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私は親友と一緒に転生しました  作者: Black Spice/ブラック・スパイス
魔法の習得
13/13

不穏な依頼

 最も差し迫った危機は、ひとまず去った。


 クライは生きている。


 マリアダも休んでいる。


 だが、これまでに起きたすべてのことからレイナが立ち直る間もなく、新たな問題が屋敷の門前に現れた。


 シュガルが、キエラと冒険者の一団を連れてやって来たのだ。


 シュガルは何の用で来たの?


 屋敷の前で待ちながら、レイナはそう考えていた。


 中庭には、先ほどの戦いの爪痕がまだ残っていた。


 外壁の一部は崩れ落ち、広い瓦礫の山となっている。


 石畳には亀裂が走り、砕けた氷と焼け焦げた地面が、レイナやカリュドール、そして虎が魔法を使った場所を示していた。


 傷ついた壁の近くには、鉄牙猪の巨大な死骸が残されている。


 硬化した泥の鎧は裂け、雷によって黒く焦げていた。


 ここで何が起きたのかを隠すことなどできなかった。


 レイナはそのすべての中心に立ち、腕を組んでいた。


 ほどなくして、シュガルが近づいてきた。


 その隣にはキエラが歩き、数人のBランク冒険者が、二人から礼儀正しく距離を置いて後に続いている。


「こんにちは、シュガル」


 レイナは愛想よく言った。


「今日は何のご用かしら?」


「こんにちは、レイナ」


 シュガルは彼女を頭の先から足元まで見回した。


 疲れた顔。


 乱れた服。


 そして、ブーツにわずかに残る乾いた血の跡。


 彼の視線は、その一つ一つに留まった。


「ひどい姿だな」


 彼は言った。


 レイナは微笑んだ。


「あなたも、恐怖でどうにかなりそうな顔をしているわよ」


 二人の間に、奇妙な沈黙が流れた。


 どちらの笑みも崩れない。


 互いに、自分がどこまで知っているのかも、どれほど心配しているのかも明かそうとはしなかった。


 シュガルは、レイナが自分から説明するのを待っている。


 レイナは、シュガルが訪問の目的を明かすのを待っていた。


 どちらも、会話の主導権を譲るつもりはなかった。


 そして、ほとんど同時に。


「ふふふふ……」


 二人は同じように笑った。


 友好的な笑いではなかった。


 少なくとも、完全には。


 それは、互いに何も隠していないふりをする二人の笑い声だった。


 特にレイナは、慎重でいなければならなかった。


 シュガルが何を突き止めていたとしても、クライの話にまで踏み込ませるわけにはいかない。


「二人とも、いつまでふざけているの?」


 キエラが言った。


 レイナの意識が、すぐに彼女へ向いた。


「キエラ!」


 キエラが身構えるよりも早く、レイナは駆け寄り、両腕で彼女を抱きしめた。


「あら、この可愛い顔!」


 レイナは自分の頬を、キエラの頬へすり寄せた。


「会いたかったわ」


「ちょっと、やめなさい」


 キエラは顔を離そうとした。


 だが、本気で逃れようとはしていなかった。


「私はもう立派な大人よ。私たち、ほとんど同い年でしょう」


「でも、私の友達でもあるわ」


「……」


 キエラの唇に、かすかな笑みが浮かんだ。


 レイナはそれを見逃さなかった。


 そして、頬ずりはさらに激しくなった。


「レイナ、やめなさいと言っているでしょう!」


 そう抗議しながらも、キエラは本気で怒っているようには聞こえなかった。


 人前では決して認めようとしないだろうが、レイナとの再会を喜んでいるのは明らかだった。


 集まっていた冒険者たちの間に、ざわめきが広がった。


「あれが……『吹雪の女王』、レイナ・スタシア」


「いや、『氷の母』じゃなかったか?」


 どちらの異名も、同じ女性を指していた。


 ただ、どちらの名で呼ぶかは世代によって違っていた。


 古参の冒険者たちが覚えているのは、その氷で戦場を丸ごと呑み込んだ『吹雪の女王』だった。


 若い世代が知っているのは、息をするのと同じほど自然に氷を操る、伝説のSランク冒険者『氷の母』だけだった。


 その伝説の人物が今、ギルド書記官と頬をすり合わせている。


 冒険者たちは全員、Bランクの記章を身につけていた。


