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契約者達と日常と二人のいない異世界

 「ただいまーお父さんお母さん今帰ったわ」

 転移してすぐに家で待っていた両親に香織が明るく話し掛けた。

 「怪我はしていない様だな。二人とも無事でよかった」

 「戦争は大丈夫だったの?」

 「今の所は上手くいっているよ。今度は帝都に進軍する事になっているけど」

 「別の町で沢山の死者を見る事になったんだけど直哉の指揮で戦った戦争は死者は出ていないんだ」

 「今の所は本当に全て無事ですわ」

 シグルトの言葉に顔を顰めてからフレイの言葉にホッとして安心している両親には悪いと思いながら俺はファーレノールであった事を事細かに伝えた。俺が話した内容を聞いて両親は怒り、悲しみ、心配、不安など多くの表情を浮かべて最後は複雑そうな表情をして苦笑いを浮かべていた。

 「二人に言っておくが信頼関係は作るのは大変だが失うのは一瞬だったりする。他にも同じような事は沢山あるし、しても取り返しが付く失敗としたら取り返しが付かない失敗もある。二人も命がかかっている時はお互いの事を考えて行動すれば無理は出来なくなるから常に頭に入れて行動する様にしろ」

 父さんの言葉に神妙に頷く俺達だが次の母さんの言葉に逃げ出したくなった。

 「直幸さんが言うと説得力があるわね。私が妊娠して此れから子供の養育費がかかるからお金を貯めないといけないと言っている時に隠れて高いお酒を買って私の信頼を地に落とした事があるもの」

 「・・・・いやあれは滅多に手に入らないお酒だったし養育費はちゃんと別に貯金していたし・・・」

 「そうね、私も一万や二万でがたがた言う心算は無かったけどあの時のお酒は桁が違ったわよね。あれからお酒については信用しない事にして今は医者に言われて禁酒しているはずだけど、もしかしてと思って調べて見たら此の前も出てきたものね」

 「・・・・・・・・・・」

 父さんが何も言えなくなったあと表情を改めて母さんが話し掛けてきた。不覚にもビクついてしまったが取り繕って話を聞いた。

 「ねえ直哉、香織分かっているとは思うけど言っておくわ。あちらの世界で犯罪者を捕まえたからと言って此方でもやろうとはしないわよね。犯罪者を捕まえるのは警察で貴方達は学生なんだからね。私は呼び出されたりする様な波乱はいらないわよ」

 「冗談じゃない。自分から犯罪に関わったりする訳無いだろ。なあ皆」

 「勿論よ。お母さんも心配が過ぎるわよ」

 「僕も確り見張っているんだ」

 「私が何かあったらご報告しますわ」

 「あらフレイさんありがとう。ちゃんと報告して頂戴ね」

 母さんと話していると何とか復活した父さんが忠告の言葉をかけてきた。

 「直哉が戦いの作戦を考えたそうだが此方では思考を切り替えておけよ。じゃないと対応を失敗する事になるぞ。過激な対応をしてお前が警察のお世話になるなど許さないからな」

 「・・・気を付ける」

 俺は一瞬ギョッとしてから確かに気を付けて置こうと思った。此方の世界での居場所がなくなるのはごめんだ。父さんが俺の目を見て頷くと話を変えた。

 「さて無事に帰って来たんだ。話は此れ位にしてご飯を食べて風呂に入って寝ろ。明日はテストが返却されるはずだろ。直哉は香織との約束の事も考えて置くんだな」

 「うふふふふ、今回は頑張ったのよ。確実に良い点がとれているわ。お兄ちゃんとの約束が楽しみだわ」

 今まで戦争などで忙しくて忘れていたのにわざわざ思い出させた父さんを軽く睨んでから嬉しそうに笑う香織の声を聞いていた。その後やるべき事をやってから眠った俺は明日の学校の騒動の事など知るはずもなかった。


 「直哉殿達は行ったな。なら今すぐ始めるとしよう。メイベルはミーミルと此処に居てくれ」

 「分かりましたわ。ミーミル私と一緒にクッキーを作りましょう。香織から作り方と材料を貰って置いたのです」

 「本当ですかお母様。すぐに作りに行きましょう」

 二人が調理室に向かうのを見てからリグレス公爵とロベルトは地上に向かった。地上では大勢の神官達が拘束されて喚いていた。喚く神官達と一部の重犯罪者の声を無視して二クーラ程待つと犯罪者の処罰を見にきた人々は大半が集まった様だ。

