メイドにも上下があるらしい……知らんけど
━━ジャンティ王子の口添えでアメはお城で働くことになった。
何も知らないアメに一から教えてくれたのはシェール先輩だった。
「あぁ~その字ちょっと違う。ここに線を一本足して」
「こう?」
字の読み書きが出来るシェールがそのままアメの教育係として、読み書きだけでなく仕事まで教えてくれた。
「ちょっとあんたどんだけの量を持つのよ!」
洗濯するシーツを大量に抱えて階段をかけ登るアメの後ろからシェールが叫ぶ。
「シェール先輩はゆっくりでいい。アメがもう一回運べば終わる」
働きだして数日間は体の使い方が分からず転んだり、壁にぶつかったりときには天井に頭を打ったりと失敗だらけだった。
でもシェールや他の人たちの動きを見て、手足の使い方を学んでいくうちに上手に使えるようになった。
「ったく、どんな力と体力してんのよ。っていうか仕事多すぎぃ!」
ぜーぜーと荒い息をしながら大量のシーツを抱えているせいで前が見えづらく、慎重に歩くシェールだが突然体制を崩して転けてしまう。
廊下に散らばるシーツの上に倒れてしまったシェールが慌てて起き上がると、自分に足をかけて転ばせた犯人をにらむ。
「あらあらぁ~相変わらずシェールはドジですことぉ」
あざ笑う声がにらむシェールのに向けてかけられる。
「パッティ……」
シェールが顔を上げると歯をギリッと鳴らし声の主であるパッティをにらむ。シェールと同じくメイド姿のパティの両隣には同じくメイド姿の少女が二人立っておりニヤニヤとしてシェールを見下ろしている。
「一番下っ端のシェールちゃんはシーツを運ぶこともできないのかしらぁ」
パッティが笑いながら床に散らばったシーツを足で踏みつける。
「ちょっと止めてくれませんか!」
シーツを踏むパッティの足に掴みかかろうとするシェールを取り巻きの二人が両脇を抱えて阻止する。
「離しなさいよ!」
「大人しくしときなって」
「そうそう、パッティさんに逆らわない方が身のためだって」
暴れるシェールを取り巻きの二人がニヤケ顔で押さえつける。
「シェール、いつも言ってるわよね。お情けで雇ってもらえたあんたらがここの城で一番下のメイドだってこと忘れてないでしょうね」
パッティがバカにした声で笑いながら身動きの取れないシェールの頬を軽く叩く。にらみつけるシェールとそれを笑うパッティの背中が見たアメが声をかける。
「シェール先輩、遊んでる?」
突然声をかけられ驚いたパッティたちが振り返り、声の主がアメだと分かるとシェール以上に、いや憎悪に近い感情を向けてくる。
「アメにはこれが遊んでるように見えるっての?」
「ギリ見える」
怒鳴るシェールに対してアメが答えると、シェールは大きなため息をついて呆れてしまう。
「あなた……たしかジャンティ王子の口添えでメイドになった女」
「アメって名前。よろしく」
「なんて品のないヤツ! ジャンティ王子はなぜこのようなはしたない女をこの城にいれたのかしら」
苛立った表情でアメを手で押して倒そうとしたパッティだが、アメはピクリとも動かないどころか逆によろけてしまう。何がしたいのか分からないがパッテイの真似して肩のあたりをポンっと押してみたら吹き飛んで壁に激突して、そのままズレ落ちて座り込んでしまう。
突然のことに理解が追い付かず唖然とするパッティを心配し取り巻きの二人が駆け寄る。驚き目を開いてアメを見るパティが何を言いたいのかは分からないけど、揺れる瞳に怯えを感じたアメは手を差し伸べることにする。
「立て」
「ひっ⁉」
立つのを手助けしようと思ったのに、怯えた表情を見せたパティが頭を抱えて怯えてしまう。
そういえば単語で言うと強い言葉になるから、メイド長から敬語を使えって言われたなぁとふと思い出したアメは「立て」じゃなくて「立ってください」だったかと反省する。
そんなことを考えている間に取り巻きの二人がパッティを立たせると、ギリッと唇を噛んだパッティが手を伸ばしたままの私を涙を溜めた目でにらんでくる。
「アメ、相手しても無駄だから早く仕事に戻りましょ」
散らばったシーツを集めて抱えたシェールがアメを呼ぶので仕事に戻るため歩き出すと、パティが伸ばした足がアメの足とぶつかる。
「ん?」
何がしたいのかよく分からないので構わずに足を前に出した瞬間、パティが空中で一回転してそのまま落ちて床に伏せてしまう。
「きゃぁ⁉ パティさん!」
「だ、大丈夫ですか⁉」
慌てふためき叫ぶ取り巻き二人に脇を抱えられ顔を上げたパティは目から涙を流しながらアメをにらむ。
「お前は何がしたい? 立て……お立ちになれるか?」
「⁉」
怒ったり、泣いたり忙しいヤツだと思いながら今度は敬語を意識して手を差し伸べると、青ざめた顔でアメを見て赤くなった鼻を押さえて背中を向けると走り去ってしまう。
パティとアメを交互に見た取り巻きも慌ててパティのあとを追ってどこかへ行ってしまう。
「何だあれ?」
「王族から招かれて城周辺に住むときに貴族と一緒に来たメイドよ。貴族様お抱えの由緒正しきメイドは私らみたいな平民メイドどもとは違うって、突っかかってくるから迷惑ったらありゃしない」
呆れた表情で肩をすくめるシェールの説明の意味がいまいち分からないけど、人間の世界は上だ下だの忙しいものだと思いながら今はシーツを運ぶというアメの仕事を優先する。




