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契約者達と新たな魔狼

 学校でのごたごたを片付けている間に時が過ぎて、両親に行ってきますと言って転移するとガレオスが待っていると伝えられた。俺達がガレオスの元に行くとガレオスの隣に別の魔狼がいた。

 「俺様の名はルードルだ。お前が俺様を呼んだ契約者だな。話があるなら聞いてやるから話すが良い」

 香織は尊大な口調に苛立っていたが俺は俺様と自分の事を呼ぶ存在を前にして大丈夫か此奴と思って不安になっていた。

 「長に聞いたのだがルードルが中心となって人間を攻撃しようと主張しているらしいが本当か?」

 「そうだ俺様はこの機会に邪魔な人間の町を消そうと思って行動している。今回は人間が契約石にする為に魔狼自体を求めて襲ってきたのだから報復するのは当然の権利だ」

 「一部の人間がやった事で町の人間は知らない者が大半なんだ。町を攻撃しようとするのは止めて貰いたい」

 「一部の人間がやった事でも止められ無かった周りも同罪に決まっている。上に立つ者が暴走を止められ無かったのなら其れも罪だし、上に立つ者がやったのならそんな者を上にしたのがいけないのだ。抑々俺様達は過去にも町を作っただけでなく、不遜にも此方の領域に入ってきた人間に警告していたはずだ。警告を無視して再度攻撃して来たのだから奴らも殺される覚悟ぐらいはしているだろう」

 ルードルの言葉に如何説得するか必死に考えて一度現状を話してみた。

 「俺様にそんな話をして如何する心算だ。俺様としてはむしろ人間を滅ぼすのが最善に思えてきたぞ」

 「俺が正直に話したのは誠意を見せる為だ。そしてルードルに提案させて貰いたい。話していて違和感を感じたのだがルードルは人間の生活や考え方など知らないのだろう?一度自分の目で見てそれから判断して貰え無いだろうか?」

 ルードルは鼻で笑うと馬鹿馬鹿しいと言う態度で告げた。

 「何故俺様が人間などを知る為に行動しなければならないのだ」

 「力の弱い者達の生き方を知って貰いたいと考えている」

 「弱者は強者に従うのが正しいのだ。また強者が何故弱者に配慮して行動を制限されなければならないのだ。魔狼では成体になったら弱いのは自己責任だ。意見したければ強くなれば良いのだ」

 俺と香織は此の考え方の違いにため息を吐いて心の中で魔狼はこんなのばかりかと思って、何時か魔狼全体の考え方を変えようと決めた。シグルトとフレイを見るとどちらも顔を振ってうんざりしている様だった。話を聞いていた同じ魔狼のガレオスですら顔を顰めていた。

 「ルードルよ。魔狼にその様な一面があるのは否定しないが、お前の意見は極端すぎる。強者に従うのが正しいのなら抑々お前は長に従うべきだ」

 ルードルはガレオスの言葉に忌々しそうに顔を歪めると嘲笑混じりの声を出した。

 「自分が俺様に勝てないからと言って長の威を借りて発言するとは弱者らしい小賢しい行動だな」

 ガレオスが俺の前で歯を食い縛るのを見てため息を吐いて周りを見ると皆は察し良く頷いてくれた。

 「おいルードルお前の発言だと強者は弱者に配慮しなくて良いんだな。更に弱者は強者に従うのだな。まさかとは思うが自分が弱者になった時だけ発言が変わったりしないよな?」

 「当然だな。だがお前こそ俺様にそんな発言をしてただで済むと思っているのか?」

 シグルトが空間の隔離して準備を整えるのを待ってから静かに声を出した。

 「勝利条件についてだがルードルは俺を殺すなりして戦闘不能にする事で、俺は降参させる事だ。俺が勝った場合は俺の提案を受け入れて俺達についてきて貰おう。勿論体はシグルト達ぐらいまで小さくなって人間を傷つけない事を約束をして貰うぞ」

