ている手前、先導する様に泰然と歩いていたけど、内心ではあまりにも想定していた予定と違う現実に「お兄ちゃん何とかしてーーー」と泣きつきたくなる誘惑に駆られていた。

 次話の投稿は23日の夜以降の予定です。次話もよろしくお願いします。

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