82.石波姉妹
火野が黒神に殺害、捕食されてしまい、賢也はその報告に来ていた。
「龍崎、あの爆発はやはり火野の仕業だったのかい」
「はい、爆発については鎮火したのでもう問題ありません」
「では、火野はどうした?捕まえたかい?」
「それが……。火野は、死にました」
「どういう事だ?お前ともあろう者が、死なせてしまったのか?」
「いえ、あいつらのリーダーが、人型の怪物が現れ、火野を殺害、捕食しました。その怪物は、黒神と名乗り、火野を捕食後消えました」
「お前達が言っていた通りだったのか」
「はい。あいつらは、黒神と天喰は必ず討伐します。それよりも『黒の牙』の掃討作戦の早い実行を申請します」
「何故だい?」
「あいつらは、メンバーを自分達の強化の材料としか見ていないようなので、犯罪者達とはいえ、殺される前に助ける必要があるかと」
「分かった。検討しよう」
「よろしくお願いします」
賢也は報告を終えると、自室へと戻り、真希を呼んだ。五十嵐から真希の姉、亜希が五指として『黒の牙』にいる。真希自身もアンドロイドの襲撃の時に相対しているという事もあり、今の状況を説明していた方が良いだろうと考えたからだ。
「石波です。失礼します」
真希が何かあったのかという顔をして部屋に入ってきた。
「どうしたんだ?そんなに強張る必要は無いぞ」
「え、そんな顔をしていましたか?」
「ああ。まぁいい。それより、お前の姉が『黒の牙』に入っていたな。しかも五指として」
真希は、姉の事で呼ばれるとは思ってもいなかった。
「え、はい。私もこの間のアンドロイドが襲撃した時に、出会って驚きましたが。まさか、私が『黒の牙』のスパイと疑われているとか」
真希の突拍子もない質問に、賢也は思わず笑ってしまった。
「ぷっ。あはは。何を言っているんだ。お前はさっきから。何か勘違いをしているようだけど」
「でしたら、私は何故呼ばれたのでしょうか?」
「お前の姉の事さ」
賢也は真希に『黒の牙』の状況を説明する。亜希も殺され、食べられてしまうかもしれない事を。
「そうですか………」
真希は、何か考えているようだ。流石に、実の姉が、怪物の餌になるかもしれないなどと言われて、動揺しない方がおかしいだろう。
「姉は、亜希は、両親と喧嘩して出て行ったきり、行方が分からなかったんです。でも、テロ集団に居たとはいえ、私を殺そうとしてもきましたが、それでも私は姉さんに生きて欲しいです」
「それはそうだな」
「『黒の牙』の本拠地を攻める時は、私も行かせて下さい!」
「ああ、そのつもりだ。近い内に攻め込む事になるだろうから、準備を十分にな」
「はい!」
真希の気合十分な表情に、気負い過ぎにならないか少し心配だったが、賢也自身も気負い過ぎないように心掛けるのだった。
一方、『黒の牙』の本拠地では、黒神が帰って来たのを見たメンバーが黒神に訊ねた。
「リーダー。ご苦労様です。あの火野さんは、ご一緒じゃないんですか?」
「私が着いた時には、もう既に決着がついていた。間に合わなかったな」
「という事は…」
「火野は死んだよ。これで五指も残るは三人となった訳だ」
「そんな。あの、火野さんを手伝っていた者は?」
「?。そんな奴が居たのか?近くに気配は感じなかったが」
「はい。その、私の夫なのですが…」
私が火野を喰ったのを見たか?面倒くさい。こいつも喰ってしまうか?いや、ここ迄我慢して育ててきた餌が皆逃げ出すかも知れぬ。ならば、こいつの夫を帰って来る前に喰うか。だが、いちいち餌の顔など覚えていない。
「ならば、今一度、私が行って来てやろう。お前の夫とはどいつだ?皆の顔を覚えておらんのだ。すまない」
「いえ、そんな。私達のような下の者を覚えてなくて、当然です。ありがとうございます」
女は自分の夫の写真を黒神に渡す。
「ふむ」
このような男、あの周辺には居なかった。仕方ない。探すか。
「では、待っていろ」