 だが、その瞬間だけは、調査に来た一団というより、憧れの人物を前にした観客のように見えた。


 レイナは片方の眉を上げた。


「何なの、シュガル? 私のファンクラブまで連れてきたの?」


 レイナはようやくキエラを解放し、シュガルの方へ向き直った。


「何かあったの?」


 シュガルの表情が真剣なものへ変わった。


「ああ。俺たちは答えを探しに来た」


「答え?」


 レイナは片腕をキエラの肩へ軽く回したままだった。


 シュガルが一歩近づく。


「今日、ヴィスマギアの各地で人々が意識を失った。調べたところ、周囲の大気からマナが吸い取られていたことが分かった」


 その声は落ち着いていたが、先ほどの異変が彼を悩ませていることは明らかだった。


「攻撃なのか、自然に起きた異変なのか、それとも、さらに悪い何かなのか。誰にも分からなかった。町全体が混乱に陥った」


 彼は一度息を吸った。


「そして、マナの流れを辿った結果、ここに行き着いた」


 レイナの笑みがわずかに薄れた。


「……」


 シュガルは回りくどい探り合いをするつもりはなかった。


「レイナ」


 彼は言った。


「なぜ、あれほどのマナがこの屋敷へ流れ込んでいた?」


 中庭に沈黙が広がった。


 集まっていた冒険者たちでさえ、囁くのをやめた。


 レイナは頬をかき、視線を横へ逸らした。


「ええと……」


 彼女は言いよどんだ。


「ほら、よくあることでしょう。魔法の練習をしていたのよ」


 シュガルは彼女を見つめた。


「……つまり、あの異変を引き起こしたのはお前なのか?」


「そうよ」


 再び、沈黙が流れた。


 誰も何も言わなかった。


 説得力のある答えではなかった。


 それでもレイナは、この上なく妥当な説明をしたかのような顔で立ち続けていた。


 その時、キエラが一歩前へ出た。


「レイナ」


 レイナは彼女の方を見た。


「私たちは、鉄牙猪のことを知っているわ」


 レイナの目が細くなる。


「それから、あの虎のことも」


 キエラが付け加えた。


 ほんの一瞬、レイナの目が見開かれた。


 それから、長く重い息とともに、肩から緊張が抜けていった。


 彼女は顔を伏せ、隠すよりも早く安堵を表情に浮かべた。


 だから、ここへ来たのね。


 クライのことは知らない。


 レイナは再び顔を上げた。


「もう、戦いを隠そうとしても意味はなさそうね」


 シュガルは、黒く焼け焦げたカリュドールの巨大な死骸を手で示した。


「いったい何を隠すつもりだったんだ? 中庭の真ん中に転がっている、芯まで黒焦げになった巨大な猪か?」


「あら、素晴らしいわ。皮肉まで覚えたのね」


「なぜ俺たちに嘘をついたのか、それを理解しようとしているんだ、レイナ」


 シュガルは片手を上げ、彼女が冗談で話を逸らそうとするのを遮った。


 レイナは目を閉じた。


「聞いて、シュガル。キエラ」


 その姿勢から力が抜け、声にはわずかな後悔が滲んだ。


「詳しい事情は話せないわ」


 シュガルの表情が強張った。


「でも、ここで起きたことが何を引き起こすか、その可能性を見落としていた」


 レイナは続けた。


「それは私の責任よ」


 彼女は崩れた壁と、荒れ果てた中庭へ視線を向けた。


「鉄牙猪とあの虎は、この屋敷で暮らすすべての者にとって、深刻な脅威だった。あの異変を引き起こした魔法も、私たちがこの状況を生き延びられたことと関係している」


 すべてが真実というわけではなかった。


 だが、真実に十分近い説明ではあった。


 レイナはわずかに頭を下げた。


「ヴィスマギアに迷惑をかけたことは、謝るわ」


 シュガルは黙っていた。


 ただレイナを見つめ、彼女の言葉の一つ一つを見定めている。


 ごめんなさい、シュガル。


 迷惑をかけたことだけじゃない。


 あなたに、すべての真実を話せないことも。


 レイナがそう考えている間、キエラは彼女をさらに注意深く観察していた。


 その謝罪には、どこか違和感があった。


 それを口にした人物には、あまりにも似つかわしくない。


「いつから、そんなに素直に謝るようになったの?」


 キエラが尋ねた。


 レイナは目を開いた。


「何?」


「あなたは滅多に謝らないでしょう」


 キエラは続けた。


