30.大事な話
2日目は、ゆっくり起きて、植物園と動物園が一緒になっている観光地へ車で行った。
サボテンがたくさん植えられた植物園は、異国感があって不思議な気分になった。
動物園の売店の近くで、また写真屋さんに声をかけられたけれど、今度は朔弥さんが「撮ろう」と私の手を引いてくれたので、嬉しかった。
「写真、苦手じゃなくなりました?」
そう聞くと、朔弥さんは「うん」と頷いた。
「凛さんと一緒に映っている時の自分の顔は、なかなか映りがいいことがわかったから、撮っておきたいと思ったんだ」
「朔弥さんはいつも素敵ですよ」
「そうかな? 凜さんが素敵だから……」
私たちの会話を、写真屋さんが少し呆れたような口調で止めた。
「次のお客さんが待ってるので、撮っちゃいますよー! はい、チーズ!」
ぱしゃり、という音と共に旅の思い出がまた一つ、映し出された。
◇
「今日でお終いだなんて、びっくりです」
旅館での夕食を終えて、布団の敷かれた部屋の窓辺のスペースで座ってお茶を飲みながらそう言うと、朔弥さんは「本当に」と頷いて、それから、私に向き直った。
「凛さん、話したいことがあるんだ」
私は頷いた。
「以前、お話してくれようとしたのに、私が先延ばしにしてしまいましたもんね」
前に朔弥さんが『まだ話していないことが、ある』と話そうとしてくれたのに、『新婚旅行が終わってからにしましょう』と私が先延ばしにしてしまっていた件だろう。
「……朔弥さんのお家の話、ということでしょうか」
私は朔弥さんの家の事情について、国のお役人の方――森崎さんが『担当者』として管理しているらしいこと、結婚して子どもを作るように言われているということ、朔弥さんが30歳で死ぬといっていること、ということしか知らない。――あとは、花江さんが言っていた「男の子しか生まれないし、生まれてくる子は、母親の寿命を喰って生まれてくる、呪われた家系」という話だ。
「それも1つ。――伝えたいことは、2つあるんだ。まず1つは、凜さんに提案――というか、お願いが、ある」
「何でしょうか」
「石心症の除去手術を、受けて欲しい」
「除去……手術?」
私はお見合いの時に、朔弥さんが熱心に話していた話を思い出した。
「身体を仮死状態――にすることで、手術で核を取り除く研究をされているとか、そういう話でしたよね」
「その通りです」と朔弥さんは大きく頷いた。
「僕は手術のために、患者を仮死状態にする研究をずっとしていて――研究自体は完成している。動物実験も成功している。――けれど、手術のためには三カ月、患者を仮死状態にしなければならない。それが“人を殺すことになるのでは”と倫理委員会に拒まれているんだ」
「じゃあ、手術はできないんですか……?」
「通常の患者さんに、病院の治療法としての提案はできない。――けれど、凜さんが手術を受けてくれるなら。正規のルートではないけれど、それで実際に完治できれば。実例を作れれば、治療法として、採用してもらえると思う」
私は視線を落とした。
「そういうことですか――、それも、私と結婚した理由でしょうか。手術を受けてくれる人を探していたんですか?」
「もし、凜さんが、僕と信頼関係を築いてくれて、僕の提案を聞いてくれて、手術を受けてくれれば、とても嬉しいという気持ちがあったことは否定しない……でも!」
朔弥さんは少し声を大きくすると、私の手を握った。
びっくりして、落とした視線を上げると、朔弥さんが見たことがないような、泣きそうな表情をしていた。
「でも、僕は、凜さんと結婚して、本当に良かったと思ってるんだ。――毎日、家に帰るのが楽しみで、週末も一緒に出かけるのが楽しみで。――この前、凜さんが僕のことを『好き』と言ってくれて、僕は、本当に、嬉しかったんだ」
朔弥さんは一呼吸置いて、私を見つめた。
「僕も、凜さんのことが好きだから」
「……え?」
「誰よりも、君には、幸せに、元気でいてほしいと思うから。必ず、手術は成功できる――僕には、特別な力があるから」
朔弥さんは私の手を握る自分の手に、力を込めた。




