専用って言葉……カッコイイ!
音で分散する作戦が失敗した今、次は逃げて追われる役と横から攻撃を仕掛け討伐する役に別れる作戦を決行することになる。
だが思ったよりも動きの速い暴食バッタと、本体の固さに苦戦することになってしまう。
集団で動く暴食バッタの列を崩そうと横から攻撃した冒険者たちだが武器がはじかれ驚愕の表情を見せる。
「なんだこいつら! 昆虫系とはいえ硬すぎだろ⁉」
声を上げる冒険者の一人がはじかれた剣を持ち直し自分の方を向いた暴食バッタと向き合う。だが一匹だけでなく、数匹の目が向いたことで冒険者たちは緊張の表情を見せる。
「くるぞ! 構えろ!」
冒険者たちが声を上げ気合を入れると、襲いかかる暴食バッタたちを迎え撃つ。剣に暴食バッタの鋭いあごがぶつかる。結果は一瞬、剣が折れたことで攻勢は一気に傾いてしまう。
討伐に意気込み気合を入れた表情を見せたのも一瞬だけ、暴食バッタの巨体に押される冒険者たちは今、皆が絶望の色を顔に浮かべている。
押し返しきれない、誰もがそう思った瞬間真上から落下してきた小さな影が着地するや否や、暴食バッタのあご下を蹴り上げる。
強烈な攻撃に背面にひっくり返ってしまった暴食バッタの背中が空中で蹴られ、そのまま大木に激突してひっくり返って脚をけいれんさせる。
突然のできごとに誰しもが何が起きたのか分からない状況のまま、小さな影の正体であるアメが軽く飛び跳ね踵を暴食バッタの首の継ぎ目に落とすと、くの字に折れて地面に押しつぶされてしまう。
更にその場で回転したアメの蹴りがもう一匹の頭を蹴り首をへし折ってしまう。
「だいじょうぶ?」
一瞬で暴食バッタたちを蹴散らしたアメが尋ねると、何が起きているのか頭がついてきていない冒険者たちは頷くだけで精いっぱいだった。
「じゃあ、あっち行ってくる」
無事を確認すると短く言葉をかけ一瞬でその場から去ってしまう。去ったアメは木を蹴って木々の間を猛スピードで抜けると先頭を進む暴食バッタの脳天に急降下し踏みつける。
激しく地面に頭を叩きつけられた暴食バッタが勢い余って縦回転しながら吹っ飛んでいく。草むらに落ちる間もなく地面スレスレを飛んできたアメの蹴りが一匹の暴食ババッタのあご下から蹴り上げ空中に浮かすと、浮いてる間に隣にいた別の暴食バッタの横っ面を蹴り大木に叩きつける。
その間に落ちてきた暴食バッタを足の甲ですくい上げ載せたまま回転し、先に大木に叩きつけていた暴食バッタへと吹き飛ばして二匹を激突させる。
瞬きする間もないほど刹那に暴食バッタたちを沈黙させたアメが上を見上げる。つられて見上げた冒険者たちの目に空を飛ぶ二匹の暴食バッタの姿が映る。
「結構高いなぁ……」
呟いたアメが地面に落ちていた盾を見つけると手に取る。
「これ貸して」
「あ、ああどうぞ」
「ありがと!」
アメに頼まれ、持ち主の冒険者は反射的に返事をしてしまう。それを何に使うか分からず唖然とした表情で見つめる冒険者たちの目の前でアメは木の幹を一気に駆け上がると空へと飛びあがる。
とてつもなく高い位置に跳んだがアメだが、それでも暴食バッタたちが飛ぶ域まで達してはいない。
戦闘を見守る誰しもが攻撃が届かないと思うなか、盾を空中に投げたアメが盾に着地すると、盾を踏み台にして更に真上へと飛び上がる。アメに蹴られ真下に急降下する盾とは真反対に、更に真上に上がったアメは一匹に暴食バッタに着地する。
突然の来訪者に焦る暴食バッタの頭の上で跳ねたアメは、もう一匹に向かって跳び蹴りを横っ腹に打ち込む。
空中で口から茶色の液を噴出した暴食バッタを踵で引っ掛け、そのまま縦回転すると地上へ向けて足で投げる。
そのままアメは、先に踏み台にして空中でバランスを崩していたバッタへ向かって落下すると、そのまま踏みつけ一緒に地上へと急降下する。
三つの塊が空から落下し地上へとぶつかると地面が割れ土煙が舞い上がる。
もうもうと立ち昇る土煙からひょこっとアメが顔を出す。
「全部やっつけた」
土煙が引いて周囲に動かなくなった暴食バッタたちを見た冒険者たちは安堵のため息をつき、続いてとんでもない力を見せたアメを称える。
***
近くの村では暴食バッタを討伐し無事に依頼を達成できたことと、アメの活躍を称え豪華な食事が振る舞われていた。
日頃見ない大きなお肉に歓喜するアメには皆からの称賛の言葉と、大量の食べ物飲み物が集まってくる。
それらをおいしそうに食べるアメの姿に皆が癒され会は進んでいく。
やがて落ち着いたころ、お腹を満足気に擦るアメのそばにランロットがやってくる。目が合うと満面の笑みをアメが向ける。
「いっぱいご飯食べれて幸せ!」
「それはそれはご満足いただけてなによりでございます。それもアメ様の活躍あってこそ」
「う~ん、でも」
明るい表情から一転、浮かない表情になったアメが右足を上げると、爪先から底がはがれた靴をパタパタさせる。
「靴が壊れちゃった」
「気がつかず申し訳ございません。新しい靴を手配いたしますので少々お待ちいただけますか」
「アメは魔法がうまく使えない。ランロットに教えてもらった防御魔法を使ったのに」
アメの言葉の意味を察したランロットは首を横に振る。
「いいえ、暴食バッタを破壊するほどの蹴りと、高度からの急降下を経てなお、その程度の損傷で済んでいることは誇るべきでございます」
ランロットは褒めるがアメは納得いかないのか足をパタパタさせ、パカパカと揺れる靴底を見つめる。
「アメ様、防御魔法は自身が持っている硬さに魔法の硬さを足すものでございます。たとえば防御魔法が100の硬さを足すものとして、アメ様の硬さが100だった場合200となります。それに対し靴が1の硬さだった場合は101にしかなりません。つまり……」
説明していたランロットが言葉を止め、理解ができず頭から煙を出しそうになっているアメを見て咳払いをする。
「魔法のせいではなくアメ様が強く、靴が弱かったということでございます」
今度は理解できたのかアメはパアッっと明るい表情になる。
「今後の戦いを考えるとアメ様用の防具を作るべきかもしれませんね」
「防具?」
「ええ、アメ様の戦闘スタイルは独特でございますから硬くて動きやすい、そんなアメ様専用の防具を作れる職人を探すといたしましょう」
「おぉ~アメ専用。なんかカッコいい」
ランロットの提案にアメはキラキラと目を輝かせる。