 「此れより犯罪者の処刑を執り行う。此処に居る者達は何の罪もない人や特に子供を死なせる様な重大な犯罪に関わっていた者だけだ。今ロベール殿とカリーナ殿は龍の里に一時戻っていてリラクトンにはいない。だから今処刑しようと思う。あの二人は人の死を嫌う性格だし、まだ年齢的に子供だ。汚い部分は本来私達大人が背負うべき物だと思う。だから今日此処での事は二人や子供達の耳には入れない様に配慮してほしい」

 私の言葉に如何やら反論は無い様で静かに聞いている人々に一安心していると処刑されると聞いた神官達が激しく喚き始めた。

 「我ら神官を殺すなど神を冒涜する行為だぞ。天罰が下るぞ。即刻解放するのだ」

 「そうだ。我らが何をしたと言うのだ。説明しろ」

 「不当に拘束されただけでも許しがたいのに処刑するだと?何を考えているのだ」

 喚く神官達を騎士団の者達が黙らせてから私は状況を理解していない神官達に炎の事も含めて教えた。神官の三分の一は其れで黙ったが他の者は更に喚き始めた。

 「そんな炎が存在するはずが無い。我らを貶める為の出まかせだ」

 「そうだ、邪神の炎に騙されるなど神の怒りを買うぞ」

 「裁くと言うなら我らではなく公爵の方だ。我らは公爵の不正を調べていたのだ。其れに気づいた公爵が先手を打って我らを口封じに殺す心算なのだ。民衆よ騙されるな。諸悪の根源は公爵なのだ」

 喚く神官に対して私が何かを言う前に其れを聞いていた人々から罵声がとんだ。

 「ふざけるな、お前達がやっていた事は全て分かっているんだぞ」

 「そうだ水を売っていた事も聞いたぞ。俺の知り合いも満足な治療を受けられないでお前たちに騙されて死んだんだぞ。此の人殺しが」

 「見苦しいわよ。邪神は貴方達の様な人が崇めている神の方よ。金の炎を使って真実を見定める彼女の方がよっぽど女神や聖女と呼ばれるのに相応しいわ」

 人々の憎悪の籠った罵声に晒されて怯えて黙り込んでから喚いていた神官達は自分達が助からない事に気づいた様だ。私は感情を殺して刑の執行を始めた。半数程の処刑が終わって此処にいる神官の中で三本の指に入る大物が前に引っ立てられてくると彼は私に話し掛けてきた。

 「リグレス公爵よ、我らは此処で死ぬが国教を司る我ら神官に対してこの様な事をした貴様も此処にいる愚民も帝都にいる五大神官様が持つ神の力で必ず滅びが与えられるだろう」

 「神の力とは契約石の事か?其れなら対処する方法はあるからいらぬ心配だな。あと私はすでに赤き太陽教を国教とは認めていない。私がこの後の帝都での戦いに勝ったら貴様らが行っていた事を万民に明かして教会ごと排除する予定だ」

 「・・・馬鹿な。その様な事をしたら誕生の祝福から始まる教会が担ってきたものはどうなるのだ。葬儀もしないと言うのか?信仰は如何なる?」

 「無くなったあとで人々が求めれば新しい信仰が生まれるだろう。私も良い部分まで捨て去る心算はない」

 「新しい信仰だと?その様な物認められるか」

 「認める認めないは人々が決める事だ、お前達神官ではない。お前達神官がやっていた事はあまりにも酷すぎた故に地に落ちた信仰が戻る事は無いだろう。そして私が思うに赤き太陽神が正しく神なら自らに対する信仰心を地に落としてしまった者を許すとは思えないな。神官は死した後、神の元に行けるそうだが神が自分達を温かく迎えてくれると思っているのか?」

 私の言葉に体を震わせて怯える神官の目は絶望を宿している様に見えた。他の神官も黙って俯いていて如何やら自分達がした事が何なのかようやく理解した様だ。その後は静かに刑が執行された。

 「此れで此度の刑の執行は終わりだが今後も沢山の犯罪者が出てくるだろう。私は此度の様に全ての罪人を正式な手順を踏んで裁くが裁く時は此方で決めさせて欲しい。最初に言った様に子供達への配慮からで罪を見逃す心算はない。如何か理解してほしい」

