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マギア・モンスター  作者: かず


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マギア・モンスター 1-1

##第1話:始まりの一歩

薄暗く、冷たい湿気が肌を刺す。そこはリトス国の王都、地下深くにつくられた牢獄だった。

「ミヤ、走れ! 逃げるぞ!」

マサの鋭い叫び声が、石造りの通路に木霊する。二人の足音が激しく響いた次の瞬間、背後からけたたましい警報の鐘の音が鳴り響いた。

「止まれ! 逃がすかッ!」

追ってきた監守が怒号を上げる。万事休すかと思われたその時――**ボンッ!**と小気味いい音を立てて、激しい白煙が通路に立ちこめた。

「み、見えない……!?」

ゴホゴホと咳き込む監守の声をよそに、煙の向こうから小さな手が伸びてくる。

左右で色の異なる、神秘的なオッドアイの瞳。小さな女の子が、静かに手招きをしていた。二人は弾かれるように彼女の後を追い、近くにあった武器庫の陰へと滑り込む。

「ふぅ……助かった。ありがとう。……ところで、君は?」

マサが息を切らしながら尋ねると、女の子は頭に被っていたフード付きのローブをそっと外した。

その背中には、純白の美しい「羽」がはためいていた。

「て……天使……?」

ミヤが目を見張る。すると、その子は不思議そうに首を傾げた。

「それって、『ヱル』の種族のことですか?」

「う、うん……」

「さぁ?」

「はい?」

「実はヱル、一部の記憶が無いんです。天使っていうのは、そんなに珍しいんですか?」

「そりゃあ珍しいよ! この下界リトス国じゃ、滅多に会えないって噂だし……他の国は知らないけど」

「ふーん、そうなんですか……」

そんな風になんやかんやと呑気な会話を交わしていると、武器庫の扉が荒々しく開け放たれた。

先ほどの監守と、不気味な雰囲気を纏った一人の小さな子供がそこに立っていた。

「見つけたぞ、反逆者どもめ!」

監守が勝ち誇った声を上げる。

ヱルと呼ばれた少女は、一瞬にしてその瞳を冷たく凍りつかせ、二人を睨み据えた。

「……反逆者」

「いや、違うんだ! 俺たち本当に無実だし!」

「…………」

「信じてよ、ヱル!」

冷徹な視線を向けられ、マサとミヤは必死に声を荒らげるのだった。

## 第2話:異世界者の無実

「――で、何で反逆者なんて呼ばれてるんです?」

武器庫の片隅で、ヱルはジト目を崩さない。

「だから、反逆者じゃないってば、ヱル……」

「じゃあ、何で王国軍に追われてるんですか?」

身の潔白を証明するため、ミヤはこれまでの経緯を必死に説明し始めた。

「それは……言っても信じてもらえないと思うけど。私とマサ、海で遊んでたら急に大きな波に呑まれて、気がついたらこの世界にいたの。しかも、昔の記憶もほとんど思い出せなくて……。その後、不審者として連れてこられて、正直にこのことを話したら、なぜか『反逆者』だって言われて地下牢に閉じ込められたのよ」

