第二十三話 「いざ、イベントライブへ!」
現在、夕方の五時。
昼前に集まり、貸しスタジオで練習してからかなり時間が過ぎた。数時間による練習は正直なところ、辛いものだ。
「きゅっ、休憩ー」
金本は疲れた顔をして、そうみんなに伝える。昼から休憩なしで練習していたせいか、すでに金本たちは疲れきっている。
「なに言ってるんですか! まだこれならですよ」
僕一人は疲れた感じがなく、そう金本に話す。
「なぜ、君はそこまで元気なんだ」
息をあげながら金本は返事をする。他の三人もその場に座り込む。本番は明日であるため、無理をしてでも練習を続けなければと僕は意気込む。
「明日のために今は頑張っていきましょう! さあ、立って立って!」
僕が金本たちにそう言うも、彼らは動こうとはしなかった。
「はあ、わかりましたよ! なら少しだけ休みましょうか」
ため息をついた僕は、床に座り込んだ。
「しかし、まさかここまで練習に明け暮れるのも初めてだな」
荒木は岡山と会話をしている。
「だっ、だよなあ。今までは、ずっとアニメ雑誌を見てるか部室でゲームしてるかだったし」
岡山は、そう荒木に話した。
ギターを持って立った和田はアンプのボリュームを上げて弾く。
「それだけ、僕らの中でなにかが変わってきているってことさ」
曲のフレーズを弾きながら、荒木たちの方を見ながら和田はそう言った。
「そうですよ! アニメやゲームもいいですが、こういうのだって大切なことですよ」
和田の言葉を聞いた僕は、荒木たちに話した。
「なにを言ってるんだ! おまえらは、すべてはサブカルチャー繁栄のためだろうが」
金本が全員の前に立って、大きな声で叫んだ。
「とっ……とにかく! 頑張って明日のライブを成功させましょう!」
休憩が終わり、再び練習を再開した。
ーーそろそろ、 ギターソロか。
僕が歌った後、続けてソロを弾く。
左手のポジションを変え、ギターソロの位置に手を移動させる。
「あっ、やばい」
金本たちの音に合わせようとするも、途中で間に合わずにソロが変な感じになってしまった。弾き終わると、全員は難しい顔をしている。
「やっぱり、ギターソロか……」
金本はそう言うと、ギターソロの部分をもう一度合わせるように指示する。
言われた通り、ギターソロの入る前あたりから弾き始める。だが、先ほどと同じようにミスをしてしまう。
「うーむ、どうしたもんだろう」
首をひねりながら金本は話す。
曲の見せ場の一つでもあるギターソロであるが、このままではといった雰囲気だ。
「すみません……」
僕は金本たちに向かって、頭を下げる。
「まあなんとかなる! ソロ以外は大丈夫だし、今はソロを中心にやろう」
謝る僕に金本は肩をたたきながら励ます。
これまでたくさんの練習をしてきたが、肝心なところでつまずく。
僕はそう思いながら、再びギターを弾く。
金本や和田からアドバイスをもらいながらソロを一から覚え直す。
「うーん、さっきよりはマシになってるんじゃないかな?」
しばらくたって、もう一度全員で弾いた後に荒木はそう口にする。
みんなが同じような感想のようだ。
荒木の言うように、繰り返し弾くこ
とで良くはなっていた。
だが僕は、自分のギターソロに自信がなかった。
「こうなったら、ぶっつけ本番だな!」
楽しければギターソロは何でも良いと、金本は最後に笑いながら話す。
こうして、最後の練習は不安を残しつつ終えた。
ーーイベントライブ当日。
僕らは、イベントライブがある商業施設に到着した。
「ついに、この日が来たか」
建物の入り口で金本はそうつぶやいた。
「あの……金本先輩?」
僕は気まずそうに金本の名前を呼ぶ。
和田たちも、僕がなにが言いたいかわかったのか黙っている。
「なにかね? 岩崎君」
手を腰におき、建物の上を見ている金本に僕は尋ねた。
「なんですか……その格好」
色落ちしたジーンズに萌えキャラクターのTシャツ。おまけに、いつぞやの革の手袋をつけている金本。
「ん? 見てわからないかい? 今日、バンドで披露する曲のゲーム関連のグッズだよ」
見てわかるくらいにダサい格好をしているので、さすがの僕も引いていた。
「そういう岩崎君こそ、なんだそのTシャツは!」
金本は僕を指を指す。
「見りゃあわかるでしょう? バンドっていったら、ロックTシャツでしょうが!」
僕は服をのばしながら、金本に見せつけた。
ロックTシャツと言えばドクロ、 まさにロックである。
「なぜガイコツなんだ! 呪われたらどうする!」
僕はムキになり、金本と言い争いをする。
「さあ、アホな二人はほっておいて俺らは店長さんにあいさつして来よう」
言い争いをしている僕らをおいて、荒木たちは歩き出した。
「おい! 待ってくれよ」
僕と金本は、慌てて荒木たちについて行った。
「おはようございます! 今日はよろしくお願いします」
僕らは今日のイベントライブの主催者である店長にあいさつをした。
話すと店長はバンド好きらしく、こういったイベントを開催しているらしい。
そういった会話をしていると、店長は紙を取り出して僕たちに渡した。
「よろしく頼みますよ! 君たちを含めて、今日は六組が出演するからね」
明るく話す店長に、今日のイベントのスケジュール表をもらった。
「とりあえず他の参加者はリハーサルが終わってるから、後は君たちだけになるね」
そう言われると店長が僕らを連れて、演奏する場所まで案内する。
開店前で、お客さんがいない店内はかなり広く感じた。
「ここで演奏するんですか?」
到着するとそこは、エスカレーターがあるフロアにステージがあった。
そこまで大きくはないが、イベント用に様々な機材が設置されている。
「すごい……」
こういった場所で演奏がしたことがない僕は、ただおどろいた。
「とりあえず、そのままリハーサルを始めてくれないか? 音の調整をしたいから」
僕らは言われるがまま、 ステージに上がり準備をする。一人ずつ、楽器から音を出して音量などを確認するらしい。
金本たちも初めてなのか、よくわからずに適当に確認している。
僕の番になり、ギターを取り出して肩にかける。
「ついに、初ライブか」
そう口にした僕は、ギターのボリュームを上げて一気に弾き始める。
部室や貸しスタジオよりも大きい音量に、僕の気持ちは高鳴った。




