第二十話 「ギターソロという名の魅力」
商業施設でのライブまであと一週間。
僕ら音楽研究同好会は、ライブに向けて練習の日々を送っていた。曲のキーを変えて、初めてみんなで合わせて演奏した時。
「いいんじゃない? 前に、オーディションをした時よりうまいじゃないか」
歌い終わった後、金本はそう感想を述べる。他のみんなも同じように納得している。
「けど……まだ、楽しさが伝わってないな。歌をうまく歌っていたい気持ちが強いような」
楽しいバンドになるよう、そこは意識するように金本から言われる。僕は、まだまだ完璧とは程遠いのかと思っていた。
それから部活がある日は、全体で合わせて弾くことをメインに練習をする。
ライブまで一週間がたった今、部室でとある会議が開かれていた。
「やっぱりさ、立ち位置はこうしたほうがいいんじゃないか?」
今日の練習を終えた後、金本はバンドの演奏する位置を考えていた。
「いやいや……なんで、おまえが一番前になるんだよ」
金本の案に、荒木はダメ出しをしている。彼が提案した構図はこうだ。
一番後ろに岡山のドラム、左にベースの荒木。右に和田のギター、真ん中にボーカルギターの僕。
そして、一番前に金本という形にしたいらしい。
「どう考えてもバランス悪すぎだろ、なんでギターのおまえが一番前なんだよ」
紙に図を書いたのを見るなり、確かにバランスが悪い。荒木は紙を裏返して書き直している。
「普通は、こうだろうが」
金本のギターを和田の隣にして、僕を一番前にする。
そうするとスタンダードなポジションになる。荒木は金本にそう提案するも彼は納得していない。
「なぜだ! 僕が同好会長だぞ、一番目立たせなきゃダメだろう」
金本の言葉にあきれた荒木は帰り支度を始めた。
「ばからしい、今日の練習も終わったしみんな帰ろうか」
カバンを手に持つと、荒木は部室を出る。
「おい! まだ、話は終わってないぞ」
荒木を追いかけるように、金本も部室を後にする。僕も帰り支度をしていると、和田に呼び止められた。
「岩崎君、ちょっといいかな」
そう言われた僕は、なにかあるのかと思った。
「どうしたんですか?」
和田は僕にある紙を見せる。それは和田のギターの楽譜であった。
「実は、間奏のギターソロなんだけど、 岩崎君はやってみる気はない?」
突然そう言われたは僕は驚いた。
ーーギターソロ? ただでさえ、歌とギターだけで手が一杯なのに。
そう考えていた僕は、なぜなのか尋ねた。
「いきなりどうしてですか? 和田先輩の
パートなのに」
「ボーカルギターがソロを弾くと、格好良く見えるじゃない? 岩崎君はそこそこ弾けるようになってきたから、任せようかと思ってね」
和田は話すが、僕はすぐには返事をすることができなかった。
ギターだけだったならば、僕は喜んで引き受けただろう。
しかし、ギターとボーカルだけでも難しいのにソロまでは厳しい。
「さすがにちょっと……」
あれこれ考えて、やはり無理だと考えた僕は和田に断りを入れる。
それを聞いた和田は、ある提案をする。
「なら、僕が岩崎君の負担を減らそうか。 それならいいだろう?」
僕は和田の勢いに押されてしまい、つい承諾してしまった。
「ギターソロか、僕にできるのだろうか」
やることがまた増えてしまったことに不安を感じてしまう。ギターソロの弾き方などは和田が教えてくれることになった。
「……大丈夫かな?」
僕は一人そう考えながら帰宅することにした。
帰宅して、自分の部屋で和田の楽譜に目を通す。
「なるほど、わからん!」
僕はギターソロの部分を見ているが、なにが書いてあるかわからずにいた。
ーーとにかく、すべてが難しい!
印象としてはそう言わざるをえない。
「こんなのできるわけないだろが!」
曲を流してギターソロを聴いてみると、そうツッコミをいれてしまうくらい難しい。
これを弾けるならかっこいいと思うが、現実的には無理だろう。
そう考えていると、スマートフォンが鳴る。
「ん? メールか」
メールの送り主は和田らしく、僕はメールを読む。
「なになに? 明日からギターソロは僕が教えてるから、よろしくね」
そう短く書かれていた。
ーー独学でやるよりはマシかな。
僕はよろしくお願いしますと返信して、楽譜を読んで少しでも覚えてることにした。
次の日になり、部室でいつものように練習をしている。
「うーむ、どうだろう? みんな」
演奏が終わるなり、金本は全員に感想を聞いている。
「まっ、まあ……よくはなってきてるんじゃないか?」
ドラムを叩いていた岡山はそう言う。
確かに岡山の言う通り、良くはなってきている印象だ。
全員で合わせて練習する回数が増える度に、上達していると僕は思った。
「下手ではないだろう、多分だけど」
和田はなにか考えながらそう答える。
「なにかあるのか? 和田」
そう荒木が和田に話しかける。
すると和田は楽譜を取り出して、みんなに見せる。
「岩崎君には先に言ってあるが、ギターソロは彼にやってもらおうと考えている」
和田の発言に、金本たちはおどろく。
「おいおい、もう時間が少ないんだぞ? 今からじゃ間に合わないだろう」
荒木はあきれながら和田に反論する。金本はなぜそうするのかを尋ねた。
「ライブを成功させるには、それなりにインパクトを与えなければならない」
「僕らの演奏を見た人たちに対して、印象を残す形にしたいんだ」
それがボーカルギターによるギターソロだと和田はみんなに伝える。
しばらくの間、部室が静まり返った。
さすがに今回ばかりは、金本も反対するだろうと僕は思っていた。
「岩崎君はどうなんだい? 君はギターソロをやりたいのか?」
突然、金本が僕にそう聞いてくる。
ーー難しい話ですよ、自分のパートで手がいっぱいなのだから。
だが僕は、一度はギターソロをやってみたいという気持ちはあった。
ただギターのコードを弾くだけでは、物足りないとずっと思っていた。
「僕はやってみたいです! この曲のギターソロを聴いた時、弾いてみたいと思ってましたから」
僕の言葉を聞いた金本は、なにか納得したようにうなずく。
「ならやろうではないか! ギターソロを」
金本がそう話すと、荒木はおどろいて口を開いた。
「おい! おまえまでなにを言ってるんだ? いまさら無理だろう」
金本は問題ないと荒木を説得する。
「まだ一週間はある! 和田と僕で、岩崎君にギターソロを覚えさせる」
残り一週間で僕は新たにギターソロという課題をクリアし、イベントライブに挑むことになった。




