表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第三話 神探し

「はぁ、はぁ、ったくどこ行ったんだあいつ……!」


 五十泉いずみ匡真きょうまは人探し、いや神探しをしていた。

 自分を助けてくれた少女、デスティーナを探しに。


 とりあえずこの人の多い繁華街で聞き込みするしかない。

 とはいえ、あんなやつを見つけられるような人ってどういう人なんだろうか。

 手当り次第()くしかなさそうだ。


「あの!白い髪の女の子見ませんでしたか!?十字架を首から下げているちょっと変わった格好の!」


「ん〜?そんな子は見とらんなぁ」


 茶髪のグラサンを掛けた中年の男は言う。

 変わった子には変わったやつが関わっているかもしれないと思ったが、駄目だったか。


「すいません、ありがとうございます!」


「ええよ、別にぃ。人探しなら手伝ったろか?」


 男はタバコを吸いながら、そう提案する。

 よろしく、と言いかけたところでよく考えてみる。


 いや、まずいか…?

 デスティーナはあの事に一般人はあまり関わらせたくない、というか知られるのは何かまずいという雰囲気だった。

 協力頼みたいところだが、そういう事ならこの人に頼むのはよしたほうが良いだろう。


「いや、大丈夫です。でも気持ちはありがとうございます」


「全然ええっちゅうの。困りはったら何でも言いや?」


 そう男が言うと、匡真はまた少女を探しに走る。

 男はその様子を見て、タバコの煙を肺の隅まで巡らせ、口から吹いて言う。


「あいつ、ちょっとしくじりよったか?」



 他にも色々な人にいてみたが、全員まったく見てないとのこと。

 まあそもそも、あんなやつが人目につくところにいるはずがないか。


「だってビルの屋上まで飛んでいくやつだもんな…」


 溜め息をつきながら、それでも探しに行く。

 あの出来事は、まあいいやと片付けて良いことではない。

 聞かなければいけない、俺はあの当事者なのだから。

 それに、俺はあいつに何も返せてないんだ。

 返さなければいけない、いや返したい恩があるんだ。


「だから、もう一度会わせてくれ……じゃないと、どこまでも探しに行くぞ!」


 黄昏たそがれときは過ぎ、暗夜の迫る空の下にて、匡真は地の果てまで追いかける覚悟で探し続ける。

 ……もはや、いないのではないか。

 嫌でもそんな考えが浮かび、その考えを否定するが如く走り続ける。

 空は黒く、建物の光が黒い街に僅かな明かりを灯す。

 その中一人、彼は探し続ける。



 月島から橋を渡ったところにある公園、匡真はそこのベンチでうつむく。

 公園にはデート中のカップルや、バットを素振りをしている高校球児がいた。

 そんな人々が普通に暮らしている中、匡真は異常を追っていた。

 だが、異常は見つからない

 探し続けた。これからも探し続けるつもりだった。


 ……だがもう、いないだろう。

 会えるはずがない。

 あんな得体の知れない、人には到底できない速度で飛んだあいつに追いつけるはずがない。

 やはり、俺と彼女では生きる世界が違うということだろうか。

