表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
激闘! ライブハウス編
90/173

第八十四話 「僕たちは、 それでもギャルゲーソングをやる!」

 ライブも終わり、気がつけば二日ほど過ぎていた。けれど、僕はいまだに忘れられずにいる。


「まだボーっとしているのか、岩崎君は」


 部室での練習中、和田がそう話す。


「ライブの余韻がまだ残っているんだろうな」


 ベースを持つながら、荒木が和田に返事をする。


 練習の前ーー。


 ライブハウスに行ってきた内容を金本たちに話した。


 どういった雰囲気かなどを、最初は興味がありそうに聞いていたが、次第に顔色が変わっていった。


「なんだとー! KORUKAのライブを見た⁉︎ なんで僕を呼ばないんだ」


 顔を真っ赤にして、金木は暴れ回る。


「いや……だって、ねえ」


 僕ら三人は、お互いに顔を見合わせる。


「行かなかった金本先輩が、悪いんですよ」


 ライブハウスの下見に行かず、同人誌のイベントに行っていた金本。


 そんな彼に、怒られる理由はなかった。ため息をついた荒木は話す。


「まあ、そこまでびびるような場所ではなかったってことだ。ライブは……残念だったな」


「きぃー! くやしい」


 その後も、練習中ずっと金本は不機嫌のままでいた。


 ーージャーン!


 曲を一通り弾き終わる。鳴り響いていた音が静まり、和田は一言つぶやく。


「形になってきたね、音が」


 この日弾いたのは、KORUKAがライブでやってたのと同じ曲。


 ライブハウスでの出演も近いこともあり、新しい曲の練習も増やしていった。


「けど、なんか違うんですよねー」


 ライブで見た時のような、衝動感が僕たちの弾く音にはなかった。僕は首を横にかしげる。


 ーーあの時に見た、ドキドキ感や新鮮さがないんだよなあ。


 「まあ、 まだ練習したばかりだし! あまり深く考えずにやろー」


 マイクを机に置いた響子は、帰り仕度をしている。まだ部活が終わる時間ではない。にもかかわらず、響子は帰ろうとする。


「おいおい、まだ終わってないぞ? なに帰えろうとしてんだ」


「今日はちょっと気分じゃないの、悪いけどあたしは先に抜けるー」


 そう言ってカバンを持った響子は、部室を出ていった。


「どうしたんだろう馬場さん、たしかに今日は元気なかったね」


「どっ、どこか悪いのかな?」


 和田と岡山は心配しながら、話している。そんな中、一人不敵な笑みを浮かべていた。


「ふっふっふっ、おまえたち。ギャルゲーをプレイしていて気づかんとは」


 そう話す金本に、全員の視線が集まった。


「なら、おまえはわかるのか?」


「当たり前だ! 僕は、ギャルゲーマスターだぞ」


 ニヤニヤと腕を組み、椅子に座る金本。


 ーーギャルゲーマスターって、なに?