「自分が間違っていると分かっている時でさえ」


 レイナの頬が引きつった。


「あなたが心から謝るのを聞いたのは、誰かの代わりに責任を負おうとしていた時だけよ」


 その指摘は、レイナが思っていた以上に核心へ迫っていた。


 数秒の間、彼女は何も言わなかった。


 キエラの視線が鋭くなる。


「あなたの使用人の一人なの?」


 レイナは否定することも考えた。


 だが、自分をこれほどよく知る相手に、これ以上抗い続ける理由はほとんどなかった。


「そうよ」


 キエラの表情がわずかに和らいだ。


「そして、何が起きたのかを詳しく話すことはできない。そういうことね?」


「その通りよ」


 レイナは抵抗せずに認めた。


「だから、この件は黙っていて。時が来たら、必ずすべてを話すと約束するわ」


 キエラは彼女を注意深く見つめた。


 今の彼女は、警告を笑い飛ばし、危険を前にしても笑い、自分の過ちを認めようとしない、いつものレイナではなかった。


 大切な誰かが危険に晒された時にだけ現れる、もう一人のレイナだった。


 彼女のその一面が表に出る時、状況が深刻であることをキエラは知っていた。


 キエラは長く息を吐いた。


「……分かったわ」


 シュガルはすぐに彼女の方を向いた。


「おい! これは――」


「黙って、シュガル」


 彼の反論は、始まるより先に終わった。


 キエラはもう一度レイナへ向き直った。


「心配しないで。この件は私たちだけの秘密にしておくわ」


 レイナの表情が安堵で和らいだ。


「ありがとう、キエラ。やっぱりあなたが一番ね」


 その声は、わざとらしいほど甘くなった。


 キエラが身を守るよりも早く、レイナは再び彼女を抱き寄せ、互いの頬をすり合わせ始めた。


「レイナ、もういいでしょう!」


 キエラはその腕の中で軽く抵抗したが、抗議の声に反して、笑いがこぼれた。


 レイナも一緒になって笑った。


 シュガルは禿げ上がった頭を撫でた。


 ここで反論を続けても、自分にとって良い結末にはならない。


 彼はそう悟っていた。


 シュガルは、後ろにいる冒険者たちへ向き直った。


「差し迫った問題は解決した。残りの調査はギルドで引き受ける。お前たちは解散だ」


 すぐに、いくつもの不満の声が上がった。


「文句を言うな」


 シュガルが言った。


「報酬は全員に支払う」


 抗議の声は、一瞬で消えた。


「それなら話は別だ!」


「ギルドマスターが俺たちを無駄足にするわけないと思ってたぜ!」


 あまりにも突然の変わりように、レイナは彼らを見つめた。


 シュガルは彼女の方へ向き直った。


「費用はお前が持つんだよな?」


 レイナは、カリュドールの巨大な死骸へ視線を向けた。


 虎の雷によって身体の大部分は焼かれていた。


 それでも、鉄の牙、硬化した鎧の破片、土属性のマナコア、そして強化された骨の一部には、まだ十分な価値があった。


「好きにしなさい」


 レイナが言った。


「猪の残骸を持っていって、生き残った素材を売りなさい。その代金を、あの人たちの報酬に充てればいいわ」


 シュガルは死骸を短く確認した。


「それなら十分すぎるだろう」


 集まっていた冒険者たちは、すぐに残骸へ興味を示し始めた。


 鉄の牙について囁き合う者もいれば、ひび割れた鎧の板を調べ、そこから何を作れるか話し合う者もいた。


 レイナには、どうでもよかった。


 その死骸は、荒れ果てた中庭の場所を取っているだけだった。


 ギルドがそれを片づけ、同時に冒険者たちへの報酬も賄えるのなら、全員にとって都合がよかった。


 シュガルは再びレイナの方へ向き直った。


「もう一つある、レイナ」


 彼女はシュガルを見た。


「数日前、ギルドに来たそうだな」


「ええ、行ったわ」


 レイナは首の後ろをさすった。


「あなたの受付嬢には、ずいぶん強烈な印象を残されたわ」


 シュガルはため息をついた。


「グウェンのことはすまない。あいつは少し厳しいところがある」


「……」


「今でも、ヴィスマギアが本部と同じように動くものだと思っているんだ」


「すべて納得したわ」


 シュガルは上着の内側へ手を入れた。


 そして、二つの物を取り出した。


 一枚の紙。


