閑話:ことりちゃんと不純異性交遊
下校のチャイムが鳴る。
本日の授業も終わり。憂鬱とした時間からも開放されて僕はご機嫌だ。
先ほどまで静かだった教室も今は賑やかだ。皆思い思いに雑談や下校の準備をしている。
「うーっし。終わったぞ! さっさと家に帰ろうっと。のじゃーさん分が足りなくて死にそうだからね……」
本日はのじゃーさんは学校まで付いてきていない。
少し用事があるとの事で近所の神社へと向かって行った為だ。
その為、今の僕は禁断症状が出ている。僕は定期的にのじゃーさん分を補給しなければ死んでしまうのだ。
早くしなければ干からびてしまう。僕は急いで帰宅の準備を済ませるため、机の中身を適当に鞄に放り投げる。
「あ、羽田君! 用事とか無かったら一緒に帰ろうよ!」
そんな僕に、笑顔を浮かべながら語りかけてくれる女の子がいる。
何を隠そう僕の将来の嫁、新妻さんだ。
新妻さんとは最近いろいろな事があったせいか、非常に仲の良いお付き合いをさせていただいている。
なんと毎日いっしょに帰っていたりするのだ!
しかし……、しかしながら今日は都合が悪い。僕は心底申し訳なさそうな表情を見せると、新妻さんに謝罪の言葉を述べる。
「あちゃー。実は用事があるんだよ新妻さん……」
「えっ!? な、何かな? 今日は一緒に帰れないの……?」
新妻さんは僕の言葉を聞いた途端、先ほどの笑顔を何処に行ったのやら、悲しそうな表情を見せる。
僕もその表情に心が痛くなる。だがしかし、ここは心を鬼にしなくてはならない。
そうしなければ、僕の目的が達成する事ができないのだ。
「うん、とっても大切な用事なんだ……」
「そ、そうなの? えっと、それって何かな?」
「実はね――」
そう、とっても大切な用事だ。
僕は神妙な面持ちで新妻さんと視線を合わせる。
彼女も僕の話しぶりから何かあるのかと思ったのだろう、とても真面目な表情になると僕の説明を今かと待ち望んでいる。
「うん……」
そして僕は口を開く。非常に重要な事だ、他の何よりも大切な事……。
そう、それは――。
「新妻さんとイチャイチャしながら仲良く帰るって重要な用事があるんだよ!」
新妻さんとイチャイチャする事だったのだ!!
確かに新妻さんは僕と一緒に帰ろうと言ってくれた。だがしかし、それにはイチャイチャが含まれていない。
僕は新妻さんとイチャイチャしながら帰りたいのだ。具体的には手とかは繋がないけど肩が触れ合ったりする感じに微妙に距離が近くて、それで話が凄く盛り上がって楽しそうとかそんな感じ。
そう、それこそが僕が望んだ事だったのだ!
「え!? も、もうっ! 羽田君ったら! またそんな事言って!」
新妻さんが驚きの声を上げる。ふふふ、でも僕は気づいているんですよ新妻さん? 君がそんな事をいいつつも、満更でもない様子である事に!
僕はプリプリと文句を言いながら、でも途端に機嫌を良くした新妻さんを満足気に眺めると、さらに彼女を僕の将来の嫁にする為、攻略の言葉を告げる。
「えー? じゃあ一緒に帰らない? それは寂しいなー」
「そんな事言ってないですよーだ!」
軽く舌をだしながら、べーっと僕に威嚇してくる新妻さん。
そんな彼女に最高の笑みを返しながら、僕は輝かしき未来への一歩へと彼女を誘う。
「ふふふ、じゃあ一緒に帰ろうか! 新妻さん!」
「えへへ、うんっ! 分かったよ、羽田君!」
僕の誘いに笑顔で答えてくれる新妻さん。気持ち二人の距離が近い。
その距離感は……、僕と新妻さんの心の距離感をそのまま表しているようで、これからの二人の関係がますます進展しいくことを証明している様でもあった。
そして二人仲良く、帰路につかんと歩き出す。
新妻さんファンクラブから刺すような視線――と言うか殺気を感じるが知ったことか。
むしろ大いに羨むがいい! 君たちの新妻さんはもうすでに僕の物なんですよ!