 俺の言葉を聞いたルードルは咆哮を上げると襲い掛かってきた。鋭い爪で切り裂こうとしたのだろうが爪は俺に当たっても肌を引っ掻いた様に赤くするのが精一杯の様だ。ルードルは其れを見て驚愕に動きを止めていた。

 「動きが止まっているぞ。まずは一発殴るぞ」

 俺の声に動こうとしていたが構わずに近づいて殴り飛ばした。吹っ飛んでいったルードルは地面に落ちるとピクリとも動かなかった。如何やら気絶した様だ。

 「おいおい冗談だろ長と戦った時よりかなり手加減したんだぞ」

 唖然と呟く俺にガレオスは真面目な顔で言った。

 「お前が如何思っているか知らないが、長は本当に魔狼の中で隔絶した強さの持ち主だ。其れを容赦なく殴り倒せるお前が殴れば一撃でこうなるのは当然だ。ハッキリ言っておくが五幻種と言われていても龍と竜以外の三種では戦闘能力に隔たりがある。三種で共同で戦えば竜なら倒せるだろうが龍なら共倒れが良い処だ。そしてお前はそんな龍に戦いを拒否させる存在だ。お前がルードルと戦うなど弱い者いじめにすらならない」

 ガレオスの話を聞いて周りを見るとフレイが頷いていた。

 「直哉が気づいていないとは思いませんでしたわ。魔狼と炎鳥は得意な場所が地と空と違うだけで一匹と一羽の戦闘能力は変わりませんわ。炎鳥の里であれだけの炎鳥と戦って勝利したのに魔狼一匹に挑んだので、てっきり私は何か考えがあると思っていましたわ」

 フレイの言葉に引きつった顔をして考えはあったが予定と違うと心底思った。俺がルードルを治療して暫くするとルードルが勢い良く跳び起きた。

 「何だ?何があった?」

 理解していないルードルにガレオスが説明すると、説明を聞いたルードルが顔を真っ赤にして叫んだ。

 「認めるものか。まだ俺様は降参などしていない続けるぞ」

 ルードルが再び挑んで来たが今度は攻撃をしないで防御だけする事にした。俺に爪や牙や数々の魔法攻撃がされたが傷を負ったのは爪に闇の古代魔法を纏っての攻撃とルードルが使える最強の闇の古代魔法の闇に包まれる者と言う魔法だけだった。

 「・・なんでだ?・・何故生きていられるんだ?闇に包まれる者は闇に取り込んだ後分解して消滅させる魔法だぞ。取り込まれたら如何にもならないはずだ」

 ルードルの悲痛な声を聞いて俺は戦ったのを後悔しながら答えた。

 「・・そのだな・・悪いが理由は単純だ。分解する速度より再生する速度の方が早いんだ」

 俺の言葉に目を見開きながらブツブツと認めないと呟くルードルに心底対応に困っていると香織が声を出した。

 「ちょっといい加減にしなさいよ。誰の目にもお兄ちゃんの勝ちなのは明白よ。これ以上降参しないで戦うのは恥の上塗りにしかならないわよ」

 内心自分でも思っていただろう事を言われたルードルは激昂して香織に襲いかかった。噛み殺そうと向かって来たルードルに驚きながらも香織は反射的に手のひらに風を集めてルードルの顔にビンタをした。バチンと言う音ではなくズドンと言う音がしてルードルは地面に叩きつけられて何度か転がって止まった。ビンタした香織を含めてその場にいた皆は凍り付いていた。暫くして我に返った俺は慌ててルードルを治療し始めた。その時見たルードルの顔は悲惨だった。良く生きているな、魔法が無くて整形なら手遅れだろうと思わされた。

