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第43話 料理バカおっさんのド田舎食堂

 陽が昇り、ド田舎食堂の窓から昼の光が差し込んでいた。

 前夜からの「しめ祭り」で爆睡していた客たちも目を覚まし、帰り支度を整えている。


 店舗の表に並ぶ数台の馬車。教会の連中だ。

 その脇で、聖女ロメリーが大司教と対峙していた。


「ワタクシは……もう、教会には戻りません!」


 彼女は胸を張り、堂々と言い放った。

 社畜教育によって、使い勝手の良いワーカーホリックに仕立て上げれていた聖女ロメリーが、こんなにもはっきりと言うなんてな。

 どうやら、自分の意思で「人を救い、自分も楽しむ」と決意したらしい。仮に聖女という肩書を失ったとしても。


 良く言った―――大したもんだ。


 少なくとも前世の俺は、社畜状況を抜け出すことは出来なかった。だからロメリーの決意を応援したい。

 だが、大司教は首を縦に振るのをしぶっている様子だ。


 俺はゆっくりと大司教の前にいく。


「さてじいさまたち。うちの食堂はどうだった?」


 白い歯を出してわざとらしくニヤッと笑うと、大司教はむぅうと顔を歪める。


「……なかなかの味じゃった」


「なかなか?」


 細くて白い眉がぴくりと跳ねた。


「きぃいい! うまかった! めっちゃうまかったわい!!」


 よしよし。

 うまい飯の前では、誰もが素直になるもんだ。


「そりゃ良かった。で―――話の続きだ。聖女は答えを出したようだぜ」


 ちらりとロメリーを見ると、彼女は真っすぐこちらを見て小さく、だがしっかりと頷いた。


 ロメリーは今後、自身で仕事を選ぶ。出来ないものはできないと言うってことだ。

 なにも仕事放棄するわけじゃない。なによりロメリーの性格から都合よくサボるとは思えんし、それは教会の奴らが一番良く知っているはず。


「うむぅぅ……」


 大司教ダロスは腕を組んで唸った。

 その後ろで取り巻きの神官たちがぼそぼそ話している。


「大司教さま、女神さまに寵愛された者に逆らうのはちょっと……」

「わかっておる!」


「それに店主と不仲になれば、ここの料理を食べられなく……」

「ええっ、それはまずい! まずいですぞ、ドロス大司教!」

「たしかに、それだけは回避しなければ! 大司教!」


「わかっておると言っとるだろうが!」


 大司教が振り返り、ロメリーと視線を合わせた。


「聖女ロメリーよ、そなたの好きにするがいい。……が、手紙にはちゃんと目を通すように! 今後は他の聖女を含めお勤めの配分を再検討する」


 その言葉を聞いたロメリーは、少しの間のあと……


「やた~~~!」


 満面の笑みを浮かべて、ぴょんと跳ねた。

 良かったな。まあ社畜経験も無駄にはならんし、聖女として活躍できるならそれに越したことはないだろう。


 大司教が法衣を正して俺に深々と頭を下げる。


「シゲル殿、数々のご無礼をお許しくだされ。そしてロメリーをよろしくお願いする」

「ああ、任せておけ。と言っても、彼女は自分の意思でやりたいことをやるだけだがな」


 まあ彼女とはパーティーを組んでいるわけだし、今回の件をたきつけた手前、最低限の面倒ぐらいは見る気だったからな。

 そこへ、大司教が腰をかがめて耳打ちしてきた。


「……ところで、この店の定休日はいつですかな?」


「大司教さま! 抜け駆けして来店する気ですな! 許されませんぞ!」

「「「そうだそうだ!」」」


 よしよし、こいつら確実に俺の飯中毒になっているじゃないか。

 これは、再来店の際も厚くもてなしてやらんとな。


 ちなみにお土産にドラゴンのスモークジャーキーを渡してやると、なぜか大司教が大泣きした。

 そして「ここはもしやドイーナだったのでは!?」「ドイーナ!」「ドイーナ!」と意味不明なコールをはじめたので、「はよ帰れ」と一喝しておいた。


