起きた
目が覚めたら、ごついおじさんと目があった。
そのおじさんは以上にデカく、一瞬巨人かと思ってびっくりした。
顔があまりにも大きい。俺の身長ぐらいある気がする。
(...なんだこの人?)
おじさんは服の上からでもわかるような分厚い筋肉が体を纏っていた。
顔の彫りが深くて、間違いなく日本人ではない。
徹夜したかのように茶色の目が赤くなってて、目つきが悪い。そして髪と同じようにヒゲもほとんどが白髪でボサボサしていた。
このおじさんシャンプーっていうものをもしかして知らないのか?
そもそも風呂入ってるかどうかわからない。
なんか臭うし...
おじさんも俺と同様、一瞬肩を震わせてびっくりしていた。なんでだ?
俺は改めて周りを見た。小さなログハウスみたいだ。部屋の中にはほとんど何もない。
丸い木のテーブル一つと、それを囲む椅子が四つ。
右側の壁には窓があり、ガラスではなく、ただ壁に四角の穴があるだけだった。カーテンもなしだ。
そのせいか、部屋の中はすごい明るい。
視界はなぜかぼやけてる。
ついでに意識もはっきりしてない。
(眠い...)
そんなことを思っていると、おじさんが顔を近づけてきて、目を合わせた。
目を合わせるっていうより、おじさんが一方的に俺の目を観察している。
興味深いものでも見るように顔にしわを寄せている。
顔が近くなって、やっぱり大きい。身長ぐらいなくても、半分以上は絶対ある。本当に巨人なのか?
.........
...あれ?
...ん?なにか忘れてるような...
あれ?巨人って...んん!?
(巨人なんでいんの!!?架空の存在じゃなかったのか!?)
今更気づいた。記憶をたどってみると、巨人は存在しないし俺は車にはねられ死んだはずだよね?
俺一回死んだよな!?死んでるはずだよな?イケメン・リッチ・ボーイはどこ行った??
あの時、意識が消えた後から救急車が助けに来ていたとしても、絶対助からなかったと思う。自信がある。
どこからそんな自信が来るのかって聞かれても、勘だよ、勘。
そして死んだ人が目覚めるわけがない。ゾンビでもない限り...
あれ?ゾンビ?...俺って...
...まさか
(はい、ストップ。やめよう。恐ろしいことを考えるのはやめよう。)
じゃあ、俺生きてんのか?奇跡的に助かった?意識があるしそりゃそうか。
...なんで?
ここ何処?病院?いやでもこの巨人は?そうだ!巨人てめぇ!なんでいるんだよぉぉぉ!
(待て待て待て待て待て。...)
意識がはっきりしてきて、混乱する。
ココハドコ。オレハダレ。テンゴクデスカ。
(俺に何が起きてる!?)
パニックになって固まってると、おじさんが満足したのか顔を戻し、俺の体を持ち上げた。
軽々と、27歳の成人男性を持ち上げた。顔はなんともなさそうだった。
赤ちゃんじゃあるまいし、身を誰かに預けるのは変な気分だ。
まあ、巨人だし力が強いのかもしれない。存在しないはずの巨人だし。
そして、かわいい物でも見るように、おじさんの顔がデレる。すっごい笑顔。
怖い顔がもっと怖くなる。何この外人おじさん。
そんな顔で見ないでほしい。
おじさんは俺を持ったまま、歩き始めた。どこへ行くつもりなのかはもちろん知らない。
何が何だかはもう知らん。考えるのはやめだ、どうにでもなれ。
あなたは誰ですか?
「あー、うーうあー?」
おじさんに話しかけようと思ったら声が出ず、代わりに甲高い赤ちゃんの声が響く。
ラノベを趣味として読んでいる俺にはとある展開が頭の中に浮かぶが、そんなわけないと否定してもう一度声をかけてみた。
ここは何処ですか?
「ううー、ああーうぇあーー?」
おじさんはこちらの方を見てニッコリする。だが返事はしてくれない。すぐまた前を見て歩き出す。
俺はと言うと、固まってしまった。まばたきもしない。恐る恐る自分の体を確かめてみる。クビに力を込めて下を見る。
ぷにぷにのお腹に、ぷにぷにの腕や足。
(ウソだろ?)
さっきの考えがまた頭の中で登場する。
どう見ても俺の声で、俺の体。
なんとゾンビではなく、赤ちゃんになっていた。