 「おい大丈夫か?」

 俺が治療の終わったルードルに恐る恐る話し掛けるとルードルは素早く香織の元に向かって降参していた。

 「降参する。何でも命じてくれ。一生従おう」

 香織が小さくなる様に命じるとルードルは即座に小さくなった。小さくなったルードルは家庭で飼う小型犬の様な感じで見た目だけなら可愛いと言っても問題無い感じだ。香織もそう思ったのか冗談でお手をさせようとしたら本当にしたので困った顔で凍り付いていた。

 「・・俺は今幻覚でも見ているのか?」

 「僕にも見えるんだ」

 「私も見えますわ」

 「・・・・・・魔狼の誇りは何所へ行ったのだルードル」

 唖然として佇んでいるとルードルと話していた香織がルードルを抱えて此方へやって来た。

 「話して決めたんだけどルードルは私の飼い狼として連れて行く事になったわ」

 「・・・・馬鹿な・・・ルードル正気か?お前は魔狼なんだぞ」

 動揺するガレオスに淡々とした声でルードルは告げた。

 「僕は主の命に従うだけだ。先程までのルードルは死んだと思ってくれ」

 その言葉に香織とルードル以外は冷や汗を掻いて相談をして俺が代表して香織に尋ねた。

 「・・・・その・・大丈夫なんだよな」

 「うん、私が責任をとるから心配しないで良いよ、お兄ちゃん」

 「そうか分かった任せる。ガレオス悪いがこう言う事になったから先程の情報と共に長のフェルニルに説明しておいてくれ。あとルードルの問題は片付いたのだから大人しくする様に言っておいてくれ」

 「・・・どう説明しろと言うんだ?」

 俺は縋る様な目をしたガレオスを見なかった事にしてシグルトに頼んでリラクトンに転移して逃げた。


 リラクトンに転移すると待っていたのか、くたびれたロベルトと知らない女性が近づいてきた。

 「まあまあまあ、貴方達が契約者なのね。強化魔石を作ったのは男の契約者と聞いたから貴男が直哉殿ね」

 好奇心を隠そうともしないで目を輝かせている女性に困惑してロベルトに視線で尋ねると疲れた声で返事が返って来た。

 「アリステアの母親でクリステアさんだ。親父さんの妻でもあるから色々と配慮して貰えると助かる」

 ロベルトの言葉に頷いてリグレス公爵の部屋に移動しながら自己紹介をして尋ねた。

 「俺達を待っていた様ですが御用件は強化魔石の事でよろしいでしょうか?」

 「ええ勿論よ。あの強化魔石はすごいわ。一クーラも持たなかった私が作った飛び布くん十五号が普通に動かせるの」

 興奮して話すクリステアさんに苦笑してから俺達は話を合わせた。

 「飛び布くん十五号と言う名前から察するに布で空を飛ぶのですか?」

 「残念だけど地面から一メーラ程浮くのが限界なの。しかも高く浮けばその分だけ魔石の消費も早まるから二十ミーラ程浮かすのが正しい使い方よ。でも移動速度は今ある馬などの全ての乗り物より数倍は早いし、布だから持ち運びも簡単なのが良い処なのよ」