ミヤは自嘲気味に苦笑いを浮かべた。どうせ信じてもらえないだろう――そう諦めかけた時、ヱルがふっと表情を和らげた。

「嘘をつく顔じゃあないですから、信じるですよ!」

「えっ、信じてくれるの!?」

「信じるですよ!」

「ヱル~!」と二人が感動の涙を流しかけたその時、部屋の入り口から冷酷な声が割り込んできた。

「おいおい、話はもういいか? 反逆者ども」

「だから違うって言ってるだろ!」

マサが怒りを露わにする。しかしヱルは冷静に二人をたしなめた。

「続きはここを出てからです!」

「ヱル~!(泣)」

「泣くのもここを出てからです……」

監守の隣に立つ小さな子供――不気味な笑みを浮かべたその子供が、大振りの武器を構えた。

「出られはしないさ。この俺、ウィルブラックの直属部隊『M七(マスターセブン)』の一人、――『大鎌のライン』様が来たからにはな!」

「M七……」

ヱルが、ぷっと小さく吹き出した。

「こんな小さい子供が『M七』なんですか?」

「お前だって子供じゃないか! 僕はこう見えても30歳だぞ!」

ラインが青筋を立てて怒鳴る。

「プッ、くすくす……」

「じゃ、じゃあお前はいくつなんだよ!」

「ヱルは129歳です。――**『エンジェアロー』**!」

刹那、ヱルの手から光の矢が放たれた。

**カッカッカッ!**と鋭い音が響き、矢はラインと監守の衣服を正確に貫通。そのまま二人を背後の壁へと深く縫い付けた。

「クッ……! 今すぐ仲間を呼んでやる……!」

「**『СФХ』**」

ヱルが謎の呪文を低く呟くと、ラインと監守の目は急速に重くなり、その場で深い眠りに落ちていった。

「さっ、ここから出るですよ。……? **『スケルスコート』**!」

ヱルがさらに魔法を唱えると、三人の身体が陽炎のように揺らめき、透明に透けていく。

「これで暫くは誰にも見えないです。さっ、脱出です!」

## 第3話:森の魔法使い

夕刻――。

鬱蒼とした木々が赤く染まる、不気味な森の入り口へと三人はたどり着いた。

「出られたーーー!」

「ありがとう、ヱル。助かったよ」

「ここまで来れば大丈夫です! ここは、ヱルが暮らしている『迷いの森』ですよ!」

一息ついたところで、ミヤはずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした。

「ねぇ、ヱル。さっきから気になってることが三つあるんだけど……。ヱルさん、確か129歳って言ってたよね?」

「あっ、敬語は良いからヱルはヱルって呼んで!」

「あ、うん……じゃあ二つ目。何で私やマサを助けてくれたの?」

「あからさまに困ってたからです。一日一善ですよ」

「ふ~ん……? で、三つ目。何でそもそも、王都の城の中にいたの?」

その問いに、ヱルは急にバツが悪そうな顔をして視線を泳がせた。

「それは……その……。だから、……ぶっ、しょく……」

「物色というか、泥棒ね、ヱル」

**ビクッ!**とヱルの肩が跳ねる。

声のした方を振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。見た目は60歳前後の、上品だがどこかくだけた雰囲気のおばさんだ。

「あらやだ、おばさんだなんて。もう80代よ?」

くすくすと笑う彼女を見て、マサとミヤの目は点になった。マサがおずおずと尋ねる。

「あの……俺たち、まだ何も口に出して言ってませんけど?」

「ははは! またあたしったら、あんたたちの『心の声』を聞いてしまったわ!」

ヱルがほっとしたようにその女性を紹介した。

「この方はキコさん。ヱルと一緒に暮らしてる人……おばあちゃんみたいな者かな? それで、たまに心の声が聞けちゃう魔法使いでもあるです!」

ミヤは黙り込み、呆然として言葉を失った。

「おーい、ミヤ?」

マサが顔の前で手を振っても、ミヤは硬直したままだ。

「ミヤ~……?」

## 第4話:過去と今

しばらくして、ようやくミヤが重い口を開いた。

「いや……気のせいかな。キコさんと、なんか昔、会ったことがあるような気がして……」

その言葉に、マサが小さく息を呑み、静かに黙り込む。

キコは一瞬だけ目を細めたが、すぐにいつもの軽い調子で聞き流した。

「気のせいよぉ~。ところでヱル、今日は何を盗ってきたのかい?」

「魔法銃と魔法剣です~!」

「はぁ……(呆)」

キコは深くため息をついた。

「で、どうするのよ、それ」

「いや、面白いんですよ、これ! 剣は水に変わるし、銃からは炎の弾丸が出るんです!」

目を輝かせるヱルを見ながら、キコはマサとミヤに視線を向けた。

「そういえば、マサとミヤの魔法は何なの?」

「へ……?」

「使えないわよ、その二人は」

キコはきっぱりと言い切った。そして、二人の身体を値探るように見つめる。

「魔力の器自体は凄く大きいけれど、多分、まともに戦った経験がないわね……。それと、さっきあたしが占ってみたところによると、あんたたち、近々戦いに巻き込まれるわよ」