 そう思いながら、僕は尋ねる。


「じゃあ、言ってみてくださいよ」


 どうせろくでもないことを言うんだろうなと期待せずに、金本の言葉を待った。


「馬場さんだって女の子だ、彼氏が一人二人いてもいいだろう。つまり! 答えは男だ」


 簡単に言えば、彼氏がいるから早く帰った。金本はそう言いたいらしい。


 たしかに響子の見た目からすれば、いそうにも思える。恋愛よりもバンドがいい僕にしたら、まったくどうでもいい話だ。


 しかし、KORUKAのライブを見てから響子の態度は変わっていた。


 ーーうーん、なんだろうな。


 知り合いだった可能性もあるし、なにかトラブルでもあったのかわからない。


 意気揚々と話す金本を横に、僕は一人でそう考えていた。


「とりあえず、練習に戻ろうか」


 響子がいなくなり、残った僕らで練習を再開する。メインになるボーカルがいないまま、僕のハモるパートで曲を弾いていく。


 どこか物足りなさを感じるが、この日の練習が終わる。


「よーし! 部活も終わったし、久しぶりにギャルゲーのショップに行く?」


 ギャルゲーの店に誘う金本に、和田たちはうなずいて答えた。帰り仕度をしている僕は、金本たちに構わず帰ろうとした。


「あれ? 岩崎君は行かないのかい? 君が好きそうなのも、チョイスしてあげるよ」


「すみません、今日はちょっと」


 そう言い残して、僕は部活を後にする。部活を出てすぐ、スマートフォンで電話をかける。


 ーープルルルッ、ガチャ。


 電話が繋がると、相手が答える。


「なにー? キョウちゃん」


 相手は響子だ。僕は、用件を伝える。


 「今どこだ? ちょっと出てこい!」


 そう話し、前に行った喫茶店に来るように言うと、僕は走り出した。


 喫茶店に着いて、中に入ってあたりを見渡す。


 ーーまだ来てないか、しばらく待つことしよう。


 店員さんに席を案内された僕は、席へと向かう。適当に飲み物を注文して、響子を待つことにした。


「すぐには来ないか、曲のおさらいでもしてるか」


 テーブルに楽譜や歌詞カードを置き、自分のパートをチェックする。


 僕は練習が終わった後、自宅でも同じようなことをしている。


 どうすればよりうまく弾けるか、ここをこうしたらいいんじゃないか。足を引っ張らないように、僕なりの努力だ。


「KORUKAの曲って、他と違って歌い方をどうするか悩むんだよな」


 本人に負けないようにするにはどうしようか。しばらく考えていると、向かいの席に誰かが座る気配がした。


「いきなり呼び出して、なんなのよー」


 制服ではなく、私服で現れた響子がそうむすっとした顔で声をかけてくる。


「あ? ああ」


 テーブルにある楽譜などを片付けた僕は、響子と向き合う。


「おまえ、なにかあったのか? ライブを見てから様子がおかしかったし」


「別にー、普通だよ?」


 あきらかにウソだと言うことは、顔を見ればすぐにわかった。


「あのなあ、今日みたいに途中で抜けられたらライブに支障が出るだろう?」


 一人でも準備が完璧でなければ、いいライブはできない。僕はそう考えながら、話を続ける。


「もしかしてだけど、KORUKAと知り合いなのか?」


 ーーピクッ!


 一瞬だが、響子が反応する。ジャスティンさんの娘ならば、会ったことがあると思ったがどうも当たりらしい。


 僕の問いに、響子はしばらく黙っている。


「……なのよ」


 響子は小さな声でなにか口にする。


「なんだって? 聞こえなかった」


 小さすぎて聞き取れなかった僕は、そう聞き返す。


「あの人……もうギャルゲーソングのアーティストじゃないのよ」


「どういうことだ?」


 そして、響子は話し始めた。


 KORUKAはもともとプロの歌手を目指していた。ゲームやアニメではなく、普通の歌手として。


 アーティストとして、曲を作り。それがジャスティンさんたちの目に留まった。


「最初は喜んでたらしいけど、自分の曲がゲームに使われていたのがショックだったらしいわ」


 曲が使われたことはよかったが、それがゲーム。ましてや、ギャルゲーに使われていたのならそれはショックだろう。


「けど、この前はライブで歌ってたじゃないか」


 ギャルゲーに使われた曲を隠したいなら、ライブで歌う必要はない。


 ーーなのに、どうして。


 手で顔を隠した響子は、僕の疑問に答えた。


「あくまで、宣伝みたいなもの。嫌々歌っていたんだと思う」


 ライブでは、そんな風には見えなかった。あの曲だって、本当にすごかったんだから。


「あたし、あの人が歌うゲームが本当に好きだった。ゲームのことも知っていたからすごい曲が作れるって……」


 実際はそうではなかった。こんなゲームに使われていたなんて、プライドが許さない。


 そう本人から聞かされた響子は、それ以来彼女の歌を聴かなくなったらしい。


「だから、練習でも歌いたくなかったのか?」


 響子は首を縦に振るう。


 話を聞かされた僕は、言葉が出ない。まさか黒歴史にしていたとは思ってもいなかった。


「だから、あの曲はキョウちゃんが歌いなよ」


 自分は歌いたくないから、僕に歌えと響子は話す。


 ーーバタン!


 僕は思いっきりテーブルをたたく。


「それがどうした!」


 響子に向かって、僕は大きな声を上げる。


「たとえアーティストが黒歴史だと思っても、曲に罪はない」


 アーティストが、その事実を隠したいなら隠せばいい。だが、僕たちがコピーするならば話は別だ。


「僕たちの演奏を聴いてもらって、その考えを変えてやるんだよ」


 ギャルゲーだって、その作品が伝えたいことがあるはずだ。あの曲で、それがより理解できる。


 それをKORUKAに知ってもらう。こういうための、音楽研究同好会だ。


「おまえも自分の歌で、彼女を変えてみせろよ!」


 店内に鳴り響く、僕の声。静まり返った店内で、響子は笑う。


「なにそれ……意味がわかんなーい」


 笑う顔は、いつもの響子だった。


「キョウちゃんって、人を突き動かす魅力があるよね」


 いきなりそう言われた僕は、顔を真っ赤にする。


「なっ……何言ってんだよ!」


「ははは! キョウちゃんてば、ゆでダコみたい」


 笑い声を上げる響子は、僕を見つめる。


「しばらく考えさせてほしい」


 そう響子は僕に話し、気持ちの整理がついてから答えを出す。彼女の様子から、そんな感じがした。


「ああ、けど。おまえなら変えられるはずだ!」


 響子の歌声は、僕なんかよりも人を惹きつけられる。だから変えられると思っている。


「なんかアオハルってるなー」


 響子は今の状況を見て、そう口にする。


「ちげーよ! バンドライフだよ!」

 

 店内に広がる、僕らの笑声。


「……あの」


 すると気まづそうに、店員さんが声をかけてきた。


「ラブコメもいいんですが、店内ではお静かにお願いします」


 店員さんの言葉を聞いた僕は、またゆでダコになった。

 

作者の一言。


そこまでギャルゲーソングは変な歌かな?

と考えながら書いてました。


聴いたらカッコいいなっていう曲がたくさんあります。^ ^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