 「大きさや重さはどの程度まで運べますの」

 「其れは此れから強化魔石がどれ位の力があるか正確に調べてから調節する事になるから今は分からないわ。でも上手くやれば人間を五十人ぐらいは運べるかも知れないわ」

 「へえ結構凄いんだ。他にも何か作っているのかな?」

 「そうね私の作った物は色々あるけど一番売れたのは何と言っても中に水を入れると冷たくなる冷え冷え・・・・・」

 「うおおおおおおおおおーー」

 突然黙って聞いていたロベルトが叫び声を上げた。俺達がビクついて一斉にロベルトを睨むと引きつった顔で小声で話し掛けてきた。

 「悪いが親父さんの過去に関わるから今聞こうとした事は忘れてくれないか」

 ロベルトの態度が明らかにそれ以上はヤバい事になると訴えているので香織に話題を変えて貰う事にした。

 「お兄ちゃん前に作れるか考えていた魔道具について良い機会だから聞いてみたら如何かな」

 「ああ、そうかそれが良いな」

 俺は考えていた魔道具について質問して何個かは作れそうと言われたので強化魔石五十個を報酬として渡して作って貰う約束をした。


 リグレス公爵の部屋に入ると何時もの人達に加えてクローズさんとニービス卿とニルストさんもいた。

 「此方は帝都への進軍準備は整って何時でも動ける状態だ。ロベールの報告を聞いてすぐに動く心算だったのだが如何やら色々あった様だな」

 香織が抱いているルードルを見て話すリグレス公爵に俺達はルードルの事とサザトラントの事を伝えた。

 「カリーナ殿が責任を持つのならその魔狼は問題無いと考えよう。しかしサザトラントの方は厄介だな。どちらが勝つのかでリラクトンの安全性が変わってしまう。最悪は南から攻められる可能性を考えなくてはいけないな」

 「リグレス様ミリステアに騎士五百と集めた兵士の一割を任せてリラクトンにおいておくのが良いでしょう。出来ればサザトラントに軽く偵察をして動向を探るのと同時に南の町や村に避難準備だけでもさせておけば、もしもの時に迅速に動けるかと」

 「うむそうだな。此処にはメイベル達も残るし護衛もかねて頼めるか?」

 「はい了解しました」

 「では他の皆は予定通りに進軍を開始しよう」

 「お待ちください。契約相手でもない魔狼を帝都に連れて行くのは反対です」

 ニルストさんがルードルを厳しい目で見て言い放った。

 「私が責任を持つのでは信用出来ませんか?」

 「いやそうではない。父上はメルクラント卿を説得する心算なのだ。だが過去にメルクラントは魔狼と戦った事があって今も魔狼の脅威を排除しようとしているのだ。魔狼がいては説得が難しくなる」

 「人間よ魔狼と戦ったと言ったが其れは四百年ぐらい前の警告の事か?」

 「警告だと?儂がメルクラント卿に聞いた話では人を襲う魔狼の討伐に向かった軍の八割が虐殺されたと聞いたぞ」

 「・・・・主に飼われる状態だから主に迷惑を掛けない様に当時を生きて知っている事実を一度だけ人間に話そう。抑々千年前は町など無く、約七百年前に人間が村を作ったのだ。その場所は魔狼の領域に近かったが領域内では無かったので放って置いたのだが、村の人間が増え町になった四百年前に人間達が魔狼の領域に侵入してきたのだ。当時の長達は人間の前に姿を現して警告したが人間は真面に話を聞かずに叫びながら逃げだした。何度か繰り返した後沢山の人間が武器を持って向かって来た。人間が戦いの意思を示した以上魔狼は逃げずに迎撃する事になった。弱い者から挑まれた戦いから逃げる魔狼は弱いとされる。強くなければ発言力がない魔狼では当然の行動だ」

 ルードルの話を聞いた赤帝国の人間は動揺している様だった。厳しい顔をしたニービス卿は静かな声で尋ねた。

 「戦った理由は分かったが何故八割も殺したのだ」

 「二割を見逃したのは魔狼の警告を伝えさせる為だ。戦っている最中にも此処が魔狼の領域だと言って警告していたのだ。抑々それが無ければ魔狼の領域で戦った以上魔狼の秩序に従って全滅させるのが当然だ。しかも見逃した事で長が後に変わる事になったのだぞ」

 忌々しそうに語るルードルに皆は様々な表情で考え込んでいた。特に見逃して長が変わったと聞いて俺達も動揺していた。

 「お前達人間がどう考えているのか知らないが、魔狼には魔狼の秩序がある。今も気づいていないのかも知れないがお前たちは其の秩序に守られているのだぞ。力を基準にしている魔狼が今、子供を傷つけられているのに報復出来ないのは、其処の男が長を倒して力を示した上に子供を助ける事がその男にしか出来ないからだ。その男が人間を殺す許可を出さない以上、如何思っていても耐えるしかないのだ」

