第十九話 「さあて! 再来週はライブですよ」
自室に戻った僕は、パソコンにバンドで演奏する曲を取り込む。
理由はひなたから教わった、曲のキーを変更して練習するためだ。パソコンの音楽を再生するソフトにはキーを変更できるらしく、さっそく取り掛かる。
「えっとー、あった! これか」
僕は設定画面からキーを変更する項目をクリックして曲を流す。すると、ボーカルの声が低くくなっている。
いろいろと音程を変えて、自分に声に合う音程を見つける。
「この音程なら、歌いやすいかな?」
ボーカルに合わせて僕も軽く口ずさむ。確かに僕の声で歌うと、低い音程がしっくりくる気がした。
「ということは、ギターもキーを変更しなきゃだな」
金本からもらった楽譜のコードを見て、変更する音を確認する。
「原曲から……だいたい、これくらいかな?」
やり方はだいたいわかるが、そうなるとコードを一からやり直さなければならない。例えるならば、ドレミと弾くのをラシドと弾くようなものだ。
ギターのコードを一つずつ確認しながら、弾いていく。
「そうだ、金本先輩に今日のことを伝えなければだな」
僕はスマートフォンを持つと、金本に電話をかけた。
ーープルルルッ
しばらく呼び出し音が鳴るが、金本が出る気配がない。
「あれ? 忙しいのかな」
僕は電話を切って、またギターを持つ。
同好会へ行った時に言えばいいだろうと考えると曲を練習することにした。
休み明けになり、僕は急いで学校へ向かう。夜中まで練習したため、寝坊をしてしまった。
「なんか僕って、ほとんど急いで学校に向かってるな」
一人でぶつぶつ言ってると学校へ着いた。
教室に入ると、ひなたが友達と話している。
僕は休日のお礼をあらためてしようと思ったが、ひなたとの条件を思い出す。
ーー確か、学校ではギャルゲーの話はNGだったな。
そう思い出すと、僕は自分の机へ向かう。
しばらくして、ひなたが隣の席へ座る。
「休みの日はありがとうな」
僕は小声でひなたにそう話す。
「まあ、頑張って」
誰にも聞こえないような声で、ひなたはそう返事をした。
僕は少し照れると、授業が始まるまでスマートフォンで曲を聴くことにした。
ーー放課後。
部室に到着すると、金本たちは室内でアニメ雑誌を読みふけっている。
「お疲れさまです! 雑誌なんか読んでないで、ちょっと聞いてくださいよ」
僕は休みの日に、ひなたから教わったことを金本たちに話した。
「ほう! 曲のキーを変えるとな」
金本はおどろきながら、そう話す。
だが、あまり好印象とは思っていない顔をしている。
「たしかに、ボーカルに合わせたキーにしたほうが良いけど……それだとなあ」
原曲が好きである金本からしたら、曲のイメージが変わってしまうと言いたいのだろう。
バンドでコピーするなら、やはり原曲のキーが一番だと僕も思う。
「けど、原曲のままだと歌にならないんですよ!」
キーを変えずに歌うとボーカルは変になってしまう、それこそ曲のイメージが壊れてしまう。
下手に変にするよりも、キーを落として一つの曲にすべきだと僕は金本たちに伝える。
「まあ、僕たちはまだどういった感じになってるかわからないからね」
金本は話すと、和田にパソコンを立ち上げるように言う。
和田は言われた通り、パソコンを立ち上げる。
「音楽編集ソフトが入ってるだろ? それで曲のキーを変えてみてくれ」
しばらくすると、パソコンのスピーカーから曲が鳴り始める。
バンドで弾く曲ではあるが、音は原曲より低い。
「そうですそうです! その音ですよ」
聞いた音は、僕が歌いやすい音程の音であった。
この音程ならば、ひどくはならないと僕は金本たちに言う。
金本は納得していない様子をしている。
「うーむ、違和感があるんだよなあー。 コレジャナイ感が」
曲を聴き終わった金本は、そう話す。
すると荒木が間に割って入る。
「けど、岩崎君の言う通りだと思うぞ?」
金本は荒木にどういうことか尋ねる。
「音程を変えても曲は曲だ、俺たちに合う形で表現すればいいだろう?」
僕たちはその曲のアーティストではない、あくまでコピーバンドだ。
だが、コピーバンドだからこそ、僕たちなりに弾けばいい話。
そう荒木は言いたいのだろう。
他の二人も反対することなく、荒木の意見に賛成している。
「ふっ、ふはははは」
突然、金本が笑い出した。
「ぼっ、僕も実はそう思っていたのだよ。自分たちの形にするなんて、すばらしい!」
僕たちは金本の言葉に、またかという気持ちになった。
「あいつ、周りの意見に流されやすいタイプなんだろうな」
荒木はため息をつくと、金本を無視して話を始める。
「金本は放っておいて、曲のコード進行を変えてみようか」
荒木は楽譜を机に置いて、ペンで修正していく。
僕は自分で変更した楽譜を、みんなに見せる。
「おお、岩崎君! 自分で直してたのか、見せて」
荒木たちは曲を確認しながら、僕の楽譜を見ている。
「最初の方は合ってるけど、後半の部分が間違えてるね」
和田がそう言いながら、間違えているところを直す。
ある程度、作業を終わせて僕はギターを手に持つ。
「さっそく、合わせて弾いてみましょうよ」
僕はそう荒木たちに言うと、彼らもそれぞれ楽器を持つ。
「ほら、金本! しょげてないでおまえもやるぞ」
一人落ち込んでいた金本に、荒木はそう呼びかけた。
金本は元気を取り戻したのか、僕たちより先に部室を飛び出す。
「今日は天気もいいから、外で練習しよう!」
部室を出た金本は、焼却炉の近くでギターを取り出す。
「おいおい、こんなところで練習しても意味ないだろ! 岡本のドラムはどうするんだ」
荒木がそうツッコミを入れるも、金本は一人でギターを弾き始める。
楽しそうにギターを弾く姿に僕らも後に続く。
「ぼっ、僕はこれでいいよ」
岡山はどこから持ってきたのか木魚を取り出す。
「おまえ、どこから持ってきたんだよ」
誰かがそう言うも、僕らは練習を始めた。
ーーポンッ、ポンッ。
アンプがない生音のギターに木魚の音が合わさる。
「シュールすぎる……」
僕が一言、そう言うと全員が笑い出す。
「まあ、いいじゃないか! ではさっそく、岩崎君の歌も合わせてやってみよう」
そう言われた僕は、歌を練習した成果をここで発揮しようと思った。
岡山がカウントを取ると、全員が演奏を始める
僕もギターを弾き、歌い出しのところまでくる。
そして僕は歌い始めた。




