8
ぼっち飯、何年ぶりだろうか。
5限目が終わり、ようやく食事にありついていた。
授業が根詰めも根詰めになって、親睦を深める間もなく時間が過ぎ去ってしまったのだ。
そう、最初の疑問に戻るのだが、2年ぶりだ。
中学生の頃、最後の一年間だけ別の学校で過ごしていた。
いわゆる転校というのは合わないと地獄で、リーダーと相容れなかった私は薄っすらと距離を取られながら過ごしていた。
この妙に距離感を取られた状態のご飯は美味しくない。
というより味をあまり感じない。
ミカルアさんへのガチ恋勢対策も失敗に終わったというのか。
そう思っていると救いの一手が差し伸べられた。
「一緒食べよう?」
目を向けると、「よかったら、」とどこか品定めするように爽やか銀髪男子がやってきた。
一気に気分が落ちる。
こちらが返事するのを待つ間もなく、隣に座ってきた。
「そこ、メーデルさんの席だけど。」
不信感で突き放すと、急に妙に笑顔になって、
「じゃあ学食を取ろう」
と私の腕を軽く握った。
遂に怖さと不信感が限界まで募った私は飛び退いて逃げ去った。
この学校に来て最初に入った、入室自由の個人室に飛び込む。
ロックをしようと振り返ると、横には例の男がついてきている。
私は諦めて両手を上に上げた。
降参のポーズを取って受け入れた。
「…わかった。一緒に食事を取ります。食堂に案内して。」
そう言うと、彼は嬉しそうに私の手を引いて食堂に向かった。
おかげで食堂の位置はあらかた覚えられた。
食事は彼が奢ってくれるようで。各自好きな学食を選び購入すると席につく。
「で、何の用?」
少し垂れた目を見開いて、柔らかく弧を描く目から太陽のような橙が覗いている。
人懐っこさだけでなく、どこか儚そうな雰囲気は確かに女の子を虜にしているのだろう。
彼からは自信満々な、女の子なら落とせるだろうという慢心を感じてしまう。
私のことも好きにできると思っているのだろうか。
あいにく、私はプライドが高い男性よりもムードメーカーが好きだ。
そう穂上先生のような人だ。
「貴方に…。」
言いにくそうにしているのに気付いた。
空想に耽っていて忘れていたので、慌てて視線をそちらに向ける。
「貴方に…付き合ってほしいんだ。」
「無理。」
考える間もなく即答する。
何が悲しくてこの男の要件に振り回されなくてはならないのか。
「もっといい人いるでしょ。なんでしたくもない私が…_」
「あぁ、恋人になってほしいわけじゃなくてね!」
想像もしてなかった最悪の仮定に、怒鳴りそうになるのを抑える。
「当たり前でしょ。その上で無理と言っているんですけど?」
冷静に、しかし怒りは伝わるように、言葉を選んで目の前の鈍感男に意思表示をする。
「え〜、変な子。」
「私以上の変なやつに言われたくはないし、そもそもなぜ私に?」
ふと、今まで聞いてこなかった疑問をぶつける。
目の前の表情は、雄弁に「仕舞った!」と語っていた。
「はっはは〜。まぁ貴方は可愛いからさ。」
己が可愛いことは十二分に知っている。
しかしこれほどまでに顔が整った男が、女に声をかける理由としては、不十分だろう。
よほどの若い女好きの面食いじゃなければ。
「面食い…?」
「ふっ、実はだ。顔良し身長高し文武両道のミカルア先生が嫌いでね。どういうわけかミカルア先生が珍しく気にかけている貴方が欲しくなったんだ。」
人懐っこい表情は外され、嫌悪を滲ませるでもない無表情は人の恐怖心を煽る。
「貴方は僕が思っていたこと違う。これなら勝手にミカルア先生に幻滅してくれそうだね。」
意地の悪そうな笑顔を浮かべ、置き手紙を置いて去った。
一切口に入れることなく、もう冷えてしまった百層コンブの魚介パスタに手を付けながら置き手紙を開く。
『僕は貴方をデートに誘って、ミカルアさんの罪を見せる予定だった。
だけど貴方は断ったから、ここに書ける内容はほとんど書き記しておくよ。
まずミカルア先生は、この世界の宗教、そして根幹を覆すような研究をしている。
貴方も名前くらいなら知っているだろうミカルアさんの助手、アンシュさんが僕に告発してきたんだ。
彼の研究内容はタブーな研究内容の中でも許されざる天外に関する研究だ。
彼が多くの賞を取り、偉大な功績を残し、最高冠襲者の娘を救っていなければ、今頃彼は処罰されて存在しなかっただろう。
そしてもう一つ、選ばれし者の貴方がミカルア先生の元を離れるのに十分な理由がある。
アンシュさんからしか知らないんだが、彼は一度彼女を襲っている。
研究室に差し入れをしに来たところを、発情した彼が無理やり襲ったそうだ。
最後までされて処女も奪われたそうだ。
そもそも彼が差し入れを頼んだのに最低だろう?
そこで一番の本題だ。
僕にも貴方にも利のある提案になるはずだ。
僕の研究室に来てほしい。
アンシュが1年前に居なくなってしまってから困ってるんだ。』




