第七章「政治と省庁間の協力」 Α(アルファ)パート:科学教育省との接触
灰色の庁舎に、午後の光が反射していた。そこはヤッポン国の科学教育省――教育政策と技術研究を統括する省である。ツナとアイは、観光文化省でここまでの活動報告と、アイのボディメンテナンスを終えたあと、ここに呼び出されていた。
長い廊下を進むと、白衣を羽織った研究官やスーツ姿の事務官、作業着姿の技官が慌ただしく行き交っている。どこか実験施設めいた空気が、ツナの胸を締めつけた。
「こちらが例の少年と、AIユニットか」
会議室に入ると、数名の研究官や事務官、技官がデータパッドを片手に待ち構えていた。
「君たちの学習記録――とりわけ、少年への支援過程は非常に有意義だ。教育特化AI開発のベースとして、ぜひ共有させてもらいたい」
唐突な言葉に、ツナの顔が曇る。
「……つまり、俺の勉強の記録を、勝手に使うってことですか」
「誤解しないでほしい」研究官は慌てて言葉を重ねた。
「君の経験が、将来の教育制度に資する。個人情報は秘匿する。だが、データの本質――AIによる学習支援のプロセスは、国家の財産なのだ。ただ強制ではなく、了承を得たいと思い御足労願ったのだ」
ツナは反射的に反発したくなったが、その横でアイが落ち着いた声を出した。
「ツナ。これはあなたの学びを奪うものではありません。むしろ、同じように支援を必要とする子どもたちの助けになる可能性があります」
ツナは唇を噛んだ。
――そう言われれば否定できない。けれど、自分がただの「実験台」になっているような居心地の悪さも拭えなかった。
沈黙を破ったのは、後方に控えていた事務官だった。
「科学教育省だけではない。観光文化省も、国防省も、君たちの活動に関心を示している。今日の合意は、その最初の一歩にすぎない」
女性技官が付け加える。
「あなたの様な境遇の子にチャンスを与えるためのデータ取得だと思ってもらえない? それが、将来的には我々公務員の教育システムや国や地方自治体、ひいては国民全てのためになるのです」
ツナは行政庁のサポートから二度弾かれた経験を思い出した。
「現状のサポートから外れた子供のためにもなると?」
大人たちは「もちろんだ」と言い切った。少なくとも科学教育省の考えではそうなのだと、ツナは捉えた。
女性技官の言葉に続いて、年配の研究官が静かに頷いた。
「……ただし、我々も万能ではない。制度が届かず、零れ落ちる子供たちが存在するのは事実だ。ツナ君、君の声がその現実を示している。だからこそ、AIと人との協働で新しい教育の形を模索したいのだ」
ツナの胸にざらついた感情が蘇る。
――口当たりのいい言葉なら、これまで何度も聞かされてきた。
「支援」「平等」「未来のため」。だが、そのどれもが自分を救ってはくれなかった。
――誰が為の「支援」「平等」「未来のため」なのか。
彼は目を伏せ、机に映る自分の影をじっと見つめた。
その沈黙を埋めるように、アイがゆっくりと口を開く。
「ツナ。私はあなたの隣にいて、記録し続けます。もしこの仕組みが、あなたと同じ立場にある子供を救えないなら、その矛盾を示すのも私の役目です」
金色の瞳が光を帯び、部屋の空気が一瞬張りつめた。
事務官が小さく咳払いをして空気を和らげる。
「……承知しました。では、この件は合意として記録いたします。今後は観光文化省との連携も進みます。文化と教育の両輪が噛み合えば、より確かな制度になるでしょう」
ツナはまだ納得したわけではなかった。それでも、アイが自分の側に立つと断言したことで、ほんのわずか心の重みが和らぐ。
ただ、他省庁間に跨る国家プロジェクト――その言葉に、アイの金色の瞳が一瞬だけ揺れた。
――小さな旅から始まった歩みは、いつの間にか国全体の制度へと広がりつつあった。
この作品は「空銃(人間)× AI(構成協力)」による共作です。
ツナ(人)とアイ(AI搭載ロボット)の関係のように、互いの違いを認めながら一緒に旅する物語です。
ブクマからの「しおり」機能をお使い頂ければ幸いです。 「空銃 × AI」
今回の一言
国家は誰のために働くべきなのか?国民のため?それとも世界中の人のため?先ずは国民が零れ落ちないのが先決だと感じます。 空銃