 ふぅ……最後まで騒がしい連中だったな。



 ようやく静けさが戻った―――と思ったら。



「んじゃ、私たちも帰るねシゲル君。ご馳走様~~ふぅ~満足まんぞく~」

「シゲちゃん、とっても美味しかったわ」


 女神グラティアとアスタが、手を振る。

 おっと、そうだった。女神さまたちもいたんだった。


 ま、満ち足りた笑顔を見せてくれたのだから、俺も大満足だよ。


「ああ、気をつけてな」


 2人は神棚に戻る準備をしていたが、女神アスタがなにかを思いだたようにポンと手を打つ。


「そうだシゲちゃん。神棚のお供えは今後、2つずつにするように」

「ああぁ~~アスタ! どさくさに紛れて何言ってんのよ~! シゲル君は私のなの!」


 帰る直前に揉め始める女神たち。


 いや、揉める必要ないだろ。

 どっちも同じくらい俺の飯のファンなんだから。


「ああ、わかった。ちゃんと2つ用意するさ」


「やった!」


 女神アスタが華麗に一回転して喜びを惜しみなく表現する。

 期待してくれるならいくらでも作るさ。料理人冥利に尽きるってもんだ。


 すると―――


「いや……3つ用意するのである!」


 邪神がぐいっと前に出てきた。


「はぁぁあ!? 何言ってんのよあんた!」

「そうよ、図々しいのよ!」


 女神二人が同時につっこんだ。そうか、おまえも俺の飯を気に入ってくれたか。

 ならやることはひとつだな。


「まあいいじゃないか。今後は3つ用意してやるよ」


「やた~~! 我の分~~!」


 邪神が満面の笑みで跳ねる。

 コレットが「よかったですね、じゃしんさん」と声をかけ、邪神はさらに嬉しそうにしていた。

 グフフ……よしよし、俺飯中毒者がまた増えたぞ。


「ふぅ……たく。私のシゲル君なのに……」

「そうむくれないの、グラティア。さあ帰るわよ」


「ちょっと黒いの! あんたも帰るわよ!」


「え? 我はもうちょっとここで昼ご飯を……いててっ!」


 邪神はグラティアに耳をつままれ、引きずられながら神棚へ帰っていく。

 こうして女神たちも帰って行った。



 店内には、ようやく小さな風が通り抜ける。



「ふぅ~~。ようやく日常の風景か」


「ふぁ~~また閑古鳥のお店に逆戻りですぅ~」


 テーブルを拭きながら、コレットが呆れ声を上げる。


「たしかに……いつも通りちゃあいつも通りだが……」


 なんだろうか、客がいないってこんな感じになるのか。

 今まではあまり気にしてなかったが。

 昨日から今日にかけての客入りはド田舎食堂史上、前代未聞だろう。なんせ満席だからな。

 しこたま料理を振る舞って、俺自身も楽しかった。


 そんな俺に2つの影が近づく。


「なに言ってるのよシゲル。お客さんならここにいるわよ」

「そうですよ、シゲルさん。2人もいるのに贅沢ですよ?」


 声の主は、レイナとロメリーだった。


 いつものカウンター席に並んで座り、こちらを見て微笑む2人。


「あたし、かつ丼ね!」

「ワタクシはプリンがいいです!」


 ―――そうか。


 俺には、もう立派な常連がいるじゃねぇか。


「よっしゃ! 作るか。コレット、お冷だ!」


「はぁ~い、店長!」


 店は再びいつもの空気に戻った。

 少ない客数だが、最高の客たちだ。


 こいつらの胃袋を死ぬ程満足させてやる。


 美味い料理を食わせるために。

 そして誰かを笑顔にするために。



 転生して良かったよ。最高じゃねぇか。


【読者のみなさまへ】


いつも読んで頂きありがとうございます。


これにて第一部完結となります。


今まで長きにわたりご愛読頂き、本当にありがとうございました。

たくさんの応援、作者の励みになりました。お礼申し上げます。


最後のお願いです。

少しでも面白かった~と思って頂けましたら、


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