Attack of the Makafied
状況が分からなくなってきたので整理してみよう。
この際小難しいロジックはもう全部無視するとして、私の理解では、
皇妃→イオリに斬られて死亡
天位→皇妃の死により死亡
ミヤ→皇妃の死により死亡するはずがユリアナに肩代わりされて生存
イオリ→ミヤの死により死亡するはずがミヤが生存したので死亡せず
ユリアナ→ミヤの死を肩代わりして死亡するも私が治して生存
キリヱ→ユリアナの死により死亡するも私が治して生存
という状況にある。
生存人数を最大化させるパズルみたいだ。
だけどパズルというにはあまりにもお粗末。
なぜなら私のっ……私のがんばりだけで成り立っているっ!
実質四人を生存させることになった。
これもう私が皇帝でいいんじゃない?
ちなみにこの無事に収まった感はあくまでミクロな話であって、上空を見ると今も悲惨な状態が続いている。
結界が破れ、ユリアナの呼び寄せた竜騎士の軍団が作物に群がるイナゴのように剣技場に大量の影を落としている。
グラウンドには炎が走り、大勢の剣客とエルフが焼けながら戦っている。
「アキューッ!」
ユナちゃんが上から水魔法を雨のように降らせ鎮火を試みるが焼けた石に水の様相だ。
「ユナちゃん、上っ!」
ユナちゃんを乗せたカロが三体の竜に囲まれる。
セイラの一太刀が三つの首を飛ばす。
その消滅の仕方でそれらが普通の竜ではなく、魔竜なのだと気付いた。
……ということはこの炎を消せるのは水魔法ではなく――
「ステラ」
聖魔法をむやみやたらと放つ。
剣技場が光に包まれる。
聖魔法最大の利点は混戦の中において魔のみを打ち払うという点だ。
「……あ、駄目かも」
純粋に出力が足りなかった。
剣客やエルフを燃やす魔炎を沈下させたところで力が抜けてしまった。
光が剣技場全体までいきわたらない。
これでは上の魔竜を倒すどころではない。
二人を死の淵から治癒したばかりというのもあるけれど、それ以上に出力が安定しない。
そういえばメイも言っていた。
この国は魔法が通りにくいっ。
「お前がいることは織り込み済みだ聖女ぉッ。この国は反魔素に満ちている。貴様如き小国の魔術師にできることなぞなに一つないのだ。大人しく引っ込んでいろ!」
半ば墜落するようにユナちゃんとセイラを乗せた竜が降りてきた。
「姉さん、こういう表現が正しいか分からないんだけど、あの竜に乗ってるのはほとんどが魔エルフだった」
つまり相手は「エルフ」ではなく、エルフの死体を魔化させた「魔物」だということだ。
魔人――魔物化した人間――がある程度コントロール可能であるということはソフィ会長が先に示している。ならエルフだって魔化させて支配下におくこともできるかもしれない。というか法律に詳しい男がいたエルフ監禁施設に魔竜がいた時点で、そういう想像も少しはしておくべきだった!