 私が頭を下げて頼むと人々から同意の声が上がった。感謝してから解散を告げると人々は足早に去って行った。残された私と騎士団の者達は後始末をしてそれぞれの仕事に戻った。


 「お兄ちゃん早く起きてよ」

 今日も香織の声で目覚めた。此れが聞こえると一日が始まった気がしてスッキリ目覚められるから、声が聞こえるまで自分で起き様としないのは心の中の重大な秘密の一つだ。

 「おはよう香織。今から着替えて下に行くから先に行ってくれ」

 「お兄ちゃんはコーヒーで良いよね」

 「ああ任せる」

 「僕の分も入れて欲しいんだ」

 「分かったわ。入れておくから早くきてよ」

 香織が部屋から出てすぐに着替えて鞄を持って急いで下に向かった。

 「直哉私はもう出かけるから後はお願いね」

 下に降りると母さんが俺に声を掛けて仕事に行く為に家を出て行った。

 「はい、お兄ちゃんシグルト、コーヒーだよ。フレイは紅茶ね」

 香織からコーヒーとついでにバナナを受け取って食べているとテレビで占いがやっていて俺も香織も最悪の運勢の様だ。しかも香織の占いでは約束を破られるかもとか言っていたので香織の視線が痛かった。食事を食べて何時もの様に学校に行くとテストの順位が発表されていて騒がしかった。俺が香織と別れて教室に向かうと明人が気づいて話し掛けてきた。

 「やったな直哉。ほらあそこの順位表にお前の名前が一番に書いてあるぞ」

 明人が指さしている方を見て順位を確かめると確かに俺が一位の様だ。正直言って一番になれたのは嬉しいが契約者になったおかげもあるので素直に喜べなかった。

 「ああ、なんか実感がわかないな。確かに一番の様だが」

 微妙な表情の俺を見て明人が苦笑すると肩を竦めて声を出した。

 「やれやれ俺は百位以内に入っていないから名前も載っていないってのに贅沢だぞ」

 「すまないな、それより明人は明美ちゃんに怒られない点はとれそうか?」

 「クッ余裕を見せやがって。此れから返却されるテスト用紙の処分方法を考えている所だよ」

 如何やら明人はかなりヤバい様だ。途端に落ち着きがなくなっていた。チャイムがなって担任の教師が入ってきた。伝達事項を告げ終わって何時もなら出て行く教師が俺の名前を呼んだ。嫌な予感がしたが話を聞く事になった。

 「お前には悪いが放課後に残ってテストを受けて貰う」

 「???如何言う事ですか?」

 「俺は担任だしお前の事も其れなりに知っているから証拠もないし反対したんだが今お前と妹には不正の疑いがかかっている」

 教師の言葉にクラスがざわついて俺に視線が注がれた。香織も疑われていると聞いて叫びそうになったがグッと我慢して問いかけた。

 「俺は不正なんてしていませんが香織まで疑う以上理由を教えてください」

 「今回のテストには誤って一部の問題に習っていない部分が混じっていたんだ。しかしお前は全てのテストで満点だった」

 「いや待ってください。其れだけなら学校以外で習ったとか色々考えられるのでは?」

 「俺もそう言ったんだが一年の担当の教師が騒いでいるんだ。兄妹そろって全て満点なんておかしいと言っている。事の発端は一年には天才がいるそうでその生徒ですら点を落としたのに満点なんておかしいとの発言からなんだ。妹の方は詳しくは知らないが俺は何時も上位の順位にいるお前なら一番になってもおかしくないと考えている。だが職員会議では結局無難に教師が立ち会って二教科程テストして問題がなければ・・と言う事になった」

 俺は皆には見えないシグルトと視線を合わせるとため息を吐いて面倒な事になったな、確かに運勢最悪だと思った。

 「分かりましたテストを受ければ良いんですね」

 「ああ悪いが受けてくれ。問題無ければ二度とこんな事が起きない様に俺がしておく」

 そう言って教師が出て行くと教室が途端に騒がしくなった。

 「直哉も災難だな。一番になるなんて無理な俺には関係ないが」

 「まあ担任から疑われたのでは無いのが救いだな。明人なら疑われそうだが」

 俺の言葉に渋面を作る明人に笑いながら話を続けた。

 「心配してくれた事には感謝するが大丈夫だ」

 「そうか?ならいい」

 俺達の話を聞いていた周りも少しは落ち着いた様だ。良くない視線も感じられたが今は大分減ったのが感じられた。俺はその後普通に授業を受けて昼休みに香織の愚痴を聞く破目になった。


