18.強盗事件
あのSランクの怪物を倒し、一躍有名になってしまった賢也は、怪物討伐の依頼が、後を絶たなくなっていた。
気が付けば討伐数も300を越え、九州地区で最高ランクのDランクまであと少しまで来ていた。賢也をマイハンターとして登録している人数も1000人を越えていた。
ある日、久しぶりに討伐依頼も無かったので、賢也は出社した。
「そういえば、あの群れ騒ぎ以来、出社してなかったな」
上司には怪物討伐で休む連絡はしていたが、他の同僚達とは会話していなかった。
「おはようございます」
賢也は事務所に入り挨拶をすると、人が集まってきた。
「龍崎、お前凄いじゃないか。二つ名もらうような奴が同僚で俺も嬉しいぞ」
「賢也、怪物倒していくら貰った?ハンターって儲かるか?」
(ここもか~)
ここ最近の周りの対応に嫌気が差していたため、上司に挨拶すると、事務所から出ていった。その後を優が追いかける。
「賢也さん!」
優が賢也を呼び止める。
「優か。どうした?」
「実は、私もハンター協会支部でお世話になることになりました」
「え、優、ハンターになったのか?」
賢也は、優が危険なハンターになったのか心配になった。優は首を横に振る。
「いえ、ハンターじゃなくて、救急のお手伝いです。何か役に立てないかなと思って」
「それは偉いな。俺が怪我した時はよろしく頼むよ」
「はい。任せてください!」
賢也は、優と話しをした後、専属ハンターの控え室に足を運んだ。
そこには、諸井と臼井の2人がいた。
「龍崎、何か用なのか?」
臼井が嫌そうな顔をして聞いてきた。
「いえ、特に用事は無いんですけど、事務所にいると周りがうるさくて」
賢也が臼井の質問に答えると、諸井が不機嫌そうに、ぶつぶつ呟いている。
「有名人だからって、いい気になるなよ。お前と同じ武器があれば、俺だって。そうさ、武器があればいいんだ…。武器さえあれば…」
諸井は何か思い詰めた表情で賢也に尋ねた。
「お前の武器って、何処で買ったんだ?」
「俺の武器は買ってないですよ。討伐した怪物の爪を加工して作ってもらったものです」
「売ってないのか。折れたらどうするんだ?」
「予備があるので、それを使いますけど、同じ怪物を討伐しないと、次が無いから折らないようには気を付けてますよ」
諸井は、賢也の答えを聞くと、明後日の方向を向いて、ボソッと呟く。
「そうか。予備があるのか」
諸井、臼井と話していると、賢也に梶からの連絡が入って来た。
『籠手が完成したから、取りに来てくれ。その時、討伐の依頼がまたあるから、支部長室にも寄るように』
「何だ?」
「協会支部から来てくれって連絡が来たんですよ。顔出しに行くので、ここで失礼しますね」
賢也は、控え室を出て、事務所に戻り協会支部に行く事を伝えると、会社を後にした。
協会支部に着くと支部局長室に先に向かった。
「失礼します」
部屋に入ると秘書の結城しかいなかった。
「あれ、局長は?呼ばれて来たんですが?」
「はい、伺っています。梶と一緒に開発室で待っているそうです。そちらにお願いいたします」
「分かりました。では、失礼します」
結城に挨拶し、武器開発室に向かう。結城の言った通り、梶と阿部が賢也が来るのを待っていた。
「すみません。お待たせしました」
賢也が2人に挨拶をする。
「いや、大丈夫。先に籠手を渡すね」
梶が奥から籠手を持ってきた。
「かなり頑丈だから、大抵の攻撃はガード出来ると思うけど、油断はしないでね」
「はい、ありがとうございます」
賢也は受け取ると、早速着けてみる。軽くて、重さを感じない。なかなかの具合だった。
「軽くて、いいですね」
「そうだろ。かなり加工に苦労したよ」
「いつもありがとうございます。それで、局長はどんな依頼があるんですか?」
賢也が阿部に尋ねた。
「ああ、今回はちょっと面倒でね」
阿部はうーんと悩んでいた。
「面倒ですか?」
賢也が聞き返すと、阿部が答える。
「そうなんだ。実は、怪物が空にいるんだよ。銃を使った方がいいのかもしれないが、すでに被害も大きい事もあって、勢いにのっている君が指名されてしまってね。梶に君向けに対空用の武器を用意出来ないか相談していたんだ」
「なるほど。剣士の俺に空を飛んでいる怪物を退治しろという事ですね」
阿部が静かに頷く。梶は、
「そんな都合の良い武器なんかあるわけないじゃないか」
とお手上げ状態だ。
賢也は、2人に大丈夫と言った。
「俺の使う技の中に、離れた敵を斬るものがあるから、何とかなるかもしれませんね」
賢也の返事を聞いて、2人は顔を見合わせる。
「え?そんな技があるのかい?」
「はい。見せましょうか?」
3人は、奥にある射撃場に向かった。
「いきますよ。飛燕!」
賢也は、的に向け飛燕を放つと、的が真っ二つに割れた。
「す、凄い。なるほど、これなら下手な武器を用意するより、この技で戦う方がいいね」
阿部がホッとした表情をしている。
「じゃあ、本部に返事をしても大丈夫かな?」
「分かりました。いつ、向かえばいいですか?」
「明日でいいよ。ヘリの用意もあるから。今日はゆっくり休んでくれ」
賢也は、礼をすると帰宅した。
家の前まで来ると何か違和感を感じる。
(何だ。誰か家にいるな?)
