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オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
進化! 僕らのバンド編
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第七十話 「待たせたわね、 ボーカルはあたしよ!」

部室に現れたのは、小柄な女の子だった。


 髪の毛は明るい茶色に染め、耳にピアスをつけている。


「いたた……」


 ドアにぶつかった金本が、起き上がった。


「いったい誰だ! いきなり、ドアを開けるなんて!」


 現れた女の子を見る金本は驚く。


「ぎやあああ! なんだ、その髪の色は!」


 まるで、おばけでも見たようにさけぶ金本。


「ここって、音楽研究同好会でいいんですよねー?」


 金本をスルーした女の子は、そう尋ねてくる。


「あ、ああ。そうだけど」


 僕が答えると、女の子は部室の中に入ってくる。


「うわー、こんなところで練習してるんだ。さすがにないわー」


 そう言いながら、女の子は部室を見回していた。


「パパから言われて来たけど、むさ苦しいわねぇ」


「というか……誰なんだ?」


 まったく話が読めない僕は、女の子に声をかけた。


「ああ、わたし? あんたたちのバンドでボーカルをやるように言われて来たのよ」


 その言葉を聞いた瞬間、僕らはまたおどろきの声を上げた。


 ーー次の日。


 いつものように、僕たちは部室に集まっている。なにかが違うとすれば、女の子がいることだった。


「まままっ、まずは! きちんと説明してもらおうか!」


 部活が始まるとすぐに、金本は緊張したような声を出す。


 ーーなにに、びびってるんだ?


 落ち着きがない様子の金本に、僕はそう思いながら話を聞く。


「説明って、なにをよ」


 女の子は椅子をブラブラさせながら、答えた。


「ボーカルをやるってことの話じゃないか?」


 和田が女の子に話すが、どこか様子が違う。いつもと違う金本たちに、僕は気がつく。


 ーーもしかして、女の子と話すのに慣れていないのか。


 普段、女の子と話すことがない金本たちを見ればそう理解できる。


 ましてや、自分たちと違う世界にいるような女の子ならば。


「だからー、昨日言ったでしょ? パパから言われて来たって」


「まったくわからん! なんなんだこの状況は」


 コミュニケーションのなさなのか、話が進まない。


 女の子が部室にいるだけで、パニック状態だった。


「パパって、誰だ?」


 この女の子を同好会に来させた人物。そのパパというのが、誰なのか僕は尋ねた。


「あれー? パパから、なにも聞いてないの?」


 女の子はそう言って、んんっとのどを鳴らす。


「ハーイ! ミナサン、お元気デスカー?」


 そのカタコトのしゃべり方を聞いた僕らは、はっと気づく。


「ええー! もしかして、パパって……」


 そんな話し方をする人物は、一人しかいない。


「そう、あたしはジャスティン馬場の娘よ」


 僕らはおどろきのあまり、大声を上げる。いきなり現れて、ボーカルをやることよりも。

 

「ジャスティンさんって……結婚してたんだ」


 そっちのほうが、驚きだった。


 ジャスティンさんの娘である、馬場 響子(ばば きょうこ)


 彼女は、ジャスティンさんから協力してほしいと言われて来たらしい。


「まさか、同じ学校にいたとはね……」


 話を聞いた和田は、小さくつぶやく。


「あの人は、僕らのプロデューサーかよ」


 手助けしてくれているのはありがたい。しかし、ここまでやるとは誰も思っていなかった。


「話はだいたいわかった……だがしかし!」


 金本はそう話すと、机を強くたたく。


「たとえジャスティンさんの差し金だろうと、ボーカルはダメだ!」


 金本は、彼女がボーカルをやることに反対のようだった。


「な、なんでよー」


 ジャスティンさんの娘さんは、金本の言葉にそう口にした。


「そんなチャラチャラした見た目で、僕らの活動に参加できるわけないだろ」


 自分たちとは、まったく違う身なりをしている。オタクとは無縁のような彼女に、金本はそう思ったのだろう。


「まあ、絶対にギャルゲーソングとか聴かなさそうだな」


 僕も似たような考えから、そんなことを言ってしまった。和田たちも、それにうなずく。


「失礼ねー! これでも、何百本もギャルゲーをプレイしてきてるのよ?」


「はっはっは! そんな、おとぎ話があるかい!」


 自分は数多くのギャルゲーをやってきた。そう話す彼女に、金本は信じられないようだ。


「本当なんだってば!」


 彼女は言い返すが、金本は笑い続ける。


「ならば、テストをしよう! どれだけ知識があるか」


「テストー?」


 彼女がどれだけギャルゲーを知っているか、確かめるようだった。


「それだけゲームをやっているならば、これくらい楽勝だろう?」


 まるで挑発するような言い方に、彼女は答える。


「ふん! 上等よ、かかってきなさい」


「どんな展開だよ……これ」


 火花を散らす金本たちを見ながら、僕はあきれていた。こうして、ボーカルを認めるテストが始まる。


「では、いくぞ!」


 さっそく、問題を出す金本。それは、ギャルゲーのタイトルからメーカーを当てるものだった。

 

「あかいろ! という作品はどこから発売された?」


「これまた、懐かしいギャルゲーを出してきたな」


 問題を聞いた荒木は、小さくつぶやく。


 ーーいや、 全然わからないんですが。


 タイトルすら聞いたことがない僕は、問題の答えがわからない。


「……わんわんソフト」


 彼女はなにも悩むことなく、即答する。


 その早さは、荒木たちも驚くほどだった。


「ぐっ、ぐぬぬ……正解だ」


 答えが合っているのか、金本はくやしそうな顔をしている。


「ふふん! まだイージーな問題さ、本番はこれからだ!」


 その後も、問題を出しまくる金本。しかし、それにすべて即答していく彼女だった。


 ーー声優の名前、作品の音楽。


 ありとあらゆる問題を出そうとも、間違えることがない。


「どんだけのマニアなんだよ……」


 見た目とのギャップに、僕は引きつつあった。


「えー? こんなの、普通でしょ?」


 当たり前のことのように話す彼女は、まるでひなたを連想させる。


「あいつとも、いい友達になりそうだな……」


 金本のほうを見ると、完全に敗北した男の顔をしていた。


「鬼じゃあ、ギャルゲーの鬼がおる……」


 意味がわからないことをつぶやきながら、金本はブルブルと震えている。


 そんな金本に、彼女は口を開く。


「これでわかった? あたしも、活動に参加できる資格があるって」


 金本がうなずくと、彼女はにこやかに笑う。


「それはいいんだけどさ、君はボーカルをやりたいの?」


 ジャスティンさんから言われたといえ、そこが肝心だった。オタクみたいな人たちとバンドをやるのに抵抗感はないのか。


 気になった僕は、そう尋ねる。


「最初はだるいーとか思ったけど、好きな曲が歌えるしー。いいかなぁって」


 ーーああ、そうか。


 僕らとなにも違わない、好きな音楽をやりたい気持ちは同じ。


「誰もいい曲だねって、言わないしさー。 なんか、むかつかない?」


 彼女の言葉で、僕らは納得する。


「えっと、馬場さん? 本当に、バンドでボーカルをやってくれるの?」


 すると、彼女は親指を立てる。


「あったりまえよ! バンドを変えてあげるわ、このあたしが」


 彼女の存在が、僕らのバンドになにをもたらすのか。少なくとも、すごくなりそうな予感だけはした。

作者からの一言。


新メンバーが増え、六人組バンドになりつつあります。


多すぎなような気がしますが、それもありでしょう。



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