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第二話 「妹ゲーはどんな奴にもハマります」



 自宅へ帰った僕は、カバンを隠しながら、自室へ行く。


 カバンには金本から渡されたギャルゲーが入っている。


 ーーなぜ、こんなものを持ち帰らなきゃいけないのだ?


 カバンに入っている大きな箱を取り出してみる。


 ーー義妹と恋しようよ!


 インパクトがありすぎるタイトルと、かわいらしい絵が印刷されている。


「なんで妹と恋しなきゃならんのだ! しかも、義理の妹に!」


 危ない香りがするブツに、僕の顔は引きつっていた。箱をベッドに投げつけて、床に座り込む。


「ギターがうまくなりたいなら、ギャルゲーを練習しよう」


 部室で僕のギターを聴いていた金本は、そう話していた。


 確かに僕は、ギターを始めてまだ日が浅くてそこまでうまくはない。教本を買って読んでみるも三日で飽きてしまい、独学でギターを覚えた程度だ。


 好きな曲くらいしか、練習しない僕は、金本にそう言われても仕方ない。


 ーーギターをもっとうまく弾きたいけど、ギャルゲーの曲でうまくなれるのか?


 疑問に思っていると、コンコンと扉を叩く音がする。


「お兄ちゃん。ご飯だよー?」


 妹の若葉(わかば)が夕飯ができたと呼びにきたので、僕は起き上がると、キッチンへと向かった。


 夕飯を食べてながらテレビを見ていると若葉が話かけてきた。


「お兄ちゃん、高校で軽音楽部に入れた? 昔からバンドやりたいって言ってたけど」


 若葉の言葉にギクッとした。


 軽音楽部に入れなかったし、代わりに入部したのがオタクがいる同好会に入ったとは言えない。


「ああ……軽音楽部じゃないけど、それっぽい部活には入ったよ」


 僕はあまり詳しくは話さず、適当に誤魔化すことにした。


「そっか! お兄ちゃんは中学からギターをしてたから、やっぱり高校で軽音楽部に入ったんだね」


 苦笑いしながら話をそらした。


「おまえはどうなんだ? 確か、吹奏楽部だっけ?」


 若葉は中学で吹奏楽部に所属しているはず。僕自身も中学では吹奏楽部に入っていたが、若葉はコンクールに出るほど優秀だ。


「え? 吹奏楽部は辞めたよ。今年から軽音楽部ができし、友達と一緒に再入部したんだ」


 ーー軽音学部ができただと?


 僕は中学にいた時、軽音学部を作ってくれと何度も要望していた。


 しかしそれが実現することはなく、僕は仕方なく吹奏楽部に入部したのだった。


「最近は女の子がバンドをやるのがが人気で、生徒の熱い要望があって設立することになったんだって」


 僕はショックを受けた。


 ーーあのクソ中学が! 男の要望は無視して、女の要望は通すのか。


 僕はいまだにバンドすら組めていないのに、妹は中学でバンドを組んでいる。


 ーーこのままではダメだ!


 僕は夕飯を食べ終わると、急いで部屋に戻った。


「くそが! なにが軽音楽部に入っただあ! 僕より先越しをやがって」


 腹が立つよりも悔しい気持ちになった僕は、自分にできることを考える。


 バンドを組むことは、今は無理に等しい。


 ーーせめてギターだけでも、もっとうまくなろう!


 僕はそう結論をつけると、練習を始める。部屋からは、僕のひどいギターの音が響き渡る。


 夜の八時過ぎになり、少し休憩をしようと手を休める。


 ふとベッドを見ると、さっき投げたギャルゲーが置いてあることに気がついた。


「こんなゲームに、本当にいい曲なんかあるのか?」


 僕はいい曲を見つけるのは、雑誌やテレビくらいだけだ。


 ゲームやアニメに使われている曲を聴こうともしなかった。


 だが、金本たちが弾いていた曲は本当にすごいと思った。


 さまざまな音楽が聴いてきたが、あそこまで衝撃を受けた曲は久々かもしれない。

 少しだけ興味が湧いた僕は、ギャルゲーの箱を再び手に持つ。


「ふん…… あくまであの曲をまた聴きたくなっただけで、ゲームには興味はないんだからな」


 僕は、箱から中身を取り出し、ゲーム機を用意する。


 中身はDVDが二枚あり、とりあえずディスクをゲーム機に入れてみるけど、いくら待ってもゲーム画面が出てこない。


「画面が……真っ暗だ」


 コントローラーを握りながら待つも、始まる気配がない。


「どうなってるんだ? なぜ、始まらない」


 待つのが我慢できなかった僕は金本に電話をかけた。


 ーープルルル、ガチャッ。


「もしもし岩崎ですけど、今大丈夫ですか?」


 電話がつながると、金本は少し遅れて電話に出る。


「あれ岩崎くん、どうしたんだい? なぜ、僕の電話番号わかるんだい?」


 ーーこいつ、僕が入会した時に連絡先交換したこと忘れてやがる。


 理由を言うのも面倒くさいので、用件だけ伝えることにした。


「それはどうでもいいんですけど、貸してもらったゲームができないんですよ」


 僕はゲーム機にディスクを入れても始まらないことを伝えると、受話器から笑い声が聞こえる。


「あはは、それパソコンゲームだよ? ゲーム機じゃできるわけないよ」


 ーーパソコンのゲームかよ! やったことがないからわからなかった。


 僕は普段、パソコンはインターネットくらいしか利用していない。


「パソコンは持ってる? ディスクからインストールして、ゲームディスクを入れるとできるからやってみてね」


 金本から説明を受けて電話を終えると、 僕は言われた通りにパソコンにインストールする。


「長い……長過ぎる。インストールに、何十分かかるんだよ」


 三十分ほど過ぎるて、ようやくインストールが終わった。

 ゲームディスクを入れると、ゲーム画面が出てきた。


 金本は全年齢版だから安心してプレイしてくれと言っていたのを思い出す。


「 全年齢版? ゲームに年齢は関係ないものだろ?」


 考えてもラチがあかないので、僕はとりあえずゲームを始める。


 ゲームを始めたはいいが、画面に女の子の絵とセリフが書かれた文字が表示されていた。


「なんだこれ? 字を読みながら進めるのか?」


 一度もしたことないジャンルのゲームのためか、僕は困惑しながらもゲームを進めていく。


 するとようやく金本達が弾いていた曲が流れてきた。


 ゲームの主題歌なのか、映像と一緒に曲が流れている。


「やっぱりいい曲じゃないか」


 イヤホンをつけて聴いているため、曲の感じがわかりやすい。


 なぜ、こんなゲームに使われているのかわからない。


「やばいな……BGMもすごい! ほとんど、ギターが入ってる曲ばかりじゃないか!」


 僕はゲームを楽しむより、BGMが聴きたいがためにひたすらゲームを進める。


 一時間、二時間とプレイしていると、すでにゲーム自体にも夢中になっていた。


「義理の妹? 血なんか関係ねーよ……愛しているに決まってるだろ!」


 僕はゲームの画面に向かってバカみたいに大きな声で叫んでいる。


「お兄ちゃんが大好きだって? 僕だって大好きだよ」


 僕は音楽のことを忘れ、ゲームの義妹に夢中になっている。


 ーー実の妹よ、お兄ちゃんは妹が好きになるかもしれない、 もちろんゲームの義理の妹な。


 完全にギャルゲーという沼にハマった僕は、そう思いつつひたすらゲームを楽しんでいるのだった。

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