「イオリ、行って」
「あい」
ミヤに応じてイオリが指笛を噴く。
雲を割るように、結界と数百の魔竜の群を抜けて大きな竜が滑空した。
いや、私の知る竜とは少し違う。
私たちの竜がトカゲに翼の生えたようなものだとしたら、この龍は縦に長い。どちらかというとヘビみたいだ。
それに乗って魔竜の層まで上昇する。
反す光のない魔竜の群れの中でなおキラリとイオリの刀が光を放つ。
「――黎明」
雲が割けるように、群がる魔竜が打ち滅びる。
一流の剣聖がそれを斬ろうと志向したのなら、魔物の核が自ら刀の軌跡に乗る。
祓いではなく、滅びと形容するに相応しい一振りだった。
足場の竜を失った魔エルフたちが落下しながらもなにかを唱える。
がくんと嫌な感じが剣技場全体を覆った。
なにかを成し遂げた魔エルフたちが死んだ虫のように降ってきて、地面に激突して消滅する。
「黎――」
イオリの斬撃。
「あれ?」
その一振りは魔物を斬りこそすれど、先ほどのようにそれらを消滅させるには至らなかった。
「核を斬り損――ッ~~」
イオリの斬撃と入れ替わりに、イオリの乗る龍が上から真っ二つに打ち貫かれた。
石弓のような速度で地に落ちたそれはやはり「貫く」が近かっただろう。
「キリヱ、ゴー」
「みゃん」
イオリの龍を貫き地面に降り立ったそれが足場を失って落下するイオリを迎撃する前に、キリヱが斬りかかる。
二つに分かれたイオリの龍の死体が落ちてくる。
続けて落ちてくるイオリをセイラがキャッチする。
キリヱと貫き者の討ち合いが始まる。
「さんきゅ」
「いえ」
ここでようやく視覚情報と思考の速度が一致した。
イオリの龍を落としキリヱと斬り結んでいる相手は、盗まれた残雪を一緒に探してくれたサユノだった。
「ぬおん」
キリヱが後退する。
サユノが前に出る。
イオリが加勢する。
刀が早すぎて、何度かの打ち合いが一つの金属音として認識される。
信じがたいことに、二対一のこの状況でサユノが押している。
「フッハッハ、見ておけよ、これこそが完っ全なる剣聖対策! そこの腐ったエルフ共の死によって既に発動しているのだ! 精霊法によって描かれる魔王の技術体系を用いた144層の遮間領域――新たなる結界である! どうだ、思い通りに斬れなかろう! 魔王が斬れぬのと同じ理屈よ。貴様らはあの冠位が魔王を斬り損ねたという事実ともっと真摯に向き合うべきだったのだ!」
なんかよく分からないことをわーわー言ってるけど、要するにこいつは対剣聖向けの弱体効果をフィールドにばら撒いたらしい。
身体がくらくらする。
地面が斜めになっているように感じる。
強い妖気を纏った何十もの刀に取り囲まれているみたいな感覚。
「ステラさん」
セイラが、私がどうしたいのかを問うようにこちらを見る。
靄をはらって局面を整理する。
地上では二人の剣聖とサユノの斬り合い。
黒い炎の燃え盛るフィールド。
空には数百の魔竜と魔エルフ。
その中に現場統括のフハハ男。
こんなにも魔物がたくさんいるのに、上手く聖魔法が使えない。
「あの上の、なんか喋り方が腹立つ人ってユリアナが手引きしたんですか?」
「ええ、そうね」
「最悪ですね」
「……ええそうね。わたくしはあれに――マリウス帝国にこの国を売ったの」
「そうですか」
「あとできちんと首を刎ねられるわ」
「……よその国のことだからもう言わないけどさ、その前にミヤとはきちんと話をしなよね」
ミヤの方はエルミナが炎や魔エルフの魔法から守ってくれている。ミヤとユリアナの中間にセイラがユナちゃんと一緒にいて、状況を見つつどちらもケアできるように動いている。
ユリアナを引っ張って、ミヤの方に連れていく。
正直なところ、こんな事態を引き起こしているにも関わらず、私はユリアナのことを糾弾できない。
なぜなら私たちも魔物を放って王都をめちゃくちゃにしたことがあるから。
最終的になんかいい感じ寄りに収まったというだけで、やっていることはあまり変わらないはずだ。諸々を天秤に乗せた上でユリアナがこれがベストだと考えたのなら、どこかの尺度においては本当にこれがこの皇国の行く末のベストの可能性すらある。
「あの男は何者ですか? 前にエルフを助けたときにエルミナを人質に取っていた人ですよね? 実は知己だった?」
「まさか。あれが起点よ。元々あの帝国の内情には詳しかったからね。わたくし好みの展開になるように、少し情報の与え方を崩しただけ。そういうのが得意なのよ」
「つまりこの現状はユリアナの思い描いた局面なんですか?」
「いくつか読み違いはあったけれど。わたくしがいま生きていることと、貴女に殴られていないことが一番意外だわ」
「ほんとですよ。首、ね」
ユリアナが私の婚約者だったなら首を刎ねていたところだ。
「この後はどういう展望?」
「ミヤの死を私が肩代わりできたということは、システムの判定ではミヤは一度死んでいる。でないと肩代わりもなにもないからね。つまり継承システムの破壊には成功している、はず。――なんの実感も達成感もなかったけれど。この国のシステムにおいてもはや誰も〈皇帝〉にはなれない。皇国はすでに終わった。だからあとはもはや滅び方の問題。賽の目を見守るだけ。わたくしがやりたかったことはすべて終わった。今はもう消化試合みたいなものなのよ」
