Episode 24 第三試合 諦めきれない想い
英美里とひなの試験が終わり、次は雅の番となった
訓練所中央に凛と立つ雅
その姿はとても絵になる
「これはこれは、かの伊集院家のお嬢様と戦うなど、私みたいな下民が失礼を致します」
雅は、日本三大企業の一つ、伊集院財閥のお嬢様だ
そんな人と戦うなど、と一切気持ちの篭っていない言葉を続ける冬弥
「辞めてちょうだい。
今ここにいる私は、お父様の会社なんて関係ない
一人の人間よ」
「これは失礼。
では、一人の人間、伊集院雅を倒してみせましょう」
冬弥のこの言葉は、驕りでは無く、彼自身のとてつもない自信から出ている
しかし、その言葉に雅は興味が無いという表情で返す
「私は、私のために戦うの」
「おや、そうなんですか?
仲間の為ではなく?」
「この試験は私自身のため。
私が、これからもあの子たちを守れるように。
だから、私は勝つわ」
「ほう」
中央で話す二人
木吉のアナウンスなど聞いてもいなかった
「それでは第三試合、始め!!!」
開始と同時に剣を出現させ、冬弥に向かっていく雅
しかし、その動きは読まれていて、冬弥も両手に真っ黒な銃を持ち、こちらに向かって打ってきていた
それを雅は予想していて、弾を剣で弾きながら真っ直ぐに冬弥に向かう
「やりますね」
「あなたこそ」
雅が上から切りかかったが、冬弥は二丁の銃を交差して受け止める
そして、がら空きの雅の腹に目掛けて蹴りを入れるが、雅は後ろに飛び、それを躱す
「すごいです...」
「さすがだな
俺たちとなにわ連合とでは、実力差は言われるまでもなく圧倒的だが
雅が負けるのなんて、想像出来ねぇな」
雅の戦闘を見ながら話す英美里と聡
それほどまでに雅の信頼は大きいのだ
「すげぇな雅!あんな強かったんかい!」
「大我うるさい、少しは反省しろや
って言っても、ホンマに。
冬弥とあそこまでやり合えるとは思わんかったわ」
反対側であかりと大我も話している
冬弥は、なにわ連合のNo.2
本気は出していないにしろ、レベル差もかなりあるというのに冬弥と渡り合うほどの、彼女の戦闘センスに驚いている
「なかなかですね、いい動きです」
「上から言わないで。」
お互いがお互いの攻撃を防ぐ
雅と冬弥は、お互いの思考を探っていた
相手の視線、腕の動き、体重のかけ方
全ての動きを頭に入れ、行動を読む
達人技と言ってもいい程のレベルの高い読み合いをしている
「そろそろウォーミングアップはお終いですね」
20分程攻防を続け、そう言い、雅から距離を取る冬弥
大技を警戒して、雅も離れる
しかし、それが間違いだった
「《黒風白雨》」
冬弥は、二丁の銃を一つにし、大きなマグナムへと変える
そして、銃口に魔力を集め、その大きなエネルギーの弾丸を放つ
放たれた弾丸は、0.01秒毎に分裂する
目では把握出来ない程の数の弾丸の雨が雅に降り注ぐ
「さすがにこれは当たりますよね?」
「くぅっ!!!!」
弾丸の雨を必死に捌く雅
冬弥のスキル《黒銃》は弾が
掠るだけで当たった場所が石化し、崩壊する
あかりからの命令で、石化の効果は付与していないが、この量の弾丸を捌けるはずがない
必ず致命傷になる
と、冬弥は思っていた
「はぁ、はぁ、はぁ」
「うそやろ...」
雅はそれを捌ききった
自分に当たりそうな弾丸だけを見極め、最短の動きで全ての弾を弾いた
考えてもいなかったその光景に、驚きのあまり関西弁に戻る冬弥
もちろん冬弥だけじゃない、今この場にいる全ての人間が、その光景に絶句していた
「雅さん、凄すぎ...」
「凄すぎなんてもんじゃない
雅は、ここまで強かったのか?」
龍夜とひなは、雅が自分たちの知らない間にここまで強くなっているという事に、驚きすぎて言葉が出ない
「はぁ、はぁ、もう、終わり?
まだまだ、これからよ、」
そう言い、息を整えながら、今度は自分の番だと構える雅
しかし、冬弥は驚きの行動に出る
「降参です、私の負けです」
「は...?」
突然の冬弥の降参宣言に、雅は理解が追いついていない
何故だという顔で冬弥を見ている
「先程の大技を防がれては、合格というしかありません
雅さんの実力は十分把握出来ましたので、これで終わりです」
「何を言ってるの!?
まだ決着が着いてないじゃない!!」
必死に訴えかける雅
彼女にとっては、この戦いで自分の気持ちに整理をつけるという覚悟も込められていた
だから、こういう決着を望んでいた訳では無い
しかし、冬弥は冷静に雅を諭す
「お忘れですか?これは試験です
殺し合いじゃありません
ですから、雅さんがどんな覚悟でこの試験に臨んでいたとしても、これ以上はお相手できません」
「くっ...!」
勝ったはずなのに、下唇を噛み悔しそうに俯く雅
彼女にとって、それほど大事な事だったのだ
冬弥は、下を向く雅に近づき小声で話す
「それに、まだ諦めるには早いですよ
雅さんは強く美しい女性だ
龍夜君だって振り向いてくれるチャンスはあると思いますよ?」
突然の冬弥の言葉に、雅の顔がどんどん赤くなる
「な、なぜ知っている!!!
