27》デッドエンドデバイサー
カナルが《ファミリー》に勧誘してからのエニスの反応は劇的で、指の隙間から覗かせた瞳がうるうると潤み。そして発火するかのようにボッ、と顔が真っ赤になって、薄い唇を溢れ出る感情を耐えるみたいに噛みしめる。
「……あれ、俺らがカナルに言われたことじゃねぇか」
「なっ! アローンもか!?」
まさか、お前も? 聴いてないぞ、そんなこととか、アローンとツキミがなにやら言い争うように言葉を交し合っている。
先ほどまで傍観を決め込んでいた《灰かぶりの銃弾》の隊員たちは、ヴァルヴァルテの手振り一つで迫ってきている。統率された動きは訓練の賜物か。だが、《灰かぶりの銃弾》の隊員数を目測で数えても、全員には遠く及ばない。恐らく一番隊だけを先遣隊としてヴァルヴォルテが率いてきたのだろう。ここに元凶がいることが分かった以上、情報が他の隊に情報が回るのは時間の問題。他の隊員と隊長がここに集結してしまったら、流石にエニスを守りきれない。
エニスの洗脳能力を使えば、この包囲網を突破できるかもしれない。だが、そんなことさせたくない。これ以上彼女が苦しむのを見たくない。
「何をやってるんだ、二人とも!! そんなこと言っている場合じゃないだろ!!」
「お前が言うな!!」
アローンとツキミが同じタイミングで言葉を重ねると、悪いことをしたわけでもないのに気圧される。ヴァルヴォルテはツキミに任せるとして、それ以外の隊員たちはアローンとカナルだけで相手をしなければならない。
数の差はあるが、地下道という狭い空間ではそこまでのアドバンテージは存在しない。アローンもカナルも広範囲に攻撃を及ぼすことができる能力を要している。ならば、身動きのとりづらいここならば、それなりに戦える。だが、《灰かぶりの銃弾》の隊員は隊長格ほどではないにしろ、実力者揃い。
一般人ではなく、誰もが能力を持つ《デバイサー》なのだ。視界を覆い尽くすほどの人数相手をたった二人、いや三人で倒し切ることはできないかもしれない。ヴァルヴォルテの相手をするツキミは加勢することはできない。だとすると、ここで参戦できるのはたった一人しかいない。
「私はみんなを地獄に落とした。記憶を死滅させてしまった。そのせいでまたこうして争いが起こっている。この手は返り血で薄汚れている。でも、そんな私のことを助けてくれようとする人もいる」
カナルがどれだけ助けようとしても、それでも助けられない時もある。それはまだカナルが強くないからだ。でも、カナルの強さ弱さと同じぐらい重要なこともある。それは、助けられる対象であるエニスが、本当に助かりたいかということ。
仮にここを切り抜けたところで、それで全ての問題が解決するわけではない。《灰かぶりの銃弾》に逆らった今では、グルマタそのものを敵に回したということ。国外へ逃亡することも視野に入れなければならない。
そんな時にエニスを抱えながらずっと逃げ続けることなどできない。エニスには自分の足で歩いてもらわなければならない。自分の意志で心の底から生きたいと思わなければ、本当の意味で助けることなどできない。
「それが嬉しくて、でもやっぱり辛い。こんなにも想われてるのに、私は何のお返しもできていない。傷つくのを見ているだけで、カナルたちを助けられるのに、なにもしていない。私は自分を許すことはまだできていないけど、私のことを助けてくれようとしてくれる人がいる限り、私は――まだ死ねない」
その言葉を聞いたカナルたち《ファミリー》はそれぞれ笑っていたと思う。だって、命を懸けて守ろうとする人に拒絶されるのはかなり堪えるからだ。助けたいと思う気持ちを否定されるということは、自分そのものを否定されるということで。それは、エニスの心の中でカナルたちは死んでいるということだ。
でも、ようやく声は届いて、どうにかエニスの世界でカナルたちは生きることができた。迷いなく全力で助けることができる。
「私のことを助けてくれる。そんな素敵な《ファミリー》と一緒にいることが許されるのだったら。もしかして、私でも生きる権利があるというのなら。私は――」
涙の晴れた瞳をしたエニスが、自分の足で立ち上がる。守られているばかりではない。手から炎を発してようやく戦うことを決意する。大切なものを守るために、忌々しい過去を乗り越えて、自分の能力を使って、そして、
エニスの腹部にぽっかりと穴が開いていた。
「――あッ――ガッ――!?」
いつの間にか、何者かの攻撃がエニスの身体を貫通していた。銃声とか怒声とかの雑音のせいで、誰がエニスに不意打ちをしたのか分からない。ただ、致命傷となるような一撃を、攻撃を受けたエニスも気づかない内に背後から受けたということだ。唖然とした様子で後ろを振り返るが、そこには誰もいない。少なくとも近くにそれらしい人間はいなかった。
「エニス!!」
「――カ――ナル――」
瞳を虚ろにさせながら倒れるエニスに、持ち場を離れて走る。誰よりも速くエニスのもとへと駆けつける。手を伸ばすカナルと鏡合わせのように、エニスも血を吐きながら手を伸ばす。そして、カナルの手は倒れ行くエニスの指を掠らせて――届かなかった。




