表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/173

第五十一話 「探索クエスト! 幻のギャルゲーを探せ!」

 今まで聴いた曲の中で、なにか違うものを感じた。


 僕の持っていたCDから流れる曲は、他とは違う印象だった。聴き終えると、金本たちはいつもと違う顔をしている。


「これは……」


 先に口を開いたのは金本で、わなわなと震えていた。


「もう一回、聴いていいかな?」


 そう言いながらもう一度、曲を最初から聴き始める。


「このCDって、どこで買ったんだい?」


「えっと、 どこかのレンタルショップだったはず」


 和田から聞かれた僕は、うろ覚えで答える。


「僕らは、今までたくさんのギャルゲーソングの曲を聴いてきたが、 これは……」


 和田はCDを手に持つ。


「KORUKAか……」


 アーティストの名前を見て、頭をひねっている。


「アーティストは知っているんですか?」


 和田なら、歌手を知っているかと思った僕は尋ねる。


「いや、僕は聞いたことがない。調べる必要があるかもね」


 荒木や岡山にも同じように聞いてみたが、二人とも知らないようだった。


「しかし……すごいな、この曲。歌詞が耳に残るよ」


「だっ、だな。僕、ドラムをたたいてみたいよ」


 荒木たちは、流れる曲を聴きながら、話し合っている。僕も聴いたが、曲のすごさをあらためて実感する。


 ボーカルのうまさ、ギターなどの音と合わさった一体感がある曲調。歌詞は恋をする女の子の気持ちをコミカルにした、かわいらしいものだ。


「決めた……」


 金本は曲を止め、こちらに振り向く。


「僕は……この曲を弾きたい! いや、弾かなければならない!」


 手を机にたたきながら、そう僕らに向かって話しかける。


「みんなも、心に響いただろう?」


 その言葉に、全員がうなずく。


 ーー聴いた瞬間、今までにない感覚を覚えた。


 間違いなく、この場にいる全員が思っただろう。それが金本の言葉で、はっきりとわかった。


「だな……このアーティストの曲を僕らで広めていこうぜ」


 ギャルゲーソングでも、このすごい曲を聴いてもらいたい気持ちが、僕らを動かした。


「さっそく、楽譜を作らなきゃだね」


 やることが決まった僕らは、すぐにでも練習したい気持ちになっている。


「いや、楽譜より大切なことがある……」


「なんだよ? まずは楽譜を作らないと、なにもできないぞ」


 ーー大切なことって、なんだろう?


 僕はそれがなにか気になった。


「僕らの活動を思い出せ、まずは……」


「……まずは?」


 僕らは声を合わせると、金本の言葉を待った。


「この曲が、使われているギャルゲーを調べる。そして、全員が買ってプレイだ!」


 こうして僕らのバンドは、活動を始める。だが、ギャルゲーを買うことから、スタートすることになってしまった。


 ーー次の日。


 僕らはさっそく、曲について調べることにした。


 インターネットを使って、楽曲が使われているゲームを検索してみる。


 ーーカタカタ。


 パソコンで調べてみたが、歌手のことはわからなかった。

 しかし、ゲームのタイトルだけはなんとか探し出すことができた。


 ーー恋する乙女のおまじない。


 それが、この曲が使われているゲームタイトルだ。


「まさしく、イメージ通りなタイトルだな」


 このために作られた曲に間違いないと、和田は思わずうなった。


「そうだな……だが! なぜ公式サイトすらないんだ!」


 金本はさけびながら、パソコンに食らいついている。


「ゲームの会社が倒産したんじゃないか? 見たところ、数年前のタイトルだし」


 ゲームの公式サイトがない理由を、荒木はそう口にする。


 パソコンのゲーム会社は知らないうちに倒産したり、社名を変えたりする。主題歌を歌う歌手ですら、わからないこともあるらしい。


 知名度がないゲームや歌手にはよくある話だと、荒木は説明する。


「普通なら、他のゲームでも歌ったりすんだけど……うーん」


 結局、インターネットを使っても、欲しい情報は得られなかった。


「こうなったら、街のギャルゲーショップに行こう!」


 金本はパソコンを閉じて、そう提案する。


 実際にお店へ行けば、店員が知っているかもしれない。他に手段がない僕らは、金本の言うように街へ向かった。


 ショップに着いてすぐに、店員に話しかける。


「すみません! このゲームって、売ってますか?」


 ゲームのタイトルを言う金本に、店員は首を横に振るう。売っているどこか、見たこともないらしい。


 それから中古ショップなどにも行ったが、すべて同じ答えだった。


「なんで知らないんだ! ギャルゲーのプロだろ! ショップ店員は」


 最後の店を出てすぐに、金本は怒りをあらわにしている。


「僕はね……買ってプレイしたいんだよ! オープニングムービーが、見たいんだ!」


「目的がすりかわってるじゃねーか!」


 はあっと、全員がため息をつく。手がかりもなく、打つ手がない雰囲気。


「とっ、というか。岩崎君が買った店に聞けばいいんじゃない?」


「……あ、そうか」


 岡山の一言に、僕らは気がつく。


 最初から、買った店に行けば話が早かっのだ。


「なぜ、僕らは気づかなかったんだ!」


 最後の望みにかけて、僕らはCDを買った店に向かう。店に入って、CDが置いてあった場所を探す。


 配置が変わっていたのか、違うものが並べられていた。


「売り切れたのかな?」


 他の場所も見てみたが、どこにもなかった。


「あの、ちょっといいですか?」


 僕は近くにいた店員に声をかける。


「ああ、それですか? 実は私も、よくわからないんですよ」


 店員が言うには中古のCDらしく、買い取ってみたが、ずっと売れ残っていたらしい。


 枚数もそれ一枚しかなく、ギャルゲーソングだとは気づかなかったという話だ。


「アーティストも調べてみたけど、詳細が不明でして」


 結局、なにもわからないまま、僕らは店を後にした。


「手がかりが、完全になくなってしまったな……」


 ゲームも売ってなく、アーティストのこともわからない。


 ーーギャルゲーを知らなければ、曲の良さを伝えられない!


 それが金本のこだわりだった。


「もう普通に、曲をコピーしようぜ」


「そうはいかない! 僕はゲームをやらずに、ギターを弾くことはできないぞ」


 荒木の言葉に反論する金本は、CDをポータブルプレイヤーにセットする。


 小さなスピーカーを取り出して、ボリュームを上げた。人が多くいる道路に、曲が鳴り響く。


「すみませんー! どなたか、この曲を知りませんかー?」


 金本は道を歩く人に向かって、大声を上げる。


「やめろよ、恥ずかしいだろう」


 そんなことをしても、誰も知るはずもない。荒木は金本を止めにはいる。


「はは……知ってる人なんか、いるはずないですよ」


 僕がそう口にした瞬間、一人の男性が足を止めた。


「ヘイ! ユーたち、コノ曲をドコデ知リマシタカー?」


 声をかけてきたのは、カタコトで話す、あやしい人物だった。


「……は?」


 その異様な雰囲気に、僕らは言葉を失う。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