 それから、小さな魔法の印が刻まれた金属製のギルドカード。


 彼はそれらをレイナへ差し出した。


「ほら」


 レイナは警戒しながら受け取った。


「何、これ?」


 彼女の視線が金属製のカードへ落ちた。


 そこに刻まれた名前を見た瞬間、レイナは固まった。


 クライ・シエル・レトス。


 それは、彼の冒険者登録が正式に承認された証だった。


 レイナの目が見開かれる。


「どうして、こんなことを?」


 彼女は鑑定結果の用紙を見てから、シュガルへ視線を戻した。


「鑑定で記録された情報を見たのでしょう?」


「ああ」


「マナの数値も?」


「見た」


「属性がなかったことも?」


「それもな」


 レイナはカードを握る手に力を込めた。


「それでも、登録を認めたの?」


「俺からお前への貸しだと思え」


 シュガルの表情は、再び真剣なものになっていた。


「鑑定結果について、俺から質問するつもりはない」


 レイナは慎重に彼を見つめた。


 シュガルは普段、軽率に見える振る舞いをすることも多い。


 だが、それでも彼はヴィスマギアのギルドマスターだった。


 そしてギルドマスターが、何の見返りも求めずに便宜を図ることなどない。


「条件は何?」


 レイナが尋ねた。


 シュガルは、何もないふりをすることさえしなかった。


「お前に受けてもらいたいギルド依頼がある」


「依頼?」


 レイナはもう一度クライのギルドカードへ視線を落とし、それからシュガルを見た。


「どんな依頼なの?」


 キエラが、別の一枚の紙を手にして前へ出た。


「見て」


 彼女は依頼書をレイナへ渡した。


 レイナはそれを受け取り、紙を開いた。


 彼女が文面へ目を走らせる間も、キエラは説明を続けた。


「ある男がほとんど毎日ギルドを訪れて、あなたがこの依頼を受けたかどうか尋ねているの」


「それに、うちの職員にも圧力をかけている」


 シュガルは肩を回し、それから首を鳴らしながら付け加えた。


「お前は今、依頼を受けられないと伝えても、納得しようとしない」


 さらに読み進めるにつれて、レイナの目が細くなった。


「ゼウスの森での回収任務?」


 今日、あの森で起きたすべてのことを考えれば、その言葉だけで警戒するには十分だった。


 彼女の背後にある壁は、あの森から来た魔物によって破壊された。


 マリアダは、森へ入ったクライを救った結果、少なくとも二十年分の寿命を失った。


 そして、雷を呼び落とすほど強力な正体不明の虎まで、何の前触れもなく現れた。


 今のレイナが最も足を踏み入れたくない場所。


 それがゼウスの森だった。


 その時、彼女は依頼書に記された、もう一つの不自然な点に気づいた。


「でも、どうして私を名指ししているの?」


「分からないわ」


 キエラが答えた。


 シュガルの表情が、さらに険しくなった。


「だが、この件の背後には、ユリク・ヘルロン伯爵がいると考えるだけの理由がある」


 レイナは再び依頼書へ目を落とした。


 疑念が、さらに深まっていく。


 ユリク伯爵は、以前から冒険者を見下していた。


 彼らの自由を反抗と捉え、ギルドの庇護に隠れた反逆者だと口にすることも多かった。


 それなのに今、その伯爵が冒険者へ助けを求めている。


 しかも、誰でもいいわけではない。


 名指しされたのは、レイナだった。


 筋が通らなかった。


 レイナは依頼書をシュガルの胸元へ突き返すように差し出した。


「悪いけど、この依頼は受けられないわ」


 シュガルは、それを受け取ろうともしなかった。


「別の冒険者を探すように伝えて」


 レイナは続けた。


「Sランクが必要なら、ゼコーンに頼めばいいでしょう」


「ゼコーンは、どこにも見当たらない」


「あの人がどういう人か知っているでしょう。もっと探しなさい」


「レイナ」


 シュガルの声に含まれていた何かが、彼女を立ち止まらせた。


 彼は微動だにせず、先ほどまでの冗談めいた雰囲気を一切残していない表情で、彼女を見つめていた。


「この依頼は受けた方がいい。俺は本気でそう言っている」


 レイナの目が細くなった。


「どうして私が受けなければならないの? 私は休暇中よ。覚えているでしょう?」


「覚えている。承認したのは俺だからな」