 話し終わったルードルが黙り込むと部屋が重苦しい沈黙に包まれた。俺は自分が報復を止めた事が間違いだとは思わないがもう少し魔狼の気持ちに配慮しようと思った。皆が沈黙する中で突然香織がルードルの頭を叩いた。

 「お兄ちゃんは魔狼の子供を助ける為に代償を払っているのに悪く言わないでよね。叩くわよ」

 叩いた後に叩くと言われたルードルは不満そうだが香織に睨まれて沈黙していた。

 「叩いた後に警告するのはおかしいですわよ」

 「フレイ、家では此れが普通なの」

 確かに俺も同じ目にあった事があると考えて苦笑していると皆も如何やら重苦しい沈黙から解放された様だ。

 「貴重な話を聞く事が出来た。ルードル殿には感謝する。私としては此の話をメルクラント卿に伝えるのが良いと思うのでルードル殿には付いて来てもらうのが良いと思うのだが如何だろう?」

 「儂に異論はない。確かに聞いている話とは違う様だし、一度直接話す方が良いだろう。安全に話す機会など普通はあり得んだろうしな」

 「私も反対意見は取り下げます。上手く行けば二人に仲介を頼んで問題を解決出来るかも知れません」

 「では話は終わりにして進軍を開始しよう。クローズは騎士団を率いて先に出発してくれ。予定通り途中の村で合流しよう」

 「了解しました」

 クローズさんが返事をして出て行くと皆が次々と出て行った。俺達もメイベル様とミーミルちゃんに挨拶してロベルトと共に行動を開始した。


 俺は進軍途中の休憩中にクローズさんとロベルトに戦い方を教わっていた。

 「まだ身体能力に頼っているぞ。もっと効率良く体を動かすんだ」

 俺は前の休憩の時にクローズさんに教わっている動きをまねて何とか少しはましな動きが出来る様になっていた。しかしやはりと言うべきか元々剣などの武器を使った事のない俺の動きは強化しないと真面な戦いにならない事が判明した。俺の体の動きから何所に攻撃がくるのかが簡単に分かるそうだ。今まで戦えていたのは強化していたから分かっていてもかわせない速度だっただけの様だ。

 「動きが単調になっているぞ。もっと工夫しろ」

 ロベルトの声が聞こえて慌てて動きを変えて斬りつけた。しかし慌てた剣はアッサリかわされてしまい、反撃の剣が振るわれるのが見えた時に俺は何故か反射的に右に移動してアッサリかわす事に成功していた。自分でも理解出来なかったがその後の攻撃でも何度か同じ様な事があった。俺は何故かわせたのかを考えながらロベルトに挑んでいった。


 「クローズさんお兄ちゃんは如何ですか?」

 私がお兄ちゃんとロベルトが訓練しているのを見ているクローズさんに話しかけると困惑した顔をしながら現状を話してくれた。

 「初めに頼まれて相手をした時は正直言って年下の子供の方がましだと思っていました。ありえない事だと思いますが剣技だけでなく戦い事態の経験がない様に感じられたのです。しかも基礎が出来ていないのに力はあるのでどう教えるか迷いましたが、まずは足の動かし方から教えて避け方を教えました。しかし今目の前で教えた動きをしているのですが偶に動きが変わるのですよ」

 「何か問題があるのですか?私にはお兄ちゃんの動きが悪い様には見えないのですが?」

 「ああ違います、悪い訳ではないですよ。むしろ良い動き何だが訓練を始めたばかりの人間が出来る動きではないんだよ。あんな動きは経験を積んだ者だけが出来る動きなんだよ」

