第81話 北方の軍旗
北方同盟の正式声明が届いたのは、薄曇りの午後だった。
封蝋は蒼銀。
同盟主侯エルヴァーン・ロシュの名が記されている。
円卓室に緊急招集。
王太子、第二王子、レオン、重臣、評議会。
軍務卿が封を切る。
「北方同盟は王国との国境線再画定協議を要求する」
静寂。
「合わせて、軍事監視団の相互受け入れを提案」
実質的な圧力。
監視団とは名ばかりの常駐。
主権に触れる。
さらに続く。
「王国の継承安定が確認されぬ場合、段階的制裁を検討」
明確な言葉。
王位問題が、外交のカードになった。
第二王子が静かに言う。
「理詰めだ」
「こちらの不安定を利用している」
王太子は目を細める。
「返答期限は」
「十四日以内」
短い。
市場が動くには十分な期間。
レオンが地図を見つめる。
「国境線再画定は実質的譲歩要求」
「監視団は軍事的情報収集」
セラフィナが言う。
「継承評議会は外交権を持たない」
「だが王位未確定は外交不安定要因」
構造が露わになる。
王がいない国は弱い。
大公が低く言う。
「摂政宣言も選択肢だ」
再び出る言葉。
暫定王。
第二王子の視線がわずかに動く。
「北方は私を試している」
小さく呟く。
王太子は即座に否定する。
「試されているのは王国だ」
短い沈黙。
軍務卿が報告する。
「北方は演習規模をさらに拡大」
「軍旗が増えている」
威圧は段階的。
だが確実。
制度設計監査室。
ルークが顔を上げる。
「期限付きです」
「はい」
リリアーナは静かに答える。
「十四日以内に外交方針と王位安定を示す必要があります」
制度は時間をかけて整えるもの。
だが今は時間がない。
夜。
城下では噂が広がる。
「北方が攻めてくる」
「王が決まらないからだ」
市場の為替が揺れる。
商会が取引を控え始める。
翌朝。
第二王子がリリアーナを訪ねる。
「北方代表はエルヴァーンだ」
その名に、わずかな緊張。
「知己ですか」
「北方滞在中、何度か議論した」
穏やかだが冷徹な男。
「彼は感情で動かない」
「合理で動く」
つまり。
王国が合理的安定を示せば、退く可能性がある。
「あなたはどう読む」
問い。
「時間稼ぎは通じません」
即答。
「王位問題と外交を切り離す必要があります」
「切り離せるか?」
沈黙。
難しい。
今や両者は結びついている。
夕刻。
王太子が重臣を前に言う。
「北方に使節を送る」
「私の名で」
空気が動く。
「王位未確定でも、国家は動く」
宣言。
だが。
第二王子は静かに付け加える。
「使節は単独では弱い」
「軍備増強を同時に発表すべき」
強硬と対話。
再び二方向。
レオンは低く言う。
「情報戦も必要だ」
「北方の狙いを暴く」
十四日。
短い。
王位は未決。
北方は動く。
市場は揺れる。
そして王宮の上空には、重い雲がかかり始めていた。
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