第三十話 「シューマイおいし? いや、俺きしめん派」
金本が、テーブルに置いたギャルゲーを僕はそっと手に取る。
「なんか、前に貸してもらったゲームと違うような気がするんですが」
僕が借りたのは、義理の妹と恋愛するゲームだったはず。しかし目の前にあるのは、普通の学園恋愛シミュレーションゲームのようだ。
「これのどれが、お年寄りに受け入れられるんですか?」
僕の問いに金本は答える。
「ゲームのシナリオをとりあえずは置いて、今回は作中のBGMをやろうかなと」
ーーBGM?
どのような曲かわからない僕は、少し興味を持った。
「たしか、ゆったりとした感じの曲じゃなかったか?」
「そうそう、エレキギターのような音がない曲だよ」
金本はそう荒木に言うと、スマートフォンを取り出す。
「えーっと、動画サイトに曲があったような」
画面を見ながら曲を探す金本。しばらくして曲を見つけ、テーブルにスマートフォンを置く。
「とりあえず、どんな曲かを聴いてみよう! それからみんなで意見を言えばいいし」
金本は曲を流し始めると、スマートフォンからはアコースティックギターのやわらかい音色が聞こえてくる。
「おお! なんか癒やされるような感じの曲ですね」
聴き終わり、最初に感じた印象は、そういうものだった。
激しいギターのサウンドだけを聴いてきた僕にとっては、興味深さがある。
「そうだろう? この曲には、ロックのような音色はないんだよ」
確かに、この曲の構成ならば、お年寄りの人も聴きやすい。
「演歌ってわけにはいかないけど、これなら大丈夫な気がしますね」
反対する人は誰もいなく、全員が納得する。
「けど、一曲ってわけにはいないだろうから、他に何曲かは候補が欲しいな」
その後、僕らはお互いに意見を言い、いくつか選曲する。
「よし、とりあえずはこんなところだろう。また後日、集まって話すことにしよう」
話がまとまると、喫茶店での会議が終わる。
「そうだ、岩崎君。よかったらこのゲームを貸してあげよう」
金本は、先ほどのギャルゲーを僕に差し出す。
「やりたそうな顔をしていたからね! 是非ともプレイしてみてくれ」
帰り際にそう渡された僕は、そっとゲームをカバンに入れる。
ーーふっ、ふん! そんなことないんだからな、ただ気になっただけさ。
辺りを見回して、僕はカバンを大事そうに持って自宅へ帰る。
「今日は徹夜だな!」
今夜もギャルゲーに勤しむだろう僕は、上機嫌で歩くのだった。
次の日に、授業中にひなたから小声で呼ばれる。
「がんちゃん、学校が終わったら暇?」
そう言われた僕は特に予定がないことに気づく。
「暇だけど? 同好会もないしな」
金本からは、曲を探すように言われているため、今日は会うことがない。
「なら、少し付き合ってほしいところがあるんだけど」
ーーなんだ? 突然、またギャルゲーでも買いに行くのか?
そう思った僕は、どこへ行くのか聞くことにした。
「いいけど、どこ行くんだよ?」
ひなたは人差し指を唇に当てている。
「ひ、み、 つ」
ーーそれ、今の時代にやらないだろ。
僕は少しドキドキするような、イラッとするような複雑な気持ちになる。
放課後になり、帰る支度をする僕はひなたを待つことになった。
「遅いな、なにしてるんだ」
用事を済ませると言って、教室を出たっきり帰ってこない。
しばらく待っていると、ひなたが教室に戻ってきた。
「ごめんごめん! 遅くなっちゃった」
謝るひなたに、僕はため息をつく。
ひなたも帰り支度をして、僕らは玄関へ向かう。
どこに行くかはわからないが、ひなたについて行くしかなかった。
「なあ、そろそろどこに行くかを教えろよ」
学校を出て街中を歩く僕は、ひなたに尋ねる。
「えーっと。確か、この辺りなはずなんだけど」
周りを探しながら、ひなたはスマートフォンをいじっている。
ーーこいつ、なにかを探すたびに僕を無視するんだよな。
僕の声を聞いていない様子で、歩いている。
「あっ! あった」
数十分ほど歩いて、ひなたは立ち止まる。僕はひなたが目を向けている建物を見た。
「は? CDショップ?」
そこはよくあるCDショップだった。
ひなたは店内に入ると、僕も中に入る。
店の中からは、アニメの曲が流れていた。
「またかよ、前にもこんなことがあったぞ」
僕は以前、ひなたとギャルゲーを買いに来たことを思い出した。
「いやあ、実は新しいギャルゲーのサントラが欲しくて、ここのお店にしか売ってないのよ」
ーー今度はギャルゲーのCDかよ!
こいつの買い物ってギャルゲー関連のものしか買わないのだろうかと僕は思った。
そんな僕をほっておいて、ひなたは一人で買い物を始める。
「二人で選びながらとかしないのかよ、あいつは」
一人残された僕は、適当に店内を見て回ることにした。
いろいろ見ているが、アニメやゲーム関連の商品が本当に多い。
「僕の知っているのが、なにもないじゃないか……」
ロックコーナーと書かれているフロアに来た僕はそう口にする。
聞いたことのないアーティストの名前や、キャラクターのイラストが書いてあるのばかりだ。
とりあえず手にとってみるが、正直どれが良いか悪いかがわからない。
「作品を知らないと、知らずに買う時ってある意味で賭けだよな」
CDを棚に戻した僕は、となりに視聴するコーナーがあることに気がつく。
「ひなたはまだ戻ってくる気配がないし、適当に曲でも聴いてようかな」
ヘッドホンを装着して、再生ボタンを押す。
「ん? なんだこの曲は……」
流れてきた曲に僕は衝撃を受けた。
ーーこれ、本当にギャルゲーの曲なのか?
今まで聴いたギャルゲーソングとは、どこか違う。一般人が聴いても、ギャルゲーの歌とは思われない。
そういった印象な曲だと僕は思った。
「がんちゃん? おーい!」
トントンと肩を叩かれる。
「うわっ! ひなたか、いきなりなんだよ?」
ひなたは買い物を終えたのか、手に袋を持っている。
「もう買い物は済んだよ? さっきからずっと呼んでるのに、気がつかないんだもん」
時計を見ると、一時間は過ぎていた。
ーー僕はひなたに気づくまで、ずっと聴いていたってことか。
ひなたは呆れた顔をしている。
「もう帰ろうよ、目当てのCDが買えたしさ」
そう言うと、ひなたは帰ろうとしていた。
「あっ、ああ……帰るか」
僕も帰ろうと、ヘッドホンを元の場所に戻して、ひなたを追う。
「てか、その手に持ってるのなに?」
出口に着いた時、ひなたにそう言われた僕は、自分の手を見る。
「あれ? いつのまに」
僕は先ほど聴いていた、曲のCDを手に持っていた。
「それ買うの?」
ひなたに言われた僕は、慌ててすぐにレジカウンターに向かう。
会計を済ませた僕は、ひなたと店を出た。
「がんちゃんがギャルゲーのCDを買うなんて、初めじゃない?」
帰り際にそう言われた僕は、袋に入っているCDを取り出す。
「そうだよな、なんかすごい買わなきゃいけない気がしたんだよ」
ジャケットには、かわいい女の子イラストが書いてある。
「なんだかなー」
そのミスマッチ感に、僕は不思議な気持ちになったのだった。




