第二十四話 「それは神のいたずらか、悪魔の罠か」
リハーサルが終わると、僕らはイベントが始まるまで待合室にいた。中には、僕らの他に大勢の人がいる。
「なんと言いますか……いろいろな人がいますな」
金本はキョロキョロと辺りを見回す。
「やめろよー、恥ずかしいだろう」
荒木は金本を止めに入るが、金本の言う通りいろいろな人がいる。見た目がチャラそうな男や、派手な衣装を着ている中年のおっさん。同年代の女の子みたいな人がいた。
僕はその中で、よく知る顔をしたやつを見つけた。
「おい岩崎君、どこに行くんだ? 金本を止めてくれよ」
荒木の言葉を無視して、僕は歩き出した。
「よう! 若葉、おまえのバンドはバッチリか?」
同じバンドメンバーであろう、同級生と話している若葉に声をかけた。すると若葉は嫌そうな顔をしている。
「若ちゃん、この人は誰?」
友達だろうか、隣にいる女の子が若葉に話しかけている。
「おっ! もしかして若葉の友達かな? 僕は若葉の……」
兄だと言おうとしたら、若葉は僕の腕を掴んで待合室を出る。
「ちょっと! いきなり、話しかけて来ないでよ」
若葉は怒鳴るように話す。
ーーなにもそこまで怒ることじゃないだろう? お兄ちゃん、悲しいよ?
僕は少しイラつきと悲しみからそう思った。
「そんな言い方をしなくたっていいだろ? 今日は、一緒のイベントに出るんだし」
ただお互いにいいライブにしようと言いたかった僕に若葉はため息をついた。
「はあ……今日のお兄ちゃんとは関わりたくないのよ、友達もいるんだし」
友達には知られたくない、そう言いたいのだろう。
「だいたい、お兄ちゃんのバンドって」
若葉は僕の後ろを指差す。
「岩崎君、この子は誰なんだい?」
僕は振り返ると、背後に金本が立っていた。
「うわ! 金本先輩、なんで後ろにいるんですか」
驚いた僕は、金本にそう尋ねた。
「いやあ、岩崎君が帰ってこないから心配で〜」
ニヤニヤと笑いながら話すと金本は僕の肩に腕をおいた。
ーーうざい、なんだこいつは。
そう思った僕は、金本の腕を払う。
「妹ですよ、今日のイベントにこいつも出るんですよ」
僕は金本にそう説明する。
「ほうほう、岩崎君に妹がいたとは」
金本はなにか観察するように若葉を見ている。
「やっぱり……オタクだったんだ」
若葉は今までにないくらい、ドン引きした顔をしている。
「おいおい! この人らはともかく、僕は違うだろう!」
僕はそう話すも、若葉は聞いてはいない。
キモいと最後に言った若葉は、スタスタと待合室へと戻っていった。
「なっ、なんだいなんだい! キモいとは失礼な」
金本は若葉の言葉を聞いて怒っている。
ーーまあ、キモいのはわかるけどな。
あの姿を見たら誰でもそう思うだろう。
「ふん! これだらリアルな妹はダメなんだ! やはり三次元が一番だな」
金本はそう言うと廊下を歩き出した。
「あれ? 先輩、どこに行くんですか?」
僕がそう金本に聞くと、トイレだと言ってその場を去っていった。
「はあ、なにがなにやら」
僕は頭をかきながら、待合室に戻ることにした。
「おっ、帰ってきた! あれ? 金本はどうしたの?」
荒木たちがいるところまで行くと、和田は僕に尋ねた。
先ほどのことを話すと和田たちは笑い出す。
「あははは! そりゃあそうだろう、あの格好見たら誰だってそう思うよ」
話を聞いた荒木はそう言う。
「まあ、妹も失礼なことを言ってたと思いますがね」
僕がそう荒木たちに話していると、金本が戻ってきた。
「いやあ、トイレが遠くて迷ったよ! それより聞いてくれ」
金本は少し慌てた様子で話す。
「なにかあったんですか?」
僕は金本になにがあったのかを尋ねた。
「いやあ、トイレに行った後にステージを見てきたんだけど、人が多く集まっていたんだ」
金本が言うには、イベントライブを見に来た人が多く、すでに会場は満員になっているらしい。
「たかがアマチュアバンドの発表会みたいなもんだろ? なんで人が集まるんだよ」
荒木はそう言うと、岡山はイベントライブのパンフレットを見せる。
「たっ、多分これのせいじゃないか?」
岡山はパンフレットを指差す。
そこには地元で有名なアイドル歌手の名前が書かれていた。
僕らのような参加するバンド演奏の後に、アイドル歌手が歌うようなイベントだったらしい。
「なんだこりゃあ! これじゃあ、僕らは噛ませ犬じゃないか」
僕はパンフレットを見てそう叫んでしまった。金本たちも同じように思ったのか、おどろいている。
「まあ、イベントなんてこんなものよ? 僕らは同好会の知名度をあげるのが目的だ」
金本はそう言うが、どこか気に入らない。
目的はその通りだが、やるからには一番すごいと言われてやりたい。
僕がそう考えていると、イベントスタッフが待合室に入ってくる。
「そろそろイベントが始まりますー! 演奏する最初の方々、準備をお願いします」
スタッフの声を聞くと、一番手のバンドが待合室を出ていった。
「いよいよ、始まるな」
僕は自分たちが何番目に演奏するかをスケジュール表で確認する。
「僕らは…… えーっと、ん?」
そこに書かれている文字を見るなり、僕は再度確認する。
「どうしたんだ? 岩崎君」
和田は僕に尋ねると、震えながら僕は答えた。
「僕らの演奏、一番最後なんですが……」
僕の言葉を聞いた全員は、一気に青ざめた。
イベントやライブではトップバッターとトリが重要と言われている。
最初のバンドはイベントの空気をよくするようにしなくてはならない。
そして最後に演奏するバンドはその空気を下げさせない重要なポジションだ。
簡単に言うなれば、ものすごいプレッシャーだということ。
「マジかよ、最悪だな」
荒木はそう一言を言う。
「けど! その後にアイドル歌手が歌うし、大丈夫ですよね?」
僕は聞くが、金本たちは黙っている。
「どちらにしろ、 イベントを盛り上げる最後のバンドが僕らであることをには変わりない」
しばらくして和田はそう口にする。
下手な演奏をして、盛り下げたら微妙な空気になると和田は言いたいのだろう。
すでに嫌な空気がただよう僕らは、その場で立ち尽くすしかなかった。
「だっ、大丈夫だ! 楽しくやればいいんだよ」
金本は笑いながらそう話すも、僕らはとてもそんな気分ではなかった。
会場からは、初めに演奏するバンドの音が聞こえてくる。
そう、イベントライブが始まったのだ。




