第5話 不穏な気配
必要分の鹿肉を保存袋に入れて、エルネスタとギルベルトは館へと戻って来た。
館の前には、豪奢な馬車が一台止まっている。
「エルネスタ様」
聞き覚えのある声の方を見ると、エルネスタの従姉妹である公爵息女セレスティーヌが館の前で佇んでいた。
「セレスティーヌ様!」
弾かれたように、エルネスタはセレスティーヌへと駆け寄る。
にこにこと微笑んでいたセレスティーヌだが、エルネスタが近づくにつれて顔が曇った。
「お待ちになって」
エルネスタはぴたりと止まる。
セレスティーヌは眉根を寄せながら、鼻をひくつかせた。
「これは……血の匂いですわ」
付き人たちがざわつく。
セレスティーヌははっとしたように、エルネスタとギルベルトを交互に見遣った。
「もしかして……想像したくはありませんが……人を殺めてきたのですか?」
エルネスタは慌てて首を横に振った。
「違いますわ! 今しがた森へ狩りに行ってましたの!」
「え……!」
セレスティーヌは目を見張って、一歩後ずさる。
「令嬢が狩りですって……!? なんて汚らわしい……」
「汚らわしくなんてありませんわ!」
セレスティーヌは呆れたように、ため息をついた。
「野犬と一緒に狩りだなんて……。エルネスタ様は獣のようです。残念ですわ」
ギルベルトの鈍く光った瞳が、セレスティーヌを捉える。
ぞわりと、セレスティーヌの背に悪寒が走った。
一方のエルネスタは、怪訝そうな顔で告げる。
「野犬なんておりませんわ。ドミトリはボルゾイですもの」
セレスティーヌは心底嫌そうな顔で、エルネスタを見た。
「……お話になりませんね。わたくしは失礼します」
そう言って馬車へと乗り込む。
「あの、セレスティーヌ様。ご用事は……」
「もう済みましたわ。先ほど、あなたのお父上とお話をしましたの」
セレスティーヌの瞳が、刃物のように鋭く光った気がした。
「ではごきげんよう」
セレスティーヌを乗せた馬車が動きだす。
エルネスタとギルベルトは、その場で遠ざかる馬車を静かに見送った。
「エル様。戻りましょう」
二人はそのまま、館の中へ入った。