「なら、休暇中の冒険者にはギルドの依頼を受ける義務がないことも、覚えているはずよ」


「分かっている」


 シュガルは声を落とした。


「だからこそ、この一件だけを頼んでいるんだ」


 レイナは黙っていた。


 シュガルは、彼女の手にあるギルドカードへ一瞬だけ視線を向けた。


「この依頼を完遂すれば、異例の鑑定結果が出たとしても、お前の弟子の冒険者登録は承認されたままになる」


 レイナが金属製のカードを握る指に力を込めた。


「彼の鑑定結果には閲覧制限をかけ、通常のギルド職員からは見られないようにする」


 シュガルは続けた。


「そしてギルドとしては、今日ここで起きたことを、Sランク冒険者の屋敷内で発生した私的な事件として扱う」


「……」


 その言葉の意味が、中庭に重くのしかかった。


 レイナは依頼書をゆっくりと下ろした。


 一瞬、怒るべきなのか、失望するべきなのか、自分でも決めかねているように見えた。


「私を脅しているの?」


「違う」


 シュガルはためらうことなく答えた。


「ユリク伯爵が今回の件をギルドに対する材料として利用した場合、何が起こり得るのかを話しているだけだ」


 シュガルは、崩れた壁、戦いの爪痕、そしてカリュドールの残骸へ視線を巡らせた。


「ヴィスマギア中で人々が意識を失った。町全体からマナが消えた。高位の魔獣が屋敷の一部を破壊し、その直後には別の魔獣まで現れた」


 その視線が、レイナへ戻る。


「伯爵はこれを、ギルドの管理不行き届き、無許可での魔法行使、あるいは無謀な危険行為だと主張できる。そのどれか一つだけでも、正式な調査を正当化するには十分だ」


 レイナは何も言わなかった。


「そして本部や教会まで関わり始めれば、お前が隠しているものを、俺にはもう守れないかもしれない」


 レイナの目に、静かな怒りが宿った。


「やっぱり、脅しているじゃない」


「もちろん違う。キエラは、お前に秘密を守ると約束した」


 シュガルが言った。


「その約束は今も変わらない」


 彼の表情は硬いままだった。


「俺たちのどちらも、ここで起きたことを自分から明かすつもりはない。だが、ユリク伯爵が正式な調査を要求すれば、俺たちが黙っているだけでは止められない」


 レイナの目は、シュガルに固定されたままだった。


「この依頼を受ければ、止められるの?」


「伯爵が本部や教会を巻き込む理由を得る前に、あちらの要求を解決できる可能性が生まれる」


「……」


「分かってくれ、レイナ。これが、全員を守るための最善の選択なんだ」


 シュガルの声が強くなる。


「冒険者ギルドを頼りに生きている者は多い。冒険者、受付嬢、治療師、商人、職人、運送業者、そしてその家族たちだ」


 彼は、カリュドールの死骸の近くに集まったBランク冒険者たちを示した。


「ギルドは彼らに仕事と身分証明を与え、自分の人生を築く機会を与えている。ユリク伯爵が今回の件を利用してギルドの活動を制限すれば、その全員が苦しむことになる」


 レイナは彼を見つめた。


 シュガルも目を逸らさなかった。


「そんなことはさせない」


 彼は言った。


「お前のためでもない。誰か一人のためでもない」


 その言葉は、二人の間の空気に残った。


 それは圧力だった。


 レイナも、それを否定することはできない。


 だが、自分の利益のために彼女の秘密を利用しようとする、身勝手な男の脅しではなかった。


 ギルド全体の重みを背負う者が示した、決意だった。


 シュガルは、その組織を頼りにする人々を守るためにギルドマスターとなった。


 もしレイナが、自分とそのすべての人々のどちらかを選べと迫ったなら、彼がどちらを選ぶかは、すでに決まっていた。


 キエラは彼の隣で目を閉じていた。


 口を挟まない。


 だが、彼を擁護することもしなかった。


 選択肢をほとんど与えないシュガルのやり方を快く思ってはいなくても、その立場を理解している。


 彼女の沈黙は、そう物語っていた。


 レイナはもう一度、クライのギルドカードを見下ろした。


 クライ・シエル・レトス。


 そのカードは、屋敷の外でも通用する身分を彼に与える。


 旅をすることができる。


 依頼を受けることができる。


 立ち入りを制限された場所へ入ることもできる。


