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第41話 看板娘コレット、じゃしんからも加護をもらう(なお女神からはすでに付与済)

「ううぅ……なぜか蘇らんかった~~」


 正座した邪神がしょぼくれた犬みたいに項垂れていた。

 背中にのしかかってるのは邪神の威厳じゃなくて、近所の公園で泣いてる迷子の空気だ。


「じゃしんさんて……ちょっとおかしい人ですか? 死んだ魔物が生き返るわけないじゃないですか」


 コレットが首をかしげながら、素直すぎるどストレートな疑問をぶつける。


「ちがわい! おかしいのはそこのおっさんじゃい!」


 邪神がぴしっと指を俺に向けた。


「なんか言ったか?」


 俺が睨むと、邪神は「ひぃいい!」と悲鳴を上げて背筋をぴんと伸ばす。


 よし。


 さて―――思わぬアクシデントがあったが、夕食はまだまだ終わらない。

 テーブルにはキムチ鍋とカニ鍋。

 辛味と海鮮の香りが入り混じる、カオスで最高の空間だ。

 2つの鍋が出揃ったいま、同時に両方を味わえるという至高の時が流れている。


「ううぅ……うまそうなのだ(じゅるり)」


 正座のまま口を半開きにして鍋を見つめる邪神。

 威厳なんてもう1ミリもないな。


 すると―――


「じゃしんさん、ここどうぞ」


 コレットの小さな手が、ぴょこぴょこと上下に揺れた。


「んぬ? いいのであるか!?」


 手招きされた邪神が目を輝かせる。


 看板娘コレットは、椅子を少しずらして邪神のための隙間を作ってやった。

 邪神は待ち席の丸椅子を抱えて、控えめに……いや、ものすごく嬉しそうにテーブルへ滑り込む。


 ―――ぎゅぅ!


「ちょっと、あんた遠慮して座りなさいよ。ぎゅぎゅうじゃないの」


 女神グラティアが邪神の肩を押す。


「うるさいのだ女神! おぬしこそもうちょいつめるのだ。そのデカい尻が邪魔なのだ」

「うっさい! あんたのそのデカい角が邪魔なのよ!」


「はいはい店内はケンカ禁止ですよ~♪ いいじゃないですか~寄って食べるお鍋は美味しいですよ~♪」


 コレットのゆる~い介入により、女神と邪神はしぶしぶ距離を詰める。


 そんな様子を見ていたレイナが、微妙な顔で鍋を見つめてぼそりと漏らした。


「え、なにこれ。あたし、女神さま2人と邪神と聖女と看板娘と相席なんだけど……さっきよりカオスだわ……」


 なにはともあれ、無事テーブルに着席できた邪神。

 速攻で鍋をがっつくのかと思いきや、懐に手を突っ込んでゴソゴソしはじめる。


「ううぅ……むすめぇ~~かたじけない。ほれ、これやるわい」


 若干涙目の邪神は、コレットに小さな花を手渡した。


「わーい、お花だぁ! まっくろだけど綺麗ですねぇ~♪」

「うむ、我の加護がわずかばかりつくのである」


 コレットは満面の笑顔で花を頭につけて上機嫌。

 彼女のちいさな顔のうえで、白く輝く花と黒い光を放つ花が揺れる。


「ふぉ! あ、あれは地獄の花なのでは……」

「女神さまと邪神の両方から贈り物って……あの娘、いったいどんな加護を……?」


「ふぁ~~こ、コレットさん、2つの加護がまざって……もうよくわからない属性になってますよ……」


 教会連中が一連のやり取りを驚愕の目で追い。ロメリーが、なかば呆れたように苦笑した。

 そんな状況のなか……


「はい、どうぞじゃしんさん、キムチ鍋ですよ」


 コレットが普通に鍋をよそう。


「クハァア! 辛いっ! じゃがうまいのである!!」


 邪神はその漆黒の顔を真っ赤にさせて叫んだ。


「あとカニ鍋もありますからね」

「ふふぉぉお~~キムチの後だとほっこりするのである~~♪」


 もう邪神の恐怖もクソもない。

 そんなハフハフ鍋をかきこむ邪神に、コレットが思い出したかのように声を出した。


「そうだじゃしんさん。さっき歌ってたの、あれダメです。もっと明るい感じか、静かなやつじゃないと店内BGMとして失格ですよ」


「い、いや、恐怖の死歌が明るかったらマズいのであるが……」

「はじめからあきらめちゃダメですよ~何事もチャレンジです♪」

「う……わかった。善処してみるのである……」


 無邪気な笑顔のコレットに何故か同意した邪神なのであった。


「コレットさん、恐れ知らずにも程がありますよ……」

「た、たしかに。ロメリー殿の言う通り、コレット、たまにとんでもなくグイグイいくときあがあるわね」


「ずっとシゲル君のそばにいたら、そりゃねぇ……」


「「ああぁ……たしかに」」


 ロメリーとレイナが、女神さまの言葉にウンウンと納得する。2人とも、なにか思い当たるふしがあるかのような表情だ。

 俺としては少し心外なんだが。


 まあいい。


 コレットの言う通り、鍋ってのはみんなで囲むもんだ。


 わいわいガヤガヤ、仕事の疲れも心の疲れも溶けていく。ただただ飯を楽しむという空間。

 この雰囲気、料理人としては最高に幸せな瞬間だ。


 ずっとこの光景を見ていたいのは山々なんだが、そろそろだな。


 俺は静かに鍋の前に立ち、木べらを握った。

 もう一方の手にはどんぶりに盛ったホクホクのご飯。


「よし、宴もたけなわ。そろそろ“しめ”だな」



「「「「「「しめ!?(じゅるり)」」」」」」



 全員の声が重なる。期待とよだれが入り混じったいい響きだ。


「わぁ~~い、やっぱりお鍋のしめはおじやですねぇ~~店長♪」

「そうね、コレットちゃん。なんかしめって感じするわ~」


 コレットと女神さまはおじやの存在を知っているようだ。

 俺が手にもつご飯を見て、そう予想したんだろう。さすが我が看板娘と女神さまだ。


 もちろん今からつくるのは、おじやだ。


 だが……


 本当におじやが最後かな?


 俺はそんなこと、一言もいってない。


 グフフフ……これからはじまる「しめ」祭りで……全員天国に昇天させてやるぜ。

 俺はこれから繰り広げられるであろう光景を想像して、口角を吊り上げるのだった。


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