ドヤ顔で、チラリと教室に視線を向ける僕。怨嗟の声が聞こえてきそうなこの状況が心地よい。
だが――しかし……。
「羽田君……。話があるので教室に残って下さい」
クラスの担任である西沢先生より突如絶望的な指示を受ける。
「「なんでっ!?」」
これからのイチャイチャ帰宅タイムに思いを馳せていた新妻さんと僕はふいに訪れたお預けに、二人同時に情けない声をあげたのであった。
◇ ◇ ◇
「あーあ。折角新妻さんと帰ろうと思ったのに……。新妻さん分が足りなくて死にそうですよ先生」
西沢先生に呼び止められた僕は、ブツブツと愚痴をこぼしながら先生の用意が終わるのを待っている。
新妻さんは先に帰ってしまった。
待っていてもらっても良かったのだが、終わるのは何時になるか分からないと先生が帰宅を促した為だ。
くそぅ……。僕に何の恨みがあると言うのだ?
「……そこに座って下さい」
「はーい……」
プリントをまとめ終わった先生が着席を促す。僕は指示された通り、適当に並べられた椅子に座る。
教室には先生と僕だけだ。
西沢先生は僕のクラスの担任で、最近この高校に赴任してきた比較的若い女の先生だ。
皆と親しく話してくれて人気もある先生なのだが少し真面目すぎる所が玉に瑕だと僕は思う。
「羽田君……。先生は学校の秩序を守る義務があります。生徒が健全な生活を送っている事を見届けねばならないのです」
「それがどうかしたのですか? 自分で言うのもなんですけど、僕意外と真面目に生活していますよ?」
先生は真面目くさった、どこか大げさな台詞で会話を切り出す。
僕としては早く本題を言って欲しい。のじゃーさん分どころか、新妻さん分の補給さえ止められたのだ。
このままでは禁断症状で二人に次会った時、どんなお痛をするか分かった物ではない。
そんな僕の考えを知ってから知らずか、先生はコホンと小さく咳をしたかと思うと、僕をまっすぐ見つめ本題を切り出す。
「羽田君――貴方は不純異性交遊をしていますね!?」
「はぁ!?」
意味の分からない指摘に一瞬動揺する。
言いがかりにも程がある。一体僕の何処をどう見れば不純異性交遊をしている様に見えるのか?
突然の言葉に唖然としている僕に、先生は構わず続きを語り始める。
「貴方が新妻さんを誑かして、日夜語るも憚れる恐ろしいプレイをしているとの噂を耳にしました。これが事実なら先生は貴方を断罪せねばなりません」
確かに最近新妻さんと仲良くはしている。この間だって一緒に夜景を見た。
だがそれが新妻さんを誑かしているだなんて失礼にも程がある、……ってか語るも憚られる恐ろしいプレイってなんだよ? 微妙に興味あるな……。
「いえ……、誤解なんですけど。ってか僕と新妻さんは健全な仲ですよ?」
けど、そんな心のなかに湧いた興味を押し殺し反論する。
別に、僕一人だけだったら適当にはぐらかしてさっさと帰ってもいいのだ。だけど今回は新妻さんも話に巻き込まれている。
彼女が覚えのないレッテルを張られる事だけは何としてでも阻止せねばならない。
「そんな訳ありません。この前だって貴方は新妻さんを真夜中に連れだして野外プレイとしけこんだでしょう? 夜のダム湖だなんて……、どうせ『さとみのダムも決壊しそうだよ?』とかそういう台詞を言っていたんでしょう? いやらしい!」
「言ってねぇ! ってか妄想力逞しいな! 二人で夜景を見ただけですよ!」
だけど先生は全然僕の話しを聞いてくれなかった。と言うか妄想力が逞しすぎる……。
なんだその台詞は? 僕はおっさんじゃないんだぞ?
思わず荒げた声にも先生は動じない。
胡散臭気な目線で僕を見ながらため息を付いている。……こっちがため息付きたいんだけど。
「では、『夜景の料金は百万ドルだ! もちろん支払いは身体で払ってもらおうかな?』とかそういう感じですか? 『ひゅー! いいのかい? お星様がさとみの痴態を見ているぜ!』とかそういう羞恥プレイもしたのですか?」
「してねぇよ! アブノーマルすぎんだろうがっ! なんで僕がそんな変態になっているんですか!?」
本当なんなんだこの先生は!?
