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familyーエルドラン編ー  作者: K.Dameo'n'AI


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なんなのこの世界

夕飯の献立は、豚汁と焼き魚。

トモエは、いつものスーパーの野菜売り場で大根を手に取っていた。

「うーん……また値段上がったわねぇ……」

ため息をついた、その瞬間だった。

「ん……?」

冷蔵コーナーのひんやりした空気が、急に生暖かく変わった。

「あれ……」

違和感に眉をひそめた次の瞬間、視界がぐにゃりと歪む。

「えっ……」

足元が沈むような感覚。

瞬きをしたときには、もう――スーパーの冷蔵コーナーではなかった。


「…………」

広がっていたのは、荒れた平原。

炎が上がり、叫び声が響き、剣戟の音が空気を裂く。

巨大な獣が咆哮し、鎧を着た兵士たちが必死に応戦していた。

「……は?」

トモエは大根を握ったまま固まった。

フードを被った人間の手からは赤や青の光が飛び出し、飛び交い、地面が揺れる。

「ちょ、ちょっと待って……ここ、どこ?」

近くで膝を付いていた兵士に駆け寄り、肩を支える。

「すみません! なんですかこれっ。スーパーのイベントですかっ?」

「す、すーぱー……? なにを……ぐっ!」

兵士は苦痛に顔を歪めた。

そのとき、別の兵士が叫ぶ。

「おい! なんだそのばばあっ! 新手の魔物か!」

「誰が魔物ばばあよっ! ぶっ叩くわよ!」

トモエの抗議も虚しく、兵士たちは彼女を取り囲む。

「とりあえず、王都へ連行する!」

「とりあえずってなによっ!? というか、ちょっと! なんなのよ貴方たちっ! 危ない物持って! 私はただの主婦よ!?」

聞く耳を持たない兵士たちに腕を掴まれ、

トモエはそのまま戦場から引きずられていった。





「うわぁ……」

石造りの門をくぐった瞬間、トモエは息を呑んだ。

街が……死んでいる。

建物は崩れかけ、道にはゴミが散乱し、人々は疲れ切った顔で俯いて歩いている。

「……なんなの、この街。映画みたい……」

兵士たちの表情も暗い。

活気がなく、どこか諦めたような目をしていた。

「ここに……王様が住んでるの?」

「黙れ。余計なことを言うな」

吐き捨てるような声。

その声にすら覇気がない。

城に入ると、さらにひどかった。

廊下は埃だらけ、壁は剥がれ、汚れた鎧を着た兵士たちは床に座り込んでいる。

「ちょっと……あなたたち、仕事中なんじゃないの? そんなだらけてていいの?」

「……は? なんだよ」

「いや……気にならないの? 散らかりすぎでしょ。せめて掃除くらい……」

「黙れ!」

怒鳴られたが、トモエは怯まない。

主婦としての修羅場をいくつも越えてきた彼女にとって、この程度の怒声は蚊の鳴き声だ。むしろ、散らかった部屋のほうが気になる。

「……カビ生えてるじゃない。こんなところで生活してたら身体壊すわよ」

「うるさい!」

兵士たちは耳を塞ぐようにしてトモエを別室へ押し込んだ。

「ここで待ってろ。王との謁見だ」

そう言い残し、兵士たちは去っていった。



別室はまた……ひどかった。

床には食べかけのパン、汚れた皿、脱ぎ捨てられた鎧。

窓は割れ、風が吹き込んで埃が舞う。

「くさっ……無理。掃除したいわ」

トモエは額に手を当てた。

外から兵士たちの会話も耳に入る。

「王様、また酒飲んで暴れてたらしいぞ」

「もう終わりだ、この国……」

「“もう”じゃない。とっくに滅んでる」



「皆、生きる気力さえないじゃないの……」

トモエが呟いたとき――。

「急に現れた異人ってのは、お前か?」

低く、よく通る声が部屋に響いた。

振り向くと、他の兵士より少し立派な鎧を着た青年が立っていた。

「異人?」

「王との謁見の時間だ。ついてこい」

「はあ……わかったわ」

案内され、トモエは謁見の間へ向かった。




謁見の間は、かつては豪華だったのだろう。

だが今は、壁の装飾は剥がれ、赤い絨毯は黒ずみ、天井からは蜘蛛の巣が垂れ下がっている。そして――玉座に座っていたのは、小汚く、だらしない中年男。


「ひっく…………げぇぁ」


酒臭い。髪はボサボサ。服はしわだらけ。目は濁り、頬はこけている。

「これが……王様?」

トモエは思わず口に出してしまった。

「黙れ! 無礼者!」

周囲の兵士が怒鳴るが、王本人は気にした様子もなく、だらしなく足を組み替えた。

「おい……女。お前、どこから来た……?」

「スーパーの野菜売り場です」

「すーぱー……? 魔族の地か……?」

「魔族の……地? ごめんなさい。私、ゲームとか詳しくないのよ」

何を言っているのかわからず答えると、王は面倒くさそうに手を振った。


「あぁ……まあいい。……言っている言葉が怪しいから牢に入れろ」

「はぁ!? 牢って、牢屋っ!? どうしてっ!?」


案内役の青年が申し訳なさそうに目を伏せる。

「すまない……命令だ」

トモエは兵士に腕を掴まれ、そのまま牢へと連行されていく。


「…………」

謁見の間に並び立っていた兵士の背後の柱。

その影が、ふっと揺れた。


気配も音もない。ただ、影だけが静かに揺れていた。



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