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第二十八話 「同好会停止! そして……」

 その日、僕ら音楽研究同好会は生徒会室に呼び出されている。生徒会室には、生徒会長と生活指導の先生がいた。


「さて、君たちが呼ばれた理由はわかるかね?」


 生徒会長はそう僕らに尋ねる。


「はて? なんででしょう」


 金本はとぼけながらそう答えた。


 バンッと机をたたく生活指導の先生が割ってはいる。


「なんででしょうじゃない! おまえたちが商業施設でやったことだ」


 先日にやったイベントライブのことなのだが、学校に迷惑をかけた覚えがない。


「僕らはただイベントライブに参加しただけですよ?」


 僕はそう先生に説明する。


「確かに、イベントに参加したことは顧問の山本先生からの申請書類で把握している」


 ーー事前に山本先生が手を回してくれていたのか。


 まったく気づかなかっただけに、僕は少しおどろいた。そう考えていると、生徒会長はさらに話を続ける。


「イベントに出ること自体は良いだろう。だが、これはどういうことだね?」


 僕らの前に写真が置かれる。


 そこには金本が観客に向かって話をしている場面だ。


「なぜ、学校の電話番号が書いてあるのかね?」


 金本は一人、ソワソワしている。


「翌日から学校のほうに、苦情や中傷といった電話が鳴り止まなくてね」


 会長が言うには、僕らの演奏を聴いた観客の一部が書かれた電話番号に電話をかけたらしい。


「音楽研究同好会は、学校や生徒会から不当な扱いを受けて不自由だと」


 するどい目つきで会長は、にらみつけている。


「いっ、いやあ。そこまでは言ってなくて…… 冗談のつもりだったんですがねー。ははは」


 金本は笑いながらそう答える。


 しかし生徒会室にいる全員は、誰一人も笑っていない。


「学校も対応に追われて、しばらくは大変だったそうだ」


 そう言うと生徒会長は机に一枚の紙を取り出した。


 ーー音楽研究同好会は、二週間の部活動を停止する処分にする。


 受け取った紙には、そう書かれていた。


「えぇ! それはちょっとひどいんじゃないんですか? 活動を停止だなんて」


 それほど問題視するようなことではないと思っていた僕は、そう抗議する。


「部活動がなにか問題を起こした場合、なんらかの罰を与えるのは普通だろう?」


 生徒会長はそう顔色を変えず、そう話す。


「すでに校長とも話が済んでいる、君たちは素直に従いたまえ」


 話が終わると、僕らは教室を後にした。


 廊下を歩く僕らは、全員が黙っている。


「ちくしょう! 二週間も部活ができないだなんて」


 同好会で活動ができないことに、僕は焦る。


「まあ落ち着きなよ、とりあえず部室に戻ろう」


 和田は歩きながら、僕にそう話しかける。


「しかし、金本はいつもなにかをやらかすなー」


 荒木の言葉にみんながうなずく。


「はは! まあ、そう落ち込むなよ。なんとかなるさ」


 金本は能天気に悪びれるそぶりもない。


「しばらくバンドをする目的もないし、初心に帰るか」


 部活に戻った僕らに、金本はそう話を切り出す。


「はい? 初心に帰るって、どういうことですか?」


 意味がわからず、僕は金本に尋ねた。


 和田たちも同じような反応をする。


「またわけわからんことを始めるつもりか、おまえは」


 あきれる僕らを気にすることもなく、机にアニメ、ゲーム雑誌を並べる。


「久しぶりにアニメやゲームの研究をやろうではないか」


 金本は並べられた雑誌を読み始める。


 ーーダメだ、 こいつ。


 僕はガクッとうなだれて、椅子に座り込む。


 和田たちもやることもないため、同じように雑誌を読んでいる。


「けど、この部室も使えなくなっちゃいますよね」


 二週間も使えない間、なにをしていいかわからない。


「部活はできないが、集まって語り合うことはできるだろう」


 金本はパタンと雑誌を閉じる。


「部活としては活動できないなら、校外でやればいいのだ!」


 ーーけど、バンドはすぐにはやらないんだろうな。


 金本たちはバンドをやる前と同じように、アニメ、ゲームの会話をしている。


 失敗はしたけど、ライブに参加した時のようなイベントをまたやりたいなと僕は思った。


「あー、バンドやりたいな」


 ーー次の日。


 同好会が活動停止処分になってからは、学校が退屈に感じる。


 前のように遅刻をすることもなく、普段通りの学校生活。


「部活がないって、こんなにも暇なんだな」


 お昼休みになり、パンを食べながら、僕はそう考えていた。


「がんちゃん、また一人で食べてるの?」


 早めに昼食を終えたひなたは、自分の席に座ると僕に話しかけてくる。


「ああ? まあな」


 僕は適当に言い返した。


「どうしたの? 前みたいに、死んだような顔してるよ?」


 ひなたと話すのは、久しぶりなような気がした。


 ライブの練習でバタバタして、授業の時もあまり会話をしていない。


「しかし、がんちゃんの同好会の人たちって典型的なオタクなのねー」


 ひなたは話を変え、しゃべり出す。


「そうだよなあ、見た目がアレだからな」


 イベントライブの金本を思い出すと、ひなたが言いたいことがわかる。


「けど、演奏はすごいうまいよね。オタクなのに」


 演奏した曲を知っているひなたが言うのだから、それは間違いないだろう。


 ーーそんな彼らだからこそ、またバンドがしたいのに。


 僕はため息をつくと、机にへたり込む。


「あー、早く停止処分が終わって欲しい」


 放課後になり、帰り支度を始めた。


 クラスメイトはそれぞれ自分の部活に向かっていく。


 一人残された僕はカバンを持って、教室を出る。


「暇だし、たまには楽器屋に行こうかな」


 気分を変えてギターでも見に行こうと考えた僕はそう思いつく。


 廊下を歩きながら玄関に向かう僕に、後ろから声が聞こえてくる。


「おーい! 岩崎、ちょっといいか?」


 後ろを振り向くと山本先生が僕を呼び止める。


「山本先生、どうしたんですか?」


 僕がそう聞くなり、先生は話を始める。

 

「はい?」


  山本先生の言葉を聞いた僕は、なにかの間違いではないかと聞き返す。


「いっ…… 急げー!」


 話を聞き終わる前に、僕は廊下を走り出した。

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