 こんな俺が、彼女に干渉しようとするのは傲慢なのだろうか。


 もう、帰ろう。

 神様は俺に、このなんでもない世界で生きろと言う。

 ならば、そこが俺の帰るべき場所ならば、俺はきっとあっち側には行ってはならないのだろう。


「……会えないか。そうだよな、当然だ」


 当然だ。酷く当然だ。当たり前だ。

 当たり前という言葉で自分の気持ちを押し殺す。

 このぐっちゃぐちゃな気持ちを抱えて、匡真は戻った。



 戻ろうとした。

 この公園から戻ろうとした。

 暗くて、人じゃないモノの気配のする公園から、戻ろうとした。


「……何か、いるのか?」


 茂みからガサゴソという音が聞こえる。

 隠れようとしているが、獲物を狙おうと隠せていない獣の気配。

 見たことのある、感じたことのある気配。

 そうだ、こいつらは。


「まさ、か」


 茂みからその獣は飛び出る。

 その姿はまさに黒い砲丸ほうがんだった。

 凶暴で、獰猛どうもうで、泥臭い猛獣はその欲を抑えきれずに人を求める。

 だが最初の標的は匡真ではなく、先程まで素振りをしていた高校球児だった。


「うわあああ!!やめろ!やめてくれぇぇええ!!」


 闇雲にバットを振り回すも、そんなものであの捕食者が退く訳が無い。

 獣は、後退あとずさりする彼を逃しはしない。

 そしてその牙は、球児の引き締まった腕に立てられる。


 ぷすっずぶぶ


 と、牙はその肉に刺され、肉や腱、神経といったものを引き抜こうとする。


「ひぎっ、ぎゃぁぁぁああああ!!いだい、いだい、いだいいい!!」


 拷問だとでも言うような痛みが彼に走る。

 肉の繊維はブチブチと切られ、神経は何本も引きちぎられ、腱は牙に引っ掛かってピンと引っ張られている。

 もしあれが続くようなら、もう永遠に彼はそのバットを握ることはできないだろう。

 いや、もはやその腕は永遠に使い物にならなくなるであろう傷だ。


 だがその傷がその腕に刻まれる前に、匡真は動き出す。


「ぐっ!早く逃げろ!こいつは、俺が!」


 獣にタックルをかます。

 獣は軽く吹っ飛ばされ、受け身ができずに地面に叩きつけられる。


「そいつ貸せ!」


「えっ、なっ」


 その隙に、匡真は球児からバットを奪う。

 バットを握りしめ、その獣へと振りかざす。



 こんな、人を襲う獣は生かしてはおけない。

 こんな悪を放っておく訳にはいかない。

 俺が、俺が殺す。


 殺す。殺す。殺す。絶対に、殺す。


 それは正義のための行動というよりかは、憎しみから来ている行動のように見えた。

 誰かのため、それもある。誰かが不幸になるのは許せない。

 だがそれ以上に、匡真は悪が許せなかった。

 人を不幸にするものに、強い憎しみを持っていた。


「はぁ、はぁ、死ねよ。死ねよクソ!」


 それは最早、正気を狂わせるほどの強い衝動。

 加減を忘れ、辞め時を忘れ、彼は獣へ叩き続けた。

 その衝動を彼の理性は抑えきれない。



 気づけば、獣はぐちゃぐちゃになっていた。


 事後のなんとも言えない倦怠感に彼は包まれた。

 これは、俺がやったのか?