 困惑しているクローズさんにフレイとシグルトが軽い口調で話し掛けてきた。

 「経験なら今積んでいますわ。そして積んだ経験を元にしてかわしているのですわ」

 「僕の契約者になって視力も上がっているから剣の軌道も丸見えのはずなんだ。だから一度経験した攻撃で前と同じ様にかわせば、かわせると理解したのなら如何かわせば良いのか考える必要がなくなって判断が早くなって楽にかわせる様になっただけなんだ」

 「・・・・・・馬鹿な・・・それが本当なら二度目には全ての攻撃が通用しない事になるぞ・・・」

 「今はまだ其処までの経験は積んでいませんし、本人が理解していませんもの。でもいずれはそうなりますわ」

 「人間は寿命が短いから経験を積む事が絶対的な壁の一つになる事を知らないんだ。千年生きていない龍と五千年生きた龍では戦いにならないんだ。五千年の時をかけて培った経験は攻撃を予想する事が出来るんだ。その予測を超えない限り絶対に勝てないんだ」

 シグルト達の言葉に圧倒されながらお兄ちゃんの訓練を見て見ると先程よりまた少し動きが良くなっている様だった。此処は問題無いと思った私はシグルトに伝言を頼むとフレイとルードルを連れて南に移動した。


 「さてと森で採れる食材は取ったけど後は肉があれば文句なしなのよね」

 「肉なら良さそうな獲物のにおいが東の方からするぞ」

 「ありがとうルードル。フレイには悪いけど周囲の警戒は任せたわ」

 「分かりましたわ」

 私達が東に移動すると四メーラ程の猪に似た魔獣がいた。

 「うわ猪なら鍋が良いのかな?其れとも焼いた方が良いのかな?」

 「主よ、ノイビーが突っ込んで来たぞ」

 ルードルの声にノイビーとやらを見ると何とドスドスと音を響かせながら私に体当たりを仕掛けてきた。咄嗟に左に跳んでかわすとノイビーは其のまま直進して木々を薙ぎ倒して行った。反転して来たノイビーは口から咆哮と共に風の砲弾の様な物を飛ばして来た。

 「ルードル」

 名前を呼ぶとルードルが闇の魔法で盾を作って受け止めてくれた。私はその間に風の魔法を使って高く跳躍すると木の枝に立って枝から枝へ飛び移ってノイビーに近づいて行った。そして背中に飛び乗ると水の包丁を突き刺した。刺されたノイビーは一度全身をビクつかせると絶命した。その後調理魔法を使ってバラバラにして空間にしまうとフレイが鹿の様な動物を獲って来たので其れもしまって置いた。

 「主よ先程の戦闘だがノイビーを一撃で殺した様に見えたのだがどうやったのか聞いても良いか?」

 「水の包丁を刺して其処から炎の力を流し込んで血液を蒸発させたの」

 「対抗魔力が発生するのでは?」

 「今までの状況から言うと発生しても其れまでに致命傷になる程の量が蒸発するから問題無いわ」

 「・・・・主は刺せば生き物を殺せるのか・・・・・」

 体を震わせるルードルにフレイは軽い口調で話し掛けた。

 「香織は刺さないと殺せませんわ。私達と一緒にいるのなら此れ位の事なら気にしない方が良いですわよ。何と言っても香織は最強ではないのですわ」

 その言葉に視線を下げて考え込むルードルの頭を撫でて告げた。

 「私はお兄ちゃんのやる事の邪魔は許さないから其の心算でいてね。お兄ちゃんは生物を殺せないけど私は今見せた様に違うわ。最も私も貴方達の様に会話を出来る生物を殺せるかと言われると無理だけどね。でもお兄ちゃんの為なら私は・・・・・。だからルードルにも考えがあるでしょうけど致命的な譲れない事以外は反対しないでくれると助かるわ」

 ルードルが頷いたのを見届けてから私達はお兄ちゃん達の所に戻った。移動中に香織の言葉の一部に目の色を変えていたフレイが小声でさせませんわと呟いたのにはルードルだけが気づいていた。