僕は必死でこの妄想力逞しい先生にツッコミをいれる。……って言うか台詞の一つ一つが意味不明すぎて誤解を解く暇が無いほどだ。
「おかしいですね、クラスのくま……皆さんは羽田君の事を変態だと仰っていたので、先生はてっきり……」
「熊谷には後で復讐するとして……。完全な誤解ですよ。新妻さんとは仲の良い友達です、やましいことはありません」
「肉体関係のあるお友――」
「違いますっ!!」
事の発端、その一つである熊谷を心の中で呪いながら。僕は先生の誤解を解いていく。
そうして、どれだけ時間説明しただろうか?
先生の中でドS変態紳士となっている僕の印象を、なんとか常識のあるドS変態紳士まで矯正した僕は、疲れ果てながら椅子の背もたれに身体を預ける。
腹立たしい事に先生は不満そうだ……。そこまで僕を変態紳士にしたいのか?
「……そうですか。いささか残念ですが分かりました。羽田君にもそう仰っている事ですし、この場は納得いたしましょう」
「いや……最後まで納得して下さいよ。ってかもういいですか?」
話の区切りがついたのでさっさと切り上げる。こんな下らない話で新妻さんとのイチャイチャ帰宅を妨害されたなんて残念にも程がある。
まったく、なんてついていない日なんだ……。
「はい。お時間取らせました。明日は新妻さんにお話を聞いてみましょう」
「変な事言わないでくださいね!!」
先生にキツく忠告しておく。
この先生の事だ、きっと新妻さんの事もある事ない事いろいろと妄想しているんだろう。
ここで少しでも止めておかないと新妻さんが可哀想だ。そう考えると僕の責任も重大だった。
でも……。そんな先生は、既に自らが用意したプリント――予想される僕の変態行為を記した物を眺め、何か思案している様子で僕の事など眼中に無かった……。
そんな先生に少し苛ついた僕が再度注意をしようとした時だ。
「やっほー、パネ田さん。ことりが迎えに来ましたよー」
面倒事と言うのは決まって悪いタイミングで重なるらしい。
そこに現れたのは、ご丁寧にどこぞの学校の制服までコピーして物質化を果たした、ことりちゃんだった。
「げぇっ!」
「…………」
思わず下品な声を上げる。
チラリと見た先生はことりちゃんを見て眉を顰ませている。
その気持ちは分かる、僕だって驚いた。ってか普通に学校に来ないで欲しいんだけど……。本当にフリーダムですね、ことりちゃん!
「今日はパネ田さんにご飯を奢ってもらう約束でしたからね。今からぐろーばるです」
「こ、ことりちゃん。なんでこのタイミングで……。あ、いや。先生、これは違うんですよ?」
嫌な予感がビシバシとする。
慌てて先生に言い訳をする。
だが先生から返事はない。それどころか謎のオーラが出ている。対することりちゃんはまるで勝手知ったる学び舎の如く、ごく自然に教室に入ってくると僕の隣に立ってしきりに指先で僕の頬をつついてくる。
ど、どうする僕!? これはヤバイぞ! だが時は既に遅い。
――そして、ついに先生の妄想力が爆発した。
「不純異性交遊です!!」
「面倒くせぇ!!」
僕は堪らず叫んでしまった。
「ご飯を奢って貰うですって! 女子が男子にご飯を奢ってもらうなんて! お礼は身体しか無いじゃないですか!?」
「なんでっ!?」
「貴方! そこの貴方! 座りなさい! どこの学校ですか!? そんな軽々しく身体を許してはいけません!」
ツッコミが追いつかない。
先生は非常に興奮した様子で席をたつ。そしてことりちゃんを引っ張ってきた椅子に無理やり座らせると、鼻息荒く捲し立てた。
「軽々しく無かったら良いのですか? ことりはパネ田さんにおっぱい触らせてあげた事があるのですが、これはセーフですよね? パネ田さんだけって約束でしたので」
「アウトですよっ!!」
「未遂じゃねぇか! 触って無いよ!!」
ことりちゃんはゴソゴソと近くの机の中を勝手に探索しながら、何の気負いもなしにとんでも無い発言をする。
僕も慌てて訂正。ってかことりちゃんの中では触らせた事になっているのか!? それにしても早くどうにかしないと……、ことりちゃんってば不思議ちゃんだからこれ以上どんな誤解を生む発言をされるか分かった物じゃないぞ……。
僕は先生に気付かれないように、ことりちゃんの袖をそっと引っ張り合図を送る。
ことりちゃん、気がついておくれ! 今ちょっと面倒な事態になっているんだよ!
