99.4対1?
変貌した蝶とセン、ノッコ、優、大河の四人との戦いが始まった。
「よし、やるぞ!」
センが飛燕を放つが、蝶?には全くダメージが入った様子は無い。
「効いてないのか?」
「あれは姿が変わる前から、見えない壁か何かで攻撃が通用しなかったのよ」
「気を付けて下さい。来ます!」
蝶?の体の前で爆発が起きる。そして、爆発は四人の方へ一直線に向かって来た。
「ユウ!」
ノッコが優に鱗粉を散らすように呼び掛けると、優は既に矢を射っていた。
矢は鱗粉を散らし、爆発が二つに割れると、蝶?の増えた羽が高速で羽ばたき出す。
「何か嫌な予感がするわ。皆、ここから離れて!」
ノッコが危険を察知すると、高速で羽ばたいている羽から竜巻が発生する。その竜巻がまるで生きているかのように、曲がり二つに割れた爆発を巻き込み、爆発の渦となって、四人が立っていた場所を襲う。
「何だよ。今のは!」
「あの羽、厄介だわ…」
「俺の麻痺で、動きを止めてやる」
大河は、慣れない左手で剣を構え、蝶?の背後に回る。
「これで、どうだ!?」
大河の放った一撃は、見えない壁に防がれてしまった。
「駄目か。かはっ」
大河は尻尾の薙ぎ払いを受け吹き飛ばされ、更に鱗粉による爆発が後を追いかけていく。
「大河さん!」
センは大河を救う為、飛燕を放った。センの放った飛燕は、鱗粉を散らし、爆発の連鎖は止まった。
「壁か何か知らないが、あいつの防御を破れないと話にならねえぞ」
「私に任せて。セン、あなたは、私が壁を破ったら止めをお願い」
ノッコは、そう言うと短剣を構える。
「止めはいいが、ノッコ、その短剣で出来るのか?」
「まあ、見てなさい」
センに自信満々にノッコは言うと、そのまま独り言を呟き始めた。
「闇よりも深き黒き霧よ。その力を我が短剣に宿し、如何なる物も切り裂く黒き刃となれ。暗黒の刃!」
ノッコの持つ短剣に黒い霧が収縮し、黒い剣へと変化する。
「ノッコ!?魔法か?」
「えへへ。魔法っぽいでしょ。これは、見た目だけじゃないんだから!」
ノッコは、蝶?に剣を向け、更に呪文のように唱えた。
「切り裂け!」
すると、黒い刃が短剣から消えると、蝶?の右斜め上に現れ、袈裟斬りをする。黒い刃は、ノッコのイメージ通りに蝶?の見えない壁ごと、新しく生えたばかりのトカゲモドキの腕を切り落とした。
「やった!」
「凄いです。ノッコさん」
「まじかよ…」
ノッコの攻撃は自分の絶対的な防御を破った上に、腕を切り落とした。蝶?は何が起きたのか理解出来なかった。だが、黒死竜に命じられた自分の元々の相手が己の命を脅かす最も危険な人間である事を認識した蝶?は、他の者には目もくれず、ノッコだけを殺すと決めた。
そして、蜂の羽を高速振動させ始める。
「こ、これは…」
「あ、頭が割れそう…」
センと優が頭を抱え、苦しみ始める。
「二人共どうしたの!?」
自分は何とも無いのに苦しみ出した二人を心配していると、今までのヒラヒラとゆっくり飛んでいた蝶?とは思えない、素早い動きでノッコの元に突撃して来た。
「今の私を甘く見ないでよ」
蝶?が向かって来る間に、もう一本の短剣を腰から手に取り、チャクラムに変えると、前に突き出し、
「暗黒の盾!」
ノッコの叫び声と共に黒い円盾が前面に現れ、蝶?はぶつかった。蝶?の体当りでも、ノッコの出した円盾は砕けることは無かった。
「どう?肉弾戦は苦手だけど、魔法を使えば負けないわよ。LSMで、マジックマスターの一歩手前まで行っていたのは伊達じゃないんだから!」
「いや、そいつ相手にLSMなんて言っても分からんだろうし、それも魔法じゃなくて、異能だろ!?」
ノッコの円盾のおかげか、指向性超音波攻撃が届かなくなり、立ち上がったセンがノッコに突っ込みを入れる。
「良いじゃない。魔法って思ってるから、これが使えるんだもの」
「まあ、どっちでもいいけどな。ノッコがこんなに強くなってるとは知らなかったぜ」
