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第17話 ゴーストプリンアラモード

「帰ったぞ~~」


 ド田舎食堂の戸をくぐると同時に、俺は肩に担いだ聖女ロメリーを下ろした。


「ひぃぃぃぃ! ま、また美少女さらってきたぁああ!!」


 コレットがトレイを盛大に落として絶叫する。

 またって、なんだよ。


「やっぱりこの店、裏組織だったんだぁ! 美少女神官さんをさらって【ノーパン教】に洗脳して―――そして私もノーパン店員としてこき使われるんだぁあ!」


「どんなクソ教団だそれ。想像力の方向おかしいだろ」


「あれ……ここは?」


 この騒がしさにロメリーが目を覚ましてあたりを見回す。

 動く体力も残っていなかったから、帰路はずっと俺が担いで走った。魔力も使い果たして、疲れが溜まっていたのだろう。熟睡していたようだ。


 緑の髪をゆらすロメリーに、コレットの眼球が釘付けになった。


「ああ~っ!? し、新聞の聖女さまだぁっ!」


 コレットが真っ青になって新聞と本人を交互に見比べる。

 ま、聖女がいきなりきたらビックリするか。そんな看板娘にひとこと。


「ほら、コレット仕事だ。お冷とおしぼり」


「は、はぁ~い。ふあ~聖女さまがきてくれたなんて~あとでサインくださ~い♪」


 まったく調子のいいやつだ。


「あ、あのシゲルさん、スイーツって何をお作りに……?」

「えっ!? 店長、スイーツですか!?」


 2人の美少女がぴたりとこちらを向く。

 そういえばコレットにもまだ作ったことなかったか、スイーツ。


「プリンだ。ちょっと時間かかるぞ」




 ◇◇◇




 俺はプリンカップを並べながら、静かに油を薄く塗る。

 カウンターからコレットと聖女ロメリーがその様子を固唾をのんで見つめていた。


「はぁあ……プリンの型だぁ……まさかこんなド田舎でプリンが食べられるなんてぇ……」

「ひゅええぇ、コレットさん。ぷ、プリンとはそこまで凄いモノなのですね?」

「もちろんですぅ~ロメリーさん。最高のスイーツですよぉ」


 速攻で聖女と仲良くなったようだな。さすがうちの看板娘。

 にしてもコレット……プリンを知っていたか。


 この異世界にもプリンは存在する。が、それほど流通はしていない。

 食べたとしても上流階級が主だろう。

 コレットが以前働いていたあろう店は、かなりのやり手のようだ。


 魔導冷蔵庫から取り出した卵を常温に戻し、ボウルに水を張る。

 とりあえず下準備はこれでよしと。


「なんて大きな魔導冷蔵庫なんでしょう……」

「ふふ~わがド田舎食堂が誇る王国最高峰の厨房ですから~! お客さんは全然来ないですけどね~♪」


 ロメリーが目をまんまるにしてデカい冷蔵庫を見上げ、コレットが我がことのようにブルンと胸を張る。

 褒めてるのか貶してるのかどっちなんだって話だが、まあいい。


 さて、次の工程はカラメルソースだ。


 鍋に水とグラニュー糖。

 こいつは火を入れる順番を間違えると、すべてが台無しになる。


 中火で温め、焦げる寸前で鍋を揺する。

 泡の音がパチパチとリズムを刻み、甘くほろ苦い香りがじんわりと立ち上る。


「な、なんですかこの香ばしい香り……(じゅるり)」

「ですよね~! 聖女様でもじゅるりしちゃいますよね~(じゅるり)」

「はっ……わ、ワタクシ、なんてはしたない音を……(じゅるり)」


 看板娘と聖女のじゅるり二重奏を聞きながら、沸騰したところに熱湯を少し注ぐと、カラメルが「ジュワッ」と跳ねる。


「ひゃっ……!」


 その音に、ロメリーがびくりと肩をすくめた。


 濃い狐色になったカラメルを、熱いうちにプリンカップに注いでいく。


 さてさて、お次はプリン本体だな。