「…………」

「だから、ヱルが盗ってきたその銃と剣、あんたたちが持って行きなさい!」

## 第5話:戦い講座

最初は「泥棒の品なんて……」と遠慮した二人だったが、キコさんに半ば強引に武器を握らされた。

そしてそのまま、キコさんによる即席の「対モンスター戦闘講座」が始まった。

「コホンッ!」

キコはわざとらしく咳払いをし、先生のような口調で話し始める。

「がいい? 魔法銃や魔法剣っていうのは、いわゆる『魔法具(まほうぐ)』。魔力がない人間でも、道具そのものの力で魔法が使える便利な代物よ。まあ、もし魔力がある人間が使えば、魔法具と自分の魔力を組み合わせることで『新たな魔法』を生み出すこともできるわね」

マサとミヤは真剣に頷く。

「そして、モンスターには大体、生まれつき持っている『ランク(強さ)』があるわ。基本的には、**N(1)**、**S(2)**、**H(3)**、**M(4)**、**M+(5)**、**G(6)**、**G+(7)**、**R(8)**、**R+(9)** の9段階で振り分けられているわね。でもね、たまに**☆(10)**と呼ばれる、凄く強いモンスターもいるわ。それと、これも稀なケースだけど、途中でランクが変わるモンスターもいるわね……」

キコは一度言葉を切り、二人の目をじっと見据えた。

「因みに、いま貴方達を追っている組織の名前は『ウィルブラック』。さっき王都の地下牢で捕まりかけたのは、そのウィルブラックの幹部の駒……**『M.七(マスターセブン)』**ね。M.七は全員がランク『4〜5』の実力者で構成された、ウィルブラックの直属部隊よ」

「あの……その『ウィルブラック』って、一体何者なんですか?」

「聞きたい……」

ミヤとマサが身を乗り出すと、キコは意味深な笑みを浮かべた。

## 第6話:秘密組織ウィルブラック

「えっ……それはね……」

キコが急に深刻な顔をして、ミヤは静かに次の言葉を待った。すると、キコはぷっと吹き出した。

「冗談よ(笑)。単なる秘密組織よ」

「いや、『単なる』は要らない気がしますけど……」

マサが思わずツッコミを入れる。

「ただね、この一年でいきなり活発化したのよね。なぜか王国や王国軍とも裏で繋がっているみたいだし……」

「それで、王国軍に捕まった俺たちの前に、M.七と呼ばれるモンスター(のような奴ら)が出てきたのか……」

「そゆこと」

話が一段落すると、ヱルが胸を張ってふんぞり返った。

「では! 助けた頼りになるヱル様を崇めなさい!」

「…………」

「ヱル~、何調子に乗ってるの!」

キコが半分呆れ、半分怒りながらヱルの頭を軽く小突いた。

「じゃあ、そんな頼りになるヱル様に、この子達を安全な場所まで送り届けてもらおうかしら?」

「ええっ!? 何でヱルが~!」

「だって、頼りになるヱル様なんでしょ?」

キコに綺麗に一本取られ、ヱルは渋々ながらも了解した。

三人がキコさんの家を出て少し歩いたところで、マサがふと振り返る。そこには、さっきまであったはずの家が影も形もなくなっていた。

ミヤとマサが驚いて声を上げると、ヱルが少し得意げに言った。

「結界が張ってあるんです。キコさん、結構人嫌い何です……」

ミヤとマサは何か言いかけたが、静かに口を閉じた。

あの温かい家と、どこか寂しげな老魔法使いの横顔を思い浮かべながら、三人は夕闇の迫る森の奥へと歩みを進めるのだった。

(マギア・モンスター1-2へ続く)

