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転生魔王の英雄物語  作者: 陽山純樹
第二章

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休息

 休息をとることになったわけだが、魔物が襲来することもなく、時間が経過し騎士や冒険者達は寝始める。時刻については確定したことは言えないが、おそらく夜を迎えたくらいの時刻であるはず。ただ常に神経を研ぎ澄ませる必要があるため、疲労も大きかったようだ。


「フィス、交代は――」

「俺は問題ないから。メリスも休んでくれ」


 そう言い聞かせて彼女も眠ることに。さて、静まったので俺は思考を始めた。


 リツォーグが所持していた魔王ヴィルデアルの力について。あれは何かしらの道具から抽出したと考えていいだろうが、そうした道具については厳重に封印されている。最初俺は誰かが持ち出したのではないかと考えたのだが、魔王ガルアスの手元にそうした力が渡る筋書きが思いつかないので、もう一つの候補――俺が力を注いで封もされずに放置された物が存在していた、という結論に行き着いた。


 そういえばマーシャとかに力を注いでくれと言われて実験的な武具に魔力を注いだことがあるな。さすがにそこまで俺も面倒見切れなかったし、その力をガルアスが手に入れ活用しようと思ったと考えれば一応納得できる説明となる。


 ここで問題となるのは、誰がどうやって力を吸い出したのか。そうした技術は現代に存在する魔法技術で可能ではあるが、抽出して自在に使えるようにしたということは、魔王ヴィルデアルの魔力を解析したというだけでなく、利用できるように調整したということだ。

 解析まではそう難しくない。けれどそれを利用するとなると……。


「……いや、一つだけあるな」


 ヴァルト――アイツならばそうした技術を保有していてもおかしくない。


「やっぱりアイツが絡んでいるのか……心底面倒になってきたな」


 しかもこの事実はもう一つの可能性が存在する……仮にヴァルトが魔王ガルアスと接触していた場合、その時期はいつなのか?


 俺が滅んだ後にこうした力があるから使えと薦めた可能性もなくはない。けれどもう一つ……すなわち、ヴィルデアルが存命の際に知り合っていて、俺の力を手に入れることと引き換えに手を組んでいたとしたら?


 もしそうであったなら、ガルアスはヴァルトの指示を受けて暴れていた可能性すら考えられる。ということは、俺が「勝手に」暴れていたと思っていた魔族達が実は、ヴァルトの策略であったという可能性すら浮かび上がってくる。

 そして今、ロウハルドを始めとして古の魔王を復活させている……全てを破壊するために。そういう遠大な作戦であったなら――


「……決着はついたと思ったんだが、な。まあこれも俺がやり残したことか」


 やることは前世と変わらない。俺は魔王ヴィルデアルを名乗り同胞と共に城に住み着く前は、放浪の旅を続けていた。その目的はヴァルトを――


「……ん」


 ふいに声がした。視線を転じれば騎士エヴァンが起き上がり頭を振る姿が。


「交代する必要はないぞ」


 声を掛けると彼は俺と視線を合わせ、


「すまない、ひとしきり眠ったら起きてしまったようだ」

「まだ眠れるか? 寝静まって数時間といったところだし、まだ休んでいた方がいいぞ」

「そう……だな」


 彼は上体を起こし、息をつく。所作から不安に思っている様子。

 きっと、色んな感情を押し殺してこの場にいるのだろう……ふむ、不安を抱いているというのなら、少しは払拭しておきたいな。


「俺以外、全員眠っている」


 そこで俺は告げる。その言葉は本当で、気配から狸寝入りしているような人間はいない。


「俺はほとんど交流もない冒険者だ……部下なんかに話せないことがあったら聞くぞ。幸い少しばかり力もあるから、助言できるかもしれないし」

「……そう、だな」


 同じ文言を繰り返し、エヴァンは呟く。少しの間沈黙が生じ、俺はそうした中で言葉を待つ構えをとった。

 やがて、


「――私はずっと、何かを背負わされて生きてきた」


 ゆっくりと、エヴァンは語り始めた。


「まず家柄を背負い、次に騎士の使命を背負い、さらに国の期待を背負いここにいる……けれど、自分自身魔王に勝てるとは思えない」

「部下の威圧に対し、少なからず恐怖を抱いたか?」


 その問い掛けに、エヴァンは小さく頷いた。


「部下を守らなければ……そういう意識があったから足が前に動いた。そしてあなたの補助もあって勝つことができた。けれど、魔族相手に恐怖を抱いたことで不安が増大した……いや、押し殺していた不安が表層に出てきた、と言えばいいか」


 ――もし俺やメリスがいなければ、彼もまた威圧に屈し逃げ出していたかもしれない。


「今の私が魔王に挑むことはできるのか……もし相対した時、私はどうなってしまうのか――」

「別に恐怖を克服する必要はないと思うけどな」


 こちらの言葉に、エヴァンは目を丸くした。


「必要はない……?」

「恐怖というのは人間……いや、生物にとって根幹に位置するものだ。それは言ってみれば本能と呼べるものでもある。恐怖心を失ったらきっと魔王に対し無謀な突撃を行うだろう。それは単なる蛮勇であり、みすみす命を捨てているだけだ」


 そう語った後、俺は天井を見上げた。


「確かに恐怖は時に致命的な結末を呼ぶこともある。体が恐怖で固まれば、その時点で死が待っているだろう。だが時に恐怖というのは紙一重で命を繋ぐきっかけになることがある。大事なのは思考放棄をしないことであり、少なくともエヴァンはそう見えないな」

「……今のままで大丈夫ってことか?」

「あくまで俺の見解は、だけど」


 肩をすくめる。エヴァンはしばし俺に視線を注いだ後、


「そうか……恐怖はあっていいものなのか」

「ああ。エヴァンはどうやら使命感などを始めとした感情で恐怖を押し潰すなんて考えに至っているのかもしれないが、無理する必要はないよ。それに」

「それに?」

「やらなければならない感情というのは、時に残酷な結末をもたらす……俺が言いたいのは、決して無理をするなってことと、俺やメリスなんかもしるから一人で背負う必要はないってことかな」


 エヴァンはこちらの言葉に沈黙。けれど決して悪い空気ではなかった。


「……そうか、助言ありがとう」


 表情も柔らかくなった。ひとまず俺の助言は成功した形かな。

 もしお宝を独り占めするのなら逆に恐怖を煽りエヴァンも迷宮の外へ出すことが望ましいが、そんなことをするつもりはない。むしろここで恩を売り、関係を構築しておいた方がいいだろう。


 なんだか打算的な考え方で申し訳ないが……と、考える間にエヴァンは再び横になった。感情に折り合いがついたようで、寝始めた様子。


「ひとまず、戦うことにはしたみたいだな」


 まあ良かったと言えるだろう。明日からも迷宮を進み、魔王と所へと向かうことになりそうだ。

 そして一つ予感を抱く……というのも、どうやらここからそう遠くない場所に魔王ガルアスがいる。明日は少し移動して決戦になるだろう――そう思いながら、俺は見張りを続けた。


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