だがしかし、ことりちゃんはそんな僕の合図に「おっ?」と小さく呟くと、お返しとばかりに僕の袖を引っ張り返してきた。
あかんでぇ、この子まったく理解してまへんでぇ……。
「羽田君! なんて事を! 貴方、新妻さんだけではなく、この子までその歯牙にかけていたと言うのですか!? 3Pだなんてマニアックすぎますよ!」
「誤解だって言ってるでしょうが! ことりちゃんも何とか言って!」
「……のじゃーさんだけ仲間はずれはいけないので、4Pになるのでは?」
「ことりちゃんはもう何も言わないで!!」
「なんて事! マニアックを通り越してブルジョワジーだわ!!」
意味が分からない。
先生はとても興奮した様子で持論を捲し立て、僕を変態にしようと意気込んでいる。
その一端を知らずに担うことりちゃんは不思議そうに僕と先生を何度も見比べて何やら考え込んでいる。
どうする? どうする僕? 敵は二人だ、なんとかこの場を切り抜けないと今後僕が変態紳士になってしまう。
「……うーん? ことりは良く状況が理解できないのですが。どうすればいいのでしょうか?」
「自分で考えなさい! 周りに流されちゃ……それこそ男の言葉に流されちゃ駄目です! いつだって泣くことになるのは女子なのですよ!」
「あのねこと――」
「黙ってなさい! 羽田君! この子が自分で決めようとしているんですよ!」
「むむむ。パネ田さんとことりの関係が誤解されていると言う事ですか?」
なんとかことりちゃんを言い聞かせようとしたが先生に割って入られる。
やばい。どう考えても嫌な結末にしかなりそうにない。
ことりちゃんは僕の方にチラリと視線を向けると、分かっているとで言いたげにわざとらしくウィンクをする。
……不安しかない。
「分かりました。先生の人、聞いて下さい。ことりとパネ田さんの関係はですね……」
ことりちゃんは真剣な眼差しだ。何も知らない人がその様子を見れば、とても頼もしく見えるだろう。
そして元気いっぱい、教室中に聞こえる大声で。
「遊びなんです!」
「うぉぉぉおおおいい!!」
「ほらみたことか!!」
「ちょっとことりちゃんんんん! なんで! なんでそうなったの!? どう言う思考でその結論に至ったの!?」
いきなり何を言い出すのこの子は!? どう頭の中で導き出してその言葉がでたの!?
僕は勢い良く突っ込む。 とりあえず突っ込んでおかなければいけない気がしたからだ。……そうしなければ、おかしくなっていしまいそうだった。
「落ち着いて下さい。パネ田さんとことりはお友達。つまりその関係を一言で表すのなら遊びの関係と言う事になります」
ことりちゃんは僕にはおおよそ理解の出来ない論法で真面目に答える。
えらいこっちゃ、火に油注ぎおった。この子笑顔で火に油注ぎおったでぇ……。
「単語のチョイスが最悪すぎるでしょうがぁぁ! わざとやってんのか!?」
「身体だけの関係だって言うのね! 『君も楽しんだだろう? お互い納得してこの関係になったはずだ』とかそういう感じなのね!」
「身体だけ? むしろ心の方が大きな割合を占めているとことりは思いますよ?」
「身も心もですって! 『嫌なら良いんだよ? 僕はどっちでも構わないんだからね』みたいな、嫌とは言えない事を知りつつあえて突き放すのですね!」
「知らねぇよ! なんでそんなキャラになっているんですか!?」
「でも嫌よ嫌よも好きのうちって言いますよ?」
「それ含めてのプレイなのね!!」
盛り上がる先生とことりちゃん。僕は追いつくのに必至だ。
そしておっさん臭い。あまりにも先生の発送がおっさん臭いのだ……。
「分かりました。パネ田さんはことりの魅力にメロメロなのですね、やっぱりおっぱい触らせて上げて良かったですね」
「そんな事でどうするのですか!? 子供ができたらどう責任を取るつもりですか!?」
「あ、ことりの場合は卵生なので卵ですね。頑張って温めようと思います」
「っ!? 意味が分からないけどとても卑猥な気がします!!」
「しねぇよ!!」
僕の言葉を華麗に無視しながら盛り上がる二人。なんだか除け者にされているみたいで無性に悲しくなってきた。
「でもパネ田さんとことりの雛ちゃんができたら、それは鳥人間になってしまうのでしょうか? だったら今から鳥人間コンテストを目指して頑張らなければなりませんね。ピヨピヨ」
「自らの子供までアブノーマルな世界に羽ばたかせようっていうの!? 変態と言うなの大空に、倫理観という名の重力から解き放たれて飛び立つのね! 鳥人間だけに!!」
もうこのまま帰ってしまおうか? そう思った僕がひっそりと帰り支度を始めた時だ。
目ざとくその様子を見つけた先生は僕を押し留める様に睨みつけると、そのおっさん臭い妄想力で判断した結論を告げる。
「兎に角! この件は非常に問題です。先生は貴方に改善を要求します。 今後暫く女子と話をしてはいけません!」
「誤解なんですけど?」
「そんな訳ありません! よしんばそうだったとしても女子と話をする事を禁じます!!」
あまりの言い草に僕も思わずイラッとなる。
だが……そこでふと疑問に思った。――先生は、どうしてそこまで僕を変態にしたがるのだろうか?