「なんて言う割に、意図をもってキリヱにイオリの加勢をさせているのはなぜ? この感じだとキリヱにステイさせたらサユノが勝つんじゃないですか? 国を売るなら、たぶんその方が嬉しいですよね?」
「あの剣客ってそういう名なのね。……知己だったの?」
「いえ、先日偶然」
「ならわたくしたちは一蓮托生ね」
「ん?…………あー」
意味が分かると怖い話だ。
後世において千年だか千五百年だか続いたスレイ皇国の終焉の日が語られたとする。その場には傾国の邪竜聖光女がいて、その者は帝国から侵略に来た剣客の名を知っているくらいには仲良しだ。……絶対に第二皇女と私がグルで行動を起こしたように見える。
しかもこの邪竜聖光女とかいうヤツは、第一皇女と第二皇女と同時に婚約をして二人を弄んでいたらしい。
私は過去生で一を十に解釈されて斬首刑に処されたことがあるからこういうのには詳しいんだ。
よその国の出来事だったのに、なんだか急にわが身のことのようにも思えてきた。
「……それで、なぜキリヱにイオリの協力をさせているか答えてもらっていないんですけど?」
「答えなかったのが答えよ。その質問には答えないわ」
「キリヱを治した分で、貸しがまだ一つ余ってますよね」
「……あら、こんなところで使ってしまうの?」
「なんだか大事なことのような気がするから」
ユリアナが首を傾ぐ。
「………………………………………………………………」
「………………………………………………………………」
逃がさないように同じ間だけ見つめ返す。
「………………いいわ。……あー……。先ほどね、ミヤに泣かれたのが想定外だったのよ。イオリが死んだら、あの子はきっとまた泣いてしまうと思ったの。……はいっ、おしまい。これで貸し借りなしはなしね」
「………………」
「………………なにか言ったら?」
「それで消化試合なんて言いながら、ミヤのためにほんのりとイオリに加勢してるんですか?」
「なにかわるい?」
この人は、もうっ!
散々悪ぶってさあ!
いや、実際悪いんだけど、結局はミヤファーストなだけなんじゃないか?
残念ながら貸しがもう余っていないから、私にはそれを聞き出すすべがない。
仮にユリアナにそう尋ねたなら、彼女はきっとその真偽に関わらず、「ええ、そうよ。わたくしはミヤが大好きなの」と答えるだろうからその問いに意味はない。私はユリアナ解説士3級の資格を持っているんだ。
なのでもういったんユリアナのことは横に置いておくとして、この状況をどうしたらいいだろう。
元気を装っているけれど、実のところそろそろ倒れそう。
足元が斜めになっている錯覚があって、背中にはびっしりと汗をかいている。
明らかに誰かさんに二連蘇生魔法を使わせられたせいだ。
ただでさえ魔素の薄いこの国で、大きな魔法を使った反動で身体が体内に魔素をできるだけ多く取り込もうとした。結果、空腹時にする飲酒みたいに、フィールドに撒かれた魔阻みたいな瘴気までものすごい吸収率で全身に巡らせてしまった。私が今死んだなら一瞬で魔物になっちゃうかもしれない。
魔阻って死体に対して外から作用するものだと思っていたけれど、生きているうちから予め体内にストックしておくことができるんだな。
また一つ、悪事以外には全く使えなさそうな知識を手に入れてしま――
「――……なた……ぶですの!?」
気付いたときには、エルミナに支えられていた。
気が飛んでいたようだ。
「ありがと、エルミナ、悪いんだけど、今日の私は、もう、戦力にカウント、しないでくだ、さ…………今度はなにっ!?」
人が気持ちよく後を託そうとしたところで、空間が歪むような圧力を感じた。
「満ちたな。これで死ね」
上空で一人で気持ちよくなっている男の視線をたどる。
「うわっ……」
そこには死後、魔物と化した剣客――天位の姿があった。
その一薙ぎが剣技場にまだ生のある剣客とエルフ両方に等しく死をもたらしていた。
「ただの魔人ではないぞ。この魔化には場の魔王体系が混じっている。なれば魔王にして天位! 魔法を斬り伏せる天位と、冠位にすら斬れぬ魔王の融合! 究極のハーモニクス! よかったなぁ、貴様ら! 分かり合うことのなかった人間とエルフがついに交わったのだ! 美しい! 素晴らしい! 愛ではないか!」
あの人さっきからず~っとペラペラ気持ちよくなってるけど、正直なところ私からしたら全然知らない人だからいまいちノレない。状況もよく分からないし。よく通る声だな腹立つな、くらいにしか思わない。私に分かることといえば、聖女の前で「魔王」という言葉を振りかざした以上、彼は私に滅ぼされる覚悟があるということくらいだ。
アルスの聖女として帝国の人間に攻撃を加えるのは政治的に良くないことかもしれない。でも聖女がスレイ皇国で出会った魔王とその元凶を祓うのはそこまで不自然な行いではない。ないよね? ないことにする!