大我か!?」
「おや?大我も知っているのですか?
私は、貴女の剣からぶつかってくる気持ちを読み取ったまでですが」
「え!?」
冬弥が続けた言葉に、更に顔が赤くなる
冬弥には、雅の覚悟も思いも伝わっていたのだ
「こんな世界です、自分のことを諦めるのではなく、他人も、自分も大事にしてあげてください」
応援してますよ、と最後に言い、冬弥は雅から離れて、あかりたちのいる場所へ戻る
雅は隠していたはずの龍夜に対する自分の気持ちを、大我と冬弥の二人に知られてしまったことで、恥ずかしさのあまり、顔を隠すようにその場に座り込む
「雅さん!!大丈夫ー!?」
雅が疲労で倒れたと勘違いしたひなと英美里が、雅に近づいてくる
「雅さん、顔真っ赤です!!
スキルの使いすぎで熱が出たんじゃないですか!?」
「大変!!!早く横にならないと!!
聡さん!!ちょっと手伝って!!雅さん運ぶから!
それと救護室借りてもいいですか!」
ひなと英美里は、変な勘違いを起こし、二人で慌て始める
雅は、まだ動揺と恥ずかしさが消えず、そのせいで、珍しく雅まで慌てている
「だ、だ、大丈夫!!
大丈夫だから!!全然平気だから!!」
「雅!大丈夫か!?」
聡と共に龍夜も現れ、雅に手を伸ばす
龍夜が来たことで、雅の胸の鼓動がどんどん早くなっていく
龍夜から差し伸べられた手を握る雅
「(諦めようと思ったのに...
この戦いで吹っ切れようとしてたのに...)」
鼓動の音が、自分の中で響き渡る
龍夜にも聞こえているのではないかと思うくらいの大きさで
「どうした?やっぱ熱あるっぽいな」
心配そうな顔をして雅を見る龍夜を静かに見つめ返す
「(あぁ、やっぱり。
私は、龍夜がどうしようもなく好きなんだ...
諦めきれない、諦めたくない
この気持ちを消し去りたくない。
決めた。鈴音が帰ってきたら、話をしよう
そして、あの子に謝ろう
ごめんね、鈴音。
やっぱり諦めきれない)」
親友のため、自分の恋を諦めようとしていた雅だったが、冬弥の自分も大事にしてください、という言葉に、自分の本心に気づく
これで、彼女に嫌われるかもしれない、けど、それでも抑えきれない、龍夜に対する気持ちを、諦めることは出来ないと思った
「ねぇ、龍夜」
「どうした?」
「私、どうだったかしら」
先程の戦いはどうだったか、という言葉に、『自分はあなたからどう見えているの?』という意味を乗せて、緊張気味に、少しだけ頬を赤らめながら、龍夜に聞く
その意味に気づいていない龍夜は、雅の目を見て笑顔で言う
「相変わらず綺麗な剣捌きだったぜ!
見惚れちまったよ!」
「(....見惚れた、かぁ)」
それが、恋とか愛とかそういう意味の言葉で言ったのでは無いと分かってはいるが、その一言だけで、恥ずかしくも、嬉しくもなってしまう
「これから、もっと見惚れさせてあげる」
「は、え、えぇ?」
龍夜の目をしっかり見てそう言った雅に、今度は逆に龍夜が顔を赤くする
その言葉の真意に気づいていない彼に少しでも意識してもらおうと、初めて行動に表す
「じょ、冗談言うなよ」
「ふふ、ほんとバカな人」
「くっそ!!からかわれたぁ!!」
そういう意味でバカな人と言った訳では無いのに、鈍感な龍夜は全く気づいていなかった
「(気づいてもらえるのも、当分先になりそうね)」
雅が少し残念そうに、でも、嬉しそうに、心の中でつぶやく
龍夜と雅のやり取りを見ていたひなと英美里は、頭に?を浮かべていた
「2人もありがとう、私は大丈夫よ
さ、早く戻りましょ
次はいよいよ、龍夜でしょ?」
第三回戦も無事に合格を勝ち取り、続いての試合は龍夜とあかりのリーダー対決だ
龍夜は、じっとあかりの方を見つめている
あかりは、大我と共に降参した冬弥を弄っていた
「ナベ!ホンマに負けた思たで!
お前の関西弁なんて久々聞いたわ!」
「だよなあかり!!うそやろ...ってなぁ!?
はぁー、雅には感謝やわ!!あんなお前の顔見れてほんま嬉しいで!!」
「はて?なんのことでしょうか頭取」
冬弥は、関西弁になったことをいじってくるあかりに話しながら、自分の真似していた大我の首を絞め上げる
龍夜の緊張とは真逆の賑やかさだった
「ナベ!大我落ちてる!!落ちてるって!!
ん?」
冬弥を止めていたが、龍夜の視線に気づき、こちらを向くあかり
つい先程までの笑顔は消え、真剣な顔つきになる
「リーダー対決」
視線をぶつけ合う二人を見ながら聡が呟く
「ただそれだけで組まれた組み合わせには見えねぇなぁ
こりゃ、まだ何かありそうだな」
そう言い、タバコに火をつけ、静かに二人を見つめる
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