26.6.2 ##第1話:始まりの一歩

薄暗く、冷たい湿気が肌を刺す。そこはリトス国の王都、地下深くにつくられた牢獄だった。

「ミヤ、走れ! 逃げるぞ!」

マサの鋭い叫び声が、石造りの通路に木霊する。二人の足音が激しく響いた次の瞬間、背後からけたたましい警報の鐘の音が鳴り響いた。

「止まれ! 逃がすかッ!」

追ってきた監守が怒号を上げる。万事休すかと思われたその時――**ボンッ!**と小気味いい音を立てて、激しい白煙が通路に立ちこめた。

「み、見えない……!?」

ゴホゴホと咳き込む監守の声をよそに、煙の向こうから小さな手が伸びてくる。

左右で色の異なる、神秘的なオッドアイの瞳。小さな女の子が、静かに手招きをしていた。二人は弾かれるように彼女の後を追い、近くにあった武器庫の陰へと滑り込む。

「ふぅ……助かった。ありがとう。……ところで、君は?」

マサが息を切らしながら尋ねると、女の子は頭に被っていたフード付きのローブをそっと外した。

その背中には、純白の美しい「羽」がはためいていた。

「て……天使……?」

ミヤが目を見張る。すると、その子は不思議そうに首を傾げた。

「それって、『ヱル』の種族のことですか?」

「う、うん……」

「さぁ?」

「はい?」

「実はヱル、一部の記憶が無いんです。天使っていうのは、そんなに珍しいんですか?」

「そりゃあ珍しいよ! この下界リトス国じゃ、滅多に会えないって噂だし……他の国は知らないけど」

「ふーん、そうなんですか……」

そんな風になんやかんやと呑気な会話を交わしていると、武器庫の扉が荒々しく開け放たれた。

先ほどの監守と、不気味な雰囲気を纏った一人の小さな子供がそこに立っていた。

「見つけたぞ、反逆者どもめ!」

監守が勝ち誇った声を上げる。

ヱルと呼ばれた少女は、一瞬にしてその瞳を冷たく凍りつかせ、二人を睨み据えた。

「……反逆者」

「いや、違うんだ! 俺たち本当に無実だし!」

「…………」

「信じてよ、ヱル!」

冷徹な視線を向けられ、マサとミヤは必死に声を荒らげるのだった。

## 第2話:異世界者の無実

「――で、何で反逆者なんて呼ばれてるんです?」

武器庫の片隅で、ヱルはジト目を崩さない。

「だから、反逆者じゃないってば、ヱル……」

「じゃあ、何で王国軍に追われてるんですか?」

身の潔白を証明するため、ミヤはこれまでの経緯を必死に説明し始めた。

「それは……言っても信じてもらえないと思うけど。私とマサ、海で遊んでたら急に大きな波に呑まれて、気がついたらこの世界にいたの。しかも、昔の記憶もほとんど思い出せなくて……。その後、不審者として連れてこられて、正直にこのことを話したら、なぜか『反逆者』だって言われて地下牢に閉じ込められたのよ」