 そして、レイナの名だけに頼ることなく、この世界で生きていける。


 その登録を失えば、彼がまだ足を踏み入れてさえいない場所へ続く扉が、いくつも閉ざされることになる。


 さらに、ギルドの調査によって彼の鑑定結果が明るみに出れば、いずれ教会まで関わってくるかもしれない。


 それだけは、絶対に避けなければならなかった。


 シュガルはついに、依頼書を受け取るために手を差し出した。


「この依頼を完遂しろ」


 彼は言った。


「そうすれば、俺が提示した条件はすべて守る」


 レイナはシュガルを見つめた。


「もし、私が断ったら?」


 シュガルの表情は変わらなかった。


「正式な調査がお前の屋敷の門前で止まるとは、約束できない」


 二人の間に流れる沈黙が、長く伸びていった。


 中庭から、先ほどまでの緩んだ空気が消えている。


 キエラさえ目を開き、レイナを注意深く見つめていた。


 レイナはクライのギルドカードへ目を落とした。


 それから、屋敷の中へと思いを巡らせる。


 マリアダは封印を解かれたまま、マナを危険なほど消耗し、二階で意識を失っている。


 クライも、つい先ほど死の淵から生還したばかりだった。


 そして崩れた壁によって、屋敷はゼウスの森に対して無防備な状態になっている。


 レイナの本能のすべてが、拒めと訴えていた。


 依頼書を真っ二つに引き裂けと。


 シュガルにも、ユリク伯爵にも、ギルド全体にも、自分たちの問題は自分たちで解決しろと言い放てと。


 だが、拒んだところで、屋敷の中にいる者たちを守ることにはならない。


 止められないかもしれない調査を、招くだけだった。


 レイナの指が依頼書を強く握り、その端を押し潰した。


「最低ね、シュガル」


 彼の表情は変わらなかった。


 謝罪の言葉もなかった。


 レイナは依頼書から目を離さなかった。


「……分かったわ」


 その言葉は、低く苦々しい声でこぼれた。


「引き受ける」


 シュガルの肩から、わずかに緊張が抜けた。


 キエラも小さく息を吐き、三人の間に張り詰めていた空気が、ようやく少しずつ緩み始める。


 レイナはもう一度、依頼書を見下ろした。


 そこに記された内容は、苛立たしいほど曖昧だった。


 ゼウスの森での回収任務。


 正確な場所は記されていない。


 対象となる品についても、明確な説明はない。


 書かれているのは、レイナ本人が依頼を遂行することを求める文言だけだった。


 彼女は依頼書から顔を上げた。


「それで、私はどうやって対象を見つければいいの?」


 レイナが尋ねた。


「偶然見つかるまで、ゼウスの森を適当に歩き回れとでも?」


 シュガルがキエラへ視線を向けると、彼女はすぐに意図を理解した。


 キエラは腰の小さな袋へ手を入れ、手のひらほどの大きさの魔法具を取り出して、一歩前へ出た。


「このマナ・ロデスターを使え」


 シュガルが言った。


 レイナはそれを受け取り、黒い金属製の外殻を調べた。


 その魔法具は、彼女の手のひらに難なく収まるほど小さかった。


 外殻の縁には、細い印が刻まれている。


 中央には硝子で覆われた区画があり、方位磁針のように蓋を開けられる構造になっていた。


「回収対象が持つマナの痕跡は、すでに内部へ登録されている」


 シュガルが続けた。


 レイナは外殻を開いた。


 硝子の下で、淡い茶色の霧が揺らめいていた。


 しばらくの間、霧は方向を定めることなく円を描いていた。


 やがて細い筋へと集まり、外殻の片側へ向かって伸びていく。


 ゼウスの森の方角へ。


 レイナはその動きを注意深く見つめた。


「この霧の筋を辿れば、対象に行き着くの?」


「登録されたマナの痕跡が失われていない限りは」


 キエラが答えた。


「近づくほど、示される道筋も明確になるはずよ」


「対象が動いていたら?」


「ロデスターの示す方向も、それに合わせて変わるはずよ」


「なるほど……」


 レイナはマナ・ロデスターをポケットへ入れ、それから依頼書を折り畳んだ。


「明日までには戻れるでしょうね」


「よし」


 シュガルが言った。


「それなら、また明日だ」


 シュガルはキエラと共に立ち去ろうと、わずかに身体の向きを変えた。


「待って」


 レイナの声が二人を引き止めた。


