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「リリ、急いで。遅れるって」
「ごめん、出来た。行こう。」
メーデルに急かされながら準備を終えて、てっきりおいてある車で行くのかと思えば徒歩なようだった。
「ただの徒歩じゃないんだけど。これ付けてみてよ。高速で動けるから、あ、事故らないように気をつけてよ?」
そう言って、なにかシールのようなものを渡される。
試しに靴につけてみるが、特に変化は感じない。
「どういうこと?特に…」
「試しに、片足動かしてみてよ」
そう言われるので、右足を踏み出してみた。
「ひゃああ!?な、に!?」
すると、普段の何倍も軽く、足が動き、そして軽すぎてバランスを崩してしまった。
身体が軽くなって、高速で走れるのだろうか。
「空気の抵抗を弄って、魔力の量で対応して更に軽く走れるよ。もしかしたら、僕よりも速く動けるかも」
メーデルはそう言いながら、私を支えてくれている。
恐る恐るもう一度身体を動かすと、今度は加減が上手くいって、先ほどのようにはならなかった。
「おぉ〜…、凄い」
思わず感嘆の声を上げる。
「じゃあ、いいよね。行こう。道はさっき説明したとおりだから。」
メーデルはそう言うと、まさにそのシールを貼って走り出した。
私も慌てて付いていくが、目は思ったより慣れるし、速度調節もしやすく、メーデルを見失うことはなかった。
曲がり角でも曲がれる、この道具と私の器用さに感謝をして、学校に着く直前にメーデルに徐行を頼まれた。
そして、学校前につく頃には普通の速度で走っている。
「なるほど、とんでもないことをしている自覚はあるんだ」
「あはは、まぁね。バレたらめんどうだし。」
なんだかんだ、普通に遅めの生徒も登校している時間に着くことが出来て、一息つく。
シールを剥がして返そうとすると、メーデルは要らないという。
しばらく、バレたら面倒なものを返してもらわないのはなぜか分からず、睨んでいると笑われた。
「どうせ、君にはバレたし、せっかくだしもらってくれた嬉しいなって」
「なるほど、じゃあ受け取っとく。」
そして、メーデルと教室に向かうが、ホームルームには余裕すぎる時間だった。
「良かった、ミカルアさん居ない。」
「はぁ、僕も胃が痛いよ。」
メーデルと話していると、ふと、メーデルが思い出したかのように昔話を始めた。
「最初は見た目で警戒したけど、まさか本当に何も知らないとは思わなかったな。どっちかと言うと、今は仲間だし」
「仲間〜ぁ?昔の転生者と一緒の結末を迎えるかもよ?」
「それでも、最初からその陣営じゃないなら、味方だよ。それに僕も同じ立場なんだから、その可能性はなくもないでしょ?」
あまり大きな声では言えない内容なので、小声になるが、それでも少し周囲へ聞こえてるかが不安だ。
しかし、こんだけ周りが自主的に離れてるのだから、聞こうともしていないだろう。
「あー、そういえば、あのパン美味しかったね」
「ん?あぁ、あれ美味しかった。うん」
一瞬予想外の話題転換に、思わず動揺したが、周りに聞かれそうだったのだろうと、解釈して返事をする。
メーデルはメモ帳に、『何があったか分かったよね』と記して見せてきた。
うん、と話して返せば、ならいいや、と今度はメーデルもメモ帳を仕舞って返事した。
「そうだ、この本知ってる?これ面白かったよ」
「知らない。ミステリー?」
「ううん、恋愛。これなら君も読みやすいだろうし、君ももっと、学習できると思うんだ。」
そう言って、急に本を渡してくる。
今までもメーデルが本をお勧めして貸してくることはあれど、今回のように恋愛モノを勧めてきたことはない。
というか、メーデルが恋愛モノを読むとは思わなかった。
嫌いでこそないものの、特筆すべき関心は寄せてないと思っていた。
しかし、題名からやはりミステリーにしか見えない。
「『愛の残響』…ってどう考えてもやっぱミステリーなんだけど。いや、表紙もだいぶミステリーだし。」
そう言ってみて、思いついた。
あらすじを見てみることにした。
『高校で起きた一人の生徒、マリアの死は、学業嫉妬によるトラブルだと片付けられた。だが、恋人、ベッティはその説明に違和感を抱き、真相を追い__』
「ちょっとまって、どう考えても恋愛じゃなくミステリーでは?」
「…恋愛だって!ここから始まる恋愛もあるかもでしょ?」
「絶対無い!!犯人自ら探すほど愛してた恋人殺されて、そんな事する余裕あるかよ!」
そう言うと、メーデルが黙った。
そして、苦虫を噛み潰したような表情をする。
「どうしたの?」
「どうしたじゃないんだよ…。もういいや、もうすぐHRだし、これ貸しとくから取り敢えず読んでね。」
メーデルはそう言うと、もうずっと呼びかけても微動だにせず、正面を向いてこっちに顔を動かさない。
何故、それほど読ませたいのか、何かしらの意図は結局あるのだろう、と本を鞄に入れると、ミカルアさんがちょうど教室に入ってきた。




