57
巨大化した敵を前に、拘束魔法を放った。
かなり緻密に組み立てたものだ。
無事に拘束は成功したが、相手は巨大だ。
単純な物理でゴリ押して、拘束を破ろうとしてくる。
残りのロード完了の5分後までは確実に保たないだろう。
相手をどうにか、動けなくするしかない。
「っ、一気に5つ!!」
法紋を同時に5つ放つと、流石に堪えたようで動きが止まる。
その隙に、大きすぎる腕に乗っかって、そのまま顔もとまで走っていく。
安定は悪いが仕方ない。
魔槍でバランスを取りながら走っていく。
腕が大きく動いてた私を振り落とそうとしてきた。
飛んで移動しながら、顔近くまでようやく届いた。
顔を法紋で落とそうとした瞬間、観測者が召喚したのか、ドーナタにはたき落とされてしまった。
思わず反射的に目を閉じそうになって、必死に堪えると、ノヴェーヌが初めて協力をしてくれた。
即席の台座を近くに生み出してくれたみたいで、そこに手を置いて、必死に這い上がった。
そして、無事に立つと、魔槍で首を切り落とした。
身体は僅かにドタドタと動くが、徐々に静かになっていく。
念のため、拘束魔法で身体を縛って、最後に生首を確認した。
「これってどんくらい意思あるんだろう?」
「アタシ本体を壊すとは良い度胸じゃないの?ねぇ、あんた、このままあんたが全てを焼き払って守護するの?アタシが妨害してあげようかしら!」
それはただの最後の嘘の脅しなのだろうか。
それとも、事実として、宣言をしているのだろうか。
どちらにしても、その危険性が現実味を持つならば、殺すしかなくなってしまう。
人生初の殺人が、人間を初めてやめるときになるとは。
即死させるために、法紋で魂分解を使う。
これは、魔力量的に1度きりしか使えないだろう。
間違えの内容に緻密に法紋を組み立てると、目の前のもはや人間の形を保っていない相手に向ける。
すると、出てきた黒いモヤに最後に一撃を突きられると、危険は過ぎ去った。
残り時間を確認すると、あと2%だった。
奇跡的に、時間が残っている。
僅かな時間を見て安堵して、ひとまず操縦席に座る。
足を休ませてはならない。
座ったところで、ようやく息をついた。
これで、大丈夫なはずだ。
ふと、やっと、完走した、という感覚が出てくる。
あまりにも長く感じる転生後だった気がする。
いや、期間的には1年も経っていないのだけれど。
と、天井を眺めていると、ノヴェーヌが話しかけてくる。
「お主、それでいいのか?」
「なにが。これでみんな、暫くは確実に助かるんでしょ?」
「それは、そうだが…。それにより、お主の幸せが確約されるわけでもなければ、あくまで実験結果なだけで、本当に完璧に研究通りに進むとは限らないだろう?」
「それでもいいよ。少なくとも、ここで私が動かなかったら、どっちにしても滅亡しかないんでしょ?」
ノヴェーヌはため息を吐いてきた。
失礼だし、今ため息を吐きたいのは、どうかんがえても、全てを終わらせて疲労困憊な私だろう。
「はぁ。ならいい。にしても、お主は結局、ほとんど自分の情報を明かさなかったな?」
「そう?あ、あと1分ちょっとじゃないかな。それでもうおしまい」
ノヴェーヌが目線をロード状況に目を向けて、少し顔を綻ばせた。
「我はお主のそういう、自己犠牲的なのに我が強いところが好きだぞー?我には確実に会えるのだから喜ぶがいい。」
「自信がすごいね…さぞかし面白いことでもしてるのかな〜?」
「もちろんだ。なんて言ったって、たまに変身して、地上を生活することだってあるんだからな。」
それは楽しそう、と素直に頷いた。
時々、残り時間に目を向けると、あと5秒と4秒の数字を行き来している。
そろそろかもしれない。
「観測者になったら、まずどこに行くの?」
「本来はここにそのままなのだが、カルキュルコアは壊されたから、この土地の初期状態に辿り着くのだと思うぞ。今よりも力も手に入り、広い世界を見れるかもしれない、な。」
なんとも不思議な言葉を残されると同時に、視界は真っ白になり、何も聞こえなくなった。
最後聞こえなくなる直前、戻ってくるには10分程度掛かるだろうという、ノヴェーヌの声が響いた。