 「はい、お兄ちゃん猪とキノコなどを使った鍋物だよ。訓練するお兄ちゃんの為にわざわざ獲ってきたのだから沢山食べてね」

 俺は今香織に渡された料理を食べて熊肉に比べると多少劣るが此の肉も十分美味しいなと思って食べていた。周りを見ると夜の野営の準備をしている時に香織が肉などを出してリグレス公爵達の許可をとって兵士にも配らせたので皆美味しそうに食べていた。ただロベルトだけが料理をジッと見つめているのを見て不思議に思って尋ねてみると反対に尋ねられた。

 「なあ此の肉は何の肉だ?一口食べてから俺は嫌な予感がするんだが・・」

 「うむそう言えば儂も聞いていなかったな」

 「父上私達も聞いていませんでした」

 「いや一応バルクラントの兵を統率する者として儂は聞いたが、猪と言われて良く分からなかったのだ。だが兄の為に獲ってきたと言う食材を分けて貰って疑うのはと思って詳しく聞かなかったのだ」

 「くくく、何だ皆猪と言うのが何なのか聞かなかったのか?私は聞いたぞ。私が言っても良いかね」

 香織が頷くのを見たリグレス公爵が意地の悪い笑みを浮かべながら告げた。

 「猪とはノイビーの事だ」

 一瞬の静寂の後驚愕のざわめきが広がった。茫然とする者や嘘だろと叫ぶ者が続出した。一人ロベルトがため息を吐いて冷静に声を出した。

 「一口食べた時からそんな事だと思っていたぜ。前にも知らない間に熊肉を食べさせられたからな」

 食材を知って安心したのかロベルトは勢い良く食べるとお代わりを求めて来た。俺は其れを見て香織に視線を向けると意味を理解した香織が俺達の方の鍋からお代わりを渡した。

 「あれこっちの鍋にはキノコが入っているんだな?中々美味しいじゃないか」

 「そうだろう俺の為に採ってきてくれたんだ。そのマクタケをな」

 俺の言葉に再び辺りに静寂が訪れた。今度はロベルトも凍り付いていた。マクタケはキノコだが特性として強い魔獣が傍にいる事が多く採取に危険が付きまとうのだ。結果美味しいのになかなか採れずそれなりの値段がするのだ。

 「実はあと一つある。ロベルトにあげよう」

 俺が投げるとロベルトは反射的に受け取った。皆の視線がロベルトに集まった。混乱したロベルトが動こうとしないのを見たミルベルト卿が声を掛けた。

 「まさか自分だけ食べて儂らには食べさせない心算か?」

 我に返ったロベルトは急いで切ると鍋に入れて必死に皆に配っていた。其れを見た周りの兵士達も笑いながらくつろいでいた。配り終わったロベルトが近づいて来て話しかけてきた。

 「お前な先程の皆の視線はヤバかったぞ」

 「まあ一人だけ冷静にお代わりを要求した所為だと思っておけよ。其れに場の雰囲気が大分和らいでいるだろ。元々戦っていた者達が一緒に行動しているから何処か重たい雰囲気だったしな」

 「はあ、ただの悪質な嫌がらせなら怒れるのにそう言う事を言われると怒れないだろが」

 「悪いな、くつろげるのは今日が最後だろう。明日の夜には帝都に着くから次の朝に始まる戦いの事を考えて、くつろぐのは無理だしな」

 仕方ないなと言う表情で頭を掻くとロベルトは俺と暫く話をして自分のテントに戻っていった。俺も香織達と共にテントに戻って眠った。次の日も俺達は訓練をしながら行軍して、その日の夜には予定通りに帝都にたどり着いた。俺は戦いを前に今度も上手く行ってくれと心の中で考えていた。

申し訳ありませんが30、31と執筆が出来ません。よって次話の投稿は2日か3日にさせていただきます。読者の皆様にはご迷惑をおかけしますが今後ともよろしくお願いします。

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