 シュガルが振り返る。


「ん?」


 レイナは屋敷へ視線を向けた。


 その表情が変わる。


 今までは、依頼に苛立ち、ユリク伯爵を疑い、シュガルから圧力をかけられたことに腹を立てていた。


 だが、屋敷の中にいる者たちへ意識が戻った瞬間、それらの感情は心配へと変わった。


 マリアダもクライも、まだ危うい状態にある。


 屋敷の外壁は破壊され、敷地はゼウスの森に対して無防備になっていた。


 それなのに、レイナは二人を残して出ていかなければならない。


「屋敷のことが心配なの」


 彼女は言った。


「私が留守にしている間、少なくとも四人のAランク冒険者を護衛に送って」


 シュガルは彼女を注意深く見た。


「Aランクを四人も?」


「ええ」


 その人数について交渉するつもりはない。


 レイナの口調が、そうはっきりと告げていた。


「私がゼウスの森へ行くなら、マーカスも連れていくわ」


 彼女は、崩れた中庭の一角へ短く視線を向けた。


「壁が崩れた時に、屋敷を囲む防御結界も損傷した可能性があるの」


 シュガルはレイナの顔を見つめた。


 その目に浮かぶ心配は、本物だった。


 マリアダも今は、自分で結界を補強できる状態ではない。


 しばらくして、シュガルは頷いた。


「分かった。こちらから送ろう」


 レイナの肩から、わずかに力が抜けた。


「ありがとう」


 最後の条件が決まり、これで話はまとまった。


 シュガルは片手を上げた。


「それなら、ここでの話は終わりだ」


「そうね」


 レイナが小さく呟いた。


「森で死ぬなよ」


 レイナは目を細め、舌打ちした。


「猪を持って、さっさと帰りなさい、シュガル」


 シュガルは軽く笑い、その場から歩き出した。


「またな、レイナ」


 キエラも彼の隣を歩き始めた。


「さようなら、我が友よ」


 レイナは片手を上げ、遠ざかる二人へ振った。


「じゃあね、キエラ」


 冒険者たちは、カリュドールの死骸の周囲で作業の準備を始めた。


 鉄の牙やマナコアを取り出すために必要な道具を用意する者もいれば、死骸の重い部分を運ぶ手段を整える者もいた。


 シュガルとキエラは、屋敷の門へ向かって歩き続けた。


 レイナは一人、荒れ果てた中庭に残った。


 彼女は依頼書をもう一度開いた。


 依頼の文面を目で追っても、胸の奥に居座る不快感が和らぐことはなかった。


 なぜ、私なの?


 この依頼には、何か別の思惑が隠されているはずだった。


 レイナは再び依頼書を折り畳んだ。


 その先では、シュガルとキエラが、傷ついた屋敷の敷地内を通って門へ戻っていく。


 キエラは肩越しに振り返った。


 レイナはまだ中庭に一人で立ち、折り畳んだ依頼書を片手に持っていた。


「どうしてAランクを四人も求めたのかしら?」


 キエラが尋ねた。


「他にも優秀な使用人がいるのではないの?」


「彼女が隠しているものは、それだけ深刻なのだろう」


「マナの異変と関係があると思う?」


「おそらくな」


 シュガルは崩れた壁へ視線を向けた。


「あるいは、獣人族の使用人たちを無防備なまま残すことが心配なだけかもしれない」


 彼は続けた。


「ああいう者たちは、あまりにも多くの土地で所有物のように扱われている。崩れた壁と、主人が不在の屋敷を見れば、よからぬ連中が好機だと考えてもおかしくない」


 キエラはその可能性について考えた。


 レイナは、危険な秘密を守っているのかもしれない。


 弱い立場にある者たちを守ろうとしているだけなのかもしれない。


 おそらく、そのどちらも正しかった。


「これ以上、彼女を追及するべきではないわ」


 キエラが言った。


 シュガルは頷いた。


「ああ。深く探りすぎれば、彼女の信頼を失うことになる」


「それでも、あなたは彼女に依頼を受けさせた」


「それとこれとは別だ」


 シュガルが答えた。


「俺は、ギルドを守るために協力してもらった。だからといって、彼女を敵に回すつもりはない」


 キエラとシュガルの表情には、まだ心配が残っていた。


 二人は、マナの異変についての説明を得た。


 だが、真実を得たわけではなかった。

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