自分で言うのもなんだが、僕は意外とクラスの女の子達と仲がいい。 新妻さん程ではないが良く喋る子が沢山いるのだ。
噂ではファンクラブもあるとかないとか? まぁ与太話だけど……。
けど、そんな噂さえある程、普段からクラスの女の子に声をかけまくっている僕だ。いきなり女の子と喋らなくなったらクラスの雰囲気は暗くなるかもしれない。
そんな事をこの聡明な先生が望んでするだろうか? そう、自問自答する。
いや、ちょっとまてよ……。
「……先生。そういえば、この前合コンするとか言って喜んでましたよね?」
「うぐっ!」
僕の言葉を聞いた途端、先生はバツが悪そうに目をそらす。
これは……、ビンゴかな?
つい先日まで「合コンがある、素敵な出会いを探す」と嬉しそうに僕らに語っていた先生。彼女はその合コン当日以降パッタリとその話をしなくなったのだ。
もちろん、僕らのクラスは全員空気が読める子だ。先生のその様子から合コンの結果を感じ取ると、暖かく彼女の今後を見守る事にしたのだ。
「……あれからその話題一切出さないですけど、どうなりました?」
「い、いい感じですよ? おかしな事を言う羽田君ですね」
あからさまに怪しい、目が泳ぎまくっている。
いつもなら優しい言葉の一つでもかけるのだろうが、今日はそうはいかない。僕はさんざん先生に迷惑をかけられているのだ。
解決の糸口を、決して逃さないように攻勢に転じる。今から僕は反撃の狼煙をあげるのだ。
「よもや、うまく行かなかったから腹いせに僕に難癖付けてるんじゃないでしょうね?」
「ご、誤解ですよ。そんな事あるわけないじゃないですか……」
「じゃあどうなったんですか? ってか何かやらかしたんですか?」
僕は追撃の手を緩めない。恐らく先生は合コンで何かしらの失敗をしているはずだ。
だから普段ならそう気にもしない僕と新妻さんの仲を勘ぐるような気分になっているのだ。
僕は先生の言葉を一字一句聞き逃さぬようにし、何かあれば直ぐに指摘できる様に気を張り詰める。
「いえ、その。相手の人とはちょっと合わない感じだったので。せ、先生から断りました」
「……ちなみに、どんな感じの話をしたんですか?」
「普通ですよ? どんな家が欲しいかーとか、どんな結婚式にしたいかーとか……」
……突っ込む言葉が出ねぇ。
先生の空気の読めなさに唖然とする。そして僕が何かしら言葉をかけようとする前に、先程まで興味深げに話を聞いていた、空気が全く読めない子が声を上げる。
「ことりはあまり詳しくないですけど、そういう重いのは男の人嫌がると思いますよ?」
「なんで合コンする前に教えてくれなかったんですか!!」
「先生やっぱり合コンやっぱうまく行ってなかったんじゃないですか……やっぱり腹いせですか?」
「初めての合コンで舞い上がっていたんですよ! 先生だって彼氏が欲しかったんです! そんな時に、目の前でイチャイチャされたら意地悪したくなるでしょう!?」
「私情で生徒に迷惑かけてるんじゃねぇ!」
結局その後、僕は先生にどうすれば彼氏ができるのか延々相談されたあげく、ことりちゃんと一緒に今後も先生が彼氏できるまでの面倒を見ることとなってしまった。
そんな先生だが……。僕があれだけ先生に口うるさく言ったにも関わらず、翌日新妻さんを呼び出して同じく詰問していたらしい。
ちなみに、新妻さんにどんな質問をされたのか聞いてみたのだが、彼女はあからさまに動揺するだけで何一つ教えてくれなかった。




