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第36話 試したのは、誰だったのか

 西部軍管区補給再確認報告は、期限二日前に提出された。


 中央管理室を経由し、軍務卿補佐室へ。


 余計な装飾はない。


 事実と、経路と、再発防止策。


 それだけ。


 王宮上層部の小会議室。


「……提出が早いな」


 王太子は、書類をめくる。


 眉間に、わずかな皺。


「原因は、三年前の再計上処理不備」


 書記官が読み上げる。


「中央管理室経由の倉庫統合番号未更新」


 室内の視線が、中央管理室責任者へ向く。


「これは」


 責任者が、声を詰まらせる。


「確認不足です」


「意図的ではありません」


 レオンが、淡々と補足する。


「処理経路が分断され、誰も全体を見ていなかった」


 責めない。


 事実だけ。


 だが。


 それが一番重い。


「後方管理室が全体を再確認」


「五日以内に報告」


「再発防止策も提示済み」


 王太子の指が、机を軽く叩く。


「……つまり」


 低い声。


「裏方が中央管理室の見落としを拾った、と」


 誰も否定しない。


 否定できない。


「偶然ではありません」


 レオンが言う。


「流れを整えていた結果です」


 空気が変わる。


 王太子は、書類を閉じた。


「裏方が、そこまで出来るとはな」


 軽い笑み。


 だが目は笑っていない。


「試したつもりが、試されたのは中央だったか」


 小さな皮肉。


 だが、会議室の数名が、視線を落とす。


 空気は明らかに逆転している。


 責任追及はない。


 だが評価は、静かに動いた。


 会議後。


 廊下で、中央管理室責任者がレオンに近づく。


「……後方管理室に、感謝を」


「直接伝えてください」


「ええ」


 軍務卿補佐室。


「王太子の表情が硬かった」


 部下が小声で言う。


「当然だ」


 レオンは、窓の外を見ながら答える。


「試したつもりが、流れを露呈させた」


 王太子は潰そうとした。


 だが、事実は逆に信用を積んだ。


 後方管理室。


「……終わりましたね」


 ルークが、椅子にもたれながら言う。


「ええ」


 私は、淡々と答える。


 報告は受理された。


 修正は中央管理室で進む。


 それだけ。


「王太子、怒ってませんかね」


「怒る理由はありません」


「でも、試しましたよね」


 私は、ほんの少しだけ考える。


「試したのは、流れです」


「え?」


「流れを見ずに数字だけを動かすと、歪みます」


 今回、それが証明された。


 私ではない。


 流れが。


 夕方。


 レオンが訪れる。


「終わったな」


「はい」


「期限前に出したのは正解だ」


「疑念を残さないためです」


 レオンは、わずかに笑う。


「試したのは誰だと思う」


「殿下でしょう」


「違う」


 彼は、首を横に振る。


「流れだ」


 私は、少しだけ目を見開く。


「流れは、嘘をつかない」


「……同じことを言いました」


「知っている」


 彼は一歩近づく。


「あなたが整えたからだ」


 胸の奥が、静かに温かくなる。


 表彰はない。


 称賛もない。


 だが。


 評価は、確実に積み上がっている。


「縮小案は、完全に消える」


 レオンが、はっきりと言う。


「もう口実はない」


 私は、ゆっくりと息を吐く。


「ありがとうございます」


「礼は不要だ」


 短い返答。


 だが、声は柔らかい。


 試したのは王太子。


 だが、試されたのは中央管理室。


 そして証明されたのは――


 後方管理室は、不要ではないという事実。


 静かな逆転は、

 一段、確かな形を持った。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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