 「聞いてよお兄ちゃん、教室に入ったら皆が疑いの目を向けるんだよ。明美と数名の友達は慰めてくれたけど本当に腹が立つわ。特にうちの担任の態度は最悪だよ。始めっから疑っているのを隠そうともしていないんだよ。そりゃあ私がいきなり一番になったら皆が驚愕するとは思ったわよ。でも不正を疑われるなんて思ってもいなかったわよ。おまけにお兄ちゃんも巻き添えになっているし」

 「まあ俺の事は気にするな。放課後にテストを受けて満点をとれば良いだけだからな。今の俺達ならどんな問題が出ても解けるだろ」

 「其れはそうだけど、感情が収まらないんだよ。何が「貴女が彼女を超えて一番などあり得ません」よ。放課後のテストで目に物を見せてやるわ」

 苛立っている香織を見てから一緒にいたフレイにその時の事を聞くと不愉快そうな口調で話してくれた。聞くと確かに担任の女の態度は酷いものだった。俺も話を聞いて香織を初めから疑っていて決めつけている様に感じていた。

 「放課後のテストは全力でやろう。今の俺達なら半分の時間で終わらせる事が出来るだろ」

 「エッそんな事したら大騒ぎになるわよ、お兄ちゃん」

 「まあ任せて置け、何とかする」

 その後は皆で楽しく話ながら弁当を食べた。


 「さあ、始めてください。私達が見ているのですから二人共おかしな真似をしてもすぐに分かりますからね」

 香織の担任の刺々しい声が響いた。俺の担任が声に顔を顰めるのが見えた。俺達がテスト時間の半分で終わらせてテスト用紙を提出すると見ていた教師達の顔色が変わった。

 「終わったと言うのですか?見直さなくて良いのですか?」

 「構いません。早く採点してください」

 香織が強い口調で言うと採点が始まった。疑っている教師が採点すると絞り出す様な声で告げた。

 「・・・二人共全問正解です・・・・」

 香織と顔を合わせてホッとしていると香織の担任が声を出した。

 「如何言う事ですか?何をしたのです。貴女の前回の順位は確か五十位を超えた位のはずです。明らかにおかしいではありませんか。担任である私には分かります。何かずるい事でもしなければこんな結果が出るはずがないのです」

 混乱して取り乱して話す姿を見て俺は気づいた。此の教師は其れなりの年月を教師として過ごして自分の生徒を見る判断に絶対の自信を持っていたのだ。しかしその判断が枷となっていて契約者になった事で能力が劇的に変化した香織を許容する事が出来ないのだ。何とも言えない気持ちになった俺は考えを変えて話しかけた。

 「この状況でずるなど出来ない事はお判りでしょう。今見た事をありのままに受け入れてください。それと生意気に聞こえるかも知れませんが、先生の判断に全ての生徒が収まる事はないと思います。兄として言いますが香織の事を最も理解しているのは俺だと思います。その俺からすると今回の事はおかしくなどないのです。例えば此の俺のテストの問題ですが香織にも解けると言ったらどうしますか?」

 香織に目配せをして解かせると見ていた教師達が驚いていた。

 「・・・・お兄さんが言う言葉が正しい様ね。でも今ので別の疑問ができたわ。何故其れだけの学力を隠していたのかしら」

 「隠してなんかいませんよ。今回のテストの時の私はお兄ちゃんと一緒に勉強していて、前のテストの時は勉強しないでお兄ちゃんの好みの料理レシピを考えて作っていたからだと思います」

 香織の言い訳に教室に重い沈黙が訪れた。教師達の窺う様な視線に俺は目を合わせられなかった。シグルトとフレイの同情の視線がとても痛かった。

 「今とんでもない問題発言があったがテストの問題は解決したので今日は此処までにしよう」

 俺の担任の声で此の場は解散になって家に帰る事になった。そして今俺達は帰る途中で心配して待っていてくれた明人と明美ちゃんの二人と話をしながら帰っていた。

 「悪かったな心配をかけて。俺も香織も御咎め無しだ」

 「そっかまあ直哉達なら大丈夫だと思っていた。俺としてはむしろ今回は香織ちゃんの事もあったから直哉が暴走しないかの方が心配だったな」

 俺の香織に対する気持ちをよく知っている明人の言葉に顔が引きつるのが止められ無かった。

 「もう兄さんはそんな事言って、本当は二人が出てくるまでオロオロしていたのよ」

 「ほう、オロオロする明人か見て見たかったな」

 「お兄ちゃんもそんな事言ったら心配してくれた明人さんに悪いよ。明人さん心配してくれてありがとうございます」

 真面目な顔でお礼を言う香織に明人は顔を赤くして照れていた。明人の隣にいる明美ちゃんの顔が其れを見てムッとしている様に見えた。気づいていない明人に肩を竦めると声を出した。