ミヤは自嘲気味に苦笑いを浮かべた。どうせ信じてもらえないだろう――そう諦めかけた時、ヱルがふっと表情を和らげた。

「嘘をつく顔じゃあないですから、信じるですよ!」

「えっ、信じてくれるの!?」

「信じるですよ!」

「ヱル~!」と二人が感動の涙を流しかけたその時、部屋の入り口から冷酷な声が割り込んできた。

「おいおい、話はもういいか? 反逆者ども」

「だから違うって言ってるだろ!」

マサが怒りを露わにする。しかしヱルは冷静に二人をたしなめた。

「続きはここを出てからです!」

「ヱル~!(泣)」

「泣くのもここを出てからです……」

監守の隣に立つ小さな子供――不気味な笑みを浮かべたその子供が、大振りの武器を構えた。

「出られはしないさ。この俺、ウィルブラックの直属部隊『M七(マスターセブン)』の一人、――『大鎌のライン』様が来たからにはな!」

「M七……」

ヱルが、ぷっと小さく吹き出した。

「こんな小さい子供が『M七』なんですか?」

「お前だって子供じゃないか! 僕はこう見えても30歳だぞ!」

ラインが青筋を立てて怒鳴る。

「プッ、くすくす……」

「じゃ、じゃあお前はいくつなんだよ!」

「ヱルは129歳です。――**『エンジェアロー』**!」

刹那、ヱルの手から光の矢が放たれた。

**カッカッカッ!**と鋭い音が響き、矢はラインと監守の衣服を正確に貫通。そのまま二人を背後の壁へと深く縫い付けた。

「クッ……! 今すぐ仲間を呼んでやる……!」

「**『СФХ』**」

ヱルが謎の呪文を低く呟くと、ラインと監守の目は急速に重くなり、その場で深い眠りに落ちていった。

「さっ、ここから出るですよ。……? **『スケルスコート』**!」

ヱルがさらに魔法を唱えると、三人の身体が陽炎のように揺らめき、透明に透けていく。

「これで暫くは誰にも見えないです。さっ、脱出です!」

## 第3話:森の魔法使い

夕刻――。

鬱蒼とした木々が赤く染まる、不気味な森の入り口へと三人はたどり着いた。

「出られたーーー!」

「ありがとう、ヱル。助かったよ」

「ここまで来れば大丈夫です! ここは、ヱルが暮らしている『迷いの森』ですよ!」

一息ついたところで、ミヤはずっと胸に引っかかっていた疑問を口にした。

「ねぇ、ヱル。さっきから気になってることが三つあるんだけど……。ヱルさん、確か129歳って言ってたよね?」

「あっ、敬語は良いからヱルはヱルって呼んで!」

「あ、うん……じゃあ二つ目。何で私やマサを助けてくれたの?」

「あからさまに困ってたからです。一日一善ですよ」

「ふ~ん……? で、三つ目。何でそもそも、王都の城の中にいたの?」

その問いに、ヱルは急にバツが悪そうな顔をして視線を泳がせた。

「それは……その……。だから、……ぶっ、しょく……」

「物色というか、泥棒ね、ヱル」

**ビクッ!**とヱルの肩が跳ねる。

声のした方を振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。見た目は60歳前後の、上品だがどこかくだけた雰囲気のおばさんだ。

「あらやだ、おばさんだなんて。もう80代よ?」

くすくすと笑う彼女を見て、マサとミヤの目は点になった。マサがおずおずと尋ねる。

「あの……俺たち、まだ何も口に出して言ってませんけど?」

「ははは! またあたしったら、あんたたちの『心の声』を聞いてしまったわ!」

ヱルがほっとしたようにその女性を紹介した。

「この方はキコさん。ヱルと一緒に暮らしてる人……おばあちゃんみたいな者かな? それで、たまに心の声が聞けちゃう魔法使いでもあるです!」

ミヤは黙り込み、呆然として言葉を失った。

「おーい、ミヤ?」

マサが顔の前で手を振っても、ミヤは硬直したままだ。

「ミヤ~……?」

## 第4話:過去と今

しばらくして、ようやくミヤが重い口を開いた。

「いや……気のせいかな。キコさんと、なんか昔、会ったことがあるような気がして……」

その言葉に、マサが小さく息を呑み、静かに黙り込む。

キコは一瞬だけ目を細めたが、すぐにいつもの軽い調子で聞き流した。

「気のせいよぉ~。ところでヱル、今日は何を盗ってきたのかい?」

「魔法銃と魔法剣です~!」

「はぁ……(呆)」

キコは深くため息をついた。

「で、どうするのよ、それ」

「いや、面白いんですよ、これ! 剣は水に変わるし、銃からは炎の弾丸が出るんです!」

目を輝かせるヱルを見ながら、キコはマサとミヤに視線を向けた。

「そういえば、マサとミヤの魔法は何なの?」

「へ……?」

「使えないわよ、その二人は」

キコはきっぱりと言い切った。そして、二人の身体を値探るように見つめる。

「魔力の器自体は凄く大きいけれど、多分、まともに戦った経験がないわね……。それと、さっきあたしが占ってみたところによると、あんたたち、近々戦いに巻き込まれるわよ」