家族以外の気配を家の中から感じる。子供達の友達や妻の友人とは違う。家から感じる気配は緊迫した雰囲気が漂っている。
賢也は玄関から入らず、ベランダにジャンプする。足音も立てず着地する。窓をそっと開け、中に入ると4人の気配を感じる。1階に全員集まっているようだ。気配を消し、1階に降りると、男?の声がする。変声器を使っているようで、声がよく分からない。
「おい、剣を持って来いって言ってるだろう。子供がどうなってもいいのか!」
見ると男がさくらの頭に銃を突きつけている。さくらは恐怖の余り、声も出せず固まっている。
「だから、金庫に入っていて、開けることは出来ないって言ってるでしょ。その子を離して!」
綾乃が男に向かって叫んでいる。強盗が入って来たようだが、家の防音が仇になり、外に叫び声が聞こえておらず、周りは気付いていなかったようだ。
賢也は、何か良い手が無いかと考える。下手に手を出して強盗の指が引き金を引いてしまったら、さくらの命が危ない。
銃を持っている腕を斬り落とすか?子供の前で血を見せたくはない。やはり、さくらを強盗の腕から奪い返し、気絶させるのがベストか。
完全に気配を消している賢也に誰も気が付かない。ドアの側まで近付く。ドアを開けると同時に中に飛び込み、さくらを抱き抱え、強盗の手から救い出した。
「な、いつ帰って来た?くそっ」
強盗は、さくらを奪われ賢也に向けて銃を構えた。
「子供を殺されたくなければ、お前の剣を寄越せ!」
今にも撃ちそうな強盗に賢也は落ち着いた口調で話しかけた。
「諸井さん、どういうつもりですか?何でこんな事を?」
強盗が動揺する。
「な、何を言ってるんだ。諸井って誰だ?」
「隠そうとしても、俺には分かるんです。あなたの気配で」
賢也は、気配から強盗が諸井である事が分かったのだった。
強盗はやけくそになり、マスクを外し、怒声を上げる。
「くそっ!何なんだよ!お前は!」
マスクを床に叩きつけ、更に怒鳴った。
「お前ら家族全員を殺してやる!そうだよ。怪物がお前らを殺してしまい、俺が、怪物を追い払ったんだ。そしてお前は、敵を取ってくれと、俺に剣を託すんだ!そうなんだよ!」
言い切ると、ついに引き金を引いてしまった。
パァン!と乾いた音が鳴ると同時に賢也が剣を抜く。弾を真っ二つに斬り、弾道を反らす。
「全く。いい加減にしてくださいよ」
賢也は、諸井に呆れた口調で言う。
「まさか、本当に撃つとは。正当防衛で、斬られても文句言われないですよ」
綾乃達は、銃声で恐怖の余り腰を抜かし、その場から動けなかった。
「綾乃、警察と協会に連絡して」
綾乃がハッとして、警察に連絡を取ろうとすると、
「やめろ!」
諸井が綾乃に銃を向け、引き金を引こうとした瞬間、銃身が宙を舞った。賢也が、斬り飛ばしたのだ。
「くっそー」
諸井が、武器を破壊され逃げようとする所を、賢也が回り込み剣先を突き付ける。
「流石にここまでしといて、逃げようなんて許すと思いますか?」
剣を突き付けられ、諸井は動けなかった。
その間に綾乃が賢也に言われた通り、警察と協会に連絡をしていた。
「あなた、協会の人が、代わって欲しいって」
綾乃が恐る恐る賢也に近付き、電話を渡す。
「代わりました。龍崎です」
「龍崎君、今聞いた話しは本当なのか?諸井君が、君の家に強盗に入って来たというのは」
電話の相手は阿部だった。
「はい、局長。今、取り押さえて、警察が来るのを待っている所です」
「そうか、分かった。怪我は?」
「ありません」
「諸井君には、資格を剥奪すると伝えておいてくれ」
「分かりました。では」
賢也は電話を切ると、家のチャイムが鳴る。警察が着たようだ。綾乃が警察官を案内する。
「こちらです」
「協力ありがとうございます」
警察官が諸井に手錠をかけ、連行する時、賢也は諸井に声を掛けた。
「諸井さん、資格は剥奪だそうです。こんな事はもうしないでください」
諸井は、肩を落とし、パトカーに乗せられると、連行されていった。
近所の住民が、何事かと出てきていた。
「お騒がせして、すみません。強盗が入ったんですが、捕まったので、もう安心ですよ」
賢也が説明する。皆、賢也の家に入るなんて馬鹿な強盗だと、家に帰っていった。
賢也も家に入る。
「大丈夫かい?怖かったろ」
3人に優しく声を掛ける。
安心した子供達は一斉に泣き出した。
「怖かったよぅ。パパァ!」
2人共賢也に抱きついてきた。
優しく賢也は2人を抱き締める。
「あの人は?」
綾乃が尋ねた。
「会社のハンター仲間の諸井さんだ。今日、会社で話した時、何か思い詰めた様子だったんだけど、まさか、こんな事をするとは」
「あなた、恨まれるような事したの?」
「いや、ただ。俺が怪物を倒して周りが騒いでるのはよく思ってなかった感じはしたな」
「そうなんだ」
「強くなるのに、武器の差があると思ったんだろうな。武器だけ良くても、ダメなのにな。もっと違う方法があっただろうに」
泣いていた子供達は、安心と泣き疲れで寝てしまっていた。
「ちょっと防犯を強化しないといけないな。今後も無いとは限らない」
「そうね。あなたが居れば大丈夫なんだろうけど、留守の時が困るわ。私も今日は疲れたから、もう休むね」
「ああ、おやすみ」
綾乃は、子供達を連れ、寝室へ向かった。
「あ、明日の討伐の話し忘れたな。しょうがないか。今日は俺も休もう」
賢也も同僚が強盗に入って来たことがショックだったこともあり、静かに眠りについたのだった。
バタバタしていて、投稿が遅くなりました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願いします。