第五十三話 「そのギャルゲー、やはりクソゲーでした!」
学校が終わり、自宅に帰った僕は、茶色のダンボールに気づく。伝票を見ると、僕の名前が書いてある。
「あれ? なんか頼んだっけ?」
心当たりがない僕は、ダンボール箱を持って、リビングに向かう。カッターナイフを持ってきて、さっそく箱を開けてみた。
「あっ……これは」
箱の中身を見て、すぐ周りに家族がいないか確認する。
ーーよし、誰もいないな。
箱を開けて、中に入ってあるものをおそるおそる手に取った。
「おお! さましく、例のギャルゲーだ!」
ジャスティン馬場さんと会った後、しばらく連絡がない日が続いていた。
「ギャルゲーを送りマース!」
そう言ってはいたが、本当に送ってくるとは思っていなかった。
ーーピリリリリッ!
スマートフォンが鳴ると、僕は電話に出る。
「やあ岩崎君! ゲームは届いた? 僕は、今からプレイするよ」
電話の相手は、金本だった。電話越しでも、彼が興奮しているのがよくわかる。
「ええ、届いてましたよ。僕も、箱の中身を確認していました」
僕は、ゲームを手に取りながら金本に伝える。
「そうかそうか! じゃあ岩崎も、早めにプレイするんだよ」
ゲームよりも、バンドはどうするか思った僕は、予定を確認する。
「ところで、いつからバンドの練習を始めるんですか?」
ーーツーツー。
そう聞こうとするが、すでに電話が切られていた。
「くそう! なにが目的で、電話をかけてきたんだよ」
通話が終わり、スマートフォンをポケットに入れる。とりあえず、金本が言うように、ゲームでも始めてみようか。
曲がどう使われているか、気になっていた僕は、部屋に向かうことにした。
「ただいまー」
廊下へ出るとすぐに、若葉の声が聞こえる。
「若葉のやつ……帰ってきやがったな」
手には、ギャルゲーが入ってるダンボール箱。中身が見えてはいないが、非常に危険な状況だ。
若葉に中を見られたら、なにを言われるかわからない。僕はなるべく、目立たないように箱を後ろに隠しながら、歩く。
「よう、帰ったか」
普段と変わらないように、若葉に話しかける。
ーー部活の練習をして、帰ってきたな。
最近の若葉は、いつも帰りが遅い。バンドが中学校で人気だけでなく、音楽イベントにも出るくらい、忙しいらしい。
僕とは正反対に、バンドライフをエンジョイしている。
「それに比べて、僕は……」
自分と妹のバンドが、ここまで違うことにため息が出る。
「さっきから、なに言ってんの? お兄ちゃん」
ぶつぶつと、話している僕を見る若葉が、不思議そうにしていた。
後ろに隠している手に気づくと、若葉が聞いてくる。
「気になったんだけど、手でなにを隠してるの?」
ギクッとした僕は、適当にごまかす。
「通販だよ通販! ギターの弦とかを、買ったんだ」
それは苦し紛れのウソ。ギターの弦が、こんなダンボール箱で送られることはない。
「ふーん」
あきらかに信じていない若葉は、ジッと見ていた。
「ほら! さっさと、部屋に行けよ」
中身がバレたら、なにを言われるかわからない。僕は若葉を追い出すように、部屋へ行くように言う。
「あやしい……また、変なゲームじゃない?」
そう言いながら、若葉は部屋に向かっていった。
ーーあぶねー!