黒神は、すぐに消えてしまった。女は、黒神が探しに行ってくれると安心して立ち去ろうとした時、亜希がその女を呼び止めた。
「ちょっと、あなた」
「はい。あ、石波さん」
「あなた、リーダーと何を話していたの?」
「火野さんがどうなったのかと私の夫がどうなったかを」
「ふーん。それで、火野とあなたの夫はどうだったのかしら?」
「火野さんは、既に死んでしまっていたそうです。私の夫は、分からなかったそうで、今探しに行ってくれました」
「そう…」
火野が死んだ?SACの連中は嫌いだけど、私達を殺すなんて事は絶対にしないわ。それに組織のトップがこんな名前も分からないような者の為に、いちいちその夫を探しに行く?何かおかしい。五十嵐が捕まって、黒羽も居なくなり、何かおかしい。ここに居たらまずいんじゃないかしら…。
亜希は、ここ最近のリーダー達の行動に疑問を抱いていた。
「潮時、かしらねぇ」
ここを抜けて何処に行く?真希の所?リーダー達の五十嵐への執着ぶり、私が抜けて、逃げても執拗に追い掛けてきそうな気がする。だったら、SACに保護してもらうというのも有りかもしれない。
「真希に連絡を…。私、あの子の連絡先なんて知らないわ」
それに、やはり真希に頼るのも何か癪に障る。だったら、ワザと捕まろうかしら。
男は、アジトに帰るか悩んでいた。火野に頼まれSACの本拠地を襲撃する手伝いをしたまでは良かったが、火野がSACの人間と戦い始め、不利になった時、リーダーが現れた。そして、リーダーが火野を殺害し、食べた。ここは、遠くてリーダーもこっちには気付いていなかったようだが。
「絶対、俺が火野さんを手伝っていた事はバレるよな…」
そうなれば、火野がどうなったかという質問も来るはず。誤魔化せるか?いや、きっと無理だ。そうなれば、秘密を知っている俺も殺される。アジトには、妻もいる。出来れば妻も一緒に抜けて、逃げたいが……。駄目だ。危険過ぎる…。
男が悩みながら、歩いていると、目の前に黒神が現れた。
「見つけたぞ。手間を掛けさせてくれる」
「リ、リーダー」
男は、黒神の出現に動揺を隠せなかった。そんな男に気にもせず、黒神は男に告げた。
「お前の妻が心配していたぞ。さぁ、私と帰ろう」
男は、黒神の言葉を聞くと、リーダーは俺が火野を食べた事を知らないと思っているのか?なら、一度帰って、妻と出て行こう。
「わ、分かりました。よろしくお願いします」
男は、黒神に返事をすると一緒にアジトへと帰って行った。
「よし、では、後で報告を聞く。妻と一緒に私の部屋に来なさい」
黒神は、男に男の妻と部屋に来るように伝えると部屋に戻って行った。
男は、妻の元へと走って行った。
「あ、良かった。無事だったのね。火野さんが殺されたって聞いたから、心配してたのよ」
「誰に聞いたんだ?!」
「どうしたの?そんな大きな声で。あなたを迎えに行ったリーダーよ」
「リーダーに俺の事を話したのか?!」
男は妻の肩を強く掴み、声を荒らげる。
「い、痛い。どうしたの?」
「ヤバい、ヤバい、ヤバい」
リーダーは二人で報告に来いと言った。報告なら俺一人で良いはず。やはり、知っている。俺が見ていた事を。逃げなければ。
「どうしたのよ?本当に」
「いいか、よく聞け。ここはヤバい。すぐに逃げるぞ」
「いきなり、どうしたの?」
「いいから!俺の言う事を聞け。すぐに逃げる。荷物をまとめる余裕も無い。逃げないと殺される。分かったな」
「その話。詳しく教えて貰えるかしら?」
背後から話に加わってきたのは、亜希だった。
「石波さん」
「ここから逃げないと殺されるというのは、火野の件かしら?」
「…」
男は黙る。だが、その男の黙秘を肯定と受け取った亜希は、話を続ける。
「私もここが危ないと最近感じているの。ここから出た方が良いかなって」
亜希は、二人の顔を交互に見ると、
「私と一緒に出て行く気はある?」
二人は頷くと、亜希と夫婦は一緒に『黒の牙』から逃げる選択をするのだった。