 ボウルにさきほど常温に戻した卵と卵黄を割り入れ、泡立てずに静かに溶きほぐす。


 そして、今回の目玉を取り出した。


「あっ、これって!」と、ロメリーが目を見開く。

「そうだなゴーストグランデの核だ。こいつがプリンにさらなる可能性をプラスしてくれるぞ」


 淡く光を放つ半透明の結晶体。まるで魂のかけらだ。


「ふぇええ……ゴーストグランデって無茶苦茶ヤバイ魔物じゃなかったですか?」

「ええ、コレットさん。聖女のワタクシがベストコンディションであっても、討伐できるかどうかわからない強敵ですね」

「それをまたまた店長が……」

「はい、そのお顔から察しますが、そのとおりです……包丁でスパッと」


 2人がなにやら話しているが、俺は調理に集中する。

 ゴーストグランデの核を木べらで軽く押しつぶすと、淡い光が卵液に溶けていく。

 空気が一瞬しんと静まった。

 ロメリーがポツリと呟く。


「……なんだか、心が温かくなります。魔物の部位なのに……不思議」

「そういう効能があるんだ。心の疲れを癒やす。特に働きすぎなやつにな」


「うぐっ……」


 ロメリーが唇をかんだ。図星らしい。

 俺はにやりと笑ってグラニュー糖を加え、円を描くように混ぜた。

 甘さのなかに、ゴーストの核が出す独特の存在感。

 この世界でしか味わえない食材だ。


 次は、鍋に牛乳とバニラビーンズを入れる。

 火を入れると、甘い香りが一気に広がった。


「はぁぁ……なんてやさしい香り……(じゅるり)」

「バニラビーンズって、こんなに尊い香りなんですねぇ……(じゅるり)」


 牛乳が沸騰直前で湯気をあげた瞬間、火を止め、

 先ほどの卵液に少しずつ注ぐ。


 混ざり合うたび、プリン液がしっとりと金色に輝いた。


「この液体……もう飲めそう……(じゅるり)」

「ですよねぇロメリーさん……いっちゃいましょうか(じゅるり)」


「こら、まだだ。これをこしながらさっきカラメルを入れたプリンカップに入れ、15分寝かせる」


「15分も!? ながいっ!」

「焦るな。中途半端な仕事じゃいいものは作れないぞ」


「なるほど……祈りも、焦っては届かない……(じゅるり)」


 お、うまいこと言うじゃねえかロメリー。よだれたれてるけどな。


 さあ~~次はいよいよオーブンで焼くぞ。


 布巾でプリンカップたちを優しく覆って。バッドに湯を1センチほど入れたら、プリンカップをそこへ置いていく。

 そしてオーブンへセット。これであとは待つだけだ。


「湯せん焼きってやつですか? 店長」

「そうだなコレット。優しく熱を入れてやらんとな。心までやわらかく仕上がる」


「ふぁああ~~楽しみぃ~~」


 にしても湯煎焼きなんて、よく知っているなこの子。


 バッドに入ったプリンたちを低温でじっくり火を通す。


 しばらくすると、厨房からはほんのりと甘い香りが満ちてきた。


「ああ~ん、じゅるり止まんない~(じゅるり、じゅるり)」

「はふぅ~(じゅるり、じゅるり)」


 ロメリーとコレットは、耐えられずに「じゅるりの合唱」をはじめる。


 しばらく経って、オーブンからプリンを取り出し、焼き上がったプリンを氷水でしっかり冷やす。


 その間に生クリームを泡立て、フルーツをカット。

 苺、キウイ、リンゴ、桃―――。


 プリンを型から外して皿に落とし、

 そのまわりにホイップ、果物、アイスを盛り付ける。

 金色のカラメルがとろりと流れ、最後にミントをひと葉。


「―――よし、ゴーストプリン・ア・ラ・モードおまち!」


「じゅるぅ~じゅるり!」

「じゅじゅ、じゅるり!」



 ふむ……待たせすぎたか。


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