第五十一話 「探索クエスト! 幻のギャルゲーを探せ!」
今まで聴いた曲の中で、なにか違うものを感じた。
僕の持っていたCDから流れる曲は、他とは違う印象だった。聴き終えると、金本たちはいつもと違う顔をしている。
「これは……」
先に口を開いたのは金本で、わなわなと震えていた。
「もう一回、聴いていいかな?」
そう言いながらもう一度、曲を最初から聴き始める。
「このCDって、どこで買ったんだい?」
「えっと、 どこかのレンタルショップだったはず」
和田から聞かれた僕は、うろ覚えで答える。
「僕らは、今までたくさんのギャルゲーソングの曲を聴いてきたが、 これは……」
和田はCDを手に持つ。
「KORUKAか……」
アーティストの名前を見て、頭をひねっている。
「アーティストは知っているんですか?」
和田なら、歌手を知っているかと思った僕は尋ねる。
「いや、僕は聞いたことがない。調べる必要があるかもね」
荒木や岡山にも同じように聞いてみたが、二人とも知らないようだった。
「しかし……すごいな、この曲。歌詞が耳に残るよ」
「だっ、だな。僕、ドラムをたたいてみたいよ」
荒木たちは、流れる曲を聴きながら、話し合っている。僕も聴いたが、曲のすごさをあらためて実感する。
ボーカルのうまさ、ギターなどの音と合わさった一体感がある曲調。歌詞は恋をする女の子の気持ちをコミカルにした、かわいらしいものだ。
「決めた……」
金本は曲を止め、こちらに振り向く。
「僕は……この曲を弾きたい! いや、弾かなければならない!」
手を机にたたきながら、そう僕らに向かって話しかける。
「みんなも、心に響いただろう?」
その言葉に、全員がうなずく。
ーー聴いた瞬間、今までにない感覚を覚えた。
間違いなく、この場にいる全員が思っただろう。それが金本の言葉で、はっきりとわかった。
「だな……このアーティストの曲を僕らで広めていこうぜ」
ギャルゲーソングでも、このすごい曲を聴いてもらいたい気持ちが、僕らを動かした。
「さっそく、楽譜を作らなきゃだね」
やることが決まった僕らは、すぐにでも練習したい気持ちになっている。
「いや、楽譜より大切なことがある……」
「なんだよ? まずは楽譜を作らないと、なにもできないぞ」
ーー大切なことって、なんだろう?
僕はそれがなにか気になった。
「僕らの活動を思い出せ、まずは……」
「……まずは?」
僕らは声を合わせると、金本の言葉を待った。
「この曲が、使われているギャルゲーを調べる。そして、全員が買ってプレイだ!」
こうして僕らのバンドは、活動を始める。だが、ギャルゲーを買うことから、スタートすることになってしまった。
ーー次の日。
僕らはさっそく、曲について調べることにした。
インターネットを使って、楽曲が使われているゲームを検索してみる。
ーーカタカタ。
パソコンで調べてみたが、歌手のことはわからなかった。
しかし、ゲームのタイトルだけはなんとか探し出すことができた。
ーー恋する乙女のおまじない。
それが、この曲が使われているゲームタイトルだ。
「まさしく、イメージ通りなタイトルだな」
このために作られた曲に間違いないと、和田は思わずうなった。
「そうだな……だが! なぜ公式サイトすらないんだ!」
金本はさけびながら、パソコンに食らいついている。
「ゲームの会社が倒産したんじゃないか? 見たところ、数年前のタイトルだし」
ゲームの公式サイトがない理由を、荒木はそう口にする。
パソコンのゲーム会社は知らないうちに倒産したり、社名を変えたりする。主題歌を歌う歌手ですら、わからないこともあるらしい。
知名度がないゲームや歌手にはよくある話だと、荒木は説明する。
「普通なら、他のゲームでも歌ったりすんだけど……うーん」
結局、インターネットを使っても、欲しい情報は得られなかった。
「こうなったら、街のギャルゲーショップに行こう!」
金本はパソコンを閉じて、そう提案する。
実際にお店へ行けば、店員が知っているかもしれない。他に手段がない僕らは、金本の言うように街へ向かった。
ショップに着いてすぐに、店員に話しかける。
「すみません! このゲームって、売ってますか?」
ゲームのタイトルを言う金本に、店員は首を横に振るう。売っているどこか、見たこともないらしい。
それから中古ショップなどにも行ったが、すべて同じ答えだった。
「なんで知らないんだ! ギャルゲーのプロだろ! ショップ店員は」
最後の店を出てすぐに、金本は怒りをあらわにしている。
「僕はね……買ってプレイしたいんだよ! オープニングムービーが、見たいんだ!」
「目的がすりかわってるじゃねーか!」
はあっと、全員がため息をつく。手がかりもなく、打つ手がない雰囲気。
「とっ、というか。岩崎君が買った店に聞けばいいんじゃない?」
「……あ、そうか」
岡山の一言に、僕らは気がつく。
最初から、買った店に行けば話が早かっのだ。
「なぜ、僕らは気づかなかったんだ!」
最後の望みにかけて、僕らはCDを買った店に向かう。店に入って、CDが置いてあった場所を探す。
配置が変わっていたのか、違うものが並べられていた。
「売り切れたのかな?」
他の場所も見てみたが、どこにもなかった。
「あの、ちょっといいですか?」
僕は近くにいた店員に声をかける。
「ああ、それですか? 実は私も、よくわからないんですよ」
店員が言うには中古のCDらしく、買い取ってみたが、ずっと売れ残っていたらしい。
枚数もそれ一枚しかなく、ギャルゲーソングだとは気づかなかったという話だ。
「アーティストも調べてみたけど、詳細が不明でして」
結局、なにもわからないまま、僕らは店を後にした。
「手がかりが、完全になくなってしまったな……」
ゲームも売ってなく、アーティストのこともわからない。
ーーギャルゲーを知らなければ、曲の良さを伝えられない!
それが金本のこだわりだった。
「もう普通に、曲をコピーしようぜ」
「そうはいかない! 僕はゲームをやらずに、ギターを弾くことはできないぞ」
荒木の言葉に反論する金本は、CDをポータブルプレイヤーにセットする。
小さなスピーカーを取り出して、ボリュームを上げた。人が多くいる道路に、曲が鳴り響く。
「すみませんー! どなたか、この曲を知りませんかー?」
金本は道を歩く人に向かって、大声を上げる。
「やめろよ、恥ずかしいだろう」
そんなことをしても、誰も知るはずもない。荒木は金本を止めにはいる。
「はは……知ってる人なんか、いるはずないですよ」
僕がそう口にした瞬間、一人の男性が足を止めた。
「ヘイ! ユーたち、コノ曲をドコデ知リマシタカー?」
声をかけてきたのは、カタコトで話す、あやしい人物だった。
「……は?」
その異様な雰囲気に、僕らは言葉を失う。