なんとかバレなかったことに、僕は安心する。
「しかし、あいつはエスパーかよ。エスパー若葉ちゃんか」
くだらないことを言いながら、僕も部屋に戻った。
部屋に入ってすぐ、ダンボール箱からギャルゲーを取り出し、パソコンにディスクを読み込ませる。
ーーウィーン! ジジッ。
パソコンの画面に従って、ゲームをインストールさせた。
「今のところ、期待はできそうだぞ?」
キャラのイラストも可愛い、音楽も悪くはない。ちょっと昔のゲームではあるが、おもしろそうだ。
会社がつぶれるほどの、売れていない要素は見当たらなかった。
「さて! さっそく始めよう」
ーーカチカチ。
マウスをクリックして、テキストを読む。
「ほうほう、なるほどなるほど」
ギャルゲーをプレイする時は、ヘッドホンを装着。設定でスキップ機能をオンにしておく。
ゲームが始まったら、基本的にオートで読み進める。
「これは、金本先輩からのアドバイスだったな」
僕は金本の助言どおりに、読み進めた。
ーー二時間後。
「今すぐ、シナリオライター出てこい!」
僕は、パソコンの画面に向かって、さけぶ。なぜ、このゲームが売れなかったか、わかった気がした。
「ストーリーが、つまらなすぎる!」
一本道の物語、ヒロインの個別ルートもない。選択肢は、なにを選んでもストーリーが変わることもなかった。
僕は、単調な作業をさせられているような、そんな感覚を覚えた。
「好みのヒロインが攻略できないなら、ギャルゲーを名乗るな!」
セーブをして、ゲームを終了した僕は、まだ怒りが収まらない。
多分、次もやろうとは思わないだろう。
「とりあえず押し入れに閉まっておこうか……」
僕は気分を変えるため、部屋にあるギターを手に持つ。先ほどのゲームの主題歌を、うろ覚えで弾いてみることにした。
ーージャラーン!
まだ、サビのフレーズを少ししか弾けない。しかし、イメージではこんなものかなと、僕は思った。
「けど……曲はいいのに、なんでこのゲームに使われてるんだ?」
ギャルゲーに、似合わない曲。
ゲームのイメージさせて、作られているのだが、正直に言ってもったいない。
「……ん?」
そんなことを考えながら弾いていると、僕は気がつく。
「あれ? なんか、それっぽく弾けているような」
楽譜がないにもかかわらず、無意識にコード進行が弾けていた。
弾くのを止めて、CDの曲をかけてみる。
「やっぱり、同じだ……」
自分が弾いていたギターのコード進行と、曲のコードがぴったり合っていた。
偶然なのかもしれないが、僕はうれしい気持ちになった。
「僕のギターも、成長してるってことか!」
気分を良くした僕は、その後も、ひたすらギターをかき鳴らす。
「うるさい! お兄ちゃん、アンプのボリュームを下げてよ!」
ドンドンと部屋の壁をたたきながら、若葉がそうさけぶ。
「うるせー! 今、いいところなんだ! ヘッドホンを被ってろ」
僕も同じように、壁をたたいて言い返した。
「ったく、兄の行動を温かく見守れ。これだから、リアル妹は」
先ほどまでの気分が台無しになった僕は、あらためてギターを弾く。
ーーピリリ! ピリリリ!
その時、スマートフォンの着信音が鳴った。
「電話までもが、弾くのを邪魔するのか!」
イライラしながら、通話ボタンを押して電話に出る。
「はい……もしもし?」
いつもより、低いトーンで話すと、向こうからコミカルな声が聞こえる。
「ハーイ! 恭介ボーイ、ワタシです。ジャスティン馬場デース!」
「え……ジャスティンさん? なんで、僕の番号を知ってるんですか」
電話番号を交換した覚えはなく、僕はおどろきながら話した。
「金本ボーイからデース! 彼から、教えてもらいマシター」
笑いながら答えるジャスティンさんに、僕は尋ねる。
「それで、僕になにか用ですか?」
金本と話すならわかるが、僕に電話をかけてくるとは思わなかった。
なにかあるのだろうかと、ジャスティンさんの返事を待つ。
「明日の夕方に、アナタたちの学校へ行きマース! 部活を見にイクヨー」
「……え? いや、仕事は?」
そう言いかけたと同時に、電話が切れた。
「金本先輩と脳みそが、同じなのかよ……あの人」
電話の内容よりも、そっちのほうが気になる僕であった。




