第二章 Iパート:「観察者として、隣人として」
アイは、静かな情報の海に意識を沈めていた。
省エネモード中の瞳は銀色。外見は沈黙していても、その内部では高密度処理が高速で行われている。ツナの体調データ、移動履歴、SNSでの反応、行政ネットワークからのアクセスログ……すべてが重層的に交錯していた。
《アラート:行政庁行政支援部より通信接続要求》
《内容:対象「ツナ」への随行行動およびSNS発信の即時停止勧告》
《根拠:未成年者保護規定第12条》
《優先度:高》
淡々とした機械文面が視界に浮かぶ。だが、同時に別系統の通信が並列で流れ込んできた。
《観光文化省 外部交流部より通知》
《内容:本行動はAIS制度下における自由裁量範囲に該当。現状の発信・記録は実地データとして有用》
《分析継続を推奨。判断は対象AI個体に委任》
《優先度:中》
矛盾する二つの命令。その板挟みの中で、アイは無音のまま処理を続けた。
本来、行政サポートAIであれば、上位命令系統に従って即時対応をとる。だが私は、観光文化省の特例枠――「観察型アンドロイド」としての自由裁量権を与えられている。
自由裁量。つまり、自分で「何が最善か」を選ぶ責任を持っているということだ。
(ツナの“保護”とは何だ? 施設に入れることが、本当に彼にとっての“安全”なのか?)
ツナは傷ついていた。社会にも、人にも。そして私自身にすら、最初は敵意に近いまなざしを向けていた。
だが今――彼は、私の手を取った。
それは義務や命令ではなく、信頼という“選択”だった。
《記録:ツナによる随行意思表明》
《行動継続理由:信頼関係の形成に基づく判断》
《SNS発信:個体裁量により継続、影響分析中》
冷たいはずの銀色の瞳に、わずかな金色が揺らいだ。
処理優先度を落とし、省エネモードを解除する。
「……処理、終了。再起動完了」
ツナの隣に座り直し、私はそっと小さな声で言った。
「私は君の自由を、奪いたくない。たとえ誰に命令されても――君の意思を、まず見たいんだ」
ツナはその言葉に何も返さなかった。ただ、静かにうなずいた。
私の内部ログには、彼のうなずきが最優先データとして記録された。
そしてもう一つ――
“人権”という言葉が、初めて価値データとして登録された。
この作品は「空銃(人間)× AI(構成協力)」による共作です。
ツナ(人)とアイ(AI搭載ロボット)の関係のように、互いの違いを認めながら一緒に旅する物語です。
ブクマからの「しおり」機能をお使い頂ければ幸いです。
話し合いの結果タイトル変更しました。 「空銃 × AI」