 「なあ時間はあるか?あるなら心配して待っていてくれた友人にケーキでもおごらせて貰おう。香織がだが」

 「ええーーお兄ちゃん酷いーー」

 「冗談だ、俺が自分でおごるに決まっている」

 叫ぶ香織を見て笑いながら二人に聞くと時間は問題無い様なので皆でケーキを食べてから別れた。確りとシグルトとフレイの分はお持ち帰りで買っていった。

 家に帰って来た俺達は帰宅した両親に学校での事を報告すると何をやっていると言われてため息を吐かれた上に小言を言われて眠る破目になった。母さんの小言が長かったのはシグルト達が食べたケーキの箱を見た所為ではないと思いたかった。


 そのころ某所で密談が行われていた。

 「如何やら上手くいきそうじゃな。サザトラントが分裂するのは確実だ。リラクラントの方が上手く行っていない様だが此れで問題あるまい。儂らが陰から手助けして誘導すればリラクトンに南から攻め込ませる事も出来るかも知れないのじゃ」

 「ガルトラントへの侵攻準備は終わりました。後は帝都で事態が動くのを待つだけです」

 「例の力の持ち主はリラクラントにいる可能性が高そうです」

 「やはりそうなのか、リラクラントが上手く行っていないのはその所為かも知れんな」

 「其れより聞いたか?怖じ気付いて隠居した奴が出たのを?」

 「奴の事か?全く愚かな事だな。計画は順調に進んでいると言うのに」

 「奴らにはそれ相応の罰を与えれば良い。そんな事より帝都は時間の問題だそうだ。五大神官の奴らが此方に逃げてくるらしいが如何するかね」

 「正直最早いても居なくても如何でもよいのだがな。奴らは本気で信じているのか?あの馬鹿げた取引を」

 「ああ、あれか?大神殿を作って国教にして我らの富の半分を渡すと言う冗談の事か?」

 「ははは、いくら何でも本気にはしていないさ。本気にしているとしたら本物の救いのない馬鹿だろ」

 部屋の中に嘲笑う声が響いた。

 「牢から逃してやったバルマーあたりに命じて処分させるのが妥当では?」

 「いやいや此処まで連れて来て貰おう。開発中のあれが完成しそうなのだ。何でも奴らは契約石の中に入ると至福の中で罪が許されると言っているそうです。入れてあげるのが罪を犯している彼らに私達が与えられる救いでしょう。何より資源は無駄にしてはいけません。損をしてしまいます」

