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第34話 それなら、試してやろう

 翌朝。


 後方管理室に届いたのは、通常の補給案件ではなかった。


 分厚い書類の束。


 赤い封印。


 そして、中央管理室からの特別指示。


「……これ、三年分ですよ」


 ルークが、紙をめくりながら呟く。


 王都西部軍管区の補給記録。


 過去に何度も誤差が発生し、統合を断念された案件だ。


「期限は?」


「五日後」


 短すぎる。


 通常なら、最低でも二週間は必要。


「中央管理室からの“再確認”依頼だそうです」


 バルドが眉を寄せる。


「……露骨だな」


 私は、静かに書類を受け取る。


 昨日の会話を思い出す。


 ――裏方でどこまでやれるか、見せてもらおう。


 試されている。


「受けます」


 即答だった。


 ルークが顔を上げる。


「無茶です」


「承知しています」


「これ、わざとですよ」


「ええ」


 分かっている。


 だが。


 逃げれば、縮小の口実になる。


「流れを見ます」


 私は、書類を机に広げる。


 三年前の誤差。


 担当者の異動。


 途中で止まった処理。


 数字の裏に、必ず原因がある。


「ルーク」


「はい」


「補給経路の変更履歴を」


「すぐに」


 後方管理室の空気が変わる。


 焦りではない。


 集中。


 昼過ぎ。


 中央管理室の文官が、様子を見に来る。


「進捗はいかがですか」


 にこやかな顔。


 監視だ。


「通常通りです」


 私は、視線を上げない。


「期限は守れそうですか」


「守ります」


 文官は、わずかに笑う。


「期待しております」


 扉が閉まる。


 ルークが、低く言う。


「悔しくないんですか」


「悔しいですね」


 正直に言う。


「ですが、怒ると判断が鈍ります」


 紙をめくる。


 誤差の波形が、少しずつ見えてくる。


 ……なるほど。


「ここです」


「どこですか」


「輸送経路が二重計上になっています」


 途中で統合された倉庫が、旧番号で残っている。


「だから三年も」


「誰も、流れを見なかった」


 数字だけを追い、原因を見なかった。


 夕方。


 レオンが現れる。


 今日は無言で、机の上の書類を見る。


「西部軍管区か」


「はい」


「露骨だな」


「ええ」


 私は、淡々と答える。


「断ることも出来た」


「出来ません」


「なぜ」


「逃げれば、裏方は不要だと言われます」


 レオンは、数秒黙る。


「期限は」


「五日」


 彼の目が、わずかに冷える。


「短いな」


「間に合わせます」


「無理をするな」


「無理はしていません」


 私は、帳簿を閉じる。


「整えるだけです」


 レオンは、静かに息を吐く。


「監視がつく」


「承知しています」


「潰しに来ている」


「分かっています」


 それでも、手は止まらない。


「……私も見る」


 短い宣言。


「業務としてだ」


 私は、わずかに微笑む。


「助かります」


 守ると言った男は、言葉通り動く。


 夜。


 後方管理室の灯りは、珍しく遅くまで消えなかった。


 可愛げがない。


 そう言われた。


 それでいい。


 私は、整える。


 試されるなら、応じる。


 裏方でどこまでやれるか。


 見せて差し上げましょう。


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