 と、自分の衝動を抑えきれなかったことを自覚する。


「俺、今なんで、ここまでやったんだ」


 バットは獣の赤い血にまみれている。

 顔にも少しつき、それを手で拭う。

 自分でも、何故ここまで悪を見て不快感を覚えるのかわからなかった。

 だがとにかく、今は平然と落ち着いていた。

 彼の理性は働き、周りの人の安全を確認する。


「あの、大丈夫でしたか――」


 周りには誰もいない。

 さっきの行為に夢中になっている間に逃げたのだろうか。

 なら、俺もさっさとこの場から離れよう。



 だが、夢中になって逃げ遅れた匡真を()()は逃がしはしなかった。


「なっ……!?」


 気づいた頃には囲まれていた。

 四匹の獣は一人の獲物を囲い、虎視眈々と狙う。

 一匹で十分脅威たり得るあの魔獣とやらが、四匹。

 獣は涎を垂らし、喉を鳴らす。

 その音はこの静かな公園に響き、まるでコンサートホールのようだ。

 餌を見て興奮する肉食動物で、食欲を抑えられていない猛獣。

 猛獣達はジリジリと近寄り、捕食の機会を伺っている。


「っ……!」


 昼の光景を嫌でも思い出す、あの獣に喰い散らかされた死体を。

 あの時の死体と自分自身と重ねる。

 いや、重ねることもできないだろう。なぜならあっちは一匹だったが、こっちは四匹だ。

 四匹の腹を満たすにはこんな人間一つでは足りない。

 きっと、それが五十泉匡真と分かる部品は無くなるだろう。


「畜生、こいつら……!」


 四匹のうちの一匹が地面を蹴って飛ぶ。

 その口の中の刃を立て、獲物を喰らおうとする。


「っ……今!」


 匡真はその獣の下をかいくぐる。

 囲いからは脱したが、状況は変わらない。

 四匹の獣と睨み合う。

 立ち向かうのは絶対に無謀だ。

 なんとしても逃げなければならないが、そんな隙はこいつらに与える訳には行かない。

 この膠着こうちゃく状態のうちにいい考えを思いつかなければ、あの死体とまったく同じ末路を辿るだけだ。


「でも、立ち向かうことができないなら、答えは一つしかないだろ!」


 背を向けて走る。

 立ち向かっても無駄なら、逃げることしかできない。

 だがその隙をやつらは逃さない。

 後方一匹が口から青白い弾丸を匡真に向け発射する。


「ぐっ……うわぁああ!!」


 間一髪で避けるものの、地面に弾丸が当たった衝撃で2メートルほど飛ばされる。

 匡真は地面に叩きつけられる。

 まさに無防備。まさに丸裸。

 前方二匹はその絶好のチャンスを狙って飛びかかる。


「っ……!」


 死が迫っていた。

 数秒後に訪れる結末は分かりきっている。

 その結末をゆっくりと未来は迎える、


 はずだった。


 前方二匹は水の刃によって真っ二つになった。

 後方二匹はそれを見て後退りする。

 新たな敵、それも強敵。獣はそれをそう見る。

 だが、匡真はその姿を見て目を開いた。


 そう、デスティーナだった。


 彼女はまたしても匡真の死の間際に現れた。

 彼女は残り二匹と相対するが、焦りはまるでない。

 二匹は彼女へと立ち向かう。

 圧倒的な強者へ、弱者けもの達は挑む。

 だがその挑戦は無駄だった。

 彼女は余裕そうな振る舞いで二匹を蒼銀の剣で処理した。

 その一薙ひとなぎで二匹の活動は停止した。


「大丈夫か……って、其方そなたは昼の……!?」


 彼女は驚きの表情を浮かべる。

 まさかこの男が自分を求めてここまでやってきたとは思うまい。


「ありがとう、また助けてくれて。俺は君に助けられてばっかりだ」


 そう感謝の言葉を告げると、彼女はわずかに驚く。


「其方、何故昼の記憶がある……?」


 当然の疑問だ。

 彼女は匡真に何かしら忘れさせようとしたのだろう。

 驚くのも無理はない、その術が匡真には何も効いていないのだから。


「なんかわかんないけど、君のことを覚えていた。君が助けてくれたこととか、手を差し伸べてくれたこととか、よく覚えているよ」


「ふむ……そうか、なら今度こそ忘れてもらおう」


 と、彼女は手を匡真に向け、光を放つ。


「だっ……!ちょっと待てって!」


 急いで自身の右腕を光に向ける。

 昼の通りなら、これで術は効かないはず!


「なっ、何故忘却魔術が効かない!?」


「だから、ちょっと待てってお前言ってるだろ!」


「ひゃっ」


 ガシッと彼女の腕を掴む。

 あまり太くなく、それでいて健康的で力の感じる女の子の腕だ。


「話を聞かせてくれ。二回もこんなことに巻き込まれて、それを覚えているんだ。聞く権利はあるだろ」


「まあ一理あるが……」


 彼女は出し渋る。

 それほどの極秘事項なのだろうかこれは。


「……仕方ない。私も、何故其方(そなた)が忘却魔術を無効化できたのか気になる。こちらも事情を話そう」


 彼女はやっと話をしてくれる気になった。

 これは俺の我儘わがままかもしれない。

 それでも俺は聞きたい、あの獣がなんなのかを。



「というか腕を離せ馬鹿者……」


 あ、ごめん。と静かに腕を離す。

 若干掴んだ跡が残るほど俺は強く握っていたらしい。

 彼女は腕を少し痛そうにさする。本当に申し訳ない。


「そういえば、其方の名をまだ聞いていなかったな。何と言うんだ?」


 彼女との初めてのまともな会話。

 会話の基本、人とはまずここからふれあうことになるのだろう。


五十泉いずみ匡真きょうまだ。ただの高校生だよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