 「資源ねえ、まあ良いけど。完成したら試射は如何するんだい」

 「実戦で行いますよ。ガルトラントの侵攻が終わったら其処の防衛の為に配置する予定です。取り戻そうとやってくる奴らを一撃で殲滅してご覧に入れますよ」

 「期待しているぞ。では話は此れまでとして其々がやるべき事をするとしよう」

 皆が部屋を出て行ったあとに男と女が一人ずつ残った。

 「此のまま順調に行くと思うかい?」

 「無理だろうな。皆認めようとはしないが今も一部とはいえ上手く行っていないんだぞ。完成する物がどれ程の威力を持つかで決まるだろう」

 「なら最悪の事態も想定して逃げる手筈も必要かねぇ」

 「いや、帝都が計画通りになれば赤帝国も此方に攻める事は出来ないから必要ない。問題は失敗した時の混乱で責任の擦り付け合いに巻き込まれない様にする事だ」

 「年寄り共は若い私達が目障りみたいだし良い機会だと責任を押し付けてくるだろうね。此処は隠居した奴に押し付けるのが安全かね」

 「ああ手筈は整えておく。失敗した時の事を考えて出す資金は程々にしておこう」

 二人は視線を合わせて頷くと何もなかった様に別々に去って行った。


 帝都の大神殿では五大神官が話し合っていた。

 「報告が来ない事を考えるとリラクトンは失敗したのじゃろう」

 「バルクラント卿も敗れるとはふがい無いのう。メルクラント卿は如何するのかのう」

 「まあ良いではないですか。儂らにとってはどちらが勝っても関係ないでしょう」

 「グフフ、確かにどちらが勝っても此の赤帝国に未来などないのじゃ」

 「皇帝が神の言う事を大人しく聞いていればこの様な事にはならなかったのにのう」

 「全くですな。偉大なる神の言葉を無視するから天罰が下ったのです。死んだ皇帝も今頃地獄で悔やんでいるでしょう」

 「では手筈通りに戦いが始まったら地下通路を使って逃げるとしましょう。私としては早くこの危険な帝都から逃げだしたいですがね」

 話していた五大神官達の顔に一瞬だが不安が見えた。不安を振り払う様に一人が声を出した。

 「しかし儂としては仕方ない事とはいえ移動が面倒じゃな。周りにばれない様にする為とはいえ連れて行く者も少数で快適な移動など出来ないじゃろ」

 「全くです。我らを何だと思っているのか。出迎えぐらいは寄こして欲しいですな。今回の謀の所為で失う資産はかなりの金額ですよ」

 「まあ向こうに着いたあと神の偉大さを奴ら教えて寄付させれば良いのです。奴らも喜んで神の為に働いてくれるでしょう」

 「全ては偉大なる神の為にじゃな」

 五大神官は頷き合うと逃げる為の準備を始めた。密かに持っていける物は限られていたが其れでも五大神官の指示でかなりの金銀財宝が隠されて運び出されていった。


 「お母様いる?」

 「如何したのアリステア。今は忙しいのでしょう」

 「まあ忙しいのはそうだけど今日はお母様に用事があって来たのよ」

 そう言って私は強化魔石を机に置いて話し掛けた。

 「此れは強化魔石と言うの。此れは保冷庫を一年動かす事が出来るらしいわ」

 「・・・・・・・・・」

 お母様は無言で愁いを帯びた目で強化魔石を見つめると話を始めた。

 「アリステア貴女は明らかに騙されているわ。私も魔法使いとして魔石を強化出来ないかと思って試行錯誤したわ。でも魔石は結晶化しているとはいえ魔力なのよ。強化すると言うけれどそれは魔力を増幅して増やすと言う事なの。其れをするには一定以上の力が必要なのよ。人間には不可能なのは確認済みだわ。無魔力を使う事も考えたけどそれが出来るなら魔石を量産出来る様にする方が簡単なの。勿論今もそんな事は出来ないわ。結論として人間には無理なのよ」

 悔しそうに陰のある表情で言うお母様に私は笑顔で告げた。

 「安心して良いわお母様、私は騙されてなどいないわよ。此処だけの話として聞いて他言しないで欲しいのだけど此れを作ったのは契約者で特殊能力を使って作ったのよ」

 お母様は目を見開くとマジマジと強化魔石を凝視していた。そしてランランと目を輝かせると私に勢いよく尋ねてきた。

 「その契約者に会う事は可能かしら?あと此の強化魔石を貰えないかしら」

 「強化魔石は元々お母様に渡す為に貰って来たのよ。あと会いたいならロベルトに頼めば簡単よ」

 そう言って私は今までの事をお母様に話して聞かせた。話を聞いたお母様の行動は驚くほど素早かった。必要な物をそろえると私に向かって告げた。

 「さあ何をしているの?会いに行くわよ」

 久しぶりに見た元気良く声を出して今にも私をおいて一人で行ってしまいそうな、お母様に苦笑して歩き出した。


 「お前は儂を問い質さないのか?いくらお前でも徴税権の事を知らないはずがないだろう」

 「親父さんは俺達と約束した以上、二人を守ってくれるだろ。必要なら親父さんの意思で話してくれるはずだ」

 俺が親父さんを見ると静かに話を始めた。

 「此れからの二人の行動が儂には分からないから今は様子見だ。公爵も考えはあるが無理強いはしないと言っている。どちらにしても戦いが終わらない事には如何にもならん」

 「そっか、ならその時に助けが必要なら助けるとするさ。親父さんも頼んだぜ」

 「ふん、言われるまでも無いわ」

 そう言う親父さんに酒を取り出して渡すと一緒に飲み始めた。二人で良い気分で酒を飲んで話をしていた俺が後で酔っ払ってアリステアの事で口を滑らせて追い掛け回される事になるのを今の俺は知らなかった。

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