生きなさい
レオンが動けるようになって数日後。
食堂では、ささやかな生還パーティが開かれていた。
テーブルには、トモエが腕によりをかけた料理がずらり。
目を輝かせて、一口食べては兵士達とはしゃぐエルディオ。
甲斐甲斐しくレオンに「あーん」をして嬉しそうにしているフェルナン。
嫌がりつつも、まだ満足に身体を動かせず、口を開けては、恥ずかしがりつつも内心嬉しがってそうなレオン。
「まだまだいくわよっ! ほら、あんたも飲みなさいっ」
トモエは既に樽三本分のビールを豪快に開けているが、まだまだほろ酔いとばかりに兵とジョッキを酌み交わしては大笑いしている。
そして、楽しい時間はあっという間に過ぎていき、お開きの時間となった。
「レオン……」
エルディオはジョッキ片手に少しふらつきながら立ち上がる。
「貴方が、生きていて……僕は嬉しい。……それは、王としてじゃなく、仲間、いや家族として……」
視界が遅れて合ってしまうくらいには酔ってる様子のエルディオへ、レオンは少し戸惑いながらも頷きを返す。
「だから、今一度、生還したレオンにっ……乾杯っ!」
エルディオがジョッキを掲げたと同時に、この場の全員、二度目になるレオンの生還を祝う。
「ぷぁーっ……!」
一気に飲み干したトモエは、向かいに座るフェルナンへ笑顔を向けた。
「いやぁ、よかったわねぇ。……レオンも無事生還したし、あんたも元気になったでしょ?」
「はいっ!」
フェルナンが元気よく答えると、トモエは頷きを返す。
「そうか。ならよかった……」
言いながら立ち上がると、フェルナンの方へ歩み寄り――。
「っ……!」
頬を打った。
乾いた音が響き、食堂は一瞬で静まり返る。
「おまっ……!」
レオンが身を乗り出すが、隣に座るエルディオが腕を掴んで止める。
「レオンが死ぬかもって、悲しいのは分かるけどね……あんた……自分も……死のうとしていたでしょ」
トモエの声は静かで、それでいて力強く、食堂全体に響く。
「…………」
フェルナンは何も言えず俯き、膝に置かれた両手には力が込められている。
「戦いのことなんか、私は分からない。でもね――」
言いながらトモエは、今度は優しくフェルナンの肩に手を置いた。
「戦場に出てるってことは……先日あんたが受けた“深い深い悲しみ”……それを、あんたも誰かに与えてるってことでしょう?」
フェルナンの肩が震え、頬から滴った涙が膝へと落ちる。
「だからね……あんたは――いや、レオンも、エルディオも、この場にいるみんなも……
死んじゃダメなの!」
トモエの声がより一層食堂中に力強く響く。
「あんたたちはねぇ! 家族のためはもちろん! 死んでいった仲間のため! そして、あんたたちが殺した人たちのためにも! 簡単に死んじゃダメなのよ!」
誰も反論できず、顔を上げられない。
「簡単に野垂れ死ぬなんて許されない!なにより――私が許さない!」
叫ぶトモエの目からも涙が溢れていた。
「家族のため! 仲間のため! 殺した人たちのため! そして……私のためにっ……!生きなさいっ……生きるのっ! 私をっ……悲しませないでっ……!!」
その叫びは、怒りでも説教でもなく――ただ母としての言葉だった。
食堂に暫しの沈黙が落ちたかと思うと―――。
「うわぁぁああああごめんなざぁぁい! おがぁさぁぁん!!」
フェルナンがトモエにタックルをするかのように抱きつく。
「うっ……うぅ……」
「くっ……」
それをきっかけに、エルディオもレオンもそして兵士たち全員、次々とガタイのいい野郎達は泣き声を上げながらトモエに群がっていき、この日は王国始まって以来、初めての経験となる、王国に携わる者全員で泣き明かしたと同時に結束が強固となった日でもあった。