「…………」

「だから、ヱルが盗ってきたその銃と剣、あんたたちが持って行きなさい!」

## 第5話:戦い講座

最初は「泥棒の品なんて……」と遠慮した二人だったが、キコさんに半ば強引に武器を握らされた。

そしてそのまま、キコさんによる即席の「対モンスター戦闘講座」が始まった。

「コホンッ!」

キコはわざとらしく咳払いをし、先生のような口調で話し始める。

「がいい? 魔法銃や魔法剣っていうのは、いわゆる『魔法具(まほうぐ)』。魔力がない人間でも、道具そのものの力で魔法が使える便利な代物よ。まあ、もし魔力がある人間が使えば、魔法具と自分の魔力を組み合わせることで『新たな魔法』を生み出すこともできるわね」

マサとミヤは真剣に頷く。

「そして、モンスターには大体、生まれつき持っている『ランク(強さ)』があるわ。基本的には、**N(1)**、**S(2)**、**H(3)**、**M(4)**、**M+(5)**、**G(6)**、**G+(7)**、**R(8)**、**R+(9)** の9段階で振り分けられているわね。でもね、たまに**☆(10)**と呼ばれる、凄く強いモンスターもいるわ。それと、これも稀なケースだけど、途中でランクが変わるモンスターもいるわね……」

キコは一度言葉を切り、二人の目をじっと見据えた。

「因みに、いま貴方達を追っている組織の名前は『ウィルブラック』。さっき王都の地下牢で捕まりかけたのは、そのウィルブラックの幹部の駒……**『M.七(マスターセブン)』**ね。M.七は全員がランク『4〜5』の実力者で構成された、ウィルブラックの直属部隊よ」

「あの……その『ウィルブラック』って、一体何者なんですか?」

「聞きたい……」

ミヤとマサが身を乗り出すと、キコは意味深な笑みを浮かべた。

## 第6話:秘密組織ウィルブラック

「えっ……それはね……」

キコが急に深刻な顔をして、ミヤは静かに次の言葉を待った。すると、キコはぷっと吹き出した。

「冗談よ(笑)。単なる秘密組織よ」

「いや、『単なる』は要らない気がしますけど……」

マサが思わずツッコミを入れる。

「ただね、この一年でいきなり活発化したのよね。なぜか王国や王国軍とも裏で繋がっているみたいだし……」

「それで、王国軍に捕まった俺たちの前に、M.七と呼ばれるモンスター(のような奴ら)が出てきたのか……」

「そゆこと」

話が一段落すると、ヱルが胸を張ってふんぞり返った。

「では! 助けた頼りになるヱル様を崇めなさい!」

「…………」

「ヱル~、何調子に乗ってるの!」

キコが半分呆れ、半分怒りながらヱルの頭を軽く小突いた。

「じゃあ、そんな頼りになるヱル様に、この子達を安全な場所まで送り届けてもらおうかしら?」

「ええっ!? 何でヱルが~!」

「だって、頼りになるヱル様なんでしょ?」

キコに綺麗に一本取られ、ヱルは渋々ながらも了解した。

三人がキコさんの家を出て少し歩いたところで、マサがふと振り返る。そこには、さっきまであったはずの家が影も形もなくなっていた。

ミヤとマサが驚いて声を上げると、ヱルが少し得意げに言った。

「結界が張ってあるんです。キコさん、結構人嫌い何です……」

ミヤとマサは何か言いかけたが、静かに口を閉じた。

あの温かい家と、どこか寂しげな老魔法使いの横顔を思い浮かべながら、三人は夕闇の迫る森の奥へと歩みを進めるのだった。

(マギア・モンスター1-2へ続く)

26.6.2

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