なんか急に元気になってきた。
そこでようやく、エルミナが私に魔力を流してくれていることに気が付いた。
光魔法同士だからこそできる魔力の相互的循環。エルミナの魔力が、私の体内に滞留する魔阻を押し流すように全身を巡っていく。温かな感触。
「……ってちょっと待って。これ循環だから、エルミナの方に私の中の負の魔阻が流れちゃうんじゃないですかっ!?」
慌ててエルミナの手を払う。私の復活しつつあるこの元気は、負債をエルミナに肩代わりされることで成り立っているのだ。
「黙って受け取りなさい。魔物を倒すのはあなたの方が得意でしょうに」
「でもそういうのは……」
そういうのは……いやだ。
初めて共闘した夜のことを思い出す。
スラムの奥にある魔の森で、彼女はソフィ会長のつくった魔人と一人で戦っていた。
得意な闇魔法ではなく、使い慣れない聖魔法を使って、真っ暗な森の中で一人孤独に戦っていた。
あのときの胸の高鳴りを私は今でも覚えている。
あの場から逃げたとて、それは誰にも咎められるものではなかっただろう。
だけど、彼女は戦っていた。
その背中が私にとってどれだけ眩く、高貴なものであったことか。
私が今までやってこられたのは、彼女が隣で共に戦ってくれたからなのだ。……まあ、渋々付き合ってくれている面も多少なりと……それなりには……結構、あるとは思うけど……。
だからこそ、今この局面においても私はエルミナと一緒にあの似非魔王を打ち倒したかった。
めちゃくちゃなことを言っているとは我ながら思うけど、エルミナに私のバックアップ要員のようになって欲しくはなかった。互いにシチュエーションの得意不得意はあれど、最前線で等しく共に立っていたかった。
だからこんな風にエルミナを犠牲にする形で私が元気になっても嫌なのだ。
「ステラ、ステラ、ステラ」
それはそうと私のお気持ちなんて相手には関係ないわけだから、私もやることはやる。
迎撃用にいくつかのステラをふよふよ浮かせておく。
全身に聖魔法付与。
その輝きに魔天位が私を明確に敵と認識する。
行けっ!
ステラ三連撃。
魔天位がそれらを刀で斬り落とす。
その中を抜けて、殴るッ!
私の拳に纏った聖魔法と、魔天位の纏う闇がバチンと弾けて、双方吹き飛んだ。
空中で体勢を立て直して着地する。
着地を魔天位への踏み込みの一歩目とする。
魔法が弾けたということは、出力がほぼ互角なんだ。
私と互角程度で魔王様の名前を使ってんじゃねえっ!
刀身を紙一重で躱しながら、七連ステラを叩きこんだ。
きっと生前の天位はもっとずっと強かっただろう。
私なんかが躱せる刀ではなかったはずだ。
ユインで温泉に入ったときだったかな。かつてセイラが剣聖が刀に魔法を乗せないのはノイズだから、みたいなことを言っていた気がする。
その意味が今こうして対峙してみて分かる。
剣筋が見えなくとも、私は聖女なのだ。〝魔〟っぽさを感じることはできる。だからこうして感覚だけで躱すことができる。
たぶん剣聖対策として用意された魔王化のオプションなんだろうけれど、私にしてみれば弱体化してくれてありがとうとしか思わない。
「ス・テ・ラ――ッ」
白に染まったネココ杖を使って放つゼロ距離ステラが完全に入った。
「私の勝ち」
核の砕けた魔天位が静かに消滅した。
強いか強くないかで言ったら強かったと思うけれど、人格や敬意のない相手に今更負ける感じはしなかった。
「ユナちゃん乗せて」
セイラが手を伸ばしてくれてカロの背に乗る。
「上行ける?」
今や私には不出来な魔王もどきを作り上げた上空の男をしばく正当性がある。あると思うことにする。
「なんだ、もう勝った気でいるのか?」
男の声と共に何かが振ってくる。
矢?