センとノッコが会話をしていると、蝶?が円盾を乗り越え、頭上から火の玉を吐き出した。
「ちっ!」
センが直ぐに飛燕を放ち、火の玉を二つに斬り裂く。その間に、優が矢を射ると、矢が蝶の尻尾に刺さった。
「刺さった!」
「あいつの見えない壁が無くなってるぞ!」
「いけるわ!」
三人が更に攻撃をしようとしたその時、センの足を何かが掴み、引っ張られ、地面に倒れた。
「痛ぇ!何だ………はぁっ!?何だよ。こいつは!」
センは、自分の足を引っ張った物を見て驚いた。それは、さっきノッコが切り落とした腕だった。更には、その腕の先に芋虫の体のような物が生え、その体には無数の触手のような足が生えて、センを引っ張っている。
「気色悪い!」
センは、足を引っ張る腕?を斬る。斬られた腕は、バタバタと暴れると、ピタッと動きを止めた。
「何だったんだ?」
「ちょっと、セン!遊んでないで早く手伝ってよ」
「遊んでねぇよ!」
センが振り返ると驚いて、つい声に出してしまった。
「は?」
「だから、手伝ってって言ってるでしょ!」
振り返ったセンの目に入ったのは、半分に割れた蝶?の体から、さっきの腕のように無数の足が生え、地面に立っている。更には、蜂の羽も同じ状態だ。
「何だよ。この状況…」
「大河さんが、背後から蜂の羽を斬り落とした後に、ノッコさんが真っ二つに切ったら、こんな状況に…。はっきり言って、気持ち悪いです…」
誰が見ても気持ち悪いだろう。4対1が4対4に、いや、4対6か。背後に気配を感じ、振り返れば、さっき斬った腕からまた足が生えている。胴の部分も。
「こいつは、プラナリアみたいに完全に復活するわけじゃなさそうだが、切り口に足が生えて、1体の怪物になるって事かよ」
「ちょっと、そんなのどうやって倒すのよ」
「そりゃあ、燃やすしか…って、賢也じゃないと無理じゃねぇか」
センは、黒死竜と今も一人戦っている賢也の方を見る。こっちを手伝う余裕は無さそうだ。
「くそっ。どうすりゃいいんだよ」
セン達が対策を考える時間を与える気は無いのか、蜂の羽の一つが羽をバタバタとし始めた。それに合わせて、もう一つの羽も羽ばたき始める。
「来るか!」
羽達は、それぞれが竜巻を作り出し、そのまま自分達が竜巻と一緒に飛び上がった。小さくなって、体を支えきれなかったのだろう。だが、発生させた竜巻は、羽と共にセン達の立つ方へと進路を取る。
「阿呆みたいだが、しっかりこっちを狙って来やがった。くそっ」
ノッコは、再びチャクラムから円盾を出現させると、竜巻の一つを防いだ。
もう一つの竜巻は、優の方へと向かって行く。
「ユウ!早く逃げて」
「ちっ。やれるか?」
ノッコは、竜巻を防ぎながら、優に逃げるように伝え、センは、竜巻に向かって、斧を振る。
「鳴神!」
センの斧による鳴神は、竜巻ごと中にいた羽を真っ二つに斬り裂いた。
「ユウ!大丈夫か!?」
「はい。でも、あれ…」
優は、そう言うと指を指した。センは優の指した方を見ると、予想通り、羽が二つになって、それぞれに足が生えている。
「くっそ、面倒くせぇ…」
焼き尽くすしかない…。賢也に、いや、無理だ。
センが悩んでいると、トカゲモドキの頭から長い蝶の口が伸びて来て、センの腕を絡め取る。
「何をボサッとしている。千志郎」
センが振り向くとそこには、力也が立っていた。力也は、蝶の口を剣で斬る。センは直ぐに腕に巻き付いていた口を解くと、投げ捨てた。
「力也さん!スライムは?」
「ああ、倒したぞ。お前達は何をしているんだ」
物理攻撃が効かないスライムを倒した?力也には、そんな力は無かった筈だが。
だが、スライムを倒せた力也さんなら、こいつを倒せる。
「斬っても斬っても、分かれた体から足が生えて、分裂するんです。力也さん、一緒にこいつを倒そう」
「ああ、やるぞ」
力也も加わり、賢也を除くメンバーでの総力戦が始まる。