第七十一話 「正式加入! バンド名は……」
いきなり、金本の声が部室に響き渡る。
「まてーい! 大切なことがまだ残っている」
「まだなんかあるの? めんどくさい男ねー」
ボーカルが決まろうとした時、金本が割って入ってきた。
「歌はちゃんと歌えるのか? 曲のイメージを壊さないか?」
その言葉は、まだ認めない金本の悪あがきだった。
「この人って、いつもああなの?」
僕らは、黙ってうなずく。ため息をつく彼女は、部室にあるマイクを見つける。
「とりあえず、歌ってみればいいのね?」
「それ、スピーカーにつながってないけど?」
マイクを手にした彼女に、僕はそう伝える。
「形だけよ! あくまで、イメージ」
てっきり音が鳴ると思っていたのか、恥ずかしそうに答えた。
「じゃあ、演奏してみてくれる?曲はなんでもいいわ」
実際に演奏する音に合わせて、歌うつもりらしい。言われるがままに、僕らは楽器を取り出す。
「いいんじゃない? このほうが、確かめやすいしさ」
ギターを持つ和田は、僕らにそう声をかけた。
「ふふ、どうせ歌はダメに決まっている」
不敵な笑みを浮かべる金本は、変なオーラを漂わせる。
「そっ、それじゃあカウントするよ」
ドラムスティックをカンカンと鳴らし、岡山は机をたたき始める。
演奏が始まり、僕らは曲を弾く。彼女はその音を聴くと、体でリズムを取る。
ーーどんな歌声なのかな?
僕はギターを弾きながら、その時を待った。彼女は一呼吸置いて、すっと歌い出す。
歌声を聴いた瞬間、僕は驚く。
すごくうまいわけではない。けれど、その声は弾く音と見事になじむ。まるで声そのものが、一つの楽器のように思えた。
なによりも、歌う彼女の姿。
ーーすげー楽しそうに歌うじゃん。
僕なんかより、ずっと楽しそうに曲を歌っている。
僕らのバンドとは初めなのに、それを感じさせない。どこか気持ちがいい歌声に、自然とギターの音がはずむ。
それは和田たちも同じだったのか、彼らの弾く音もどこか違う。
ーー先輩たちも、そう感じ取ったな。
最近、弾く音を聴いただけでどんな気持ちで弾いているかわかってきた。
わずかな音の違いだけれど、一緒になにかを生み出している。そんなふうに思えてならない。
ジャスティンさんたちの助言通り、一体感が作り出されているようだった。
ーーそれって、大なわとびのおかげかな?
クスッと笑いながら、僕はギターを弾く手を変える。
彼女の歌声に、自分の声は合うのか。試してみたいと思った僕は、そっと声を出そうとする。
彼女が歌うメロディに、重ねるように歌う。
ーーハモりそうなのは、こんな感じか?
理論的ではなく、悪く言えば適当。そんなゆるい感じで、なにげなく合わせてみる。
ーーんん?
僕が歌ってみた瞬間、今までにない感じを抱く。きれいに重なっている、彼女の声に合わせているだけなのに。
そう思った時、演奏する音がピタっと、止まる。
「なんだ……今の」
金本たちは、弾くのをやめて僕を見ていた。驚きを隠せない、そんな表情をしている。
すると笑い声が聞こえた、それは馬場さんの声だった。
「あははは! やばいね、びっくりしちゃった」
なににびっくりしたかわからず、僕はキョトンとする。
「馬場さんのボーカルを見るつもりだったけど、これは決まりかも……」
「ああ、鳥肌が立っちまったよ」
和田の考えに、荒木は同じる。
「あのー、どういうことです?」
二人が目線を合わせている中、僕はそう声をかけた。
「いっ、岩崎君たちの歌がすごすぎるってことじゃないかな?」
歌を聴いた時、和田たちはこう思ったらしい。
ーー原曲を超えるなにか。
説明しにくい言葉に、僕はポカンとしている。
「パパが言ってた通り、すごい才能かもね」
馬場さんが、僕の顔を見ながら話す。
「つまりは、すげーってことだ! 馬場さんの声もよかったし」
荒木たちは、馬場さんの声がバンドに合うと思っている。彼女の声は、僕らのバンドに必要なのだろう。
「どうだ金本! さすがに、文句は言えないだろう?」
先ほどから一言も話さない金本に、荒木は声をかけた。一人だけ納得していなかっただけに、どう反応するか。
僕らは、金本に注目を集めた。
「認めたくないものだな、これが若さか……」
「はあ? なに言ってんだ?」
さっぱりわからない言葉に、僕らは大笑いをする。
「まあ、たしかに。岩崎君たちの歌は、すごかったさ……」
金本も歌を聴いて、おどろいていたようだった。彼自身も、なにかを感じとっていたのだろう。
「ギターもよかったわよ、安心して歌える感じー」
照れている金本に、馬場さんは茶化す。
「馬場さんを正式に加入するで、いいんですよね?」
二人のやりとりを横で見ている僕たち。
僕は金本に聞こえないように、和田に小声で耳打ちをする。
「いいんじゃない? 彼女が必要だと思っているはずだし」
こうして、僕らのバンドに新しい仲間が入る。それと同時に、音楽研究同好会にも入会することになった。
「ところでさー、バンド名とか決まってんの?」
「ああ、そういえば忘れていたな」
じつのところ、バンド名のことをすっかり忘れていた僕たち。それは考えてもいなかった、馬場さんに言われるまで。
「えっ、なんでよ? バンド名って、かなり重要でしょ?」
バンドの名前が、いまだに決まっていないことに馬場さんは声を失う。
僕としては、かっこいい名前をつけたい。しかし、金本たちはそう考えていなかった。
「別に、同好会の名前でよくない?」
そう適当につけるくらい、無関心だ。
「ダサすぎ! そんなんじゃ、歌う気になれないわよ」
「……だよねー」
僕は小さい声で、そう同意する。
「バンド名なんて、なにをつけていいかわからないぞ?」
金本たちは、バンドを組んだことがない。ただ楽器を弾くだけだった彼らには、そんな発想があるはずもなかった。
「じゃあ、あたしが決めるわ! かっこいいのを」
煮え切らない金本たちに、馬場さんはそう話した。
「えっ? もう思いついたのか?」
すでに考えていた様子に、僕は尋ねる。
「まーねー! めちゃくちゃ、かっこいいわよー」
「それで? どんな名前?」
馬場さんの言葉に、胸をふくらませる。
ーーごくり。
彼女の口からどんな名前が出るか、僕は息を飲んで待つ。
「その名も……デッドクレイジーオズボーン!」
その瞬間、僕らは凍りついた。
あまりにもダサく、そして完全にアウトな名前。
「どう? かなり、かっこよくない?」
ずっと黙っていた金本が、口を開く。
「さあ! 真面目にバンド名を考えようか!」
「……おう!」
ーーこのままでは、まずい。
誰もがそう思ったのか、五人は声を合わせた。
作者からの一言。
バンド名はどんなのにしようと考えてたら、数ヶ月過ぎてました。
いまだに決まらず、悩みの種です。