「私が」
セイラが飛びあがる。
雨のように降り注ぐそれらは刀だった。
天より降り注いだ百か二百振りの刀が、墓標のようにグラウンドに突き刺さる。
高度を下げたカロから飛び降りて、刀の一つに触れてみる。
これは……妖刀!
これ全部か!
ただでさえ深く魔エルフの結界で魔阻的に澱んでいた剣技場の空気が一変する。
それぞれの刀の放つ妖気に場が支配される。
「ユナさんを外に出します」
「お願い!」
ぐったりと垂れたユナちゃんをセイラがカロで剣技場の外へと運ぶ。
ユナちゃんは妖気に対して耐性がない。
というかこれが平気な人なんていないでしょう。
冬の朝に湖面に立ち込める濃い霧のように、妖気が視覚的に認識できるほどに満ちて揺らいでいる。
魔阻と妖気のパーティ会場だ。
もしも死後に私が向かう世界があるなら、きっとこんな色をしているに違いない。
「………………」
ここに来て、あの男に少し興味が湧いてきた。
この男はなんも分かんないまま婚約状態になった挙句ここにいる私と違って、それはもう完璧な準備をしている。
今だってそう。自分が狙われる気配があると見るや即座に次の手を打って、私の空への移動手段を間接的に退場させた。今この瞬間にこの一手を打つためだけに、彼はきっと長い時間をかけてたくさんの妖刀を集めていたのだ。
あとで名を尋ねてみたい。
だけど今はそれどころではない。
妖刀には人の欲求を狂わせる力がある。
かつての残雪がそうであったように、リコがそうなりそうであったように、近くに在るだけで誰彼構わず斬ってしまいたくなる。
それが百本単位で剣技場に突き刺さっていた。
今やスレイに仕える剣客同士が斬り合っていた。
それだけじゃない。
刀を嫌うはずのエルフたちまでもがそれを握り、斬り合っている。
そして死んだそばから剣客もエルフも等しく急速度で魔化し、第三勢力の魔人へと変貌している。
魔人を一体倒す間に、魔人が二体増えている。
もちろん即席の魔物は知性的な動きをしないから周囲の生き物を手あたり次第襲うだけだけど、元凶たる竜の男の一団は上空だから、必然狙われるのは剣客かエルフか私たちということになる。
完璧な邪悪コンボだ。
エルミナだってこんなひどいことはやらない。ユリアナはやるかもしれないけど……。
「ステラ、ステラ、ステラッ!」
上位魔法を撃ちまくる。
まるで雨の日に池の水を桶で抜こうとしているみたい。
要するに無理!
イオリとキリヱがサユノに抑えられているのが痛い。
加勢が期待できない。
私たちのテリトリーを圧し潰すように、全方位から敵対するすべてがやってくる。
魔物を威嚇する球状の聖魔法の半径が、一発撃つごとに小さくなっていく。
光がっ……圧し負けるっ……!
「ねえエルミナ! いったん引き受けるから逃げるルートを探してほしいです。……エルミナ?」
返事のない背中合わせのエルミナに嫌な予感がした。
私を侵した魔阻を引き受け、周囲を数多の妖刀に囲まれて、死んだら即魔人になるほどの魔阻濃度。
「……………………」
私が逆の立場でも堕ちているかもしれない。
「エルミナ?」
彼女がゆっくりとエルフ狩りの杖を掲げ、告げる。
「光よ」
それはかつて私が魔王討滅の際に放った渾身の聖魔法。
その杖から放たれた光は、瞬きよりも早く剣技場を覆いつくす。
一度自分の目を潰してから再生したから、私がこの場で誰よりも早くその光景を見たと思う。
魔人も魔エルフも魔竜も魔結界も、そのすべての魔が消滅した中心で、一人の悪そうな令嬢が高貴に立っていた。
「おーほっほっほっほ、蹂躙ですわぁ~っ!」




